冒険の旅8日目、北の都カトス 魔法学園と訓練迷宮 (迷宮合宿その2、20階層攻略へ)
階層のボス部屋は、ボスを倒すことで安全地帯になる。
元から休憩をするという予定だったから、
休憩用にテントを出していたらしい。
俺が気が付いた時はベットで寝ていた。
ちょうど昼食の時間でもあり、俺以外は食事中だったらしい。
レベル酔いだけではなく
慣れない継続戦闘で精霊力も体力も精神力も使っていたから
疲労が溜まっていたのもあるだろう。
仮眠を取るのが一番早いからと寝かされていたみたいだ。
そういう意味でも階層ボス部屋というのは
休憩ポイントとして有効だと言える。
この迷宮も訓練のために色々工夫したのだろうと思った。
みんなに遅れての昼食
館で食べるリアさんの食事が、迷宮内で出てくるというのも不思議だ
フレアとリーナは汗を流してくると言って風呂に行った。
このテントも家一軒分の設備があるチートアイテム。
俺が持ってるのよりさらに大きく設備が充実している。
しかし館ごと持ってきてないだけよかった・・・。
そして、俺の周りはいつもの何倍もにぎやかだ。
せっかく人化したのだから人の食事をしたいと言って
聖獣たちも遠慮なく食事をしている。
元々食事などはいらないはずだが、
人化すると人と同じ感覚が味わえるらしい。
味覚も嗅覚もあるわけでもないのに何か感覚に近いものがあるのだろうか。
着物姿の女性が一気に3人増えて5人になった。
しかし気が付けば
俺以外、全員が女性というのはなんとも・・・。
3匹の聖獣たちも言葉使いから男かと思ってたのに女の姿とは。
まあ、俺はこの中で最年少の10歳のお子様だし、
扱いが男性という感じでもないけどな。
主であるはずの俺のことを聖獣たちが、今の主の姿はかわいいという。
メルダ姉もそれに同意するかのように頷いている。
久しぶりに自分のステータスを確認してみたが
レベルは27になっていた。
確か昨日は22だったから、ここまでで5上がったことになる。
レベルが上がればそれだけ上がりにくくなるのだが
この迷宮では、階層ごとにレベルが高い相手が出てくるから
順調に上がっているのだろう。
だいたいの階層ごとの目安だが
敵が2レベルづつ程度、高くなっていくようだ。
また、見た目が同じ魔物でも階層が違えば
レベルが高いという事になる。
そして階層ボスは3レベル分は上がるらしい。
単純計算で9階層で18レベルが、10階層ボスは21レベルだ。
そこから19階層になると
39レベル、20階層のボスは42レベルになる。
微妙に変動値もあるから一概には言えないが目安としてだ。
そして30階層のボスだけは、65レベル固定。
だからこの先は、かなり苦しくなっていくと言われた。
自分のレベルアップ速度と比べて、
敵とのレベル差がどんどん開いていくからだ。
もっともレベルとは、一方向から見たものでしかない。
強さとは、個々の能力値で大きく変化するからだ。
ただ目安としてあまりレベル差が開けばダメージが通らなくなる。
逆に相手からのダメージは危険度が増す。
レベルの最大値はあるのだろうか
生きている限りレベルが上がる可能性はあるらしい。
今のところ限界値へ行きつけた者がいないからわからないようだ。
自分のレベルが高くなると雑魚からの経験はほぼない。
より強い相手と戦い続ける必要がある。
自分が上がれば、やがてはそのレベル差で経験が入らない。
必要なレベルに対して必要になる経験値の量のバランス
繰り返していけば、どこかで飽和状態になってしまうわけだ。
何故こんな仕組みが世界の理に組み込まれたのだろう。
経験は生きている間、事あるごとに蓄積され続ける
その経験の清算段階がレベルであり、そこで小計される。
これはスキルとも関係している。
実際にはアナログ的な経験というものを数値として見るには
デジタル的なステータスというものがわかりやすい。
また、やたら桁数が多い数字が並び、カウントを永遠に続けるより
レベルという単位で清算して、まとめたものの方がわかりやすい。
これがレベルとステータスというゲームのようなものが
この世界に組み込まれた理由らしい。
どうしてなのか・・・
強い相手と知らずに戦って、
無駄に命を落とさないようにという神様の心遣いだ。
実際にはレベルを上げれば強くなるわけではなく
強くなった経験を積んでいた結果、レベルという形で認識できる。
だから姫プが成立しないような貢献度の比率などがあるのも
自力でどれだけ努力したのかが大きく関係しているわけだ。
いわば努力の結果が強さであり、その目安がレベルである。
ややこしいが
努力した結果が認識できるという仕組みのおかげで
この戦いの多い世界で生き延びるすべを知ることが出来る。
今の自分の強さを知ることで目標を持ちやすくなり
さらに努力したり、無謀な戦いを避ける。
そういう判断が出来ることになる。
地球でそれが見えるのは試験や学校の成績くらいだった。
しかし、人が付ける為に抜け道が多く、本当の実力とはいいがたい。
この世界は神が作った成績表のようなこういうシステムが生きている。
これはあくまで公平で抜け道もない。
不思議だが面白い世界だ。
休憩時間もそろそろ終わろうとしている時
次からの課題やパーティーの編成が告げられた。
アイテムに限りがあることを認識したうえでの使用は可能。
オプション系の使用も可能だ。
この先だんだん厳しくなるからだと思う。
階層が進むごとに生徒パーティーに
指導者メンバーから状況に合わせて加わる。
