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第9話 罰俸転勤


 ** 女勇者からの視点 **


 「すまーん!」


 高文有資格者キャリアの警察官僚をしているよりも、皇国の麻雀プロリーグ「MJリーグ」の選手になった方がいいのではないかと囁かれる麻雀ガチ強の外事2課長が頭を下げる。


 「課長、頭を下げるのはやめてください。元はといえば、桜(特別行動部中央指揮所)からの指示を無視した形にしてしまった私のミスです。外事から放逐されるのも覚悟しています」


 あの大爆発の混乱のなかでも、アジトと周辺にいた活動家の幾人かは逮捕することができた。全員完黙しているが、いずれもフソウ人民革命党中央軍事委員会直轄組織『軍事技術団』(テク)のメンバーであったことが判明している。

 【フラミンゴ01】はフソウ人民革命党の内部でもよほどの大物幹部で、さらにオカ人民共和国と深い関係が疑われるが、行確継続できなかったばかりか、身柄確保すらもできなかったのが悔やまれる。


 「引っ越し準備しますので、罰俸転勤先の警察署がどこになるのかだけ教えていただけますでしょうか」


 「まず一つだけはっきりさせておく。特行警察官としては、目の前で銃撃されている警察官を見捨てても、特行部中央からの直接指示に従うべきというのもあろう。だが、外事課員としては、あの場でのキミの判断は間違っていなかった。今回、警視庁管内転勤ではなく、かなり異例な出向という形になるが、あくまでも本籍は警視庁外事課員という形になるのを忘れないでくれ」


 どんな田舎の警察署に飛ばされるのかと思いきや、そもそも警視庁管内ですらなかった件。


 課長から渡された辞令をみて、こんな辞令があり得るのかと、一瞬思考が停止する。

 それには外務省警察への出向辞令ならびに地球の裏側にある小国のさらに僻地にある領事館への転勤が記載されていた。





 ** 皇国警視庁特別行動部特別行動総務課内特命担当班長の視点 **


 深夜、突然の呼び出し。

 皇都サイタマの地表である旧ダンジョン第1層にいくつかある旧ダンジョン第2層に潜るための階段。

 そのうちの一つ、警視庁の地下室にある階段から降りていくと、自然豊かな新たな世界が開けている。

 そこに構築されたいくつもの重厚な建物。

 旧ダンジョン第2層は、第1層とは異なる次元で隔てられているため、容易に敵国からの爆撃を受けにくい利点から、国の安全保障上、重要な建物がいくつも設置されている。

 皇国大本営・統合参謀本部・陸軍参謀本部・海軍軍令部・空軍幕僚本部。

 対外情報庁。

 司法省憲法擁護庁

 逓信省通信情報保安庁。

 大規模災害に備えた政府防災基地。

 

 そして、警視庁地下階段から降りると一番近い位置にあるのが、皇国公安委員会・皇国警察管理庁の庁舎である。庁舎の裏手には、戦時に備えた離宮と近衛歩兵第1連隊第2大隊兵舎が見える。

 時間的には夜間であるが、ダンジョンの中なので、昼夜関係なく一定の明かりで照らされている。


 「夜分呼び立ててすまないね」

 「いえ、仕事ですから。ご依頼の調査結果です」

 逆光で表情が見えないが、目の前にいるのは警察管理庁保安局保安企画課で、特行警察の特命秘匿作業をすべて統括している理事官。机の上に調査対象者についてのほぼすべてを調べ上げた調査結果の書類を束を静かに置く。

 だが、せっかくの調査結果に、理事官は一切関心を持たず、書類の束を見ようともしない。


 「私どもの調査、ご不審なのでしょうか」

 「いやスマン。君たちの仕事には満足している。ただ、あの少女への調査ならびに行確作業は、我々のオーダーではない」


 「察庁(サッチョウ)からのオーダーではない?」

 理事官は黙って親指で後ろのブラインドを指さす。

 それは離宮の方角。

 まさか、それは。


 「これまでも、あそこから、あの少女への調査と行確のオーダーは何度もあった。その度に、次元断層貫通爆弾での首都爆撃後、がれきから助けられた赤ん坊、そのとき助けた警察官への聴取、孤児院に拾われ、孤児院での暮らしぶりの調査、警視庁採用試験を受け、警察官になるまで、何度も何度も経歴を調べなおした。気に食わんな」


 思わず唇を噛みしめる。

 我々に直接オーダーを出せる皇室の暗部は、我々が知らないことを知っており、今回、我々の作業でもそれを掴むことはできなかったということか・・・。


 「さすがに、皇室が関心を抱いているあの少女が、脱尾命令も無視して、一人で軍事技術団(テク)と戦闘を開始したのは焦った。君たちのおかげで助かった」

 「行確中でのまさかの鉄火場で、あの少女と部下の安全確保を優先してしまい、結果として、大物を三人、人民革命党中央軍事委員会の委員長と副委員長、軍事技術団長を逃してしまいました。申し訳ありません」


 「いや、逃がしたのは中央軍事委員長、党名エジョフィーヌ、一人だけだ。軍事技術団長、党名クルグロフはアジト近くの地下下水道で重機関銃により撃ち殺され、副委員長、党名アバクーモフは、今日、綾瀬川沿いの小さな橋の欄干で吊らされていたのが見つかった」

 「クルグロフとアバクーモフを処理したのは、国軍の暗部、例の会計隊による仕業ですか?」

 「クルグロフを地下下水道で射殺したのは、101遊撃隊、魔導甲冑中隊の連中だ。これは、我々からの問い合わせに対し、皇室からの最優先命令で出動し、処理したと公式に認めている。アバクーモフを処理したのは、誰かはわからない。軍も、対外情報庁も、憲法擁護庁もこの件について関与を否定している。我々も知らない組織が、皇国を代表して、人民革命党だけにわかる警告メッセージとして、あの死体をぶら下げた。気に食わんな」


 鍵を握るのはあの少女だけか。。。


 「あの少女を外事から放逐して、運転免許センターに飛ばし、我々で24時間行確いたしましょうか? 人民革命党からの報復を避けられる利点もあります」

 「すでに警視庁に働きかけたのだが、外事の反発が大きくてな。人民革命党の手が及びにくい外地に飛ばすだけで精一杯だった」






最初の「すまーん!」は、名作映画『陸軍中野学校』、麻雀ガチ強の2課長は、名作ドラマ『石つぶて』、地下下水道で人民革命党活動家を重機関銃で射殺した魔導甲冑中隊は、アニメ映画『人狼』のオマージュです。


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