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冒険の旅6日目、ダークエルフ領、サウススクリット  聖女様との面会  (新しい自分後編)

転送で向かう先は一気に大陸のほぼ反対側。

南にあるダークエルフ領だ。

そこに聖女様がいるということで、俺には聞きたいことがある。

だから今まで人から聞いた話を整理してみた。


本来なら勇者が英雄王になり、統括するはずのヒューマン領。

そもそも今回は勇者召喚をしなかった。

これがまず大きな謎である。


その為、急遽聖女様が代わりに勇者召喚を行い、

邪神封印へ向かう事になったという。

この時召喚された勇者は俺の父親だ。


ヒューマン領で歓迎されなかった勇者は魔族領へ行くことになり

魔族の英雄である魔王と出会う。

二人はひかれあい、邪神封印の戦いを行う途中で結婚した。

そして最後の戦いを迎える前に俺が生まれた。


そして俺が生まれたことで、

賢者様とララシア様は、英雄パーティーから抜けた。

それは聖女様から女神のメッセージを受けたからだという。


そして邪神封印は成功した様だが、

聖女様と剣士様以外は誰も戻らなかった。

これがまた謎である。


やがてヒューマン領では内乱が勃発し、

小国家が勝手に領地拡大の戦争をしだした。


聖女様は本来なら導くはずの勇者が不在でもあり、

英雄王もいないヒューマン領に愛想をつかしたのか

聖女様の身の危険を感じた剣士様と聖道騎士団に守られて

隣にあるダークエルフ領へ移動する。


ところがヒューマン領の隣にあることから

領地拡大の余波を受けた獣人領をはじめ、

ダークエルフ領へもヒューマン領から侵攻が始まっている。


これは他の人から聞いた話だから真相は不明のまま。

賢者様にも詳細は答えてもらってない。


そんなキナ臭い状況で、現地へ行くわけだ。

館メンバー全員参加と言うことからもヤバそうな雰囲気がある。


聖女様からどれだけのことが聞けるのかはわからないが

俺にとって会わなければならない人ではある。

ただこんなに早く会えるとは思ってもみなかった。


少し前の俺は大陸の反対側まで行くのは大変そうだと思ってた。

まさか転送で、簡単に行き来できるとか全く考えもしなかった。


今回ダークエルフ領の主都がある場所から

やや南にある都市が目的地だった。


いくら聖女様でも古代神殿がある場所でなければ

女神様との交信は出来ないらしい。


大陸に残っているいくつかの古代神殿のうち、その一つがある都市。

かなり古くからある都市で、別名神殿都市と言われる。

都市名は「サウススクリッド」


これは前世の英語で当て字翻訳すると「南の神殿」と言う意味だろうか。

それもまた謎ではある。


そして、転送で到着した場所はその神殿の庭だった。

振り返ると、

まるで巨大なパルテノン神殿の復元写真にあるような

そんな建築物が立っていた。


この世界で今まで見たことがない建築物だな。

まるでギリシャ観光に来たみたいだ。



その神殿の中へ入り、通路を進むと中央付近に広間があった。

そこには騎士装備らしい人物が十人ほど集まっている。


「あっララシア様!、賢者様も!!」

気が付いた騎士からそんな声がすると、全員が頭を下げた。


「皆様。ひさしぶりですわ。」


「ランスロット卿、剣士ちゃんを呼んでくれるかしら。」


えっ、ランスロット?

どこかで聞いた事がある名前だ・・。


一人の騎士が「ただいま、お呼びいたします」

と言って奥の部屋へ。


そしてその奥からもう一人の騎士を連れてきた。

それは、まるで女性の様な顔立ちの華奢な美男子だった。


存在感が光ってて、中性的魅力のある人だな。

剣士って聞いてたから、闘技場に出てくる様な

ガタイのでかい、筋肉ムキムキのむさくるしいおっさんかと思ってた。


「剣士ちゃん久しぶりね。」

顔見知りだからか、賢者様も挨拶している。


「これはこれは、賢者様」

「私くしのことは、敬称ではなく以前の様に名前でお呼びください。」


「じゃあアーちゃん。でいいかしら。」


「はい、皆様もおひさしぶりです。」

「そして、その子がアイト様でしょうか?」


「ええ、始めまして、アイトです。」


「生まれたばかりの頃しかお顔を見れなかったのですが」

「やはり、お二人の面影がありますね。」


「アイト君、この人がララシアとパーティを組んでいたアーサー君よ。」


「アーサー?!」

「えっ、円卓の騎士のアーサー王と同名??」

そっか、ランスロット卿は円卓の騎士の名だ。

どこかで聞いたと名だと思ってた。


いや、待って待って、アーサーって地球では伝説の人じゃん

歴史上でも存在が不確かで、確かに相当するアーサー王はいたらしいけど

アーサー王伝説上でのアーサーや円卓の騎士は想像物だと聞いた気がする。


「さすがに多くを言わずともわかってしまいましたか」

「さすがアイト様ですね。」


・・って、いつのまにか女性が立ってる?!

今言ったのはこの人か?

あっ、こっちに歩いてきた。


「聖女ちゃん、ごきげんよう。」

やっぱり聖女様だったのか、存在感が半端ない。

俺が想像してた通り、こちらはキラキラしてる美少女?だった。


この二人は人間族だから、本来なら相当な歳のはず・・。

これも女神の加護による何らかの力なのか?