強い人が入れば戦闘は楽にはなるが、
その分、経験値の比率は低くなるということを忘れてはいけない。
それよりも学びの経験の方が重要になっていくということだ。
強者の戦い方を、同じ戦いの目線で見るだけでも勉強になるだろう。
それを元にしていろいろ教えてもらえるほうが
納得しやすいし、身になりやすい。
まずスタートの11階層は生徒メンバーだけで始める。
とはいっても聖獣たちもいるから戦力的には9人。
本来なら聖獣は高位精霊だから単独でもかなり強い。
しかし契約している主人である俺が弱いから本来の力が発揮できない。
そこで、フレアやリーナと話し合った結果
パーティーを二つに分けてタッグを組んでみることにした。
元々のパーティーであったフレアとリーナ。
そして俺と聖獣たちのパーティーの二つだ。
総リーダーはフレアだが、この場合はそれぞれにリーダーが分かれる。
フレアと俺になる。
自分たちの課題として、パーティー同士の連携をあげた。
上手くいけばかなり戦力として有効かもしれない。
俺のパーティーメンバーは連携をとりやすいので人化したままだ。
風の聖霊獣、白虎のシラギ、白地の和服装備に刀を装備、前衛のアタッカー
土の聖霊獣、玄武のクヌギ、黒地の和服装備に傘を装備、前衛盾職。
水の聖霊獣、青龍のミズキ、青地の和服装備に槍を装備、後衛アタッカー
火の聖霊獣、朱雀のアケノ、赤地の和服装備に扇子を装備、遊撃アタッカー
そして、金狐のカヤノ、金地の和服と追加装備の羽織。万能職の支援アタッカー
シラギの刀は一振りで3連攻撃になるものだったりする。
しかも遠くまで斬撃が通る。
クヌギのもつ傘は盾にも武器にもなるという不思議な装備だ。
見た目は単なる和傘でしかないが防御力が高い。
ミズキの槍は投げることも出来て戻ってくる。これも単なる槍ではない。
アケノの扇子は盾として使えるし、ブーメランのように投げることも出来る
また、開けば斬ることもでき、閉じれば叩くことも出来るという万能武器だ。
カヤノは拳と蹴りという拳闘家スタイルなので今はもらった装備で強化している。
カヤノは能力強化の支援系能力を持っているのだが
実はそれ以外に火と雷が使える。
火の能力がかぶるから朱雀と金狐にはライバル心があるらしい。
朱雀には飛翔の支援能力がある。
これもまた金狐からしたら自分にない支援能力が羨ましい。
実は二人が仲良くないのはこういった理由もある。
その上で主人の取り合いだったりする。
しかし、白虎にも速度の支援能力があり
玄武は防御力、青龍は治癒力の支援能力がある。
何故こいつらとはいざこざが無いのかは不明だ。
一応最初に契約した金狐が精霊獣の長ではある。
俺が強くなれば聖霊獣も強くなるから
俺としては、絶対頑張りたいところだ。
先行は、フレンパーティー。
支援のナビは、先頭に加わる。
いよいよ11階層攻略だ。
ここに出現したのは、ゴースト系。
この世界では魂自体が魔物化することは無いため、
これは悪魔種と同じ精神体だ。
実体化して物質顕現するまでの力が無い、下級悪魔とされる。
影の様だったり、半透明だったり、霧のようだったりするが
一応は人の形をしている。
だから中には装備や服などをまとうやつもいる。
日本で言えば悪霊がそれなのだろうか。
悪魔種は肉体を持たなければほとんど物理無効だ。
だから魔法か魔力を乗せて攻撃する。
光魔法の上位には浄化というものもあるのだが・・。
こちらの武器は全て魔法力が乗せてある。
元が精神体の聖霊獣はそのままで攻撃が通る。
攻撃が通らないという問題は無いだろう。
やつらは中途半端に実体化しているから移動してくるときに
人の目には、ふっと消えてふっと現れるかのように見える。
もっとも聖霊獣からは丸見えだ。
攻撃は単純で、こちらを触ろうとしてくるだけだ。
触れられたら精神攻撃になるため、触れられる前に攻撃して消す。
中には魔力や精神力を吸うやつもいるから嫌な感じだ。
もっともこちらの攻撃でほぼ一撃で消えるから、ヘマをしなければ問題は無い。
フレアとリーナも武器を取り出した。
この世界では魔術師と言えども、それなりの連中は武器も扱う。
二人ともララシア様特製のサーベル剣で攻撃しているところだ。
俺の刀と同じ光属性で攻撃と軽量化を強化してある。
魔術師としては軽量で取り回しが良い物理武器でもあり
魔族では、非常によく使用されるものだ。
もちろん武器に魔法を乗せることも出来る。
ララシア様の装備には、
ミスリル合金という魔法を通しやすい金属を使っていることが多い。
布に見えるような衣装装備も繊維化した金属で作られている。
これらは軽くて丈夫だ。
装備の防御力を上げるためには、アダマンタイト鋼などを使うらしいが
ララシア様はあえて、ミスリル合金を使う。
これは魔力が通しやすく
エンチャントが、たくさんできるからなのだという。
また基本的に精霊は金属を嫌うが、このミスリル合金は問題が無い。
装備を付けないはずの聖霊獣であるカヤノも気に入ってるようだ。
他には白銀色なので、綺麗だとか、染色しやすいとか。
デザインに凝る性格も、こだわりとしてあるのだろう。
そういえばララシア様は白銀にピンクを加えた衣装が多いな。
ミスリル合金を使った衣装装備の製造方法は秘匿されている。
今はララシア様製のアイテムや装備しか存在していない。
単なるミスリルに他の金属を合わせて作られた
一般的なミスリル合金では、同じ性能の物は作れない。
だからミスリル合金と言えども、
それを扱う錬金術師の能力によって
