8 強引しょうじょとゆうしゃ
もう、あきらめた。
せんぶ、全部、ぜーんぶ、あきらめた。
理不尽も
悲しみも
悔しさも
あきらめてしまえば、もう、かんたん。
なにもかんがえず、
きえてしまえばいい
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「大丈夫?」
白い少女は再び問いかけた。
どうしてここに、と、言おうとして咳き込んだ。
しばらく声を出していないことを思い出す。
「だ、大丈夫?水飲む?」
少女はアイテムボックスから革の袋を取りだそうとするのを断り、唾を飲み込む。口の中がさらにからからになった。
「どうして、ここにいる?」
久しぶりに出した声は思っていたよりもずっと掠れていた。
少女はきょとんとした顔をしたあと、少し顔をしかめて、
「ちょっと、助けた人に対して失礼じゃない?まずは、”ありがとう”でしょ?」
と言った。
……勇者にこんなことをいう人は初めてだ。
俺が面食らった顔をしていると、少女はふっと笑って、
「ほ〜ら、あ・り・が・と・う、はい!」
少女の強引な物言いに気圧され、
「あ、ありがとう……」
と、俺は何故か素直に返してしまった。
「はい、よくできました!」
そういって少女はいきなり俺の頭を撫でた。
途端、何か変なものが胸の奥から上ってきて、背中がぞくっと冷たくなった。
だめだ、これ以上は。
ばっ、と後ろに飛び退って少女を睨む
「どうしてここにいる!?ここには勇者である俺しか入ってきていないはずで」
「普通に入れるよ?」
少女は首をかしげて即答する。
「誰か一人でも死んだらこの世界にいる人々が皆死んでしまうんだぞ!」
俺は声を荒らげる。しかし、少女は意に介さない。
「だけど、それはあなたもおなじことでしょう?
それに」
少女は俺に顔をぐっと近づけて言った。
「それなら、私が来なかったらあなたも私もみんな死んでいた」
寂しい目をしている。
そう、思った。
少女は固まっている俺を見てにこっと笑い、
「あなた、疲れてるでしょ。クマもできているし。お腹も減ってるんじゃない?街に帰りましょ。なんでこのゲームはこんなとこまでリアルなんだか。」
そんなことを言って俺の腕をがちっと捕まえた。
「さ、帰ろ!”トラメント”」
少女は聞いたことがない魔法を唱えた。ぱっ、と目の前が真っ白になったと思ったら、次に俺の目に飛び込んできたのは街の風景だった。
どうやら、街のようだ。ダンジョンの入り口の真ん前。振り返ると、ダンジョンの第1階層に続く大きな扉がある。
一瞬で街まで転移した……?『ワープ』魔法がこの世界にもあったのか……?『ワープ』が使える彼女は一体何者なんだ……??
開いた口が塞がらない、という感じで俺が呆然としているのを見て、少女はくすりとわらった。
「立ち話も何だから、カフェでも行こうか」
「カフェ……?」
「あれ、カフェがあるの知らなかった?こっちだよ」
少女が再び俺の腕をがっしり掴んで、ずるずると引っ張っていった。
ーカフェって、なんだろう
俺はもう訳が分からない。
「カフェ……カフェって何だ?」
「え?カフェはカフェだけど……カフェ、わかんない?」
聞いたことはあるが、行ったことは1度もない。
ーー今までの人生でそんな暇は無かった
「ほら着いた!ここよ。以外とダンジョンドア近くにあるでしょ。休憩に便利なんだよね」
少女はそう言うとさっさとその”カフェ”という建物の重そうな焦茶のドアをあけて入っていった。
その”カフェ”は明るめの色のレンガづくりの建物で、何かの食べ物の匂いがしていた。一種の飲食店なのだろうか。
「はやく!いつまでぼうっとしているの!」
俺がもたもたしていると少女がドアを半開きにして俺の腕をぐいっと引っ張り込んだ。
カフェの中は外より強く食べ物の匂いがした。少し薄暗い店内には、丸太を切って作ったテーブルと椅子が間隔広めに配置されていた。
少女は店の一番奥の席に俺を押し込んで、少し低めの丸太椅子にすわらせた。そして俺の向かいの席に座り、軽く頬杖をついて俺に言った。
「じゃ、話をしようか」
転移魔法
→トランス・フェリメント(フランス語)