勇者は歳を取らないとか聞いてたし。


いずれにせよ、この世界で歳を気にするのはやめた。


「賢者様、私も名でお呼びくださいな。」


「じゃあ、ジャンヌちゃん。元気で何よりだわ。」

いやいや待って待って

ジャンヌって・・この流れだと、ジャンヌダルクとか言わないよな。

もしそうなら、この人も伝説に近い謎の人じゃん。


やはり実際に該当する人はいたと言われるが

聖女と言えるほどと言えるのかは疑問でやはり伝説の人。


「もしかして・・・、ジャンヌダルクさんとか・・・。」


「ふふふ、私の事もお分かりなんですね。」

「さすがは女神様がお選びになった神の使徒ですわ。」


アーサーもジャンヌも伝説の人とは別に

歴史的に実体とされる人がいたと考えれば帳尻合わせ的な何かの力が働いたと言える。

それは間違いなく神の力だ。


「いや、神の使徒とか言われるのは超恥ずかしいです。」

それにしても地球で伝説レベルの人が何故ここにいるんだ。


「アイト様の知る地球では、」

「私たちはどうやら伝説の人物扱いされているようですね」

「でもお気になさらないでください。」

「それを言うなら、賢者様も地球上では女神様のお名前ですのよ。」


あーっ、自己紹介の時の名前か

気が付かなかったけど確か「アスタルテ」ってカナーン神話の女神だ。


アスタルテとは、アナト、アシュタロス、アシュタルとも言う

カナーン神話とはフェニキア神話のことだ。


実はグリモア伝説の悪魔のアスタロトに類似しているから

混同しやすい名前だ。


「乙女」「処女」と言う称号を持つ一方で

非情に攻撃的で、敵対者を必ず殲滅するという

まさに「戦乙女」の女神が「アスタルテ」だ。


殲滅された側からいえば、正に悪魔

アスタロトと言うのも実は同一の存在で間違ってなかったりして・・。


アーサーは剣士様、ジャンヌダルクが聖女様、

アスタルテが賢者様

この3人だけが敬称呼びになっているのは

何か地球のそういった伝説や神話と関係しているのかもしれない。


じゃあ、魔王様という敬称呼びの母さんもそうなのだろうか・・。


「アイト様、本題に入る前に地球と私たちの世界の関係について」

「少しだけお話いたしますわ。」

聖女様から別室に案内されて、いろいろな話を聞かされた。


地球「テラ」とこの異世界の星「テラリタリア」は、

時空間でつながった姉妹惑星であること

互いが別次元にありながら、双子星のようにお互いを回っている。


物質的存在力を強化した地球と精神的存在力を強化したテラリタリア

相反するものでありながら、お互いを補完し合う間柄であること。

よって、科学と魔法の世界に分かれている。


地球からの転生者や転移者がこちらに存在するように

逆にこの世界の人が地球に転生や転移をすることもある。


お互いの歴史に干渉しあっていたということだ。


但し、こちらの世界での存在力と言うのは魔力であるため

魔素の少ない地球には、長期間の干渉はできない。


但し地球でも昔は魔素が今より多かったらしい。


魔法だの奇跡だの妖怪だの悪魔だのというのはそれも関係しているのか

エスパーというのもある意味魔力を持った魔術師なのかもしれない。


しかし、近代では魔素の存在はかなり少ないようだ。


それで時折現れては、消えていく存在。

いわゆる伝説や神話的存在になるというわけだ。


また、つながりが時空間状によるものであるため

時間的な差異があるのは当たり前のことで、

俺の生活した地球の時間軸とこの世界の時間軸が全く同じと言うわけではない。


暦が同じ様でも、時間の流れも違う。

それぞれの世界にいる人間としてはそれは感じることは難しい。


だから、現代人の俺からすると不思議なのだが

今の話からいえば、歴史上の人がここにいるのは何ら不思議はないわけだ。


そこでだんだん本題に入りだした。


ヒューマン領の主王家による勇者召喚は実は行われていた。

ところが邪神側の干渉を受け、

本来召喚されるべき人物ではない者が召喚された。


その召喚者はどうやら俺と同じ時間軸の人物で、親父とも一緒であると言える。

しかし、とても勇者とは言えない程度の小者だった。


問題は召喚された者が欲望をむき出しにするほど邪悪な心を持つがゆえに

ヒューマン領に悪い影響を与えることになった。


本人は大した能力者でもないのだが、

持っている知識でヒューマン領の権力者を言葉巧みにかどわかし

大陸を治めるのはヒューマンであるという人族主上主義を打ち出した。

これにより反対派と権力抗争へと発展することになった。


その後ヒューマン領ではこの者の影響で、

小国家の王族により次々と異世界召喚が行われたため

複数の地球からの転移者が存在している。

この時の召喚に力を貸したのは、邪心側であり主には邪龍だ。


これは小国家が乱立しているのと同じく、転移者も乱立していることを示す。


ただし、それは俺や親父の時間軸上のものではない。

俺の時間軸上の召喚は地球の神が閉じてしまったからだ。

あの爺さんの神様が防衛したのだろう。


だから別の時間軸の人物、過去か未来の人物が召喚されているはず。


邪神封印後、邪龍の力で召喚されたため能力値は高くないが

元々地球でかなりの能力がある者達なので危険性は高い。


では、邪神の眷属でしかない邪龍が何故、

召喚に力を貸すことが出来たのか?


