第8話 緊急配備
** 女勇者からの視点 **
女勇者は光学術式で姿を消し、魔力で身体能力を強化しながら、【フラミンゴ01】の自転車を追跡し続ける。
ここまで尾行継続できているのは自分一人だけ。
本来だと、相手側に魔力感知能力が長けている者がいる場合もいるので、光学術式も身体能力強化も使いたくないのだが、爆走する自転車を尾行するには、使わざるを得なかった。
せめて、余剰魔力が周囲に拡散しないように気を付けることで、相手に魔力感知される可能性を少しでも減らすしかない。
【フラミンゴ01】は寂れた小さな町工場の敷地内に入る。
そして、その町工場に近づいたときに、死地に踏み入れたことに気づく。
町工場の周辺には、建物の中、または屋上などから、手練れの気配を複数人いることを感じる。光学術式のおかげで気づかれてはいないが、このままでは気づかれるのは時間の問題だろう。
<<立花から勇者01へ。ヘルキャット01(中年女性)への行確失敗、現在銃撃戦になっている。無理せず応援を待て>>
状況は最悪なようだ。
町工場の二階ベランダには、植木鉢に偽装した不審なアンテナが設置されている。
これで【ヘルキャット01】からの連絡を受信していたり、警察無線を傍受していて、暗号通信の解読もできていれば、【ヘルキャット01】と警察との銃撃戦になっていることも掴んでいる恐れもある。
音も出さずに、気を付けながらこの町工場から離れ、距離を開けてから、低出力の無線で現本に現在地と応援要請の連絡をとるしかないと思っていると、イヤホンから意図せぬ所からの指示が飛び込んでくる。
<<桜から勇者01へ。204(脱尾)せよ>>
【桜】は、皇都警視庁本庁舎にある特別行動部中央指揮所のコード名。
警察専用魔導携帯電話ではなく、警視庁管内全域に、特別行動部中央指揮所用専用周波数を使って流された出力の大きな緊急指示無線。
魔導携帯電話だと、ある程度、居場所を絞り込むことができるため、このような秘匿性の高い尾行中では危険が大きい。警視庁管内全域に流された無線の方が、傍受できる相手も増えるため、詳しい指示内容は話せないが、送信先はわからないという利点がある。
だが、説明ないままで、一方的な尾行打ち切り指示に混乱する。
しかも、なぜ外事2課の現本【立花】からではなく、【桜】から自分宛にダイレクトの指示が出されたのだ。
相手に傍受される危険があるため、この場所から【桜】への返信や【立花】に理由を問いただすこともできない。
【ヘルキャット01】と銃撃戦になっているのなら、尚更のこと、いまここで、このアジトへの摘発に動くべき場面のはず。
ここで脱尾したら、オカ共和国から【フラミンゴ01】の線まで途切れてしまう。
どうする?
悩んでいると、町工場の建物から【フラミンゴ01】が出てくる。また自転車に乗ってどこかに行こうとしている。
そして、町工場に向かって、真新しい警察官の制服を着た少年が自転車に乗って近づいてくる。
随分と若い。自分より2~3歳年下か。飛び級重ねて、すぐに警察官になったのか、12歳か13歳ぐらいの少年。
誰の目にも明らかな、警察学校卒業して交番勤務になったばかり、自転車の防犯登録確認だけを意識しているかのような雰囲気。
本来だと、新人にはベテランの警察官が付き添い教えるはずなのに、そこの交番はやる気のない先輩警察官しかいなかったのだろう。先輩の付き添いはおらず、少年警察官一人のみ。
なぜ、この最悪のタイミングで!
