第1話 元ウォー・シミュレーションゲーム・デザイナーで、人気小説家・放※大学軍事史講師が、異世界でダンジョンマスターになったら
この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・場所・名称等は架空のものであり、実在の人物や団体などとは関係ありません。
「ミリタリーに興味を持ったきっかけはなんですか?」
パソコン通信時代、インターネット時代を問わず、匿名のミリタリー・コミュニティ内に設けられた初心者質問所でミリタリーに興味がない人からよくある質問。
戦争を知らない世代、さらにプロの自衛官でもない一般人が、ミリタリー全般がタブー視されている戦後の日本で、ミリタリー知識というアレな知識を貪欲に求め続ける姿は、興味がない人からみれば異様であろう。マニアとかヲタクとか称されるアレな人々である。
こうしたミリタリーに興味がない一般人からの質問に対し、彼ら・彼女らは、幼少の頃に見学した護衛艦一般公開で興味を持つようになった、駐屯地祭を見学して興味を持つようになった、等々ありきたりの回答をする。
それらの回答は、概ね事実であり、同時にウソでもある。
彼ら・彼女らは、そうしたイベントに幼少のころから足を運んでいるが、こうしたアレな趣味を持つに至ったのは、イベントに足を運んだからではなく、なるべくしてなったのである。よって、興味を持ったきっかけについて、本人にも答えようがなく、ありきたりな回答をするしかないのである。
鉄道、船舶、航空機、どの分野であれ、人口のなかで一定の比率で、そういった専門性を有した趣味人たちが自然発生的に生まれるものであり、それは社会の多様性という観点からみると、むしろ健全かつ好ましいものとも言えよう。
法律に反せず、他者や社会集団に対し、生命・財産を直接的に脅かさない趣味のであれば、保守・革新の政治的な立場を問わず、自分に理解できない趣味、これには文章・絵・漫画・映像・音楽・ゲームなどの表現も含めて、文化を守る観点からも、本来、一方的に弾圧すべきではないのは言うまでもない。
エログロなど過去の悪書追放運動のなかで、きっかけであったエログロ書籍への悪書追放運動が尻すぼみになる一方で、ゲーム、ドラマや映画など映像作品、果ては音楽媒体にまで検閲のような運動は広がり、ミリタリー系分野の排斥も長く続くことになる。左派の文化人・弁護士らからの執拗な攻撃、ゲーム会社への訴訟をちらつかす脅迫、映画・ドラマなど撮影時における左派団体幹部の立ち合い強要などが、当たり前のように行われる時代があったのである。
日本における創作時でお約束
『この物語はフィクションです。登場する人物・団体・場所・名称等は架空のものであり、実在の人物や団体などとは関係ありません』
といった表記も、出版後やドラマ放送後に、偶然、同姓同名の人物に意図しないトラブルを誘発しないようになど、トラブル予防の観点から入れられる文言であるが、元々は過去の悪書追放運動における焚書から逃れるためのテクニックとして始まったものである。
近年では、左派が「表現の自由」を主張して、右派が表現の規制(ゲームなど含む)を主張する傾向が強い。
最近では、某地方議会で不自然な量の規制賛成パブリックコメントを根拠に、無理やりネット・ゲームの規制するといった憲法違反としか思えないような内容の条例を制定する事例も見受けられた。しかし、条例化の根拠でもあった大量の規制賛成パブリックコメントの文面がほぼ同一であり、さらにIPアドレスも同一であり、同じLAN内のプライベートアドレスであったことが判明している。
SLG『ホイ』ロード画面中に表示される某独裁者名言
『投票する者は何も決定できない。投票を集計する者がすべてを決定する』
地方議会であっても、自由と民主主義の根幹を脅かすような行為は許されない。右派の保守系政党だから、左派の革新系政党だからと、政党名に関係なく、これは「表現の自由」への理解の問題であり、不正行為が事実なら、許されない行為である。
日本における趣味としての分野「ミリタリー」。
それは、一言で表すなら「日陰者」である。
米ソ冷戦時代の日本では、まだ先の大戦で従軍していた世代の多くが存命であった。街頭では、警察官に対し、暴力反対を叫びながらゲバルト棒を振り回し、火炎瓶を投げつけるなど、過激な暴力・破壊活動が伴う反戦平和運動が行われていたが、書店には旧軍出身者らによる専門的な軍事書籍が溢れていた時代でもあった。
敗戦を経験した旧軍の陸海軍出身者からすると、書籍という形で、後世に少しでも軍事知識・戦争の経験を残しておきたいという気持ちもあったのかもしれない。