ダイヤとガラス玉ほどの違いがあるそうだ。
それをポンともらえたのだから
生徒メンバーの感激はすごかった。
この階層では、攻撃の手数も多くて、さほどの苦労はなかった。
レベルが高くても能力値で強い弱いがあるというのも理解した。
難なく12階層へ入る。
野原の大広間が広がるパターンだ。
ここで出てきたのがワーウルフだった。
獣人系の魔物だが獣人が魔物化したものでは無く狼の上位種になる。
狼魔物が進化した姿と言えばいいだろうか。
だから見た目は、狼がそのまま二足歩行している。
俊敏性が高く、力も強いが頭がいいわけではない。
道具を使う個体もいるが、こん棒くらいだ。
厄介なのは、
ノーマル武器ではダメージが通らない特殊な毛皮でおおわれていること。
しかし、攻撃は単調で、連携もしてこない。
単体としては確かに強いのだが、戦いに癖が無い。
動きがワンパターンだったりする。
こちらは全員が俊動を使えるから
回避しながら攻撃を加えることも出来る。
ここでも、フレアもリーナも魔法ではなく近接で戦った。
最も身体強化と武器に魔法を乗せているから、魔法を使ってはいるけどね。
ここも指導メンバーから
誰も加わらなくて、生徒組だけで通過。
13階層へとやってきた。
初めて見る荒れ地と岩山の景色。
ここではゴーレムが出てきた。
ゴーレムというのは、
ララシア様のように錬金術で作るものだけではない。
魔法によって作られて、動くタイプもある。
土魔法で形を作り、形を維持する術式と動作をする術式を組み込むのだ。
土魔法術師で、それなりの上位者なら使える魔法でもある。
人為的に作られたこれらが何故魔物扱いになるのか
理由はいくつかある。
主人がいなくなっても自動で攻撃を続ける場合。
本来は主人の魔力供給がなくなるか、
術者からの命令が無ければ動かなくなる。
ところが自動で動く術式と自動で魔力供給される術式を組み込まれていると
放置されても好き勝手に動き続ける。
過去にゴーレムの有用性から、
多くのゴーレムが土魔術師によって作られた。
最初は重機代わりであったり、運搬のための道具としてだった。
ある時、力仕事だけじゃなく戦争に使えると考えた者がいた。
戦争に使うという目的で、飛躍的にゴーレムに関する術式が研究され
最終的に出来上がったのが自動で動き続ける厄介な奴だ。
問題は敵認定したら攻撃を続けること。
自分が壊れるか相手がいなくなるまで攻撃を続ける粘着質である。
自動修復の術式まで組み込まれているゴーレムがいると更に厄介だ。
戦争に使おうと考えたのはヒューマン領の連中だった。
昔から領内で小競り合いするのが好きな連中だ。
戦争の道具として有効だと思って大量に作成したのだろう。
そして自動で動くゴーレムだらけの戦争がまともなわけもなく
やがてはゴーレムを残して自分たちが滅びていく。
こうして動き続けて迷惑をかけるなど考えもしなかったに違いない。
ゴーレムは増えることはないが、潰すまでそのまま存在することになる。
普通ならだんだん数が減っていくのだが、
近年においても、ヒューマンが戦争で使ったらしい。
ゴーレムは迷惑であり、危険視によって魔物扱いと認定された。
これによりゴーレムを作るのは、魔物を作るに等しいと言われている。
魔法で簡単に作られるゴーレムの術式は封印となり、
現在は認められた一部の錬金術師以外は作成禁止になった。
だがルールを無視する連中もいる為、減ることが無い魔物となっている。
ゴーレムには
自動で魔力供給するための仕組みとして
良質な魔石を使ったものもある。
そういう理由で、迷惑だから駆除するという以外に、
魔石目当ての冒険者の対象にもなっている。
どうやら、この迷宮に出てくるのは
かなり珍しい事らしい。
魔物は実際に存在する場所からこの迷宮へ転送されてくる仕組みらしい
どこかにゴーレムが固まっていたのかもしれない。
ゴーレムの動作術式
一般的な術式は、頭と胸の二つに組み込まれることが多い。
どちらかに、魔力供給の魔石であるコアがあると言われる。
もちろん魔石を利用していないものもある。
術者がいなければ土に戻るやつだ。
ゴーレム退治を専門にしている冒険者なら
違いとか特性とかが、見ただけでわかるかもしれない。
ゴーレムは岩のごとく硬く、単純な物理攻撃での攻略は難しい。
かと言って魔法攻撃に対しても弱点が無く、
威力のある高位の魔法を使うのは魔力量の無駄だ。
ここで、味方としてリアさんが参加した。
リアさんは現役のSクラス冒険者だが、
厨房係としてあまり冒険者としての仕事はしていない。
「えへへっ、久しぶりだから少し運動したい・・これ魔石ない奴」
「だから、ちょっとだけ叩かせてもらうね。」
そういうと青龍偃月刀のような大きな薙刀を振りかぶったまま
この先に見えるゴーレムに向かって、走って飛んだ。
距離は20メートルはあると思う。
俊道と飛翔のように見えたが、どうやらこれは素の身体能力らしい。
ゴーレムの大きさは2メートル半ぐらいだろうか
3メートルは無いと思う。
魔石が無いというのは、主人の魔力供給がある可能性を秘めている。
ということは比較的新しく作られた物で、どんな術式が組まれているのか不明。
だから指導者側から先制攻撃を出す事にしたらしい。
ゴーレムの頭部から一閃
たった一撃でゴーレムが二つに割れ、その後砂のように崩れ去った。
「えへへ、なにもわからなかったー。ごめんなさい。あは」
生徒組は呆然と立ち尽くした。
これが世界でも限られたSクラスの力・・・。