実は邪神封印を悟った邪神は

封印される前に自分の力を邪龍へ分散した後だった。


これを事前に察知した女神たちが、

その対応策の為に俺を転生することに決めた。

起こりうるであろう未来への問題対策の為だ。


邪神側も、そう何度も同じ手は喰らわないように

学習して召喚に関する対策をしたのだろう。


邪神側が勇者召喚に干渉できたことから

召喚に関する何らかの方法を見つけ出していたといえる。


女神側も事前にいろいろ検討していたのだが、

今回は後手に回ってしまった形だ。


特に影響が大きかったのは、

ヒューマンの人口爆発的な種族数の増加だった。

混沌のエネルギー源でもある人の欲望の力が

以前より大きくなっていたためだろう。


サリナさんが邪龍の罠にかかったのも、

人族のクォーターだったからだと考えれば納得がいく。

きっと邪神側の駒として使えると思われたのだろう。


当時は賢者様のことを卑怯者だと思っていたし

強くなりたいという欲望も強かった。


あの迷宮の時も混沌の力で

俺を引き込もうとしていたのは間違いない。


であれば他にも邪神側についたこの世界の能力者がいる可能性もある。

かなりの実力があれば、地球からの召喚者より危険かもしれない。


現在、ヒューマン族が他種族領へ侵攻を始めたのは、

邪龍の駒になっている召喚者達が裏にいるからでもある。


敵は欲望に負け、悪に染まった心の持ち主たち・・。


そして、召喚者が何者であるのかを検討できるのは、

俺の知識の力に頼るしかないようだ。

まあ簡単に言えば歴史知識とオタク知識なんだけどね。


だから、アーサーとかジャンヌを言い当てた俺は

さすがだと言う話になったらしい。

いやいや、それは全然過大評価なんだけど・・・。


そして俺は封印を解きつつ本来の力を取り戻しながら

この地球からの召喚者達とも戦うことになるのだろうか・・・。


また、英雄たちはどうなっているのかと言う話は

まだ答えられないそうだ。


言えることは魔神領内にいて、

今だ戦いは継続中であることくらいだった。

むしろそれがあるから時間稼ぎが出来ているともいえる。


それは俺が成長するまでの長い間続くことになるのだろうか。


この話の流れの中

数人の地球からの召喚者で邪悪な精神の持ち主に

心当たりはないかと聞かれた。


想定するのは邪悪な人物、欲望が高い人物と言うことになる。

それなりに能力が高いというのは歴史有名人である可能性は高い。


うーん、例えば戦争好きで邪悪な奴って

地球上には沢山いたしな。


まず気になるのは、ジンギスカンとヒットラーだ。

世界中に戦乱を広げて

自分が気に食わない相手は殺戮しまくってた。


吸血鬼のモデルになったドラキュラ伯爵とか・・。

いや、これは少し脱線だな。


でもこの世界にも吸血鬼とかは、いるのだろうか

それはそれで厄介な敵になりそうだな。


日本人の俺からしたら原爆考えた奴とかは一番危険だ。

確かかなり頭のいい人物だったはずだな・・・


あの天才と言われたアインシュタインが

彼こそが真の天才だとか言ってたやつ。

数学の天才で・・・うーん、名前が出てこない。


こんなことをボソボソと言っていたら

どうやら独り言が周りにも聞こえていたらしい。


「アイト君、その知力の高い人物は危険だわね。」

「先日の事件に関係する迷宮内の混沌の制御とかまでやれそうじゃない?」


「確かにコンピュータを作ったりしてたし、制御系は強そうだ。」


「他に魔物を召喚できる人物とか操れそうな人物に心当たりない?」

などと賢者様、ララシア様、メルダ姉さんに詰め寄られた。


召喚か・・そういえばこの間の夢にもそのキーワードがあったな

安倍晴明だっけか、でもあれはなんか俺のことを指して言ってたんだよな。


陰陽師の名前なんだけど、聖獣召喚してたみたいだし・・・。

類似の存在で悪役と言えば・・・蘆屋道満がいたけど。


でも陰陽師自体が正体が不明の存在だし、

正しい文献とかも無くて創作物語だけなんだよな。

決め手が薄い・・。


この召喚と陰陽師と言う言葉に反応したのが何と聖女様だった。

「アイト君、見てほしいものがあるの」

聖女様が取りだしたのは紋章だった。


「確か、それは六芒星・・・」

うっ・・・なんだこれ、ほのかに光ってる。

あれっ俺もこの紋章を使っていた時があった気がする・・・。


「アイト君ならわかるだろうけど、これはダビデの星とも言われる紋章」

「私も地球上では、この紋章の力を借りたことがあります。」

「たぶんそれはアーサー様も同じでしょう。」

「日本にもこの六芒星は存在していたはずです。」


「あーっ、確かに」

「安倍晴明が使っていた紋章にも六芒星があった気がする。」

日本ではカゴメとも言われる形で、伊勢神宮とかも使ってた。


あとはかごめかごめ・・・この歌を作ったんじゃないかと言われる

服部半蔵とかもそれが何かの鍵だとか都市伝説にあったな。


都市伝説なら日本にあるキリストの墓とかにもこの紋章がある。

キリストにも関係してたのか?