東西ブロックの分けられた世界のなか、日米安保条約によって米国の軍事力に守られた日本では、自由と民主主義を支持する政治勢力(保守系)の中ですら、軍事的な対外脅威は米国に任せればよいと考えたのか、不毛な憲法の神学論争に陥りがちな国会対策が面倒臭かったのか、現実主義に基づく、近隣の敵性国家とのミリタリーバランスを考慮した現実的な防衛力構築は放置され続けた。そして、東側ブロック寄りの左派の政治勢力(革新系)は、とにかく日本を無防備に、そして軍事力を持たせないように努力し続け、安全保障面における対米依存度を高めてしまったのは皮肉な話であった。
プロの防衛庁(当時は省ではなく庁であった)・自衛隊は、デタント時代に作られたGNP1%枠の枷のなか、実務として大蔵省に毎年予算要求を行い、編制・訓練・調達を淡々と続けていた。戦前の反省からか、革新系政党と世論が怖かったのか、米国のように軍部として、国政に影響力を行使することも、政府中枢への意見具申すらも避け続けた。憲法上の制約、政治の無理解と世論動向から、現実の脅威に対して、平時においての働きかけを諦め、すべてはQ号が出たら、勝手にやって、米軍来援まで耐えるという消極的な考えであったのかもしれない。
米ソ冷戦時代、アカデミックの世界で暮らす大学教授達も、革新系が多数派を占めている時代であった。米ソ冷戦後に生まれた世代には理解困難だと思われるが、当時は資本家を打倒して格差を無くした労働者のユートピアを作りたいという思想が非常に魅力的に映り、ソ連・共産中国・北朝鮮を理想郷のような憧れをもって見られていた時代でもあった。
ミリタリーバランスを重視する現実主義に基づく国際政治など、アカデミックの世界では、極少数の異端であり、ミリタリー研究なんぞ、そもそも明文で禁止されているほど不可能なことであった。こうした風潮もあり、マスコミや文化人の多くも革新系で占められていた。こうした状況のため、防衛庁は主に先の大戦の戦史研究、部内の幹部研修に使っていた防衛研修所を防衛研究所に改組して、細々としたアカデミックな研究の場を作ることになる。
西暦1970年代の米ソの緊張緩和「デタント」では、東西両大国間の緊張が緩和される間隙で、これまで各地域で閉じ込められていた諸問題が噴出し、国際テロ・ゲリラ組織、反政府武装勢力が跳梁跋扈することなり、日本では、デタントという状況で、4次防見直しに伴う防衛予算の硬直化、防衛費1%枠(後に閣議決定で撤廃されたが・・・。)、非核三原則の国是化など、脳みそがお花畑になったかのような大きな禍根となる決定を行っていた。
70年代末、米ソデタントは、ソ連軍のアフガニスタン侵攻によって崩れる。80年代の米ソ冷戦激化に伴い、東西陣営は新型戦闘機・新型戦車など、新しい主要装備品を登場させ続けた。次々に登場する新装備は、アレな分野に興味を持つ人々の好奇心を刺激し、新たなアレな人々を生み出すことになる。
このような内外の環境の中で、実務として関わる範囲の知識に限られるプロの自衛官、研究分野の知識に偏る大学の先生方(一部の大学の先生自身がアレな人を除く)とは違い、『ミリタリー』というあらゆる分野が関連してくる学際的な趣味として、アレな人々は、広汎なミリタリー知識を貪欲に吸収し続けることになる。
多くのアレな精鋭たちは、それぞれ専門分野を持っていることが多い。
例えば、特定の時代を専門分野としている場合。
時代ごとの区分で専門分野がわかる場合。
火器が登場する以前の時代としての「古代」・「中世」。
火器が登場してきた「近世」。
国民国家の登場から第二次世界大戦勃発までの「近代」。
歴史学では近代の含める場合が多いがミリタリーの世界では独立した時代カテゴリーとされることが多い、第二次世界大戦直前の各種紛争から第二次世界大戦終結までの「WW2」。
第二次世界大戦後から米ソ冷戦終結までの「米ソ冷戦時代」。この米ソ冷戦時代は、個別に「朝鮮戦争」、「ベトナム戦争」など、戦争単位の区分で専門分野に分かれがちな印象がある。
いまは、米ソ冷戦終結後から西暦2020年現在が「現代」になるのであろうが、テロとの戦いや地域紛争など、地域研究者顔負けの特定地域に特化した専門知識を有した人もいれば、ドローン・サイバー・宇宙などSF畑経由から近未来的の技術に詳しい人、特殊部隊の戦術・装備・編成などの専門分野に特化している方もいる。
また、上記のような時代を問わず、特定分野の知識を時代区分に関係なく、特定分野を一連の歴史として通じていることもある。