見た目は、どう見ても強そうに見えない白兎族のリアさん。
恰好はチャイニーズ風だが、愛想がよくてかわいいバニーガールだ。
そしてほとんど冒険者として動いてないと言っていたが尋常じゃない強さだった。
物理攻撃主体の従者組の二人の目が尊敬のまなざしに輝いている。
冒険者でAクラスとSクラスの間は天と地ほどと言われるほどの差があるらしい。
Aクラス寸前まで行ったギルカさんが、一番その辺りを理解しているのだろう。
同じ獣人族のミルさんも、目標となる先輩としてリアさんをターゲットしたみたいだ。
俺もあの身体能力が素だと思うと驚きを隠せない。
それとあの薙刀だ。
確かにララシア様の武器はすごい。
しかし俺も相当な武器を貰った。
俺にあのゴーレムを一撃で両断出来るか・・。
チートアイテムやら精霊力や聖霊獣能力でブーストしても絶対に無理だ。
ララシア様のすごい武器はそれなりの人が持つと更にその力を増すんだろう。
「今の俺には、宝の持ち腐れなのか・・・」
「アイト君、まだまだこれからですよ。」
「あなたにはまだ未来がある。」
賢者様の優しい言葉だった。
その後、生徒メンバーは発奮して
一撃は無理だが、みんなの力を結集して倒すことが出来た。
1体倒すことが出来たら、あとはその繰り返しだった。
最初脅威だと感じたゴーレムも
戦い方次第で充分自分達でも戦えることを知った。
この階層の終わりごろになると
2対のゴーレムをそれぞれのパーティーに分かれて倒した。
そして14階層へ
平野ゾーンともいえる階層だ。
狭いところよりはいい。
ここにいるのは、オーガだった。
基本オーガは群れない。
しかしこの階層は、オーガが比較的に近くにいる。
必然的に連戦になる可能性を秘めていた。
オーガは小鬼系の最終形態だ。
コブリンからホブコブリン、そしてオーガへ
オーガになると鬼人系になる。
もはや別種だ。
その戦闘力の高さと大きさ、当然武器を使う個体もいる。
中には剣を持つものもいる。
人と変わらないほどの知能を持つものもいる。
救いは基本種なら魔法は使わない。
「アイト君、数が多いね」
「ああフレア、それと距離が近い位置にいる」
「次々来られるとまずいですわ。」
「うんリーナ、俺もそう思ってた。」
「パーティーを分けて右と左に分かれて戦うのはどうだろうか。」
「アイト様が言うように」
「出来るだけ一度に複数を巻き込まないようにしていくのがいいと思います。」
「ええ、私もそう思うわ」
「ここは、2チームでそれぞれ近づかせないように戦いましょう」
「アイト君たちは左側をお願い」
「了解」
「フレアが言うように俺たちは左を叩く」
「主様の仰せの通りに」
「クヌギ、悪いがお前の防御が頼りだ」
「それは嬉しいお言葉です。」
「敵の身体は大きいが、さっきのゴーレムよりは小さい」
「動きが早いのを気を付ければ、被弾も大丈夫だろう」
「アケノ、もしものサブ盾を頼む」
「主様のご期待通りに。」
「よし、皆行くぞ」
「初撃は、シラギとミズキ、やや遠方から攻撃だ」
「仰せの通りに」
「お任せください」
「その後みんなで一気に突っ込む」
「カヤノ俺のサポート頼む」
「主様は私が守ります。」
初めてのオーガ戦
とはいえ昔の日本でも鬼と言われる存在と戦っていた。
その時の想いが巡る。
たぶんその当時と比べたら今の俺はかなり弱い。
「でもみんながいるから頑張れそうだ」
「うふふ、主様の嬉しいお言葉」
「皆、精一杯報いましょう」
「「はいっ」」
どうやら聖獣たちとパーティーを組み事になり
俺たちの心は一つにまとまっていったようだ。
聖霊獣は当然俺の精霊力で強さが変わる。
しかし魂の契約があるこいつらは俺との絆でも強くなる。
俺たちの絆の強さは以前と比べて格段に強い。
それは俺にもフィードバックされるから
俺自身も強くなっていると自負できる。
「いくぜー!」
俺たちはパーティー同士でもうまく連携しながら位置取りを行い
オーガを各個撃破していった。
「アイト君今度は右へお願い」
「よし任せろ」
「フレアたちは中央を抑えてくれ」
「ええ、任せて」
いくら強いオーガであっても単体であれば何とかなる。
ここまでの戦いの経験からそれは物語っていた。
レベルでもステータスでもなく、戦うことによって得られる経験
戦い方というのの他に、お互いの信頼、絆が強さを発揮することを知った。
それは聖獣たちだけでなくフレアやリーナ達との間も同じだ。
こうして2パーティーによる連携がどんどん上達していった。
俺たちはバラバラで動きながらも一体感を感じていた。
そして気が付くと指導メンバーからの支援もなくこの階層を制覇していた。
15階層
先ほどと同じく平原だが少し荒れ地が混じる。
またオーガなのかと思ったが、敵はトロルだった。
更にサイズがデカい3メートル級か・・・
階層主のデーモン相当の大きさがあると思う。
しかし威圧感は感じない。
ただ意外に横幅は無く、単に背が高い。
棍棒を持つが振り回すだけだ。
しかしトロルが厄介なのは、その回復力だといえる。
後はあまり異常状態を受け付けない。
毒とか麻痺系の耐性があるのだろう。
数が多くなく単体行動だ。
合同パーティーで連携することにした。
「フレア、リーナ、あいつデカいから足狙いでいこうか」
「ええ、私もそう思ってた」
「ではアイト様たちは右足へ」
「私たちは左足でどうでしょう、フレア様」
「ああ、それでいこう」
「ただ皆さん、回復力が高いので再生しきる前に動けなくしましょう」
「一点集中ですわね」
「その後に急所である頭部狙いって感じだな」
