冒険の旅1日目、最初の村から2日目、その先の街へ。 LV1ならスライム退治って相場が決まってるんじゃないの?
俺は歩いて森を抜けた。
後で知るのだが、どうやら俺が育った家の周囲には見えない防壁があったみたいだ。
それによって魔物なんかがいなかったらしい。
それを知るのは最初の村へ行った後だった。
まだ家からさほど遠くないところなのだが、俺にとっては初めての村だ。
そして母さん以外の人をたくさん見るのも初めてだったから周囲をきょろきょろしていた。
「なんだあれ、あれが噂に聞く店というものか」
そう・・全く外に出たことが無い俺のそれが一番最初の驚きだった。
もちろん前世の記憶が知識補完しているからそれは店だと分かる。
しかしコンビにしか見たことが無い俺にとって、この世界の店は斬新なのだ。
「露店形式の店と普通に家のような店があるんだ。」
「一応看板も出てるし何屋とかはわかるんだな。」
「おーい坊主、見かけない顔だな」
「こんな田舎に何か用なのか?」
「うわっ」
いきなり声かけられた俺は慌てた。
「大したものはないけど良かったら見てかないか?」
な・・単なる売り込み言葉だったのか
「あーいや、買い物と言うよりギルドとか冒険者がいるところへ行きたいんだ。」
「あはは、坊主面白いこと言うな。」
「こんな小さな村にギルドなんてものないぞ。」
「冒険者だってもっと魔物が多いところに行ってるしな。」
「えーそうなの。」
なんせ始めただから何も知らないんだよな。
「だったらどこに行けばあるのか知ってる?」
「そうだなー、一番近い街でここから北へ向かって2日ほどかかるかもな。」
まじか、ここら辺がそんな田舎だったなんて知らなかった。
「その街ってどの種族の街なの?」
俺の生まれた場所は確かに魔族の支配地なのだが
どうにも家の周囲やらこの村はヒューマンが多い。
俺は魔族とヒューマンのハーフだから本来なら血の強い魔族の様な外見になるはずなのだが
角も羽もないし肌の色もヒューマンで、顔に至っては、ほぼ日本人に近く、髪も瞳も黒なのだ。
勇者の父親の影響が色濃く出ていると言えばそれまでなのだが、
この世界ではかなり珍しい存在でもある。
ただ封印のせいなのかどうなのかは知らないが、普通の人扱いされるのは助かる。
「あー、ここら一帯は魔族領内だからなぁ」
「その街も魔族領だ。だが人種族が圧倒的に多いぞ。」
一般の人はヒューマンを人と呼び、それ以外を亜人と呼ぶことが多い。
「人種族の領内は内乱が多くてな、それで他領へ避難するやつが多いんだ。」
「俺もそうだしな・・ははは」
「えっ邪神が封印されたばかりなのに内乱?」
「なんだ坊主知らないのか」
「邪神封印後、本来なら勇者様が英雄王として君臨するのが習わしだった。」
「しかし、当代の勇者様は魔王様と結婚して英雄王になってないからなぁ。」
「それで国がまとまっていないと言う話なのかな。」
「いやいや、それもあるが」
「人々が勇者を英雄王と認めればそれだけの話だったんだよ。」
「ところが王族の連中が貴族らと勇者を追い出したってわけだ。」
「王族って先代勇者だった英雄王の末裔なんでしょ。」
「なんで慣例通りにしなかったの?」
「さてな、代が変われば心変わりするやつもいるんだろ。」
「それに今回の勇者召還は急だったしな。」
あー、親父から聞いたニュアンスじゃあ確かに急だった様だよな。
「でもその王族が勇者を召喚したんじゃないのか?」
「いや、今回に限ってだが、王族は一切動かなかったんだ。」
「勇者召喚をしたのは聖女様だよ、見かねた挙句の話さ。」
えー知らない、聞いてないぞそんな話。
「いや、全く知らなかったんだけど・・。」
「人々が神殿に嘆願をおこなってな。」