例えば、火砲、艦船、工兵(築城)、軍楽隊などを専攻しているアレな人々であろう。当然、火砲であれば、冶金、発射薬、信管や爆薬。船舶であれば造船や海洋・航海。軍楽隊であれば音楽の知識も求められる。サバゲーから入って、軍装の分野という沼に入り込む場合もある。歴史、鉄道、航空、船舶、写真、無線、模型などのマニア分野で、一定の割合で必ずミリタリー系のアレな人が含まれているのは、そういうことである。
このように専攻する専門分野を持っていても、学際的な「ミリタリー」という底なしの泥沼で生息するアレな人々にとって、専門外の分野であっても、一定の知識を有しているものである。
その中で、独学でミリタリー研究を続けるアレな人々のなかでも、さらに精鋭無比の超アレな連中は、ウォー・シミュレーション・ボードゲームの設定議論だけで、ご飯何杯もいけるようになる。
元々、知識豊富なアレな人々のためのゲームであり、ルールは肥大化し、ゲーム設定も膨大となっていた。特に肥大化した膨大なルール・設定のゲームは、ビッグゲームと呼ばれる。もはや変態級のアレ向けゲームであり、そのようなビッグゲームばかりを作っていたのが、西藤大輔であった。陸海空軍の知識だけに留まらず、国際政治、経済、諜報に至るまで、変態ゲームをプレイする超精鋭なアレな人々を唸らせる変態的なほどの膨大な知識量と深い考察に裏付けされた、緻密に計算されて作られたゲーム設定は、常人には手が出せない敷居の高いド変態ゲーにも関わらず、商業的な成功とも言えるほどの売り上げをあげることになる。
だが、このウォー・シミュレーションのボードゲームブームも終焉を迎えることになる。ビッグゲームのボードゲームは、初心者には敷居が高すぎるという点も挙げられるが、一番大きな理由は80年代末頃からのパーソナルコンピュータの普及であろう。フロッピーディスクに書き込まれたプログラムにより、膨大なルールを暗記し、乱数として毎回サイコロを振る必要も無くなったからである。
90年代前半になると5万円未満で100MB~400MBの外付けハードディスクも購入できるようになり、それに対応したウォー・シミュレーションのPCゲームも登場することでフロッピーディスク入れ替えの煩わしさも無くなるようになる。そして、95年に米国M社から「窓95」というOSが登場し、日本国内でも国内メーカーN社の98シリーズの圧倒的シェアも、PC/AT互換機(DOS/V機)に変わっていき、インターネットが身近な時代がはじまるのであった。
ゲーム業界全体でみると、戦略・歴史系のゲームは主流とは言いずらい分野ではあるが、今日でも命脈を保っている。国内メーカーでは、戦国時代・三国志・太平洋戦争会議ゲームなどで知られるK社、戦車を生産するのに鉄鉱石と石炭で鉄を作り、次にシャーシを作ることまで考える必要がある良い意味での変態ゲー「大ドイツ」などで知られるJ社など、海外メーカーでは、第二次世界大戦もので師団単位での地上戦シミュレーションに重点が置かれたゲーム「ホイ」シリーズや19世紀を舞台にした国家ストラテジーゲーム「女王」シリーズ、遠い未来の宇宙を舞台にしたというい言い訳でセンシティブな移民・難民管理などを取り扱う宇宙ストラテジーゲーム、遊び方の自由度が高い都市建設ストラテジーゲームなどで知られるスウェーデンのP社などが有名である。
西藤大輔は、ミリタリー・ボードゲームの市場縮小により、小説家としてデビューすることになる。ウォー・シミュレーション・ゲームのデザインで培った緻密な設定力・膨大な知識量は、当時流行していたパソコン通信(F社の「ニフニフ」、N社の「Pバン」)のなかで、デビュー早々に一躍注目株の人気小説家として広く知られるようになる。そして、ミリタリーに興味を持ち始めたばかりの若いアレな人々が、今度は西藤大輔の小説を入口にして、新たなミリタリーという底なし沼に足を踏み入れるのであった。そして、そこから人生を捨ててしまう沼に嵌った、新たなアレな精鋭が誕生していった。
西藤は、シミュレーション手法を米国防総省やCIAでの敵性国家の国力分析、戦力分析で活躍したD氏(大型人型警察ロボットアニメ劇場版2作目、G隊長・警部補のぼそぼそセリフで有名)のように、政府関係機関や国際政治・インテリジェンスなどのアカデミックの世界で重用されることはなかった。
日本では、ミリタリーという分野は、長らくアングラ系と呼ばれる、日陰者に位置づけられる状況であった。今日でこそ日本の軍事専門誌筆頭の位置付けにある月刊『ミリタリー・リサーチ』も、創刊当時は総会屋のような怪しい団体からの怪しい雑誌とみられていた。ミリタリーというアングラ系の趣味分野と、表の世界とは、深い断絶があったのである。
