7 ぜっぺきゆうしゃと死
いたい
痛い痛い痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっっ!!!
真っ赤な”それ”が「正義」白のコートを濡らして、赤く染め上げていく。
痛い。
左腕はどこに力を入れればいいかわからない。
痛い痛い。
当たり前だ。だって、取れかけているのだから
痛い痛い痛い。
でも、助けてくれる人なんていない。
痛いぃっっ……っ
だって、ゆうしゃだから
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
きらきら、きらきら。
視界の右上で、『まひ』の文字が光っている。
俺はあおむけでボロ雑巾のように転がっていた。
俺に『まひ』を与えた小さな蠍は目に入るだけでも5.6匹が這いずりまわっている。大きい方の蠍は勝ち誇ったようにその赤い目をぎらぎらと光らせていた。大蠍の腹から、1匹、また1匹と小蠍が落ちている。どうやら、俺の動きを止めるためにわざわざ小蠍を生み出したらしい。
剣は半分に折れて、俺から1m離れたところに落ちていた。すぐに剣の輪郭がぼやけて青白くなり、蒸発するように消えた。
手が動かない。足も。頭を持ち上げることすらできない。アイテムボックスを開けることもできない。
手詰まり。
たくさんの命がかかっているというのに。
諦められない。それなのに、頭の中のすべての経験がこの状況を打開するのは無理だと言った。
いやだ、いやだ、おれは、ゆうしゃなのに。まもらなきゃいけないのに。
しかし、感情は暴れていても、頭脳は呆然としていた。なにもできないことを知ることを拒絶するように、思考を停止していた。
蠍がゆっくりと前進する。いや、遅く見えているだけか。
体感1分くらいかけて蠍がこちらにくる。実際には10秒も無い時間だが。
さそりが、はさみを、ふりあげる。
ゆっくり、ゆっくり。
おどろくほど、なにも、かんじない。
ああ、しぬのか。……それもわるくないかもな
さそりのあかいめがわらったようなきがして
おれのからだがまっぷたつにーーー
ーーーならなかった
突然蠍が大きく左に傾いた。部屋が急に明るくなり、巨大な爆炎が膨らんだ。
「レタパージ」
ふわ、と浮かぶような感覚がして、体が簡単に動くようになった。何が起こったのか、と顔を上げると
「大丈夫?勇者サマ。」
そこには、白い少女が立っていた。
処女雪のような長い白髪に夏の青空のような瞳。純白の長いローブをたなびかせ、大きなボロボロの白い帽子を被っていた。
「”バルマ”!」
彼女は『炎弾』の上位魔法を放った。まだ俺にもできない魔法を。
先ほどの俺の『炎弾』ではびくともしなかった蠍が彼女の『炎弾』でまた大きく左に傾いた。甲殻類が焦げる匂いがする。
「火魔法は効果が薄いね。じゃあ、これはどう?”ソーロ”!」
少女は呟くと、『土槍』の魔法を唱えた。消し炭色の地面が隆起し、その鋭い尖端が蠍の腹を突き刺した。
ぎにえああああああああぁぁぁーーー!!!
初めて蠍の声を聞いた。その声は彼女の魔法が俺の攻撃と比べ物にならない程の威力をもつことを意味していた。蠍は黄色い血をだばだばと吐き出して、『土槍』を腹に突き刺したまま、動かなくなった。
「うんうん、”こうかはばつぐんだ!”だね」
少女は蠍を見て満足そうに笑ったあと、くるりと回って俺に体を向けた。
「”リジョン”。大丈夫?」
彼女は回復魔法を俺にかけて、笑いかけた。普通の子どもにするように。
回復魔法 リジョン…イタリア語の「回復」の空耳
土魔法 ソーロ …イタリア語の「土」
大抵イタリア語の空耳からとってます