表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/13

6 こどくのゆうしゃとおおさそり




ーーあなたが、つぎのゆうしゃです


ほんとうに?!やった!ぼくはとくべつだったんだ!



ーーさあ、われわれとともにおいで


え?とうさんは?かあさんは?みんなとはなればなれになるのはいやだよ!



ーーわがままをいうな。おまえは、われわれといかなければならないのだ。はやくこい!


ーーいやだ!たすけて!とうさん!かあさん!



ーーこのこはおれたちのこどもだ!わたすもんか!


ーーそうよ!わたしたちのこどもにさわらないで!




ーーいちど、ひきかえす。こころのじゅんびをしていなさい……



やった、あいつらが帰っていく!やった!


とうさん、かあさん!ありがとう!



…………だいすき!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




ああ、




ドアを開けた瞬間、俺は安堵した。


やった、階段がある。次の階層に行けると。





ーーしかし、その気持ちも吹き飛んだ。



……Lv120/1000!?

モンスターの頭上の数字はそのモンスターのLvを表すが、その大蠍の頭上に出ていた数字は120。


今の俺のLvが92/1000。約30Lvの差がある。まず倒すのは不可能だ。

考えてみれば、この階層に出てきた他のモンスターにも苦戦していた俺が、BOSSにかなうわけがない。

すぐわかることなのに。


踵を返し、ドアから飛び出そうとして、見えない壁に頭をぶつける。でられない。出られない!!

俺は混乱した。いままでこんなことはなかった。BOSSモンスターのへやであろうと、逃げることはできた。それが、できない。と、いうことは、



……おれは、このモンスターを倒さなければいけない。Lvが30も離れているのに。


この世界で、Lvは絶対だ。Lvの差が覆るのは、あっても10Lv以内。30Lvなど以ての外だ。

……無理だ。



駄目だ、俺は死ぬ訳にはいかない。

俺一人が死ぬ分には良いが、俺一人死ぬだけで世界が崩壊するのだ。死ぬ訳にはいかない。死ぬ訳には……っ!

ぐ、と持っている安物の剣に力を込め、どこから蠍の攻撃が来ても対応できるように薄暗い部屋を睨んだ。部屋の大きさは大体50m×50mくらい。かちかち、という蠍の殻が鳴る音が反響する。

右、左、上、右前、と蠍はこちらを伺うように動き回る。いや、挑発しているのか。


「バルム!」

もとの世界でいう、『炎弾』魔法を詠唱する。薄暗い部屋がぱっと明るくなり、赤黒い蠍の甲殻が見える。高さ7mほど。殻には(つるぎ)のような棘が無数についている。棘の一本一本は、人が傍を通り過ぎられるだけで腕をもがれそうなほど大きい。鋏は薄く、ギロチンの刃のように鋭い。薙ぎ払うだけで簡単に俺を上半身と下半身に分断できるだろう。

俺のLvの低い『炎弾』では、全くその蠍には効かなかったらしい。のこぎり同士を擦り合わせたような、耳障りな声が響き渡る。どうやら怒ったようだ。


今更のように恐怖が込み上げる。

やるしかないのだ、やるしか……!


蠍が6本足の後方4本で背中を反るようにして立ち上がった。そして鋏を振り下ろす。


速い。けど、対応できないほどじゃない。


剣を高めの角度に構え、攻撃の軌道を逸らす。どご、と地面の消し炭色の岩盤が抉れ、小石がぺちぺちと体に当たる。

次に蠍は連続で前足2本と鋏2本を連続で振り下ろしてきた。


が どご、ぎ ばだ、き だが、か だこん


大丈夫。ちゃんと捌ける。

相手は30もLvが上だ。力ではかなうはずがない。なら、最低限の力で、最低限の動きで攻撃をいなし、躱し、捌き切り、蠍の隙を狙うしか方法はない。

スタミナを消費しないように、激しすぎる動きはしない。緊張しすぎるとスタミナの回復が遅くなるから、集中はするが、無駄な力が入らないようにする。敢えて体に蠍の攻撃の衝撃を流して、HPと引き換えにスタミナが回復する時間を稼ぐ。回復ポーションはかなりあるし、HPがどれだけ減ろうとこの世界で痛みを感じることは無い。しかし、剣の耐久力は限られている。ただでさえこの剣は安物だ。剣に衝撃が流れるのを避けるのを1番に考える。