匿名コミュニケーションの場がパソコン通信からインターネットの世界に移ってくると、インターネット上に誕生した巨大な匿名掲示板群のなかで、ミリタリーのアレの人々が集まったミリタリー板も、学問ではなく、趣味のカテゴリーであり、当初の板名もミリタリー・スパイ板という怪しげな名称であったのも、当時のミリタリーという分野の位置づけが垣間見える。
西藤の小説は、緻密な設定、アレな人々だけに通じるアレなネタ、諧謔を交えたセリフ回しで、どの作品もアレな人々の間で人気となる。その一方で、どの作品も、なかなか続編が出版されず、アレな人々は飢餓感で苦しみ続けることとなる。
当時は、今日のような大手通販サイト「密林」のようなサイトはなく、インターネットで気楽に新刊予定日をチェックすることもできなかった。
新刊発売日のチェックは、本屋に足を運び、店頭に貼りだされた月次新刊発売予定表をチェックして、店頭で購入予約するしかなかった。
そして、西藤は、常習的に原稿締め切りを破り、新刊発売予定日が発表される度に、多くの読者に新刊を期待させ、予定日が過ぎる度に発売されないこと突きつけ、続編を待つファン達に毎度精神的ダメージを与え続けていた。
西藤の様々な小説のなかで、癖があり、協調性のない、バカが嫌いな頭のきれる人物が登場してくるが、これは頭がきれるが、周りと協調しながら仕事ができない本人の要素も入っていたのかもしれない。
西藤は、目の前で会話している最中では、突然、会話を中断して、目の前の人物を無視してコーヒーを飲みながら、深く考え始め、独り言をつぶやきはじめるなど、困った奇行があったが、いくら注意されてもそれを直すことはなかった。そして、どんなに締め切りを破っても、どんなに他者に迷惑をかけ続けても、ゲームデザイン・小説設定には一切の妥協せず、質を高め続けた。こうした深く考えられた設定から生まれた作品は、ゲームプレイヤー・小説読者からの高い評価を得ることになる。その一方で、西藤と直接仕事で関わる編集者やゲーム設計チーム仲間などからは、締め切りを守らず、突然設定を変更するうえ、会議・打合せの会合も成り立たないなど、癖が有りすぎて一緒に仕事できない奴と、悪評が溢れている一面もあった。
少しだけ擁護すると、西藤はあくまでもウォー・シミュレーション・ゲームのデザイナーとしての思考から小説を書いており、小説を修正する度に、設定全体の見直しから行っていたため、膨大な労力をかけていた。
小説の相次ぐヒット、そして自身の小説を原作にした漫画・アニメでもヒットし続けた西藤は、金銭的にも困らなくなり、さらに協調性がなくなり、締め切りも守らなくなる。
出版社編集の悲鳴も気にすることなく、「表現の自由」を守る運動には「小説家」の肩書で賛同署名したり、日本最大手某匿名掲示板の管理人マロユキが、実況用高性能サーバーが余ったけど、欲しい板は手を挙げて発言から始まったサーバー争奪戦にミリタリー板名無し選対として参加したり、板対抗人気トーナメントなどのイベントで匿名運営鯔になるまでのめり込んだり、自由気ままに同人誌を作ったりしていた。
ただ、同人誌に書かれた「この本の売り上げは、わたしの飲み代になります」の文字には、さすがに小説新刊を待ち続ける信者からも「この眼鏡デブ、いい加減にしろ!」と怒りの声が噴出するのであった。
しかし、太々しい西藤の行動が改まることはなかった。
小説家として成功を収めてからも、ウォー・シミュレーション・ボードゲーム関連の専門誌への寄稿は続いていた。米国のアレな人々向け専門誌『コマンド・コントロール』の日本語版が創刊されると、西藤は日本語版創刊号に「一号作戦」の研究論文を発表する。この論文は、軍事史や国際政治学(リアリズム系)といったアカデミック分野からも、西藤が注目されるようになるきっかけとなった。
2017年の朝鮮半島危機により、アカデミックの世界でも軍事研究を禁止すべきではないとの声があがりはじめると、日本学術会議による軍事研究禁止も撤回(註)され、日本各地の大学で軍事関係の講座が次々に設置されていくことになる。2018年、通信制の大学で開講された軍事史を西藤が講師として担当するようになると、アレな人々を中心に、この通信制大学科目履修生登録者数が異例な増え方となる。
だが、勤勉という2文字とは程遠い西藤には、通信制大学での週一回45分間テレビ講義をすることすらも荷が重かったのかもしれない。55歳という年齢にも関わらず、心臓疾患で急死してしまう。
彼を直接知る者は「慣れないことをするから」と呟き、小説続編を待ち続けた多くのファンからは、故人を悼む言葉よりも先に、「あのクソデブ、続編を書かずに死んだだと!」と、怨嗟の声で満ち溢れた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
