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冒険の旅8日目、北の都カトス  魔法学園と訓練迷宮  (迷宮合宿その1、10階層攻略)

朝、目を覚ますと昨日の俺の懸念は全く感じなかった。

そう俺の周りには、誰もいなかったのだ。


朝食の時間になってわかったのだが

俺がいないところで、いろいろな魔神対策などが話し合われていたみたいた。

カヤノもそこにいたことから俺に関しての話も含まれていたのだと思う。


俺自身より俺のことを知ってるカヤノ・・。

何を話してたんだろう。


そして話題は今回の迷宮合宿になる。

目指すのは迷宮最奥部、30階層だ。


と言っても時間切れ終了というオチもある。

いかに効率よくというより、訓練や経験として身につくかが重要だ。


今回は、初の館メンバーを含め大人数での攻略だ。


これはある意味、聖龍様のところへ行くための予行練習でもある。


そして訓練課題が説明された。

まず、9階層まではパーティーの組み方が特殊だ。


ララシア様、サリナさん、リアさん、メイドのファースト、セカンド

従者のギルカさん、ミルさんによる物理攻撃主体のパーティ。

チームの隊長はララシア様だが、戦闘パーティーとしてのリーダーはギルカさん。


賢者様、メルダ姉さん、俺とカヤノ、フレア、リーナ

メイドのサードによる、どちらかと言えば魔法主体のパーティー。

隊長は賢者様だが、パーティーリーダーはフレアだ。


一応ナビの使用は許可されている。

物理チーム側にもララシア様の疑似精霊型の支援ゴーレムがいる。

俺の中ではナビⅡ(仮)としておく。


そういえば、ララシア様の図書館にあったあれの事。

俺から見たらマザーコンピューターにしか思えないのだが

動かなくても精霊AIのゴーレムらしい。


各地の監視だけでなく、転移門の制御や

管理迷宮の制御までもやっているからすごい。


そしてナビとは、

形は特殊だがスマホと同じで情報携帯端末でもある。


課題として

この偏った2パーティーの編成で、同じ迷宮に挑むというのだ。

もちろん、それぞれ別の道を進むことになるから探索時間は半減する。


これは個々の能力を伸ばすための訓練と言うことで

引率側は指導をするが、戦闘にはあまり手を貸さないというルールらしい。


一応、メイドちゃんたちは戦闘には参加してくれるみたいなので

いつもより大きな戦力ダウンにはならないとは思う。

むしろ本気のメイドちゃん達なら戦力がアップしてしまうだろう。


実質は、偏った形の4人パーティーで、

主体は生徒側の戦闘訓練であり、教育だと言うことだ。

メイドちゃんたちが本気を出さないことを知った。


そして10階層の階層ボスは

俺たち生徒メンバーのパーティーだけで攻略をおこなう。


10階層のボスを攻略したら、ボス部屋は安全地帯となる。

そこで一旦休憩して、反省会などを行い次の階層へ進む。


その後は状況に応じて変化していくということになるらしい。

戦いを見て更なる課題を与えられるのかもしれない。


だから最終目標は30階層だが、

とりあえずの目標は10階層までの攻略になる。


朝食後、早々に出発ということで

この時、ララシア様から各自に装備やアイテムが配られた。

この人、いったいいつ寝てるんだろう。


アイテムボックスも配られているから、荷物は全くない。


固有武装を持っていなかったギルカさんとミルさんは

自分たちの専用武装を貰えたので大喜びだ。


もちろん俺も新武装で、カヤノにも専用武装が与えられた。


フレアとリーナは元々固有武装だったので、

調整後にエンチャントなどで強化されたらしいが、

二人が言うには、今までと比べられないレベルになっているらしい。


ちなみに俺の新装備は、第一段階と第二段階があるのだが、

今回は第一段階のみの軽装備なのに防御力はS。

第二段階のパワードスーツは重装備で、軽装備の上に装着するのだから

防御力や攻撃力が更に上がるという、恐ろしいチート装備だ。


