4 げんかいゆうしゃとつぎのかいそう
ーーかあさん!かあさん!
ーーみんなをたすけにいってきなさい
ーーとうさん!とうさん!
ーーみんなにしたわれる、つよいおとこになれよ
だって、もう、おまえは”ゆうしゃ”なのだから
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じめじめした空気のなか、時折光が金属に反射する。
ぽぅ、と、橙色の光がごくわずかに零れてくる。
は、ふ、ふっ、ふ、は、
疲労はしないはずだ。現実でないのだから。それなのに、体は必要ない酸素を求めるように荒い息が止まらない。
12階層に突入してから9日。もう、後がない。11階層に上がってから、急に敵が強くなった。動きは早く、重くなった。
まだ88階層もあるのだ。この調子では……
ぶんぶんと頭を振って弱気な考えを振り払う。
急がなきゃだめだ。しかし、焦ってもだめだ。
俺は勇者、勇者、勇者なのだ。
みんなを、マモラナキャ…
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しばらく戦った、と、思う。
レベルは91/1000。10は上がったか。
HPーーヒットポイント ダメージの蓄積を表すらしいーーは半分を切り、MPーーマジックポイント 魔法をどれだけ撃てるかーーはもう空だ。回復ポーションはいくつかあるものの、心もとない。町に戻るしかないようだ。
スタミナー体力のことだーを回復させるため、その場に座り込む。手持ち無沙汰に回復ポーションの数を数える。
俺は別にどうなろうとどうでもいいが、俺ひとりが死ぬだけでこの脆い世界が崩壊するのだから、慎重にならざるを得ない。
本当はスタミナなど気にせずにずっと進み続けたいのに。
ゆっくりとスタミナが回復するのがじれったい。
ステータスウインドウに、31:08:22と左上に書かれている。この世界に来てから31日と8時間22分。丁度ひと月だ。相も変わらず「寝不足」「空腹」の文字が輝き、「疲労」も追加されている。
俺はため息をついて真っ暗な天井を見上げた。
…………まだ、たたかわなくちゃいけないのに。
はやく、いかなきゃ、イケナイのに…やらなきゃ、俺が、やらなきゃ、やらなきゃ、俺は勇者だから、だから、やらなきゃ、いけない、イケナイ助けなければたすけなきゃ助けなければみんなを民を群衆を人々をひとを笑顔をおれがおれがいなければおれがやらなければおれがおれがおれが、たすけなきゃやらなきゃなにもああなにもないのにおれにはたすけなきゃどうなにつらくてもくるしくてもおれがひとりでなんとかしなきゃいけないのだそうだそうなんだよだからさまもらなきゃまだたたかえるやれるはずはやくはやくはやくはやくはやくなにかやらなきゃたおさなきゃころさなきゃすべててきをずっとずっとゆうしゃだからなにねぇどうしようたすけなきゃやらなきゃなにもだっておれはなにもないからっぽのにんげんだからさはやくはやくだれかたすけないとたすけないとたすけてたすけないとだれかもうたたかわなくちゃゆうしゃだからげんかいげんきでげんきでみんながいれるようにおれがやらなきゃなんでもうおれはたたかわなくちゃころさなければたすけなければわかってるだっておれは
…………ゆうしゃなのだから
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ーーーふわふわする。
ここは、えっと、暗い。どうくつ?……ダンジョン……?
がば、と体を起こした。
おれは、どのくらいこうしていた……!?