「それを聞いた聖女様が召喚するとか、過去にないからな。」
「その為、聖女様は魔力を失い、邪神討伐にも参加できなかったというオチさ。」
何やらキナ臭い話なんだが・・。
確か勇者召喚には膨大な魔力が必要とされる。
だから本来は王族が召喚魔術師を大勢抱えていて、いつでも待機させてるはずだ。
「聖女様が召喚の為、魔力を失ったとかどういう事?」
「まあ俺も人から聞いた話だし、このくらいしか知らないさ。」
「大きな街に行けばもっといろいろわかるかもな。」
「うん、ありがとう。」
俺の両親に関係する話なんだが、母さんから聞いた歴史の英雄話とは大違いだ。
しかも母さんは両親のことを全く話さなかった。
だから何かがあったんだろうとは思ったけど、早々になにやらおかしな話が出て来たぞ。
親父はまず賢者の所に行けと言うし、
母さんは封印の鍵をもつ聖龍のところへ行かなければならないと言うし、
しかし気になるのは聖女様と王族だ。それと内乱も気になる。
俺の両親の不在に関しても死んだと言われているがそれも不明だ。
こう考えると俺、いろんなことを知る必要が出て来たな。
「とっとと北の街を目指すか。」
「地図から見ると北へ2日の街はこれだな・・アルフベイン。」
まさか馬車とかは出てないよな・・。
ここ田舎の村だって言うくらいだし。
「はぁ基礎体力には自信があるけど道中が心配なんだよな。」
魔物と戦えるんだろうか俺。
ゲームだと初めての村から出てスライムとひたすら戦ったりするけど
そういう雑魚キャラならいいんだが・・。
そんなことを考えつつも、やはり次の街を目指していくしかないわけで
俺は移動を決心して歩くことにした。
道中は野宿になるのだが魔王母さんのおかげでインベントリーにアイテムがあるし
後はチートアイテムと前世の俺の経験がどれだけ出せるかくらいだ。
村の北門を抜けてひたすら目指していくのだが、
こともあろうに厄介な相手が出てきてしまった。
一応一通りの魔物や獣のことは学んだからわかるのだが
いきなり前方で冒険物にありきたりのクエスト発生状態。
荷馬車が魔物に襲われているというわけだ。
スライムじゃなくてオオカミでもない。
コブリンなのだからLV1で初戦闘の俺にはかなりの大物だと言える。
「まだ家を出てから半日過ぎたくらいでこれとかはないわ」
でも日本人気質ってやつが困った者を助けないといけないと俺に囁く。
「あーもう仕方がない。」
「インベントリーから何か装備とか・・・」
「を・・軽装備一式見っけ、これで防御を更に高めれば。」
「これをクリックしてと」
ピロリン
へっ装備が代わったと言うか一瞬で装着された。
どんだけ過保護なんだ魔王母さん。
「でもこれで行けそうな気がしてきた。」
風の精霊加護付きの軽装備一式。
素速さと移動速度向上に防御UP A と言う代物だ。
「よし、いくぞ! 俺は出来る。」
たぶんな・・。
俺は現場へ思い切り走ったのだが、足の軽い事、早い事。
これもきっとチートアイテムだよな。
「おーい、助けに来たぞ!」
やばっ、やつらグワグワって吠えてるじゃねーか。
「くそっ、このまま突っ込んで、奴らの範囲を解いてやる。」
俺は荷馬車の周りを囲うコブリンの一角を目指して突撃をした。
手に持つのは父親の英雄の刀だ。
剣術はこの世界では習ってないが、剣道は前世で習った。
身体が動くかどうか・・。
「まずはこのまま突きを入れてやる。トウッ!」
予想より速度が速くて体制を崩しながら振り返るとどうやらコブリンを倒していたみたいだ。
「これ、切れ味良すぎて何の手ごたえも感じないと言うやつなのか。」
単に通り抜けた感じだったのだが、確かにコブリンが倒れているのが見える。
「振り向きざまに、面っ!」