「アイト君、これは、召喚に関する紋章でもあるのよ」

賢者様が言うには、召喚時に使う魔法紋の基礎的な形がこれらしい。


ただ怖いことに、

召喚するときの魔法紋の使い方次第では悪魔も呼び出せる。


さっきの道満とかいうやつが本当に悪者で晴明のライバルで

物語のように戦っていたなら・・・・でもこれは想像の世界だな。


日本の平安時代に召喚戦争してなんてあり得ない。

しかも妖怪が跋扈してたなんて・・・。


「アイト君、地球での現代人と言われる先入観を捨ててください。」

「人が想像したものには魂の痕跡があり、すべてが嘘ではなくってよ。」

「何かの鍵が隠されているはず。」


また独り言が漏れてたらしい。

しかし鍵か・・。

この時聖女様が俺の前にこの紋章を差し出してきた。

俺は何気なくこの紋章に手をふれた。


ピカッ

瞬間、まばゆいばかりの光が部屋の中で爆発したように感じた。

気が付くと俺の目の前に白い狐がいる。

部屋の中では一気に警戒モードに変わり、緊張が走る。


「ご主人様、やっと再会できましたね。」


「俺がご主人?って獣が話せるのか??」


「もう、冗談はやめてくださいね。」

「ほら、いつもの姿になりますから。」

パッ


「えっ獣人?」


「晴明様、私は聖獣です。」

「また寝ぼけているんですか?」


あーこのくだり、この会話には覚えがある。

「おまえの名前は・・・クズ(葛)」

「いや娘の方のカヤ(榧)だな。」


「はい、やっとその名を呼んでくださいましたね。」


「ああ、思い出しだ。白狐の葛の葉の娘だ。」

「よく俺に長く仕えてくれたな、カヤノ(榧乃)。」


今更だが、時々俺を助けてくれてたのも気が付いた。

「俺が混沌に飲まれたときに呼び戻してくれたのもお前だな。」


「ええ、今世のお名前ではアイト様ですよね。」

「元の魂が同じなのに、人の世ではお名前が色々変わるのは面白いです。」


「えっと、アイト君。話を聞いていたから想像はつきました。」

「この娘は聖霊獣で、あなたの召喚獣。」

「しかも魂の契約までしていたということですね。」


「ええ、賢者様。どうやら私の過去の記憶の鍵の一つが開いた様です。」


精霊について整理しよう

精霊は世界の理に組み込まれた精神生命体。

混沌とは真逆の存在でもある。


時空も関係なく移動することも出来、この世界では魔法にも関係する。

人には触れることもできず、見えない存在だ。


但し精霊自体が人と触れあおうとするときは、

物質の力を使い顕現する。

これは精霊がかなりの力がないと難しいことだ。

これが出来るのは、一部の上位精霊と言われる。


顕現する時の形は様々で、人や獣に似せる。

この差は俺にはわからないが、精霊の格にもよるらしい。


そして精霊は契約により術者の支援をしてくれる。

この世界の精霊魔法がそれだ。

賢者様も精霊術者だからいろんな形で使役出来るわけだ。


但し、より強く結ばれるためには魂の契約が必要となる。

これはお互いが強く願った時にできることだ。


魂の契約で結ばれた精霊は、主人の魂に宿る。

常につながった状態のまま、主人の肉体が死んでも

精神世界で精霊は生き続けている。


主人の魂が浄化されて消えるか、世界が消えるまで

正に一生をかけて主人に尽くすのが魂の契約。


精霊が実体顕現して完全な人型になるというのは

上位精霊を超えた、かなりの高位精霊だけだ。

基本的には小さな小人か、せいぜい小獣程度。


獣型に顕現した高位精霊の中には、聖獣と呼ばれる存在がいる。

これは高位精霊が自我を持つ場合に発生する。

人と契約しなくてもそういう存在はいて、神獣とも言われる。


逆に聖獣になった後で術師と契約を結ぶものもいる。

かなり気まぐれな存在でもあり、

人をえり好みするのが高位精霊の特徴だ。


この高位聖霊の実体顕現した聖獣がカヤノであり

人型にまで顕現できるというのはかなりの力があるか

契約しているなら主人との絆の強さによる。


ちなみに、

この世界において人型を実体顕現できる精霊というのは

4大精霊王を示す。



そして俺は自分の記憶の中の出来事の話をすることになった。


「俺はその昔、陰陽師をやっていました。」

「ご存じのように昔は日本でもある程度の精霊の力がありました。」

精霊をヤオヨロズ(八百万)の神として

正しくあがめていた時代までは・・・だけど。


元々魔素量が少ない地球においては、

人々の信仰、想いの強さが精霊を生かし使役する糧になっていた。


そういった意味では、この世界での精霊というよりは

神としてに近い聖霊というのがあってるのかもしれない。


しかし近代ではもう、精霊の痕跡は無いだろう。

魔素もつきかけてるみたいだし、精霊信仰もないに等しい。


「呪術師と言われる者が権力者に召し抱えられることで」

「陰陽師と言う役職を与えられました。」

言わば陰陽師とは、役職名だった。


「俺は陰陽師なのですが、実態は精霊術師でした。」


「それは俺が生まれた時に、葛の葉と言う精霊から加護を貰ったからです。」

この辺りの話は少し長くなる。


精霊は力を増すことで、化身が可能になる。

元々木の精霊だったはずの葛の葉は、小狐に化身していた。

そこで悪心を持つ者に襲われて怪我をした。


悪心を持つ者とは邪悪な気を持ち精霊に危害を加えるほどの存在、

要するに鬼と言われる存在だ。


科学が発達する前の時代では、精神世界の影響が高い。

だからこの異世界の様な存在もいたわけだ。


俺の母親が怪我をした狐を見つけ、助けたらそれが精霊の化身だった。

しかし母親は俺が生まれた時に死んでしまった。

昔は子を産むというのは大変なことだったようだ。


俺は一人になったが、

母親代わりに葛の葉が人に化身して面倒を見てくれた。

その時に精霊の加護を葛の葉からもらっていた。


その後、俺は精霊師としての力をつけ精霊召喚したのが榧乃。

いわば葛の葉の加護の力を元に、榧乃は白狐の化身になれたといえる。