放※大学軍事史講師・有名ミリタリー小説家は、専門書に囲まれた書斎で、安楽椅子に腰かけ、くつろいでいた。
「うな重、激ウマ━━━━(゜∀゜*)━━━━!!」
アルプスの伏流水。厳選された餌。養殖池の水温を変化させることで疑似的な四季まで体験させて育てられた最高級養殖鰻『陶粋』。
よく、鰻は天然物に限るとほざくエセ食通もいるが、それは間違いだ。本当に美味しい鰻は、惜しみなく金をかけ、手間暇かけて育てた高級養殖物である。『陶粋』だと、薬味の山椒すらも、使うのは、もはや無粋。
突然、電話機が点滅はじめる。留守電が何かを録音しているようだが、スピーカーを切っているので、音は聞こえてこない。以前、電話線を引っこ抜いたら、編集が押しかけ、ドワを乱暴に叩くようになったため、電話線を抜くことだけはやめている。どうせ、この留守電も編集からの締め切り過ぎてとかの原稿催促であろう。原稿というものは、締め切り過ぎてから書き始めるのが常識だろうに、この編集は常識というものがわかっていない。
以前の西藤は、手入れもされていない無精ひげ、前回床屋に行ったのはいつかも思い出せないぼさぼさの長髪、地下鉄で化学兵器を散布した某テロ教団で尊師と呼ばれる首謀者のような風貌であったが、通信制大学で講義をするようになってからは、講義前に床屋に行くようになったため、髪は短く整えられ、髭もそれほど伸びていない。だが、長年の不摂生、いわゆるメタボリックシンドロームにより、お腹はかなり張り出していた。
留守電の点滅も気にすることなく、宅配で届いた『陶粋』のうな重を掻っ込みながら、録り貯めた映画やアニメを大画面で再生しながら、同時に、様々な軍事・戦争史系学会での最新の研究発表会資料を床に並べて考察を続ける。
いまエンドロールを迎えたのは、「そこら辺の草でも食ってろ」のセリフで有名な、関東地方某県民をディスりまくっているかのような内容のコメディ映画。たが、軍事的には、「ソフト・パワー」というよりも、「ハイブリッド戦」の観点から、興味深く感じられるエンディングであった。
続いて、大ヒットとなった女子高生ものの戦車アニメの視聴をはじめる。最初はこの作品がヒットするとは思えなかった。
日本国内で、プロの防衛省・自衛隊・防衛装備関連企業の関係者を除き、いわゆる趣味としてミリタリー分野のヲタク層は15万人前後。軍事専門誌を熱心に読むこむ濃いヲタク層は5万人程度、人生まで捨ててしまったガチな層は1万人にも届かない。よって、ミリタリー系の作品は、どんなに大ヒットしても15万の壁を超えることはできない。
第一話冒頭シーン。軍事的にはあり得ない、カラフルな色で塗られた戦車に、どうして生理的も受け入れられず、テレビ地上波放送時には、それだけで視聴を止める、いわゆる一話切りをしていたほどであった。
改めて、この作品をマーケティングの一環として視聴すると、この作品はいわゆるミリタリー分野のヲタク層を最初から切り捨てたことにより、それ以外の広い層からファンを開拓した、ある種のブルー・オーシャン戦略の成功例だったのだろう。そうでなければ、アニメ劇場版で、観客動員数140万人を超える記録的大ヒットにはならない。
大画面から二人の女子高校生戦車乗りが歌う「雪の進軍」が聞こえてくるのを聞きながら、マルチタスクで床に並べられた資料も俯瞰しながら、別のことを考えはじまる。
先日の戦争史学会での発表された離島遺骨調査中間報告を思い出しながら、坑道陣地内で保管中の魚雷が誘爆したことで早期失陥した主陣地帯「屏風山陣地」のことである。
師団長はこれを理由に、陸海軍一元統帥まで踏み込む総括電報を出すこととなるが、現地の命令綴だと、あり得ない坑道戦術を仕掛けた米軍の浸透を撃退したとの記述も確認できる。しかし、このときの日米両軍の配置と時期からみて、米軍の「屏風山陣地」への坑道戦術もあり得ない。米軍側の記録にも坑道戦術を仕掛けた記録はない。
「屏風山陣地」突破された本当の原因は、今後の滑走路地中も含めた、さらなる遺骨発掘調査を待たないといけないだろうと思いつつも、二つ目のうな重の箱を開けようとしたところで、突然、これまでの人生で経験したことのないほどの焼けるような激しい胸の痛みに襲われる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
床に倒れこんだと思ったら、辺りは完全に真っ暗。僅かの明かりもない。テーブルに置いた部屋の照明リモコン、スマートフォン、明かりをつけるため、必死に手を探る。
だが、テーブルすらも見当たらない。真っ暗のなかで、次第に焦り始める。
(部屋の照明リモコン、スマートフォンはどこ? 光、光、光!)
