9 困惑ゆうしゃと疑問
ーいやあ、勇者さま、よくいらっしゃいました!
うん
ー勇者さま!こっち向いて!
うん
ー勇者さまが来たからもう安心だ!
うん
ー勇者さま!勇者さま!勇者さま!
うん
そうだね、ああそうだ。
ぼくはゆうしゃだ。
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「じゃ、話をしようか」
白い少女は言った。
俺が少し身を固くしたのを見て、少女はくすっとわらった。
「まず、自己紹介からはじめましょうか」
少女はすっと立ち上がった。ふわりと長い白髪が舞って銀河みたいにきらきら光った。
私はアカリ・カンバヤシ。よろしくね!」
にこっと蒼い瞳を細めて少女、もといアカリはわらった。
よく笑う人だな。
アカリは丸太椅子に座って俺をまっすぐ見た。
「あなたの名前は?」
ーー。ーーえ?
「聞いてる?あなたの、なまえは?」
なま、え?名前?
少年はカフェの天井を見つめた。遠いところをみつめていた。目が宙に浮き、答えを探すように泳ぐ。
かつ、かつ、かつ、と時計の針が音をたてた。
「ちょっと、どうしたの?」
たまらずアカリが勇者に尋ねる。
勇者はやっと目の前の白い少女の方を向き直った。
「ルク…ス。ルクス・リーンハッド」
テーブルの中央を見つめた。アカリの方を向けなかった。
ーー俺に名前を尋ねた人は初めてだったから。どんな顔をすればいいのか、分からなかった。
「そっか。ルクスくんか。うん、いい名前だね」
そう言ってアカリはまた笑った。俺はぽかんとしてアカリを見ていた。
ルクスくん、と言われたのも初めてだ。
ーーいや、本当は初めてではないーー
俺がぼんやりしていたら、ウエイターがやって来て
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか」
アカリと俺に尋ねた。俺を見ても何も言わないことから、NPCのようだ。
「じゃあ、ここからここまで、全部お願いします。あと、コーヒーとカフェオレで」
アカリは食事メニューのはしからはしまでを指さして答えた。食事メニューは俺には全く聞いたことがない食べ物ばかりが並んでいるから正確には分からないが、明らかに凄い量だ。そして、”コーヒー”と”カフェオレ”とは何だろう。
ウエイターは かしこまりました、と言って去って行った。
「んじゃ、ルクスくん。私に聞きたいことがあるんでしょ?」
アカリの蒼い目が俺の紅い目を見つめる。
そうだった、と俺はやっとまともに声を出す。
「どうして、どうしてあのダンジョンにいた……?」