息があって来たことから作戦を決めるのも早い。
お互いに信頼感もある為、こちらの想いも伝わりやすくなっているのだろう
「さて、行ってみようか」
「とにかく一回戦ってみれば、いろんなことがわかる」
「ギルカさん敵の攻撃は緩慢でも重いです。」
「上から振り落としてくるので受け止めをお願いします」
「クヌギはギルカさんのサポを頼む」
ここで、ギルカさんとクヌギから似たような提案が出た。
それは土系魔法をよく知るものでなければ思いつかない。
「フレア様、足元を土系魔法で崩す方法もあります。」
「主殿、娘の言う通り一度に両足を取られたら、攻撃できないでしょう。」
「なるほど、足場を崩して動きが悪いところへ一点集中か」
「アイト君、面白いかもしれませんね」
「ええ、私くしもその案は賛成ですわ」
「リーナもそう思うならやってみよう」
「別に右と左が同じ魔法でなくても構わない、しばらく動きが止まればいい」
ギルカさんは
まず基本の「アースクエイク」で地面を揺らし
その後、自身の固有魔法を使った。
「砂塵化、流砂陣」
トロルの足元が蟻地獄のようになる。
クヌギの方と言えば
地面を泥沼化してそこから手が何本も出てトロルの足をつかんで引き込む。
魔法で言えばアースハンドと言ったところだろうか
ドっシーン
たまらずトロルが尻もちをつく
両足とも足首は地面の中だ
「これなら足狙いより全員で頭部狙いの方が早そうだな」
「ええ、こんなにうまくいくならそのほうが早そう」
「んじゃ、突撃」
「手だけ気を付けて」
トロルは尻もちをついたところで何がおこ合ったのかも理解していなかった
元々動きが緩慢であり対応も遅い
尻もちをついた時点で武器の棍棒も手放していた。
手を使って起きようとしていると
頭めがけて複数の何か飛んでくるのが見えた。
身体が大きいのは確かに脅威ではある
だが単に背が高いのであれば弱点は足だ。
バランスを崩しやすい体型であることを示す。
俊敏性が高くなければ起き上がるのにも時間がかかる
トロルは、知能もそんなに高くはなかった。
10人からなる頭部への一斉攻撃
さすがに再生力が高くても急所への攻撃には耐えようがなかった。
たとえレベルが高く攻撃力もあり回復を持つ大きな魔物であっても
攻略方法が見つかれば、狩られる側に回る。
お互いの信頼が増して、思ったことを言い合えることで
新しい戦い方を見つけることが出来た。
これはこの迷宮を継続的に戦ってきたことによる戦い方の積み重ねだ。
それぞれの思考がいかに敵を倒すのか、いい方法は無いのか
自然にそれが出来るようになったといえる。
階層を進むことで成長をしている実感がわいた。
そしてこの階層も制覇して
16階層へ
ところがこの階層は難しい敵が待っていた。
再びデーモンと戦うことになるとは・・。
階層主とは特殊性があるが、下層で同じ種類の魔物が出ることもある。
デーモンには個体差がある。
これは攻略方法はその都度見つけなければならないことを示す。
唯一の救いは、魔物はアークデーモンだった
デーモンの亜種であり、劣化種だ。
個体性能は低い。但し、レベルは階層主より高い。
アークデーモンであっても物理攻撃は受け付けない
魔力などが乗っている分の攻撃が通る
アークデーモンは、デーモンより魔力は低い
しかし下層である分レベルが高いから同じくらいと考える
後は召喚をしない。サイズが小さい。などの差はある。
しかしその分魔力量の減りは少ない。
・・・ということは、
「魔法攻撃を多用する可能性が高くなるだろうな。」
「ええ、アイト君の言う通りだと思うわ。」
「魔法主体に攻撃してくるはず。」
「フレア様、その分魔法防壁を張らないということに繋がります。」
魔法防壁を張っていると自身の魔法攻撃も止まるのが定説だ。
その理由は二つある
一つは魔力の継続使用や二つの魔法の同時使用の難しさ。
魔法防壁の種類によっては、防壁を張っている間、魔力を消耗する。
また同時に異なる魔法を展開するのが難しく、
攻撃と防御を同時に行うなどが出来ない。
もう一つは
防壁は自身の魔法も防いでしまう。
だから階層主のデーモンは防壁の位地を離していた。
自分の目の前だと攻撃がしにくくなってしまうからだ。
あの時のデーモンが召喚した剣も魔法力である。
よって魔法防壁に魔法剣が通らないという理由だ。
魔法防壁が2メートルほど前だったのは
自分の魔法剣による攻撃範囲の外という意味でもある。
それを見て近接型だと見抜いたのはすごいけどね。
それ以前に魔法防壁の位置確認で矢を放つように指示した
フレアはすごいということだ。
確かにかなり高度な魔法の中には、自身の魔法だけは透過できるものもある。
しかしそれは一つ目の理由に触れる。
異なる魔法を同時使用が出来るとはかなり高レベルの技術が必要。
アークデーモンごときにそれが出来るはずはない。
というここまでの話は全て
リーナの受け売りです。偉そうですんません。
俺にそんな知恵も経験もない。
よって、やることは一つ
早期に距離を詰めての近接戦闘だ。
しかも羽を潰して飛翔させないのことを優先事項とする。
これはフレアの意見でした、ふたたびすんません。
とういうわけで作戦は決まった。
後は初動が大切になる。
それではフレアさん指示をどうぞ。
「ということで、デーモン戦と同じ戦法で行きます。」
「ミラの弓攻撃を初撃とします。」
「その後ギルカ、お願いしますね。」
「あの時の0距離の盾攻撃はすごかったわ。」
「アイト君たちは、羽への攻撃優先へ」