突然、空間に光球が浮かぶ。
「なんだ、こりゃ!」
短く整えられた黒い髪。
いかにも運動不足のお腹が出た裸族の中年男性。
裸のデブが地面から立ち上がり、周囲を見渡す。
真っ黒い床が無限のように広がっている。
空間には光球が浮かんでいるだけで、床以外、何もない。
極度の近視のため、必死に辺りにメガネがないか、見渡すと、突然、視界がクリアーになる。
気がついたら眼鏡をかけていた。
裸のデブは、試しに、目を閉じ、いつも穿いているトランクスと白色Tシャツをイメージに集中する。
光球が浮かぶ何もな空間。
そこに、ブルーライトカット機能の付きのメガネのため、光球からの光を青く反射させた眼鏡をかけ、トランクスとTシャツを着たデブ。
次に、背広姿をイメージする。
自分の体形を隠すかのような既製品のワイシャツ。
銀座のテーラーで仕立ててもらった、自分の体形に合わせた気心地のよいイタリア調の背広上下とネクタイ。
何度もソールを交換したグッドイヤーウェルト製法の黒革靴と靴下。
下着姿の眼鏡デブは、背広姿の眼鏡デブへと姿を変えていた。
量販店の格安就職活動スーツセットの販売キャンペーンにより、背広姿は窮屈で気心地が悪い、革靴は蒸れる、といったイメージが広く定着している。
自分の体形に仕立てた背広は、快適で、長時間着ていても、そのまま居眠りできるほどの気心地のよさがある。革靴も量販店でよく売られている安い革靴は、合成皮で、通気性なく、蒸れにより、長時間穿き続けることは苦痛でしかない。しかし、本革で、靴底も皮で作られた革靴は、湿気を逃がし、蒸れることもない。長く使い続けることで、革靴は自分の足の形にフィットするので、長い時間穿いていても、苦痛になることはない。
小説やゲームの設定アイデアは外出中に突然ひらめくこともある。
一見すると、灰色の地味な背広姿も、デザインよりも、気心地、快適さだけを追求した姿も、自らの思考を邪魔する気心地の悪さを取り除くことには金を惜しまなかった西藤の考えが表れていた。
(よくある異世界転生ものだと、ステータスオープン、と念じると、ステータス画面が浮かぶものだが、さすがにそれはないか)
突然、背広眼鏡デブの前に、半透明のステータス画面が浮かんでいた。
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種族:ダンジョンマスター
前種族:ヒューマン
レベル1
身体:肥満 高脂血症 突然死の一歩手前
使用可能魔法
迷宮設置
迷宮改装
罠設置
生命創造
物品創造
スキル
迷宮内把握
物品鑑定
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突然のステータス画面に困惑する。
先ほど、念じたとおりに服が生成されたのなら、姿も変えられるののか。
使いまわしている20年前ぐらい前の著者近影の姿を思い浮かべ、その姿になれと念じ続けてみる。
明らかに若返ったことがわかる。
(手鏡、手鏡、手鏡・・・。)
念じて出てきた手鏡で自分の姿を確認する。
不摂生が続き、飛び出したお腹もなくなり、30代後半ぐらいの姿に変わっていた。
服のサイズが合わなくなったので、服のサイズを修正するよう意識して念じてみると、服のサイズを修正することもできた。
改めてステータスを見ると、身体の項目は、「肥満 高脂血症 突然死の一歩手前」から「健康」に書き換えられていた。
ダンジョンマスターとは? レベルとは? 迷宮創造魔法? 生命創造魔法? 物品創造? 迷宮内把握? 物品鑑定? なんだそりゃ。迷宮改装できるのなら、それで罠設置もできるはず、別にある罠設置とは?
疑問が浮かぶ度に、用語解説が表示される。
〇ダンジョンマスターは姿を変えられる。
〇ダンジョン設置は1回限り。ダンジョンを設置しないと、ダンジョンマスターは消滅する。
〇一度設置したダンジョンは、場所変更できない。
〇ダンジョンマスターは、魔力を消費することで、ダンジョン階層を作り、階層を広げ、罠を設置し、モンスターなど生き物を創造することができる。
〇罠設置魔法を使うことで、特定条件で、侵入者を石化させる、絵画に封じ込めるなど特殊な罠を設置することができる。
〇ダンジョンマスターは、設定したダンジョン内の状況をすべて把握することができる。
〇迷宮内に生き物が入れば、僅かだが魔力が少し集まる。迷宮内で生き物が死ねば、多くの魔力が手に入る。
〇ダンジョンマスターが殺された場合、巨大なダンジョン核と呼ばれる魔石を生み出す。この魔石の大きさは蓄えた魔力量に比例する。
〇生命創造は物品創造よりも魔力を必要とする。生命創造に必要な魔力は、創造する生命体が内包する魔力量と質量に比例する。創造した生命体はダンジョンマスターの支配下となり命令にも従うが、ダンジョンマスターは一定の魔力を消費し続ける。ただし、創造した生命体の支配を解いた場合は、魔力消費はなくなる。
〇ダンジョンマスターは、転生前の種族と同じ生物となる。その姿の定義範囲内であれば、姿を変えられる。蓄積した魔力が尽きるまでは寿命で死ぬことはない。老化することもない。
〇ダンジョンマスターは魔力を消費してレベルを上げることができる。ダンジョンマスターのレベルが上がると、使用できる特殊能力が増える。高レベルのダンジョンマスターは、別のダンジョンに回廊をつなげ、攻め込むこともできる。