俺がレベルも上がり精霊術も多少使えるというのもあって、

エンチャントは能力強化と言うより支援系にかなり特化している。


状態異常無効と精神強化。

これは前回の反省から混沌に飲まれた時の対策も含めたのだろう。


更に精霊力増幅と自然治癒力向上。


そして使い慣れた風の装備と同じで速度・俊敏性上昇。

これについては、皆の装備も基本効果として付いているみたいだ。


これ以外にも、オプションパーツもがあるらしいから

チート慣れしている俺でも、既にやりすぎ感がある。


相変わらず事前説明が無いのは、

ララシア様がギリギリまで調整や開発などに忙しいからというのは理解した。


武器は光の刀の強化版、攻撃力S+。

以前の光の刀もあるので、合わせると2刀流ができるというロマンだ。

あくまで使える素養があればだが・・。


それ以外に、闇の短剣というものが新たに追加。

攻撃力Aだが麻痺毒という状態異常効果を持つ。


俺をアサシンにでもするつもりなのだろうかと思ったが

いざとなった時の隠し武器と言うやつらしい。

こう言った隠し武器は後衛職なら所持しておくものらしい。


そして魔法銃の強化調整版、攻撃力S

以前の支援魔法弾以外に、攻撃魔法弾が追加された。

これで基本4元素魔法も中級魔法クラスまで使えることになる。


但し弾が無限にあるというわけではないので弾が切れたら終わりだ。

使いどころを考えないといけない。


これら刀や銃などの武器にもオプションパーツがあるらしい。


カヤノは元々、自らの精霊力で着物装備を顕現させていた。

固有の特殊装備だったのだが、オプション的に追加される装備により

精霊力強化が加わる。

一応防御、強化共に+A増加という効果付きだ。


見た目は着物の上に羽織を着ているようにしか見えないから

全く違和感がない。

この辺りのデザインも大したものだと思う。


そして籠手と足の装着武装が追加。

速度と攻撃力が+A増加することになる。

これも和風デザインなので大して違和感はない。


カヤノもこれはいいものだと言って喜んでいるようだった。



そして迷宮入り口へと転移。

いよいよ迷宮合宿の始まりだ。


今回は、混成魔物迷宮と言うことで

魔物の種類も階層ごとで色々変化するという話だった。

出てくる魔物の傾向がわかない分、その都度対応することが大切になる。


まず1、2階層はスケルトンやゾンビなどのアンデット系だった。

俺としては初めての魔物だったが、大して脅威でもなく何ら問題はなかった。


但し、奴らがリアルな姿で迫ってくるのは、精神的にエグい。

それと、ゾンビは想像より臭かった。

魔物であるから死体の腐敗臭とまではいかないのだろうが臭い物は臭い。


臭さというのがこれほどつらく感じるのかと思った。

これは視覚効果と合わせて精神攻撃だといえる。


匂いに敏感な獣人はこういう敵はどうするのだろうと思い

見た目が獣人なカヤノに聞いたら、獣人とは全く違うと言って怒られた。

精霊に嗅覚などは無い。


賢者様が言うには、嗅覚が高い獣人の場合

迷宮などの狭い範囲では、元々匂いが強い魔物だけでなく

魔物を焼いた時の匂いなどで、臭くなるのは当たり前であり

嗅覚を低下させるアイテム装備を所持していると聞いた。


マスクみたいなものだろうか・・・。

そういえば、特に匂いに敏感な狼系のミルさんの装備って

以前からフル装備の時、口の周りに覆面してた。

それもあって忍者みたいだって思ったわけだ。


ちなみに今回の新装備は、本格的な忍者風デザインだ。


ミルさんは獣人としては、やや小柄でスレンダーな体型。

しかも黒狼族なので、忍者スタイルはすごく似合う。

密かに黒猫ちゃんだと俺は思っているのは内緒だ。

うん、もちろんかわいい。


本人も技能スキルを、俊敏性や速度強化主体に考えているらしく

装備が防御力と俊敏性強化と言うことで、回避盾にもなれそうだ。


同じ獣人の白兎系のリアさんは、どんなスタイルなのだろう。