「リーナと私は頭部攻撃へ」
「ミラはアイト君たちに参加」
「「了解!」」
そうだよね、デーモン戦で効果があった作戦が一番堅実
あとは、飛翔してからの魔法攻撃を阻止するのが優先
近接してしまえば魔法が撃てなくなるしな。
そして俺たちの中で一番レベルが高く経験豊かなギルカさんは頼りになる。
「ミルカお願いします」
から始まる、怒涛の連続攻撃。
個体差による攻撃の仕方の違いももろともせず。
そして以前より強くなった聖獣たちの攻撃
物理無効が効かない魔法ダメージの効果が大きかった。
ここまでの状況を見て賢者様から
「皆さん強くなりましたね」
とお褒めの言葉をいただいた。
俺も順調にレベルアップしていく。
連続してアップしないことからレベル酔いもないのは助かる
そして17階層へと行く
迷宮内での時間感覚は無いから今はどれくらいなのかはわからない
ただ疲労が蓄積しているということは分かった。
「少し飛ばしすぎたかな・・・」
「そうね、小休憩していきましょうか」
「アイト様17階層のサーチだけしておきましょう」
「ああ、ナビ先行して周辺探査。」
「了解です」
17階層へ続く階段で少しだけ休憩している間
ナビに入口周辺から様子を探ってもらった。
「飛翔系魔物を発見しました。」
「階層入り口の大部屋にかなりの数がいます。」
「えええっ」
飛ぶ相手は面倒だ。
俺には少し苦手意識もある。
「ナビ、魔物の系統とかはわかるか?」
「コカトリスの群れだと認識します。」
「アイト君、それは厄介な敵だわ」
「フレア様、異常状態攻撃に注意ですね。」
俺の記憶だと石化や毒を使ってくる相手だったと思う。
ところで石化というのはどういう仕組みなんだろう
「コカトリスは麻痺毒を使ってくるの」
「直撃を受けてしまうと、血液が硬化してしまうから注意よ」
「なるほど・・注意するよ」
ララシア様の調合に関する教育にあったが
毒というのは血液に対する吸収率がいい、血管に入りやすいんだろう。
通常の麻痺毒なら神経に作用するだけだ。
コカトリスの麻痺毒は血液自体にも作用するという事なんだと認識した。
石化というよりは血液の硬化によって体を蝕んでいく
毛細血管まで回るとすれば確かに石化状態になるのだと言える。
しかも麻痺性もあるから神経毒でもあるという事か・・・。
動けないうちに血液の対流が止まってさらに体が動かなくなる。
心臓に到達したら死亡だ。
動脈硬化の強烈なやつとかいやすぎる。
これを聞いた指導者側、賢者様から
「ここは、安全性を考慮してメイドちゃん達を先行投入しますね。」
「ララちゃん、入口周辺だけでも早めに掃除しておきましょう。」
という話が出た。
「はい、ララシアの出番じゃないのは残念だけど」
「トリプルアタックの出番ね。みんな行ってらっしゃい。」
ララシア様からもメイドちゃん達に指示が出た。
俺たちは、まだ少し休憩していたところだが
メイドちゃんたち3体がすごい勢いで入口に入っていった。
ところでトリプルアタックっていったい何だろう。
ララシア様って少しオタク気質があるから厨二的なセリフなんだろうか。
まさかとは思うが俺がいた現代地球の情報を持っているとか・・・。
さほどの時間は立ってなかったと思う
「入口周辺から魔物反応が消えました」
ナビからこんな報告が出た。
「さあ、先へ進みましょうね。」
賢者様から言われたので、階層の入口へと移動。
飛翔系魔物の出てくる時によくある天井の高いフロア
見渡す限り草原のかなり広い大部屋だった。
どうやらこの部屋に、コカトリスが集まっていたようだ。
部屋の中に入ってみると
あちらこちらに魔物の死骸が散乱していた。
魔物の死骸は、魔物の種類によって
その場で消滅する時と時間が立ってから消滅する時がある。
人工迷宮だから迷宮が吸収するわけではない。
素材確保が出来る配慮でしばらく死骸が放置される。
その場で消えるのは、素材確保が出来ない魔物か
もしくは魔石化するだけの魔物だ。
魔石が取れる魔物は魔法を使う奴に多い
理由は魔法基幹を持っているから。
魔法基幹とは魔力を補充し保管する心臓部とでも言えばいいのだろうか
ゲームで言うとコアとか魔核とか言われる物に相当する。
それを破壊して倒してしまうと消滅する場合もある。
魔物の魔法基幹は魔素だけでなく混沌も吸収される。
混沌を吸収することで魔物化し、更に混沌を吸収していくことで強くなる。
一方で一時的に周辺の混沌が減るわけだ。
変な言い方だけど、
魔物とは混沌の掃除機であり、空気清浄機であるということになる。
そういった意味で魔物は必要悪だ。
また、現在では素材などで一部の経済が回っている。
迷惑な存在でありながらも、生活に必要なものでもある。
だいたいこの世界においては魔物の肉も食料だ。
最初にこれを知った時、俺は複雑な気持ちになった。
ここにいるメンバーは、お金に困っているわけでもないから
素材確保などはしていない。
時々ララシア様が、
錬金素材にするつもりなのか大きめの魔石を確保してたり
サリナさんやリアさんが肉を確保してるくらいだ。
獣人族にとって魔物の肉は普通の動物の肉より上とされるから仕方がない。
同じ獣人のミアさんも、時々それを分けてもらっているみたいだし
竜人族も似たようなところがあるからギルカさんも同じだ。
みんなアイテムボックスを持ってるから
ほしければいくらでも確保できるだろう。
ナビによるとこの階層のコカトリスは、ほぼここに集中して集まっていた。
繁殖期のタイミングだったのだろうか?