〇ダンジョンマスターのレベルが上がるほど、または蓄積した魔力が多くなるほど、他者からダンジョンとダンジョンマスターの存在が気づかれやすくなる。
「なんだ、この糞設定は!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
フソウ皇国首都サイタマ
古来よりダンジョン探索のために集まった冒険者の町として栄えていた。
一般的にはダンジョンは洞窟の奥など入り組んだ狭いところに入り口が設けられているが、サイタマのダンジョンは、地表部分の広い部分からダンジョン第一層となっている他にあまり例がない特徴がある。
魔王と称さられるこの地のダンジョンマスターが、女勇者と相討ちとなり、女勇者の一族が、この地を治める領主となり、以来ダンジョン跡地も含めた街づくりを続けてきたと記されている。
現在、皇国国民の象徴である皇族は、女勇者の血を引いている一族でもある。
現在の首都中心部にある宮殿、国会議事堂、首相官邸、官庁街、最高裁判所、皇都警視庁、各国が皇国に設けた大使館や大使公邸などが密集する大使館街などは、旧ダンジョン第一層地区に作られたものである。
このため、ダンジョン時代の古い石壁などがダンジョン考古学的遺産として大切に保管されている。
旧ダンジョン第2層以降には、敵国から容易に攻撃できない利点があるため、戦時における住民の避難シェルター、戦時に備えた離宮と近衛歩兵第1連隊第2大隊兵舎、皇国大本営・統合参謀本部・陸軍参謀本部・海軍軍令部・空軍幕僚本部、対外情報庁、司法省憲法擁護庁、皇国公安委員会・皇国警察管理庁、逓信省通信情報保安庁、大規模自然災害に備えた政府防災基地(皇国中央省庁の代替庁舎候補拠点の一つ)となどが設けられている。
皇都サイタマ郊外に位置する小学校。ここでは義務教育として6歳から9歳まで4学年での義務教育が行われている。
皇国の教育制度は、4年間の義務教育としての初等教育(小学校)、5年間の義務教育としての前期中等教育(中学校)、3年間の後期中等教育(高校)、学士の学位が得られる4~6年間の高等教育(大学学部)、大学院で行う研究者養成の修士課程(修士の学位)・博士課程(博士の学位)に分かれている。
中学校から大学学部までの授業については、学校内で行う単位取得試験ならびにフソウ国内共通の単位取得試験(中学校卒業認定試験ならびに高校卒業認定試験)に合格さえすれば、授業に出ていなくとも単位取得することができるため、中学校・高校・大学学部をそれぞれ最短で各1年間で卒業することも可能となっている。単位取得できなければ卒業・修了できない。
そして、皇国では、中学校を卒業した時点で年齢に関係なく、法的にも成人として扱われるようになる。
中学を飛び級できる人は珍しくないが、高校で飛び級できる人はかなり少なくなる。
国民の大多数は、留年も飛び級もせず、既定の年数を通い、高校を卒業して、企業に就職し、学びなおしやキャリア構築のため、社会人になってから専門学校や大学に入り、新たな人生を切り開いていった。
そして、ごく一部の社会不適合者(奇人・変人)たちが、大学生から直に、または社会人から出戻りの形で、大学院に入院して、奇人・変人としてレベルをアップさせ、評論家や研究者・学者といった特殊な人材となって輩出されていった。
皇都に近い学校ということもあり、この小学校の教室には、青毛のフソウ人、フソウだけで暮らすエルフやドワーフだけでなく、外国人と思われる顔立ちで、赤髪や紫髪の子たちの子供すらも見受けられる。
窓から校庭の射撃場を眺めると、別の教室の子供たちが、様々な魔法を的に当てている。
教壇に立つ女性教師が、教室で座る小学1年生たちの前に置かれたタブレット型魔導端末が全て接続されていることを確認する。
「これから社会の授業をはじめます。この授業は、他の科目とは違って、教科書のページを区切って授業をすることも、試験範囲を定めることもありません。それは暗記科目ではないからです。古代から現代まで、シミュレーション・ゲームを通じて世界中の地理を学び、政治・経済・軍事・文化を歴史的な流れとして把握したうえで、現在の社会制度を学んでいきます。皆さんの机の上には、タブレット型の魔導端末が置かれています。すでにスタート画面が表示されていますので、画面上の『スタート』に触れてください」
「皆さんは、国家指導者に扮して、古代から現代までゲームで学習していきます。今日は初回ですので、『フソウ皇国』を選択して、まずはプレイしてみましょう。操作方法がわからないや困ったことがあったら、先生に遠慮なく聞いてください、わからないことを聞くことは恥ずかしいことではありません」
「外国からの来られた方のために、簡単に『フソウ皇国』について確認します。端末の『フソウ』概要をクリックしてください」
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ゲーム内での国コード:FUS
国名:フソウ
中央大陸東側の沿岸沖に位置する島国
気候区分:「温帯」
温和な海洋性気候
言語:フソウ語
民族:フソウ人
首都周辺のみ、エルフ人やドワーフ人も暮らす。
フソウ人は青い髪が特徴で、古来からフソウの島で暮らしていたと考えられている。
エルフ人とドワーフ人は、首都サイタマのダンジョンから出てきた民族。