分かれる前はいつもと変わらなかったから、後で装備していると思う。


今まで装備を装着した姿を見てなかったから気になる・・・。

まさかのバニーガールデザインとかでは無いよな、たぶん。


竜人のギルカさんは、重装備だ。

元から騎士の様な装備だったけど、動きをよくするために

軽量化しながらも防御力が上がっているらしい。

見た目も非常にスリムになった。


元々背が高いと言っても、筋肉質でもなかったから

ごつい装備は似合わないと思っていた。

今回の装備デザインは大当たりだ。

見た目もちゃんと美人女性騎士って感じになった。

うん、かっこいい。


盾は、以前のものよりもやや大型。

もちろん軽量化されているから以前のものより扱いやすそうだ。


ギルカさんの技能スキルは、当然攻撃、防御寄りだ。

今回の装備で更に防御効果が上がっているらしい。

特に魔法攻撃に対する防御効果の上昇というのですごく喜んでいた。


そして俺が昨日、ララシア様に面白半分で話した

ビームサーベルの工夫が盾に施されている。

飛び出すギミックだ。


盾の中央から杭状のようなものが突き出す。

この辺りのギミックは謎仕様だ。

ララシア様の頭の構造も謎だ。

IQ1万とか・・。


盾防御した時点で任意に杭が突きだす攻防一体だ。

バッシュパイクとかなんとかって言っていた。


そのせいなのかデザイン的には中央部に円形の膨らみがある。

全体は8角形状という変わった形だ。

盾には杭を収める場所も見当たらない。

それだけ薄いからだ。


そして、片手剣は、以前とかなり違っていて刃渡りが厚くて長い。

攻撃範囲を上げる為、リーチを伸ばしたのだとか。


盾だけで近距離攻撃できてしまうのだから

更に奥まで攻撃が届く武器がいいという考え方らしい。


この武器は、見た目が長刀にそっくりだ。

薙刀のように刃渡りが長く、柄が短く刀のように扱う。

薙ぎ払いに適していると言える。


どうやら攻撃だけでなく受けにも有効らしい。

盾で抑えていても他から狙われる場合もある。

剣での受けも重要なのだとか・・。


そして実は一番気になるのは、ララシア様の装備。

これも見れなかった。

希望としては、ゴスロリデザイン装備とかがいいけど・・。


9階層が終わったら集合して出会うから

実物を見るのを楽しみにしておこう。


ちなみに賢者様はいつもの様な可憐なドレス姿。

何着も衣装を持っていると思ったけど、全部装備らしい。

見たことはないが、本気モードの装備もあるらしい。


そういえばフレアとリーナは、マジックステッキ(魔法杖)を

使ってたけど、ララシア様から新しく腕輪を貰っていた。


不思議だったけど魔法の発動を媒介・強化するための補助にするのなら

杖形状にこだわる必要はないとララシア様は言っていた。

杖代わりの魔術師武装を作れるのは一部の人だけなんだけど・・。


賢者様も魔法を発動するときに魔法紋を書く必要が無ければ

杖状のものは不要で、戦闘時は動きの妨げになるから持たないと言ってた。


むしろ持つならメルダ姉のような剣型の方が万能的に使えるという。


戦うメイジとしてバトルスタッフというイメージが俺にはあるが

同じような性能が持てるなら形状はより攻撃に有利な方がいいだろう。


それと賢者様やメルダ姉はやたら装飾品をたくさん身に付けている。

あれもすべて支援アイテムなんだろう。


まあこんなことを考えながら戦えるほど、

このレベルの階層だと余裕がある。



そして3階層へいくと、出現魔物は昆虫系に変わった。

出現したのは、アント(蟻)とスパイダー(蜘蛛)だ。

これも初めて見ることになったが、想像より大きな魔物だった。


アントは数が多い上、外殻が固い。


スパイダーは潜んでいて、どこからともなく糸が飛んでくるのだが

粘着液がついているから身動きが取れなくなる。

組みつかれると毒針を刺してくるから捕まったら危険だ。


この2種類が混在して出現するから、かなり面倒だといえる。


とにかく蜘蛛は見つけ次第、焼くことにした。