確かに巣らしきものが残っている。
コカトリスを完全殲滅したメイドちゃんが
卵を拾って来たことからも繁殖期と重なった可能性が高い。
2メートル級の巨鳥の卵だからダチョウのより一回りは大きい。
ダチョウの卵など動物園の展示物しか見たことないけどな。
卵はリアさんに渡されたから、そのうち卵料理が出てくる予感がする。
コカトリスの卵ということで毒を警戒してしまうが
卵には毒性がないということで安心した。
コカトリスの大部屋を抜けた先にも魔物はいたが、鶏系だった。
飛翔系というよりは陸上を走る鳥だ。
見た目が鶏っぽいのはコカトリスもなので、
これの上位種がコカトリスなのかと思った。
サイズ的にはダチョウを一回りデカくした感じだ。
長時間の飛翔は出来ないが飛びあがることはできる。
やたらと好戦的で動きが早く、見た目から想像できないほど強敵だった。
数も多くいて大変だと思っていたが
なんと肉と卵目当てで、サリナさんとリアさんが参戦してきてしまったので
この階層はなんだか指導者側の活躍が変に目立つようにして終了した。
当のサリナさんは、食材階層だと言って笑っていた。
どうやら鶏肉が大好物なのだろう。
ヒャッハー状態だったのを俺は見逃さなかった。
おかげで半休憩状態になり、力が戻ってきたのは助かる。
18階層目
今までと大きく異なり、いきなり陰湿な雰囲気に変わる。
迷宮に入ってすぐの時と似た雰囲気だと思った。
ワイト、レイスを中心としたアンデット系だ。
時折、数は少ないがリッチが混じる。
ワイトはゾンビの上位種、レイスはゴーストの上位種になる。
そして厄介なのはリッチだ。
デーモン系と類似の能力がある。
地球においては僧侶や魔術師のアンデットという位置づけだったが
一方でアンデットの王と言われるようにアンデットを使役する。
この世界においてもそれは同じだった。
魔法も使うし、召喚もしてくる。
こういう魔物というのも想像物かと思っていたが
こちらの世界の情報を持つ者が地球側にもいるのかもしれない。
今更だが転送で行き来する人間がいるのだから当たり前だと思う。
ララシア様のオタクっぽい知識とかも納得できた。
「ああ、うちの親父か・・」
近代日本を代表する剣聖という厳格な人物像が少し壊れた気がする。
ここでは大量なアンデット軍との戦争になりかけることもあった。
通常階層でのリッチの存在もかなり珍しいらしい。
でてくるなら階層主の時ぐらいだと言っていた。
ここでも指導者メンバーが手を出すしかなくなり
リッチの対応は、そちらに任せて俺たちは他の対処にまわった。
しかしお互いの距離間により範囲魔法や範囲攻撃は出せない。
一部のゲームと異なり、味方に被害が出てしまうからだ。
「みんなフレンドリーファイアに注意してね!」
パーティー戦ではなく個人戦の様相となり
生徒メンバーでは、フレアとミア、リーナとギルカのコンビで戦っている。
俺たちの方も俺とカヤノとアケノ
クヌギとシラギとミズキに分かれて戦っていた。
混戦に次ぐ混戦で、あの時休憩をとっていたのが正解だったと言える。
数が多いだけで1体の攻撃は問題は無い。
レイスは状態異常攻撃を出してくるが、それ以外は大丈夫だ。
最もリッチはそれより面倒だっただろう。
まあ指導者メンバーが戦えば楽勝なのは間違いがない。
気になっていたララシア様はどう戦っていたか
もちろん遠距離の時は、二丁拳銃を使っていたが
拳銃と思えない連射だった。
早打ちの度を越している。
しかもあの幼女体型と思えない身のこなし。
サリナさんと変わらない速度で動くのだ。
近接戦闘を行うときは、例の傘を使う
あれが防御と攻撃の両方に使う近接武器だと知った。
しかも、傘で魔法攻撃もしていたから、
それがバトルスタッフ系列の武器なのだと知った。
確かに近接戦闘をこなす魔法師は、バトルスタッフを使用することが多い。
そしてその傘を開くと盾になる。
魔法防御を張らなくても魔法防御が出来、物理防御もできる。
まるで攻撃無効なのだ。
傘を開いたままでも魔法攻撃もできるし、もう何でもありだ。
錬金術師だとか言っていたのに魔法も使えるとは・・。
見た目が幼女だけど、SSクラスの戦闘力のすごさを知った。
一方、賢者様は踊りを踊るかのような優雅な動き
まるで社交ダンスかバレエダンサーのようだった。
賢者様の周辺の魔物が音もなくそれで消えてなくなっていく。
魔法を放っているのだろうけどそれすら不明。
ララシア様やサリナさんのような激しい動きではなく本当に優雅だ。
そして多分ショートワープなのだろう
瞬間移動をして魔物の群れの中に突然現れるのだ。
そして賢者様が現れた瞬間、波紋がおこるように魔物が消える。
リッチでさえそこにいれば消滅する。
フレンドリーファイアに気を付けてと言ってたから
あれでも範囲や威力を抑えての攻撃なのだろう。
以前、千体を超えるキングとクイーン率いるコブリン軍を
わずか数分で消したと聞いたけど、わかる気がした。
先日の獣人族への魔物侵攻の時もたぶんそうだったのだろう。
賢者様が本気で攻撃をしたらと想像したら、自分がアリンコだと再認識した。
「こういう人たちが複数パーティーで戦う邪神とは・・。」
いや考えるのはやめておく。
とにかく今は目の前の敵で精いっぱいだ。
この階層の戦闘終了後
全く息切れしていない賢者様が、にこにこしながら言った。