さあ、うざったいだろ?はやくたおしてみろよ。

心の中だけで挑発する。


しびれを切らした蠍が俺を抱き込むように両鋏を外から内に振るう。


いまだ。


スタミナを消費して前方に跳ぶ。


蠍は驚くようにびくりと震えたあと、動く俺を捕まえようと腹の下に脚を入れて掻き出そうともがくが、体と地面の間のスペースに入り込んだ小さな敵を見失う。

昔、海老のような敵を倒す時に使ったのと同じ手だ。節足系の怪物は体が大きければ大きいほど、すぐ行動しやすくする為に脚で腹を浮かせて戦う。その隙間は敵にとって死角であり、俺にとってすぐ上は敵の急所でもある。

奴にとって人間の中でも体の小さい俺は人間でいうと服の中に蟻がはいりこんだようなものだろう。まあ、蟻では人の腹の血管を斬ることも出来ないが。

剣を蠍の腹に突き立てて、蠍の尾にかけて一気に切り裂くべく、蠍の尾の方に全力で走る。

蠍の脚の付け根など、硬いところは無理して断ち切ろうとしないで、剣を傾け、縦に撫でるように、一文字の浅い傷を刻む。

どこかに引っかかって立ち止まってしまえば、蠍に居場所を悟られて攻撃されるかもしれない。このLv差だ。1発でHPが0になる危険性もある。

尾までたどり着いた。まだ、やることがある。俺は蠍に剣の切っ先を向けた。

「バルム!」

『炎弾』魔法を放つ。俺のつけた一文字の浅い傷に向けて。傷口は『炎弾』で焦がされ、敵の回復を妨げた。


うまくいった。


俺は蠍から大きく距離を取った。蠍は怒りに満ちた大きな赤い目で俺を睨みつけた。

蠍のHPゲージは1割ほど減っている。これを10何回か繰り返せば、倒せるだろう。


安物の剣を構え直し、俺も蠍を睨む。

さあ、根比べだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



蠍の腹の下に潜り込み、腹を切り裂いてバルムを放ち、距離を取る。そしてスタミナが回復するまで、また蠍の攻撃を捌き続ける。

大分この流れにもなれてきた。蠍のHPは半分にまで減り、ゲージは黄色になっていた。


俺の持つ剣はあと2本。これらが壊れたら終わりだが、使いかけの剣で半分HPを削ることができたのでおそらくーー気を抜かなければーー大丈夫だろう。


蠍はまた大きく鋏を振り上げた。その隙にまた蠍の腹に潜り込む。何度も何度も同じ場所に傷をつけてきたおかげで、浅かった一文字もかなり深くなってきた。

尾までたどり着き、バルムを放ち、距離をとってーー




ーーすっころんだ。

否、急に体に力が入らなくなったのだ。


そのままゴロゴロと転がって、びたん、と消し炭色のでこぼこした壁に叩きつけられる。背中を打ち付けたが、もちろん痛みはない。ゲームの中なのだから。


どうして、いったい、何故、何が。


思考がぐるぐるまわる。混乱で吐き気がする。

逆さまになったまま蠍を見ると、その赤い目が笑っているように見えた。

どうしてこうなった、と考えるが、思考がまとまらない。


かさ、かさかさ。


木の葉のような、小さな影が視界に入った。

それは、ちいさなちいさな、橙の蠍。


すぐ、わかった。この、小さな蠍が、俺を動けなくしたのだろう。


視界の右上に、『まひ』の平仮名の文字が嘲笑うような鮮やかな黄色で、きらきらと輝いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