フレアは火魔法が得意なので問題は無いのだが

リーナは得意魔法が水魔法なのだが、

火魔法を使えないわけではなかったらしい。


初級クラスだが火魔法を撃っていた。


これは以前、賢者様から教えてもらった時に聞いていたけど

魔法属性に得手不得手はあっても、すべての魔法を使うのは可能で

それなりの努力があれば、全種類使うことも出来ると聞いていた。


但しそれを実際に使いこなすのには、尋常ではない努力が必要だ。


すでに二人ともメインとサブで2種類の中級魔法が使えるのだが

普通は一つの魔法を極めることが多い。


攻撃魔法が2種類使えるということはダブルマスターだ。

そしてフレアは、前回、ダブルマスターの特徴である混合魔法を使っていた。


リーナも、得意な水魔法に相反するはずの

火魔法も使えるということは分かった。

相反する魔法を使うのは、かなりの魔法制御力と努力が無いと難しい。


普通はダブルマスターとして混合魔法を目指すなら

水魔法メインなら相性のいい風魔法を先に覚えるはず、

きっと既に風魔法も初級クラスなら使えるのかもしれない。


要するにりーナは、水、風、火が使えるトリプルマスターを

目指しているのではないかということだ。


その上で光魔法で回復系を覚えているというのだからすごい。

ちなみに光魔法は4属性魔法に含まれず、混合魔法は使えないとされる。


フレアと比べて、知識も豊かでお姉さん的に見えるのも、

フレアは天才肌で、そのまま成長しているのに対して、

リーナは、天才を超えようとする努力家の秀才なのかなと思った。


この二人が親友であり、ライバルであるというのは

お互いが向上するために良い関係だと思う。


見方を変えて、よくよく考えると

フレアとメルダ姉、リーナと賢者様はそれぞれ似ている感じがある。


ここで賢者様から指導が出た。


この先はまだ長い。

威力の高い魔法に頼りすぎると、魔力量が尽きてしまうので

最小で最大の効果を上げるように工夫しなさいと課題を出した。


また、迷宮内において火魔法連発と言うのは

酸素の欠乏、熱量の増加、鎮火までの時間による探索効率の低下など

不利点があると指摘された。


確かに面倒だからと言って、

簡単に片付けるため火炎魔法ばかりに頼るのも良くはない。


効率が良いように見えているが、目的地まで先が長いから

それを含めて考えなければならないのだろう。


うーん、今まで浅い階層で繰り返し戦う事しか考えてなかった俺たちは

いつも高火力での短期殲滅しか考えてなかった。

これは短距離走とマラソンの違いだろう。


今回はマラソンだ。

魔法専門職としては一番苦手ともいえる長期戦。

継続戦闘を重視しながら探索速度を下げないようにする工夫か・・。


今回みたいに物理職に頼らず魔法職主体で攻略しろと言われると、

フレアとリーナの二人にとっては、魔法量の管理が重要になり

今までと違う戦い方の工夫が必要だ。


これは俺にとってもいい勉強になる。

まあチート頼りな俺では、今のところ意味がなくても、

先のことを考えればこういう経験や考え方も役に立つはずだ。


だが二人だけでなく、俺にも指摘が出た。

アイテムに頼りすぎているというのだ。

はい、全く持ってその通りです。


課題として、魔法銃の使用をやめて

精霊力が身についているのなら

精霊魔術の行使を努力するように言われた。


おっしゃる通りで、ぐうの音も出ません。


レベルもそこそこ上がり、精霊力を身に着けたのだから

自分自身の努力で得た強さを身に付けないといけなかった。


4聖霊獣がいるのに精霊術を使うことを

記憶がないからと使おうとする気もなく

カヤノがいるから、それだけで満足して甘えていた。


俺を見て賢者様が

「アイト君に必要なのは、能力を自覚することですね。」

「今までと違い、何の力も無いわけではないのですよ。」

「自分で自分の力を封印しているかのように見えるわ。」

そう言って俺の肩に手を置いた。


これは、やろうとさえしなかったことを