「そのまま隣へ、胴っ!」
ピロリン
LV2になりました。
うはっ、コブリン3匹でレベルアップか・・。
何だか更に体が軽く感じるぞ。
「次はお前だ! 突きっ!」
訓練で走ってばかりいたからこういうのなら向いてるかもな。
動き回りながらの攻撃って結構、俺の剣道にも向いてる気がする。
「それっ 胴っ! 面っ!」
グギャギャギャ・・。
鳴き声が変わったな。
警戒意識がこっちに向いたという事か・・。
「ならちょうどいい それっ面っ!」
「突きッ」
ピロリン
LV3になりました。
LVUPがはやいな。
コブリンって俺にとって実はかなり格上だったのか。
「残り3匹もいただきだ」
なんて調子に乗って暴れまわっていたら結局コブリンを全滅してしまった。
ところがその後の思わぬものが・・。
「ふふふ、俺にかかれば・・って ぐおっ気持ちわる。」
頭がくらくらしてきた。
これってレベル酔いとか言うやつか、初体験だが気分最低だ。
その後どうやら俺は倒れたらしい。
気が付いたら荷馬車に乗ってた。
最後を決められないなんて、なんて恰好が悪いんだろう。
「坊主のおかげで助かったよ。」
「しかし若いのに凄腕だな。」
「えーとこれ、どこに向かう予定だったの?」
「アルフベインだよ、お兄ちゃん」
うお、初幼女発見。
「ああ、俺は商人でアルフベインへ戻るところさ。」
「これは娘のナナって言うんだ。」
「娘ともども命拾いしたから、娘も喜んでてなあ。」
「えへへ、お兄ちゃんのおかげで私は助かったんだもん。」
「あ、いや俺も倒れちゃって申し訳ない。」
「ちょうどアルフベインへ行くところだったから・・・ははは」
「坊主、それならこのまま向かうから、俺んとこによって行けよ。」
「命拾いしたから大歓迎だ。」
「うん、お兄ちゃんうちに来てよ」
「でもまだ一日以上はかかるんですよねー」
「まあいくら馬車だとはいえ歩くよりは楽だが速度は速くはないな。」
「だから坊主がいてくれるとこっちも安心なんだ。」
「この先に野宿できる場所があるから、今日はそこまでしか行けないしな。」
そっか宿場町なんてものはないし、やっぱ野営・・野宿なんだよな。
でも一人より、他に誰かいたほうが気がまぎれるし安心感もある。
「ここは、よく通るんですか?」
「今回はたまたま納品の為に村まで行った帰りだった。」
「しかし驚いたよ、この街道でコブリンが10体とか今まであり得なかったからな」
「えっなかったって本当に?」
「ああ、出てもオオカミが2頭か3頭程度だし」
「ここらのオオカミなら臭い袋やたいまつの火で追い払えるんだ。」
「しかも日中にあれほどの数が出てくるなんてのは聞いた事が無い。」
コブリンが出たことが無い、しかも日中に・・。
それがいきなり10体も襲ってきたわけだ。
「俺は初めて通るから、そういうものかと思ってたけど違うんですね。」
「今まで全くないよ。」
「これはギルドにも報告出さないといけないなぁ。」
「あの数が日中に動きまわってるとしたら、斥候かも知れないしな。」
「えーまじですか」
やべーとこだったかもしれなかったんだ。
もし奴らが生きてて襲ったのが成功したら、また次のやつらがやってくる。
しかももっと多くなる可能性もあったわけだ。
「俺も商人ギルドに入ってるからそういった情報ももらうし、出すこともある。」
「ここ最近、魔物の数が減らないようなんだ。かえって増えてる感じがするな。」
「邪神を退治したら減るのが普通なのにおかしな話さ。」
「そっか邪神退治から10年もたってないのに、魔物が増えてるのか・・。」
これも俺が知るべき関係の情報かも知れない。
「ああ、それに今回は各種族の英雄が皆消えたとか聞いたな。」
