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3 ひとりのゆうしゃとまちのひと








間に合わなかった。


間に合わなかった……


間に合わなかった間に合わなかった間に合わなかった……!!!


頭のうえからコエが響く。



お前が悪い!



お前が遅れたから!



お前のせいだ!







おれは懇願した。


許しを乞うた。


自分が侵してしまった誤ちを、


ただ謝罪するしか無かった。






ごめんなさい……






額を地面に擦り付ける。





ごめんなさい



ごめんなさい……



ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!!!




額の傷が開いて血が溢れ出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


右斜め後方にいた骸骨の魔物ースケルトンというらしいーを見もせずに切り捨て、目の前にいた人の顔ほどもある蝙蝠を左手で握りつぶす。


握りこぶしほどの大きさの蟻の大群が俺の足を切りさこうとするのを炎魔法で焼き尽くす。


奥で指揮をとっていた有角種のゾンビを毒針を投げて殺す。



ーー10階層、突破。


この世界に来てから14日。

100階層を1000日で突破するのだから、1階層あたり10日以上はかけられない。

上に上がれば上がるほど難易度が上がるのだから、この辺りは最速で突破しなければならない。


ボロボロになった剣を新しくしなければ。1度町にもどるか。


俺がこの世界に飛ばされた時にいた場所は「町」であり、絶対に魔物ーこの世界ではモンスターだったかーは入って来れないのだそうだ。

そこは剣や防具が売っている唯一の場所であった。


俺は「ステータス・ウィンドウ」を開いた。自分の強さが数値化して見られるらしい。「レベル」は21まで上がっている。

正直、このシステムは好きではない。

「レベル」や「ステータス」として強さを測ってしまうのはどうかと思う。強さとは積み重ねるものだ。客観的には判断できない。



そうでなければ、なぜ、おれは



……だめだ。

俺は頭を振り、「寝不足」「空腹」の文字がきらめくステータスウィンドウを閉じた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「勇者さまだ!!!」


勇者さま!どうでしたか!敵は強かったのですか!勇者さまなら楽勝ですよね!!


出迎えてくれるノイズたちを無視してフードを深く被り、 スキル「視線誘導」で身を隠す。

「応援ありがとう」と書かれたメモを投げ捨て、さっさと剣を買いに走った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「へいらっしゃい!今日はどれにするかい?」


録音の様な無機室な音が響く。

ここの店主は”NPC”という、魔導生命体のようなものらしい。決まった言葉のみを話し、決まったことのみをする。

変わらない音に少し安堵した。

……ここではゆうしゃでなくていい。


大量に並べられた剣の中で安くて軽いものを3本拾い上げ、ひとつは腰に、2つはスキル「アイテムボックス」に吸い込ませる。


そのまま店を出ると、「まいどあり!」という音が聞こえて、財布がほんの少し軽くなる。

わざわざ金を出さなくても済むから楽だ。

早くダンジョンに戻って、11階層に挑まないと。余裕があるからとはいえ、人命がかかっている。

少し足を速めて……





「あの、これ、落としましたよ?」




ばっ、と後ろを振り返ると、黄色の髪と瞳に若草色のコートを着た少女がにこにこわらっている。手は群青色のハンカチが乗っかっていた。


「はい、どおぞぉ。これ、あなたのですよねぇ?」


少女はわらったまま近づいてきた。手が届くほど近くまで歩いてきて、俺と並んだ。俺より背が高い。



突然、俺が被っていたフードを払い除け、俺の手首をぐっと握った。


「あれえ、もしかしてぇ、あなたは勇者さまですかぁ?!」



「え、勇者さま?!」


少女に反応して大きな声をあげた犬耳黒髪の亜人の少年が山吹色の瞳を輝かせた。

声が大きく響いたせいで通りを歩いていた人達が ざぁっ と勇者の方を向いた。


え、本当、嘘、見せろ見せろ、ばかどけよ、と、急に群衆がざわめき出し、勇者を一目見ようと押しかけて来るのを感じる。


ひゅっ、と、喉がまたおかしな音を漏らした。


違う、とも、そうだ、とも言う暇なく、少女は畳み掛ける。


「私ぃ、勇者さまのファンなんですぅ!こんなところで出会うなんて運命だわぁ!!!」


……やられた。


そもそも俺はハンカチなんて持たない。過去にも勇者に近づいて印象に残ろうと俺にすり寄ってきた女の人は何人かいた。違う世界だからと無意識に油断していたのかもしれない。


「ねぇ、落とし物を拾ってあげたのだから、何かお礼をしてくれないかしらぁ、そうねぇ、ハグとかしてくれると嬉しいのだけれどぉ。カフェでお茶でもするぅ?」


歳に見合わず妖艶な眼差しで少女は首をかしげて言う。勇者にハグされたとかと友達に言えば、自慢出来るだろう。少女の瞳は俺をみてはいなかった。これから感じる優越感を想像しているのだろうか。


何か、いわないと。


まっしろになった頭では何も思い浮かばない。

もういっそ突き飛ばして視線誘導で逃げ切ってしまえばいーーー




ゆうしゃがそんなことをするの?




みみもとでこえがしたきがした。



なにか、なにかなにかなにかなにかなにかなにかなに


「ちょっと!なにしてんの!」


また違った少女の声が響いた。

ぐいぐいと人垣を突破してきた少女はまだ俺の手を握っている少女の肩をがっ、と掴んだ。

白髪に青瞳の少女は黄色の髪の少女をいきなり怒鳴りつけた。

「もう待ち合わせ30分も遅れてるのになにしてんの!

白髪の少女は勇者に少し目を丸くしたあと、黄色髪の少女をキッと睨みつけ、


「勇者にまで手を出して!勇者さまは忙しんだから、邪魔しない!!!もう、行くよ!」


白髪少女は黄髪少女の腕をがっちりつかんでズルズルと引き摺って行った。

群衆は白髪少女の剣幕に唖然として、白髪少女を見つめていた。


いまだ、とばかりにフードを被り直し、視線誘導で群衆の中に潜り込んだ。


思わぬ所で時間を使ってしまった。

11階層を早く突破しなければ。


俺はダンジョンに向かって駆けた。



今にも降り出しそうな雲が空を覆っていた。






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