そして俺との契約の中で自ら力をつけて聖獣化したわけだ。


だから位置づけ的には娘と言っているだけで、

精霊に実の親子がいるわけではない。


「アイト君、ひょっとして他にも使役した聖獣とかがいる?」


「ええ、晴明様、いやアイト様は優秀な精霊師だったので」

「私以外にも仕えた聖獣はいました。」

「ただ・・魂の契約が私ほどとはいえず」

「今世では、どうなっているのかは不明です。」


「うん、俺にもまだ、あまり記憶がないんだ。」

「でも平安京を守るために四獣を配置したことは覚えているな。」

「そのまま土地神にでもなったか、まだ俺に仕えているのか・・。」

これはお互いの絆の力によるものだ。


「ええ、でも精霊師だった自覚があるなら」

「アイト君は、今でも精霊術の能力があるはずですね。」

聖女様の論はもっともだろう。


「こうして、今だ聖獣の私が仕えているのですから」

「ご主人様の能力は失われてはいませんよ。」

「単に術の行使の仕方を忘れているだけです。」

確かに今の俺は、精霊を感じる取ることが出来るようになっている。


「そうね、これは朗報だわ。」

「想定より早く、聖龍様に会いに行けそうですね。」

賢者様、それ急ぎすぎじゃ・・って今までもそうか。


「じゃ、もう少しアイトのレベルが上がったらみんなで行きますか」

メルダ姉も乗り気だ。

そして全員参加なのかよ。


「ララシアの作ってる新装備もとりあえず第一段階まで終わらせるわね。」

ララシア様も・・ちゃんと装備調整終わってからにしてね。

後は事前にいろいろ教えておいて欲しい。

いつもチートアイテムに驚かされて、まるでビックリ箱だ。


少し本来の話題に戻らなきゃ


「えーと、重要なことなので言います。」

「陰陽師の中には悪魔召喚に近い儀式を行う者もいました。」

「それらの中には呪詛を使う者もいたように思います。」


呪術師と言われる中に一部存在した呪詛師だ。

言葉にすると似ているが、その実態は非なる者。

人に悪意をもたらす存在だ。


呪術師とは元は祈祷師や占い師の類でさほどの力はない。

それでも昔は病気を治すのに頼っている人もいた。


その中で一部の特殊な力を持った者がいわばエクソシストと言える。

悪魔祓い師でもあり、それが本来の陰陽師でもある。


呪詛師とは西洋に置き換えると黒魔術師のようなもの。

これは真逆の存在だ。

悪魔を呼ぶ者、使う者といえる。


「こちらの世界で言えば、」

「魔物や悪魔召喚や人を操るとかが出来るかもしれません。」

「警戒しておいてください。」


「それと先ほど言った戦争狂の人物も危険です。」


「二人ほど名前が出てた人物か・・・」

剣士様や聖女様は地球での戦争経験もあるから

危険人物に対する理解は速いのだろう。


「共に人心掌握に優れています。」

「ただ戦略的には力押しですし、個人の戦闘力は大したことは無いでしょう。」

「逆に戦略知識がある人物と武力の高い人物が組むと厄介にはなります。」


「うむ、指揮官と軍師と将軍の組み合わせだな。」

剣士様が言う通り

戦争で怖いのは、こういう組み合わせがベストマッチングした時だ。


「そして、知力の高い人物がやはり気になります。」

「名前が出てこないから特定は難しいけど・・。」

「この世界に地球の科学力を使った武器が持ち込まれる危険性があります。」

「それが一番厄介な相手だと思えます。」

「特に戦争狂に近代の科学武装を与えると、ろくなことにはなりません。」



「なるほど、ララシア様のような武器発明に熟知した知恵者か・・」

「地球の科学文明力は確かに脅威だ。」

剣士様の言うことはもっともで、俺もそれが一番怖い


「アイト様。ご指摘・ご賢察ありがとうございました。」

これで聖女様からも話すべきこと、聞くべきことが終了したらしい。


「具体的なことが話せず、たいしたお力になれなくてすみません。」


「いいえ、何もわからない状況よりはかなり参考になりましたよ。」


こうして会話が終わろうとしていた時

緊急情報が入ってきた。


「ヒューマン領付近の魔物が大挙押し寄せてきました。」


ヒューマン領からの侵攻は領境での小競り合い程度だったのだが

この戦いに魔物が参入してきたというのだ。


しかも、三つ巴ではなく魔物が人種族側についているという話だった。


「ありえない!」

「魔物が人を襲わず戦いに協力するなど聞いた事が無い。」

剣士様もメルダ姉も驚きを隠せないようだ。


魔物が押し寄せることで

戦いが一気に激化したのは、始めに人種族から侵攻が始まった獣人領だった。


「他領の戦争に参加する気はありませんでしたが」

「そんなことを言ってる場合ではないかもしれないわ。」

賢者様もこの事態の変化を重く見ている様だ。


獣人領は魔法師が少ない

これは大軍が攻めてきた場合に殲滅する速度に大きな差が出る。

いくら身体能力が格段に高いとはいえ、物量で抑え込まれたら大変だ。


近くのダークエルフ領からは、間にヒューマン領もあり

こちらも領境で小競り合いが続いているから、迂闊には動けない。


「もう魔族領とエルフ領へは精霊通信で連絡したわ。」

「他の領へも援軍が出せるか打診しました。」

さすが賢者様は仕事が早い。


「でも遠方へ大量に移動する手段がないのが問題になるわね。」

「ララちゃん、転移装置の最大人数を上げてどれくらいになるのかしら?」


「転移門も戦争用でもないから、一度に十数人づつ。」

「連続で移動していただくしかありません。」


「では、各地の転移門管理者にも通達しておきましょう。」

賢者様の精霊通信って近代のSNS並みだな。


「私たちは先行して獣人領へ行かせてください。」


「どうかお願いします。」

獣人のリアさんと獣人の血を引くサリナさんが溜まらず賢者様に懇願した。


「なら、私も行こう」

メルダ姉さんまで・・・。


「わたくしたちもご一緒させていただきます。」

聖女様と剣士様もか、だがそれはまずい気がする。


「聖女様、剣士様 ダークエルフ領へも魔物の侵攻があるかもしれません。」