「普通ならそれぞれの種族の王になるはずなのにな・・。」
「えーそれ本当ですか?」
消えたのが俺の両親だけじゃないってことなのか
「でも同行した賢者様とか剣士様とか騎士連中は皆返ってきてるんだぜ」
「勇者様の身近にいたはずの賢者様や剣士様は黙して何も語らないようだし、不思議な話さ。」
「えっ賢者様?!」
俺の探すべき人だよな、しかも話からすると重要参考人なんだ。
「坊主、賢者様に何かあるのか?」
「ああーっと、俺の身内がお世話になったみたいで会ってお礼を言うつもりで探してたんだ。」
少し嘘だけど少し本当の話だ。
いくら良さそうな人でも今の時点で全部話すのはまずいよな。
「なら冒険者ギルドに居場所を知ってるやつがいるよ。」
きたー冒険者ギルド。母さんが言うように賢者様への近道だったらしい。
「アルフベインへ行く予定がその冒険者ギルドだったんだ。」
「なら明日の夕方にはアルベインに着くだろうから、次の日の朝にでも行くといい。」
「どうせうちへ泊っていってもらうつもりだしな。」
「ええ、それはとても助かります。」
「そろそろ野営地だな、今日は野宿だから気を付けないとな。」
「それなら俺いいもの持っているから安心してください。」
ふふふ過保護魔王母さんが用意してくれたアイテム、防魔のテントがあるんだよな。
魔物除けのほか視界阻害効果までついてるし、馬車まで入れられる代物だ。
やがて到着した場所で俺は商人さんに説明してそのテントを取り出したんが
出してびっくり、想像より数倍凄かった。
「こんな四次元ポケットみたいなテントがあるとかすごいな。」
何と馬車用のテントと室内品まで揃ってる。
ベットで寝れちゃうんだから野宿とは思えない。
どこの王族かと・・・って母さん魔王様だから王族だった。
「お兄ちゃんすごい!」
「テントの中で食事作れるし、ベットまであるよ。」
「なあ坊主、どこかの王族とか貴族様だったのか?」
「いやー、あはは、落ちぶれた元貴族と言う感じかもしれないですね。」
事実俺は王族じゃない只の一般人として育ったからな。
まだ死んでるのかもわかんないけど遺産の様なものだし。
「そうか、坊主と知り合った俺は大当たりを引いたわけだ。」
「いやいや、大当たりじゃないですよ」
「命が助かった上に安心して野宿できるなんていうのは大当たりだろ」
「ねえお兄ちゃん ご飯にしようよ」
「お、忘れかけてた」
「じゃあ今日のところは俺に任せてください。」
一般人として育った俺は家事全般何でもこなせる。
戦闘技能は全くなんだが・・。
それに前世の記憶からもいろんなことが知識としてあるから食事の準備などは簡単だ。
そして魔王母さんの入れてくれた食材やら調味料もすごい。
テント内の台所の魔法具で調理できるし、前世でのあのカレー。
テントと言えばカレー、キャンプ気分が味わえる一品。
数々の調味料を混ぜ込んで作ることが出来るというのも前世のオタクのこだわりがある。
妙に偏ったオタクだったのだが・・その知識と経験は今に生きるというわけだ。
「ふんふん」
食材も地球とさほど変わんないし、これならカツを付けてカツカレーも出来そうだな。
そして待つこと1時間、これが長いか短いかは知らないが、
待望のカツカレーが出来上がった。
「ささ、できたから食べてみてよ」
「すごく美味しそうな臭いがしてたから、たまらなかったよお兄ちゃん。」
「これは見たことが無い食べ物だな。」
「坊主は食堂で働いてたのか?」
「いえいえ、家で作ってたので、口に合うかどうか」
「俺の故郷の味です。」
と言うか俺スゲー、これうますぎる。
スキル無くても充分生きて行けるわ。
「この肉料理、外がパリパリサクサクで中はジューシー」