「はい、おつかれさま。ゴミがいっぱいで掃除が面倒だったわね。」
それを聞いて、息をハアハアいってた俺たちは呆然とした。
ああ・・賢者様が強すぎて何の参考にもならなかった。
19階層へ
ここが終わるといよいよ次は階層ボスになる。
ここは少し広めの通路タイプの迷宮になり、魔物はミノタウロスだった。
基本的にミノタウロスは群れないが、ここでは3体~4体で現れる。
そのうち一体はやや大きいから、そいつがリーダーなのだと思う。
体長は2・5メートル級から大きいのが約3メートル級
やや小さめのやつは棍棒だが、大きな奴は斧を装備している。
武器攻撃も厄介だが、突進攻撃が侮れない。
あと、大きな奴は魔法のような攻撃をしてくる
アースクエイクのように地面を揺らしてきたりするのだ。
それと咆哮が厄介だった。
味方を鼓舞して、こちらには精神攻撃。
それだけではなく、周辺の味方を集める。
3体だと侮っていると、6体とか8体に増える。
いくら広い通路だと言ってもこの巨体で囲まれるのは辛い。
俺達から離れている指導者メンバーへ戦いに行く奴がいるが
その都度、瞬殺されている。
このミノタウロスだが、オークと並び肉が美味しいらしい
元が豚と牛だからだろう。
「さっきあれほど鶏を狩ってたのに・・・。」
アイテムボックスを全員が所持しているのだからそれぞれ個人の自由だ。
ただ、白兎族のリアさんが牛肉が好きというのは解せないけどな。
オークとミノタウロスの合いびき肉のハンバーグとか・・。
「じゅるり・・・いかん、ごちそうに見えてきた。」
「アイト君、戦闘中に何を言ってるの!」
「ああ、すまん」
「ほらまた来ますよ。」
ここではギルカさんとクヌギにメイン盾を任せ突進を防いでもらう。
サブでアケノも盾役となり攻撃の手数が多いときは防御にまわる。
残りメンバーで攻撃だ。
しかし魔法も物理も効果が薄い。
敵のレベルが高くなっていることが一番の要因だが
ミノタウロス自身の特性としてダメージが緩和されるようだ。
物理無効とか魔法無効ではないが、ダメージ緩和で地味にしぶとい。
しかもそれを理解していてなのか防御なしの攻撃主体で襲ってくる。
だから捨て身攻撃のような突進も平気でやる。
「牛頭のくせに意外と頭が回るなこいつら・・。」
ついこんなことを口に出してしまったら、リーダー級のやつが吠えた。
「アイト君、言葉を理解できるのもいるから気を付けてよ。」
「アイト様、変に挑発して仲間を呼ばれるのでは困ります。」
えっはあ?
「すまん、知らなかった。」
フレアとリーナに怒られた。
作戦が回らなくなったら俺の責任だ。
楽勝だと思っていたら意外に面倒くさい相手だった。
ミノタウロスと言えば定番のやられキャラだと軽く思ってたのは間違いだ。
さすがに倒しきれずに、増えすぎて面倒になってくると
時々後方の指導者側から援護攻撃が飛んでくる。
厄介そうなリーダー級に向けて、そして一撃で吹っ飛ぶ。
階層が下がるとだんだん厳しくなると言われていたが
この辺りはもう俺たちだけで攻略するのが難しいと理解した。
途中がスムーズにいきすぎていたのだろう。
やっとの思いでこの階層を終えた時は
さすがに20階層の主と戦う危機感を覚えた。
「次の階層主を倒さないと、今日の夕食と寝るところは無いですよ」
賢者様の厳しいお言葉だった。
ここでも一時休憩。
ララシア様から特製の回復薬を提供された。
体力回復、疲労回復、魔力回復などの効果があるやつだ。
うん、栄養ドリンクだな
味もまあまあだ。
但し、残念なことに気力回復は無い。
ここまで俺たちを見ていた賢者様から
次の階層ボスに対しては、賢者様とララシア様以外を援軍として参加すると言われた。
サリナさん、リアさん、メイドちゃん3体が加わる。
この時、ララシア様がメイドちゃん2体に対して装備追加を行った。
ファーストとセカンドだ。
そしてサードは最終形態。
「うん、これで3体ともS級になった。」
メイドちゃんたちは冒険者ではないからクラス設定は無い。
人ではないからいくら高性能であっても臨機応変さで劣るから
Sクラス冒険者とまではいかない。
あくまでも魔物の強さの対比としてS級ということになる。
装備でもそうだが、AとかSとかいうのは
そのクラスの魔物に対してダメージが通る、防ぐことを示す。
あくまでも対比が元になっている。
また、そもそも使用者が弱ければ当然低くなる。
メイドちゃんたちは装備と同じ扱いであり、
ゴーレムというのは、自動で動く武器であり防具だ。
とはいえ、援軍としては頼もしい限りではある。
これにより攻略チームのリーダーは、サリナさんに代わる。
「メイン盾がサード、サブ盾がギルカ」
「遠距離攻撃の魔法盾としてクヌギとアケノ」
「後方支援はセカンドとミラで、遠距離攻撃主体」
「あとは皆、魔法アタッカーだ」
「リアとファーストでメイン攻撃」
「自分は基本的に指示にまわるが、場合によって遊撃をする」
「回復役は、ナビ1,2でいいだろう」
「足りなければ、遠慮なくポーションを使え。」
サリナリーダーから配置が通達された。
既に鬼軍曹モードに入っているようだ。
しかし俺がつけた呼び名のナビで1,2って・・。
どうやら、それが固有名になっちゃったらしい。
「みんな心してかかるように!」
「「はいっ」」
そしていよいよ20階層のボス部屋に入っていく。
さて、敵は何が出てくるのか・・・。