5 しっぱいゆうしゃとおおきなあせり
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ころせ
ーいやだ
ころせ、ころせ
ーいやだ、いやだよ
ころせ、ころせ、ころせ
ーいやだ、やだ、やりたくない!
ころせ、ころせ、ころせ、殺せ、殺せ!
あしもとに、ころがる、けむくじゃらを、いのちが、あるものを、ぼくは、
コロシタ。
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おれは、どのくらいこうしていた!?
がばりと体を弾き起こして、ステータスウインドウを開く。
その左上には32:00:19。
ーー15時間半も経っている……!!
血の気が失せるのを感じる。すうっと寒くなるのに、背中で汗がだらだら垂れる。
今日でこの階層は10日目。今日中にこの階層を突破しなければ、10日で1階層のペースを守れない。しかも、まだどこに次の階層への階段があるのかもわからない。次階層へと続く階段には今までの階層では必ずBOSSモンスターと呼ばれる他よりとても強いモンスターがいた。12階層だけBOSSモンスターがいないなんていう都合のいいことはないだろう。
ーー倒せるのか。12階層の普通のモンスターにすら苦戦しているゆうしゃが。
頭の中で嘲笑う自分の声がした。とっさにやめろ、と虚空に聞かせようとするが、声が出ない。そこで、やっと3日以上声を出していないことに気がついた。
……まあ、いいや。どうせ、声をかける相手も居ないのだから。
掠れた声ではは、と口に出して嗤う。
それより、今は、走ることに集中しなくては。
緩んだ気を引き締め、いつもよりもずっと速く走る。次の階層への階段がある部屋を探せ。
数多のドアを開いてはその奥に『炎弾』をぶち込む。一瞬の輝きでその部屋の中を見たら、ドアを開けたまま、次のドアを開く。
この階層は大きな廊下の右側にたくさんのドアが規則正しく並ぶ、大きな屋敷のような構造になっている。
そのドアを開けなければ次の階層への階段があるかどうかもわからないが、ドアの先にはモンスターが待ち構えていることもある。その度に俺はモンスターを斬っていく。
100回はそれを繰り返し、また、焦りがぶくぶくと広がる。透明な水にコップにインクを垂らしたみたいに、じわじわと。
はやく、はやくこい、はやく、はやく、はやく、
はやくはやくはやくはやく!!!!
こいよ、次の階層っ……!!!
また、背中が冷えて、汗が滴り落ちる。焦りは失敗を生む。焦りは失敗を生む。あせりはしっぱいをうむから!あせるなよ……っ!
頭の中で唱えても、インクはどんどん透明を侵略していく。
焦るな……っ!
ーー無理な話だ。
そして彼は、
ーー2度目の失敗をする。いや、もう、していた。
ドアを開けたそこにあったのは、階段。
……そして、巨大な、蠍だった。