「黄色いスープが少し色が変だけどちょっと辛いのを我慢したら味が口の中で爆発する」
「お兄ちゃん!これすごいよ!美味しい。」
「ああ、今までこんなの食ったことないな。」
「見た目は何とも独特な感じなんだが、食べると間違いなくうまい。」
今回は初と言うことだし幼女ちゃんもいたから甘めのカレーにして正解だったみたいだ。
この世界の人はあんまり香辛料とか慣れてなさそうだし、このくらいが丁度いいんだろうな。
「いくらでもあるから好きなだけ食べていいよ」
残ったらインベントリーに入れておけば保存食にもできるしね。
何と言っても時間停止で作ったまま採ったまま保存可能だし。
ということで何度も魔王母さんに感謝しながら食事を済ませた。
見たこともないけど俺にとって神様だよ魔王母さん。
そしてこの日は野宿とはいえ全く問題もなく就寝。
仮に何かあったら警報もなるから、寝ずの番なども不要で皆ゆっくり休めた。
そして翌朝、俺にとって旅の二日目に突入。
そして、街へ、ギルドへと初体験が続々と待っている・・・はずだ。
なのにこれなに・・・。
ウギャウギャってうるさい奴らがまたいるんだけど。
「あー、もう旅の楽しい気分を害した罰だ。お前ら許さん!」
「商人さん、馬車の上から降りないで娘さんを守っててよ」
前回より数が多いけど、俺もLV3まで上がったし、とにかく気分が悪い
「くらえ怒りの 乱舞」
ピロリン
LV4になりました。
ピロリン
LV5になりました。
ということで15匹ほど殲滅してLV5、これが妥当なのかどうかは知らないが
昨日はLV1しかなかったから、俺的には大出世だ。
次たぶん少し狩るだけでLV6になるだろうし・・。
「しかしまずいな、コブリンがこうも出てくるというのは」
「一刻も早くギルドに報告しないとな。」
「商人さん、少し急いだほうがいいかも」
「コブリンって団体行動するんだよね、それが二日続きで出てきてる。」
「どこか近くに大きな軍団がいるかもしれない。」
「坊主、確かにそれはあるかもな」
「しかしそうなると上級コブリンがいる可能性が高い。」
「上級というとジェネラルとかホブとか、まさかキング?!」
うーん、昨日と今日で25体、これが斥候なら本隊はその数倍の可能性があるわけだ。
「坊主、100体以上を動かせるなら間違いなくジェネラル以上だ。」
「急いで移動するが、冒険者ギルドに調査依頼も出さないといけないだろう。」
「何と言っても街道にまで来てるんだからな。」
「そっか、普通なら森や林の中にいるはずなのが日中堂々と街道に出て来てるんだよな。」
馬車より俺が一人で走るほうが早そうなんだけど、二人をほおっておけないしな。
荷物満載じゃないからと言っても荷馬車は重い。
「何かいいアイテムなかったかな」
インベントリーオープン
さてさて、魔王母さんを信じるなら、それくらいは何か考えてそうなんだよな。
重いものを軽くするとか、速度を上げるとか・・。
あーなんだこれ検索でもできるのかな。
気が付いたけど変な入力欄が見つかった。
「重量軽減っと入力」ポチッ
わお、これスゲーな重量軽減に関係するアイテムだけ表示されたし
やっぱ神、いや天才神だよ魔王母さん。
「このボールみたいなのを取りつける・・というか置くだけでいいのかコレ」
「よしっ、お前に決めた」ポチッ
ちゃっちゃらーん、音がないから俺の心の中で効果音を付けてみたんだが・・。
ボールじゃなくて半球体だったんだ。
球体だと置いたら安定しないもんな。
「そしてこれを馬車に置いてこのボタンを押す」ポチッ
フィーン。
あーこういうのは効果音があるんだ。
「わわ急に早くなったよ、お兄ちゃん」
「今、馬車の重さを軽くしてみた。」
「まだ軽くできるからやってみるよ。」