「獣人領へ戦力を傾けすぎるのは、それだけリスクが出ます。」

「敵に戦略的思考が出来る奴がいるなら、それくらい考え付くでしょう。」


「そうですね、アイト君の言う通りですわ。」

「ジャンヌちゃんとアーちゃんは騎士たちとダークエルフ領を守ってて。」

「私とララちゃんも行ってくるから。」


無駄だと思うけど俺も行きたい

「俺も・・」


「アイトはダメだ。ここに残ってろ」

メルダ姉さんの一喝で、俺は待機らしい


「そうね、メイドちゃんも置いてくから」

「こちらで待機しててね。」


「(しょぼん)・・・はーい」

賢者様にまで言われちゃったらしかたがない。



こうして館の主力メンバーは、

急遽獣人領への援軍として駆けつけていった。


残った聖女様と剣士様もダークエルフ領内で検討会議を行うことになり

出かけてしまった。


俺はメイドちゃん達と

白狐のカヤノといっしょに神殿の客室に残された。


「ご主人・・皆さん行っちゃいましたね。」


「ああ、カヤノか、まだ俺は戦力扱いされてないからな。」


「いえ、良い判断だと思います。」

「ご主人の中にもう一つの魂の記憶が目覚め始めてますから」


「えっ、なんでそんなことわかるの?」


「私は時空を超えれる精霊種ですよ、しかも魂のつながりがある。」

「私のご主人様は晴明様でしたが、ほかでの御活躍も見ていますし。」


「なにそれ、だれそれ?」


「既に少し前から戦略的な思考とか戦術的な思考が出てますよね。」

「判断力とか、決断力が高くなってないですか?」

「もうそれ、過去の魂の記憶の影響が出始めてますから。」


「それと、敵には主様の宿敵がいると思いますよ。」

「それも反応していると思われます。」


「お互いの魂の呼応と言うやつかな・・」

少しちゃらけて答えてみたのだが、

満足そうなカヤノの顔を見たらどうやら遠からず当たっているらしい。


俺は確か最後の人生以外に七回の人生がある

と言うことは最低七人の宿敵がいるのか・・これ

どうか考えすぎでありますよーに。


「敵だけじゃなくて、たぶん味方にも同じように魂の呼応があるはず」

「なので、きっと何かのタイミングで会えるんじゃないですかね。」


「おまえ、平安京時代の古狐とは思えない言葉使いだな」


「目覚めたことで、アイト様になるまでのすべてを知りましたから。」

「ご主人に合わせた現代風な言葉遣いも大丈夫です。」


俺たちは、こんな他愛もない会話をしているのだが

一方でメイドちゃんたちは俺を護衛する為なのか戦闘モードで警戒中だ。


「メイドちゃんたちの支援にナビも出しておくか。」

「ナビ、来てくれ。」


「はい、お呼びですか?」


「最大範囲でサーチしながら、メイドちゃんたちと連携して警戒モード。」


「各地の情報通信も可能ですがどうしますか?」


「えっ、そんな機能まであるの?」


「はい、ララシア様が作成した各地の監視網にアクセス可能です。」


「もう、何でもありだなララシア様。」

「インターネットと、かわらないんじゃないかこれ。」

「映像までできたらネットカメラじゃないか。」


「監視装置につなげることは可能ですが。」

「映像化して見てみますか?」


「おいおい、マジか」

「科学の力が無くても魔法の力で同じレベルのことが出来るんだな。」

「まあ、さっき聞いた話で地球と相関関係があるなら、」

「似たようなことが出来ないことはないのか」


確かに風景だけ見ると中世だけど、食事やらも変わんないし

風呂とかトイレとか、調理器具とか基本の生活レベルは確かに変わらないな。


しいて言うなら車や飛行機が無いけど自分が飛べたり転送できちゃうしな。

移動速度で言ったらこっちの方が遥かに早いわ

物流だってアイテム収納とかもできちゃうし


平民が生活でそれほど困ってるとこ見たことないもんな。


むしろ俺的には、まったりできる部分も多くあるから

アセアセ生き急いでた向こうよりこっちの方がいいとさえ思える。


こっちはブラック企業とか企業戦士なんてないもんな

あーあえて言えば冒険者か、あれはブラックかも知れん

魔物がいる以上仕方ないけど・・・。


それ言いだしたら悪の根源はやっぱり邪神じゃねーか

それがいなかったらかなり暮らしやすそうだわ


なんてこと考えながら各地の映像を切り替えつつ見てた。

しかし残念なことに一番見たかった戦地の映像はなかった。


その近くは見れるし

かなり映像は限られるがヒューマン領内も部分的には見える。

これはある意味隠しカメラだな。

気づかれなくて、破壊されなかったんだろう。


ララシア様ならそのうち監視衛星とかも作りそうだ。


ヒューマン領内のダークエルフ領近くにある砦が見えた。

そこには何やら見慣れない人物が映っていた。


んっ、服装が妙なのが二人いるんだけど

「ナビ、この映像って大きくできるか?」


「拡大化ですか?」


「ああ、その変な服装の人物に焦点を合わせてくれ。」

どうやらある程度のズームもできるみたいだ。


「やっぱ、この世界の人間と服装が違うな」

「まるで着物のような感じだ」


「ちなみに鑑定とかはできるか?」


「かなり情報は限られます。」

「ステータスとかは無理ですが、表示しますか?」

へー出来るんだ、もう驚かないけどな


どれどれ、名前と種族に・・・。

おいおい、地球からの召喚者だなコレ


「あーっ ご主人。早速宿敵登場じゃないですか。」


「ああ、理解した。」

実はこれにはかなり驚いた。

驚きすぎると逆に冷静になるって言う話は本当だったみたいだ。


「ナビ、これ向こうからこっちへの察知は可能か?」


「魔法力があれば察知される可能性は高いです。」

「特に今は遠隔鑑定していますから、相手がレベルの高い魔法師ならわかります。」


「だろうな、こいつらは魔法力がないわけだ。」

「この世界の理から外れてる存在だもんな。」


なのに何故、日本にいた時、召喚が出来てたんだ・・・蘆屋道満っ

あの時代の呪術師って、そんな力があったのか?