チャリパクしていた【フラミンゴ01】は、自転車の防犯確認してきた少年警察官に対して、躊躇いもなく素早く自動魔導拳銃を出し、人差し指をバレル沿いに沿わせ、中指を使って引き金を立て続けに引く。
目にもとまらぬ早業。中指を使って引き金を引くスタイル。こいつ、至近距離での拳銃の扱いに慣れしていやがる。
少年警察官は腹部に3発撃たれ、SW緊急発信ボタンを押すこともできずに倒れこむ。【フラミンゴ01】は町工場のなかに戻り、町工場から大男が3人出てくる。一人は自動小銃を持ち周囲を警戒している。大男2人が少年警察官を引き擦りながら、町工場の運び入れようとする。
少年警察官はまだ辛うじて生きているようだ。
【桜】からの指示を破ることになるが、ここで勝負に出るべきだ。
イヤホンの受信周波数セットを外事2課用から警視庁共通系に切り替える。
光学術式を纏ったまま駆け寄り、少年の近くにいた大男2人を身体能力強化した状態で相次いで蹴り飛ばし、少年の手を使って、少年が身に着けているSW無線機の緊急発信ボタンを押す。
<<警視庁から各局。ワラビ区アダチ町ニシナリ6丁目付近で、緊急発信ボタンが押されました。近い局、ただちに応援に向かってください。ニシナリ03、いま緊急発信ボタンを押した理由をどうぞ>>
<<<ニシナリ01(ニシナリ交番)です、今から03への応援に>>>
すぐに、自分の無線機についているSW緊急発信ボタンを押しながら、無線のマイクで割り込む。
<<<至急、至急。勇者01から警視庁>>>
<<警視庁から勇者01、どうぞ>
<<<ニシナリ6丁目66番地、工場前の路上で、自転車パトロール中の警察官が銃撃を受けたの現認。撃たれた警察官は重傷。腹部に3発撃たれています。至急応援と救急車を(銃撃音で会話が聞き取れなくなる)>>>
<<プープー(注意喚起音) 警視庁より各局。ワラビ区アダチ町ニシナリ6丁目66番地で警察官が銃撃を受けている。警察官1名は重傷。只今をもって、ワラビ区アダチ町ニシナリ6丁目66番地を中心とした5km圏配備を発令する。人員配置は甲号(各署最大の人員配置)。各移動は至急応援に向かってください。なお、各員は防弾装備を着用のうえ、受傷事故防止に十分な注意を願いたい。以後、回信は方面系とする>>
自動拳銃で応射しながらイヤホンを外す。
あと、10分間生き延びれば、この場所は、応援で駆けつけてきた警察官で溢れ、15分後には、5km圏内は主要道路すべて検問に設置され、小さな路地まで徹底した濃密なローラー作戦がはじまる。
町工場の入り口、道路向かいの建物の屋根の上と2階窓のカーテン越しから自動小銃の銃撃を受ける。この連中、重装備なうえに、練度も高い。
もう、魔力を隠す必要もない。空中に魔力素による力業の透明な魔力壁を作り銃撃を防ぎながら、応射しながら、少年警察官を抱えながら斜め向かいの空き家に窓から飛び込む。
空き家に飛び込むと、目の前にサブマシンガンを持った小柄な男。警察官を抱え込んだ透明な何かが窓から飛び込んできたのに驚きもせず、男は淡々とサムマシンガンの引き金を引く。
400年前に飽きるほど戦った、飽きるほど大勢殺し、人を殺すことを何とも思ない屑共の目だ。
負傷者を庇いながら逮捕する余裕はない。こちらも躊躇なく、額と心臓を中心に残りの全弾を撃ち込む。
この手のプロの糞野郎は必ず2人一組で動く、油断なく周囲を窺うと、殺気を感じる。
壁に開けられた小さな穴から銃身を見える。
壁の穴から次々に打ち出される弾丸を魔力壁で弾きながら接近し、魔力を込めた拳で、壁ごと吹き飛ばし、素早く弾倉を交換して、とどめを刺す。
外から警察車両複数台分のサイレンが近づいてくる。
SW緊急発信ボタン押してからまだ1分も経ってない。運が向いてきた。応援が思っていたよりも早い。
機動捜査隊だろうか? 覆面パトカー4台から降りた私服警官たちと工場周辺の武装した男たちとの間で銃撃戦になっている。
そうしているうちに、外から魔力光が差し込む。咄嗟に、少年に覆いかぶさる。その直後、町工場爆発、そして時間差でさらに大きな大爆発となり、窓から爆風が吹き込む。
くそったれ。連中、逃げ足が速い。
警察無線や警察用語などは、過去の『ラジオライフ』とテレビの警察24時、ニュース映像などを参考にしています。
【フラミンゴ01】の拳銃早撃ちについては、OSSスタイルを参考にしました。
リアルだと、警察官が撃たれたら、5km配備では済まないのでしょうが、暴力革命政党との武装闘争が続く、警察官への発砲事件が多い治安の悪い世界ということで、5kmにしました。