鑑定によれば円の周囲にあるこのダイヤルみたいなのを回すと変わるはずだ。
「わーどんどん早くなる。すごいよお兄ちゃん!」
「なななんだ、坊主何かしたのか?」
「急ぐって言ってたから馬車の重量を軽くしてみた。」
効果あったみたいだし使えるなコレ。
「お前何でもありだな。」
確かに地球で言ったら猫型ロボの四次元ポケット持ちだな俺。
「たまたま アイテムがあったからですよ。」
「俺は何も力がないからね。」
「でもこれで予定よりかなり時間が稼げそうだ。」
そう、本来なら夕方到着だったが、急いだところで1時間短縮程度な感じだった。
今なら間違いなくもっと短縮されてるだろう。
「坊主、悪いが昼休憩なしで街まで行くぞ」
「ああ、そのほうがよさそうだ」
「俺の探知アイテムにコブリンが映ってる」
「何だって、そんなものまであるのか」
「だって俺は魔法もできないからね。」
「アイテム探したら、いいもの見つけたから使ってみた。」
レーダーのようなものに影が映るんだが、それがコブリンだと表示されちゃうんだよな。
「距離的には1キロは離れてるから、この速度なら馬車は大丈夫だと思うけど」
「街へ向かって来たらやばいかな」
「それで坊主、どのくらい数がいそうなのかもわかるのか?」
「うーんだいたいだけど、100は優に超えてるっぽい」
「何だって、それじゃあジェネラルが複数いるか・・」
「最悪キングがいる可能性が高いってことになるぞ。」
「商人さん あとどれくらいで着きそうなのかな」
「そうだなこのままなら2時間ほどってところか」
「そっか、少しづつ影が増えてるんだよね。」
「コブリンがもっといるらしい。」
「なにっ、それ索敵範囲をもっと広げることはできるのか?」
「うん、相手が何なのかわかんなくなるし数の把握も難しくなるけど広げられるよ」
「もっともコブリンだってわかってるし、既に200近いからね」
「一度広げてみるから待ってて。」
ここをこうしてと・・はいポチッ。
「わー、思ってたよりやばいみたい。」
「これだと想像だけどさっきの倍はいるだろね。最悪500近いかも。」
「馬車まで約2キロに差が広がったけど、移動方向は街っぽいよ」
「かー、だとしたら冒険者ギルドだけじゃなく街中が緊急防衛配置になるな。」
「調査とか悠長な話じゃないかもしれんぞ。」
「衛兵や街の男たちによる防衛隊まで組織しなきゃならんかもしれない。」
「でも商人さん。街の人たちこの話信じてくれるかな。」
「見てもいないうちに防衛準備なんて、普通しないよね。」
「ああ、そこは問題だな、俺は所詮商業ギルド員だし」
「冒険者ギルドに影響がある奴でもいないと、手順通り調査隊から始まるな。」
こういった時の俺は何の伝手コネもないんだよな。
育ててくれた母さんしか俺を知らないし・・。
ちょっと考えろ・・勇者父さんの刀と魔王母さんの腕輪。
実は共に紋章が入ってる。
これにどんな効果があるのかは俺にはわからない。
しかし、賢者様のことが冒険者ギルドでわかるというなら
この紋章の事も冒険者ギルドで理解できる可能性が無いとは言えない。
どれだけの発言権が得られるのかは試さないと全く俺にはわからないのだ。
これに賭けてみるか・・それとも俺にとってそれは危険なことになるのか。
俺と言う存在が知られることになるということは危険が増すことに繋がる。
今まで隠して育ててもらった母さんに申し訳ない気もする。
旅に出てたった2日でこうまで事態に巻き込まれるなんて考えもしなかった。
俺が想像していたよりもずっと危険な旅だと思ったのはこの時だった。
そして今、俺は何らかの決断と動きをしなければならない。
日本人だった意識が正しい選択をしろと警鐘を鳴らしているのだ。