とゆうか、こいつ呪詛師だったのか。


ああよく考えたら確かに

悪魔召喚・・儀式さえ正確に出来るなら可能性はあるって言うやつだ。


たぶん日本で使ってたのは悪魔と言うより悪霊なんだろうけど

こっちで言う混沌の力と似ているものを利用していた可能性は高い。


悪霊を使って憑依させてコントロールするとかありえなくもない。

霊的な催眠術とでも言えばいいのか、

それなら人も魔物も対象にできるのかもしれない。


そういえば鬼って言うのは悪意を持った人間の姿だった。

霊的な力で悪意を更に強化された人が鬼だとしたら。

精霊に危害を与えることも可能だったともいえる。


悪魔付きとか悪霊が憑依してると

普通の人間よりも暗示で強化されている状況と同じだと言える。


人の能力は脳のストッパーで抑制されてるけど

それのタガが外れたら鍜治場の馬鹿力が出せる。

リミッター解除状態だ。


但し対象にされたら肉体も精神もボロボロだろうけど・・・。

ただ、使い捨てする気ならやれる。


これはかなりやばいな、

ヒューマンの能力が低いとか言えなくなる。

普段通りの能力だろうと思ってたら足元が救われるな。


どうやら面倒な相手だという気がしてきた。


「ナビ、賢者様やララシア様には通信可能か?」


「ここまでのアイト様の独り言なら既に通信しております。」


「おいおい、それって俺のプライベート筒抜けじゃないか」

変なこと言ってなくてよかった。


そしてもう一人も厄介そうなやつだ

司馬懿仲達


三国志演義では孔明のライバルとしていいところなしの悪役的役回りだが

それは、奇策好みの日本人や中国人の性格からだ。


孔明はどうしても国や兵の弱さ、兵数の少なさから奇策に頼るしかなかった。

むしろそれが評価されすぎている。


仲達は、実際にはかなり堅実で確実性が高く

敵としては面倒な策略をする。

決して表舞台には出てこないことからも慎重さもある。


奇策をあまり使わないことから軍師としてパッとしないように見えるが、

むしろそれがこいつの怖さだ。


「カヤノ、こいつも俺の宿敵なのか?」


「はい、晴明様は孔明様でもあるみたいですよ。」


「えっ、俺が孔明??」

いやいや晴明とかも有名人だけど、孔明はやばいくらいのレベルだぞ

神様に祭られちゃってるし、これものすごく反感買いそうな話だ。


「そうですねー。確かに後の者がかなり盛りましたから。」

「もう過ぎちゃったことなので、今更かと・・・」


確かに歴史事実から逸脱するほど作られた後の物語の影響は大きい。

事実、孔明は自分の部下が、自分より政治、軍略が上の人物名を上げている。


この話も美談化されてしまって謙遜しているとみられているのだが・・・。

忠義心が厚いと言うフィルターがそうさせたんだろな。


仲達なら、ダークエルフ領を本命として狙う可能性が高いだろう。

やはり何となく危機感を感じていた通りだろうな。

早めに獣人領を何とかしないと、混乱が広がるぞ。


確か三国志で蜀と呉が大陸の端からほぼ同時に魏へ攻めた時

本命は蜀より強いはずの呉への策だった。

しかもかなり優秀な将を使ってたはずだ。


呉の魏への侵攻は手痛い失敗に終わり

その結果として蜀と呉の連携作戦は行われなくなった。


この時の魏の作戦の裏には仲達の献策があった。


孔明は戦術の人だが、仲達は戦略の人だ。

大きな視点で場を支配する策略に優れている。


「ナビ、ダークエルフ領周辺の映像を回してくれ」

「ヒューマン領との境だけでなく、邪神領との境もだ。」


ヒューマン領側から攻めて、

ダークエルフ側が勝利し追撃していくと


実はそれが囮になってて、

邪神領側から本軍が攻めてくるとか仲達が考えそうだよな。


既に獣人領の攻めも囮臭い気がしてきた。


となると・・・狙いは聖女様か俺かもしれない

俺の動向もバレてるだろうし


「ナビ、この独り言も筒抜けなんだろ?」


「はい、おっしゃる通りです。」


「じゃあいいや、賢者様とララシア様」

「二人の知力なら対応策も考えてくれるだろう。」


「ついでに聖女様にも連絡可能か?」


「先ほどのダークエルフ領の件に関しての進言は通信しました。」


「よし、よくやったなナビ」


「カヤノ、俺に力を貸してくれるか?」


「はい、何なりと」


「いまいち俺は自分の記憶がはっきりしない」

「歴史上の有名人の名を出されても全くピンと来ないんだ。」

「お前の力で補足可能か?」


「眠ってしまっている記憶を引き出せるかと言えば無理ですね。」

「過去の経験を現在に活かせるとも思えません。」

「むしろこの世界で活用可能な力を引き出すほうがよろしいかと・・」


「この世界でというと、精霊力を強化するくらいか?」


「はい、そのほうが、戦力向上になるのではないでしょうか?」


「短期間で可能なら教えてくれ」


「簡単です。私と一体化すれば済むことですから。」


「いやいや、それっていやらしい意味じゃないだろな」

「今の俺は10歳だし・・」


「私を纏うという意味ですから、変にお考え成されなくてもいいですよ。」


「言っている意味がいまいち飲み込めないのだが・・」


「これまでの知識の中で、魔力基幹というものをご存じのはずです。」


「うんうん、何となく理解した。」

「お前を俺の魔力基幹として使えるということだな。」


「少しニュアンス的には異なりますが、」

「知識の加護が目覚めかけていることで理解力が高くなっているようですね」


「元々ご主人様が持つ精霊力とは、」

「この世界の魔力基幹からなる魔法力とは異なる性質のものです。」


「魔素を取り込むのではなく」

「精霊を取り込む・・と言っても吸収するわけではないです。」