ダンジョンマスターが討たれた後、ダンジョンマスターの支配から脱したのだと考えられている。
エルフ人は長身で尖がった耳が特徴。
色白で髪の色素も薄く、薄茶や一部では金髪もみられる。
旧ダンジョンの森林エリア内で、大木の上に住居を設け暮らしている。
ドワーフ人は、身長は比較的低く、力が強く、夜目が効き、色黒で、こげ茶の髪が特徴。
旧ダンジョンの山岳エリア内で、洞窟の中に住居を設け暮らしている。
宗教:フソウ教
多神教の一種で、フソウ皇国のみで信仰されている。国民の大多数が信仰している。
400年前までは、創世教信者が多く、創世教によって弾圧されていたが、
その後は創世教が廃れた。
国民の多くは、正月に神社と呼ばれる宗教施設で参拝し、
亡くなった人を火葬にしてから、寺と呼ばれる宗教施設で儀式を執り行い、
埋葬する風習がある。
エルフとドワーフは、それぞれ勇者に討たれたダンジョンマスターを創造主として祀る独自の宗教を信仰している。
主な農作物:米、芋、茶、豆など
水田による稲作が盛んである。
主な水産資源:マグロ、サンマ、カツオ、イワシなど
沖合で暖流と寒流がぶつかるため、漁獲高は多い。
主な鉱物資源:石灰岩、石炭、硫黄、金、銀、銅、亜鉛、鉄鉱石など
火山が多いため、鉱物資源の種類は多い。
食文化:米を主食とし、大豆を発行させた調味料(味噌・醤油)を用いた
フソウ料理が世界的に知られている。
観光:温泉を活用した観光地が全国各地に点在している。
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「フソウ皇国の国家指導者として、低所得層・中間層・裕福層への税率、関税、行政・教育への支出、どの産業にどれだけ補助するのか、どの物資をどれだけ国家備蓄するのか、軍の装備予算と軍人への給与、どの技術分野・学問分野を重視して研究していくのか、外国との付き合い方、考えることは多いです」
教室中、思うようにプレイできないと子供たちの悲鳴が噴出しはじめる。
『うわ、海軍がいきなり消滅したぞ』
『反乱大杉、挙句に軍にも反乱軍のシンパ、どうなってるの?』
『うちの国、いまだに水車も作れない。周りの国はすでに蒸気機関を使ってるのに』
「海軍の物資購入費をゼロにしていまえば、艦隊は維持できなくなります。また、ガレー船の技術で止まっているのに、大洋横断なんてできません。帆船まで技術ツリーを伸ばしても、港を整備して、港で補給を受けられるようにしないといけません」
「反乱には原因があります。最低限の食料や生活必需品すらも購入できず、生活に困窮している。宗教弾圧されている。母語を禁止されている。他民族に抑圧されている。受け入れた移民が排他的なコミュニティを形成している。外国勢力からの武器援助や反乱の唆しがある。辺境地域で治安能力・行政能力が足りていないなどです。不満の原因は、人口構成と職業構成のタブで確認できます」
「産業分野で『水車』の研究完了していないのに、『浸透戦術』の軍事研究完了は、バランスが悪すぎです。研究ツリーは、欲張って先の分野を研究すると、より多くの研究ポイントを必要とします。研究成果がわかりやすい工学や化学、軍事分野ばかり研究して、人文社会科学分野、特に哲学の研究をおろそかにしていると、総合的な研究ポイント取得の面で、他国より不利になります」
「ゲームに慣れてきて、同時に歴史にも詳しくなってくると、このゲームの初期設定は間違っているのではと疑問も出てくることだと思います。その場合は、自分だけのゲーム設定を作成しましょう。スタート画面から自分だけの設定を作るをクリックすると、専用フォルダ『MOD』ができます。そこに、初期設定が格納されている『歴史』フォルダーの中身をコピーして、専用フォルダに移しましょう。特定の国の領土・基本設定など修正したい場合は、国コードを目印に該当ファイルを探すことができます。『フソウ皇国』だと国コード『FUS』になります」
毎年、入学したての小学生たちに、国が定めた教育指導要領に基づき、指定されたこのゲームを使って教える女性教師にとっては、もはや慣れた説明であった。
しかし、女性教師は疑問に思う。
どんなに、このゲームに慣れたプレイヤーでも、今日ある現実のフソウ皇国にはたどり着けない。
内燃機関が発明される前に、原油調達先が確保されていたり、電球が発明されるときには電気機器製造に必要な天然ゴムの調達先が確保されている。
周辺国が絶対王政で中央集権を強めるなか、逆行するかのように地方分権を進めていく。地方の大名と呼ばれる領主の権限を強め、地域振興を重視するのであった。最新の研究では、長い地方分権を経験した国の方が、製造業が発達しやすいという説もある。この研究からみれば、フソウ皇国の歴史は、今日の製造業に長けた海洋国家として、結果としてベストの選択をしていることになる。
そして、長い歴史を有するフソウ皇国は、数度の世界大戦でも国が亡ぶこともなく、今日では、世界有数の経済大国としての地位となっている。
参謀本部や空軍の設立、自動車や飛行機の発明など、世界初めての組織設立・発明も多い。
まるで、現実のフソウ皇国には、世界各国間の国際政治、科学や軍事の進歩の流れなど、数百年先まであらかじめ予測できている、何か、皇国の守護者たる人物が見守り続けているかのように感じられるのであった。