「精霊をその身に宿して、その力を借りることが出来るということです。」


「私が触媒としてご主人の身に宿り、この世界の精霊の力を借りれば」

「加護や技能スキルが無くても、それ相当の精霊力が得られるでしょう。」

「うまくいけば、以前仕えていた聖獣が戻る可能性もありますよ。」


「よし、ならばやってみよう」


「では、お心を空白にしてください。」

「出来るだけ、受け入れやすくするためです。」


「それは魔素を取り込むときのような感じでいいのか?」


「ええ、心理的にはかなり近いと思われます。」

「ただ、どちらかと言えば精神的なことが大きく影響します。」


「平常心だな」


「清水のごとく無心です。」

と言うとカヤノが俺に抱き着いてきた。

女性特有の甘い香りと肉感。

これを動揺しないようにするのか・・・。


これは1秒が長く感じるな・・。


やがて意識が消えていく感じがしてきた。

何も考えない時間、どれだけ過ぎたのだろう。


もうよさそうだと何となく理解できたときには

カヤノの姿はどこにもなかった。


「カヤノ、どこだ?」


「今はあなた様のお心の中に・・。」

「周りを見てください」

「精霊の姿が見えるはずです。」


周辺に飛び交う光の玉。

女神と交信できる場所だからなのだろうか

無数にいろいろな色の光が飛び交っている。


「あら、アイト君」


「えっ?!だれ?」

何だか聞いた事があるような声なのだが思い出せない。


「もう10年も前になるし、あなたは魂だったから・・」

「覚えていないのも無理はないわ」


「ひょっとして、女神様か?」


「こんな方法で私たちと会話できるとは思ってもみなかったわ」


「いや、確かに俺もこれは想定外だった」


「やっと一つ新しい自分を見つけたのね」


「えっ、新しい自分?」


「私たちから見たら、過去のあなたの魂を加えた新しい魂」


「うーん、意味がわからない」


「この世界でのあなたの魂と前世の世界の魂が融合して」

「そこに過去の魂が加わった感じと言えばわかるかしら」


「魂って一つじゃないの?」


「ええ、あなたにとっては一つしかないわ」


「でも何度も転生したあなたの魂は」

「実は時空間上では、その生の分だけいくつも存在しているの」


「精霊力を得る過程で、魂の融合が出来たのね。」


「あなたは、私たちが思っていたより優秀だったわ」


「魂の力が増せば増すほど混沌の力は及ばなくなるの。」


「それで私たちとの交信がしやすくなったのね。」


電波が強くなって混沌というノイズが減っていく感じなのかな。


「加護の封印を解く前にこうなるとは予想出来てなかった」

「だから、光龍に会う前に、私たちに会えたご褒美を渡しましょう。」


ピカッ


「ご主人様、精霊じゃなくて女神様が来ちゃいましたね。」


「何か力を与えてくれたみたいだけど・・・なんだろ」


「ええ、ご主人様の使役していた聖獣がすべて戻ったわ」


「ああ、なるほど理解できた」

「この世界の4大精霊と同じ、地水火風だったのか。」


「玄武、青龍、朱雀、白虎 が、ご主人様の元に参りました。」


「おかげさまで私も本来の力が戻ったようです。」

「これで、わたしは白狐ではなく金狐です。」

「尻尾も最高位の9本まで復活しました。」


「うん、カヤノの力が大きくなったのがわかる。」

「そして俺も・・・」

「もうカヤノが離れても精霊力が身についてる。」


「それはなんだか残念な気分です。」


「いや、俺は昔ながらの美しいカヤノも見てみたいんだが・・」


「それなら離れるしかないですね。」


その時、館のメンバーが帰還してきた。


「賢者様、帰ってくるの早過ぎませんか?」


「ええ、獣人領は落ち着きました。」

「アイト君の独り言聞いちゃったし、ダークエルフ領の方が心配なんでしょ。」


「それはそうと、アイトの様子が変だな。」


「ララシアもそう思うけど、」

「カヤノちゃんだっけ、その娘も成長してるよね。」


「うふふ、アイト君はまた成長したのね。」

「狐娘ちゃんも元の姿がそれだったんでしょう。」


確かにカヤノはかなり色っぽい美人お姉さんになってる。

かわいかった白狐の時とは別人だな。


しかし、姿だけでなく服装まで変わるとはびっくりだけどね。

今までは巫女服だったのが妖艶な着物服になった。


「ダークエルフ領への侵攻警戒を高めるように聖女ちゃんが動いてるから」

「今日のところはもう手出しできないでしょう。」

そこまで手を回してたんですか、さすが賢者様だな。


「ああ、獣人領でも敵を壊滅させたし。」

「全領からヒューマン領へ警告を発した。」

「これ以上、他領へ侵攻するならすべての種族が相手するとね。」

メルダ姉さん逆に脅すとか、怒らすと怖い人だな。


「では、今日のところは帰りましょうか」

「もう、ここへはいつでも来れるしね。」


「今日は予定より遅くなっちゃったから」

「明日にでもまた話しましょう」


「俺、明日も学園行けますか?」


「ああ、通常営業でいいだろ。」


「あとは、ララシアにお任せよ。」

「各領地に話して領境に地雷ばらまいておくから。」

「また侵攻してきたら、即どっかーんなのよね。」

ララシア様も怖かった。


でも、俺の独り言も少しは役に立ったのだろうか

そして、新しい力が目覚めた俺は戦力になるのだろうか

いろいろ思うところもあるけど


正直、今日はいろいろありすぎて疲れた。


「アイト君はぐっすり眠れそうね。」

そう言ってにこやかに笑う賢者様をよそに隣にべったりくっくつカヤノ

今日は、この二人と添い寝コースになる予感がする。




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