見抜かれていた気がした。


「アイトは、以前より充分強くなっている。」

「あの時の、キングと戦った自分を思い出せ。」

「自分の意思で何かを成しえようとした時の気概があったはず。」


こうメルダ姉にも真面目に叱咤されると、確かにあの時の俺は違った。

今よりはるかに弱かったのにもかかわらず、

あの時は最大限、自分が出来ることをやろうとしたのを思い出した。


「ありがとうございます。」

「お二人の話で何か吹っ切れた気がします。」


そう、俺は出来ないんじゃなくてしなかった。


「ご主人、強く願う気持ちは精霊に呼びかける力です。」

「記憶だとか術だとかを気にせず呼び掛けてみてください。」


「ああ、カヤノ」

「前にも何度も言ってたな・・・魂の呼応だ。」


俺は渇望する、俺の中に潜む聖霊獣たちの力を!

「俺の元に集え!聖霊獣たち!!」

まるで中二病のようなセリフだが自分に喝を入れるために叫びたかった。


こう叫びながら強く強く念じ、純粋に来てほしいと願った。

すると前方から声が聞こえだした。


「若様、やっと我らを頼ってくださるようになりましたな。」


「我ら4聖獣の力を再びお使いになる気が戻ったのですな。」


「いやいや、もう忘れられたのかと思ってましたよ。」


「すぐ近くにいたのに、ご主人様と触れ合えないのが寂しかったわ。」


俺の目の前には、聖獣が4体顕現していた。

それはまだ、俺が力を解放したばかりだからなのか

彼らが気をつかったのかわからないが、小さな獣の形だった。


「おおっ、白虎・・玄武・・青龍、そして朱雀。」

これはあくまで聖獣の呼称であり、名前は俺が個々に付けている。


聖女様のところで女神様と会話した時からわかっていた。

こいつらが再び俺の元に来ていたことを。


実は、風の聖獣、土の聖獣、水の聖獣、火の聖獣だ。


「すまない、俺が不甲斐ないばかりに・・・。」

「単にお前たちに会いたいと強く願うだけで良かったんだな。」


記憶が無いとか知らないとかではなく、

純粋に来てほしいと思うだけで魂のつながりがあれば来てくれる。

こいつらとはそんな関係だった。


「お前たちは、いつも俺を信じて待っててくれた。」

「ありがとう。」


そして、カヤノが自慢げに冗談を言う。

「やっとご主様のところに来たのですか?」

「皆さん遅刻ですよ。」

「それと朱雀は、もう帰ってもいいです。」


どうやら金狐と朱雀は、なにかとライバル視しているみたいだ。


「金狐だけが主様を独り占めにするとかは無いでしょう」

「ご主人様にはこれから、この朱雀もお供いたします。」

そういうと朱雀の姿は女性に代わった。


ああ、そういう流れか


「アイトー、まためんどくさそうな女が増えたじゃないか。」

「姉さんはすごく心配だよ。」


「いやいや、メルダ姉さん 俺のせいじゃないから。」


「言っておきますが、アイト君の横に寝るのは、私ですからね。」

それを見ていた賢者様が突然、アレな爆弾発言をしてきた。


「いやいや、牽制するのが早すぎます。」

「しかも皆がいる前でそれを言うのはやめてください、賢者様。」


「ええっ、アイト君って賢者様と寝てるの?」

フレアが変に勘違いしていそうで怖い。


「いや、フレア、勘違いしないで」

「賢者様が一人で寝れないと言うから、ただの添い寝だから」


「アイト様、お子様という立場を利用して」

「賢者様をかどわかすとかしていないでしょうね。」


リーナめ、これはわかってて半分冗談を言っているんだろうけど

フレアが変に反応しちゃうからやめて。


「リーナ、その冗談は怖いから・・」

「いいか、本当に単なる添い寝だけ。」


「そうです、ご主人が手を出していいのはこの私だけです。」

えっ?


「カヤノっ!なに言い出すんだよ。」

事態がややこしくなるだろ。


「ご主人様、金狐だけではなくこの朱雀も・・。」

だめだこりゃ、収拾がつかなくなる。


「ああ、もうこの話はやめだ!」


ほら、メルダ姉さんが苦笑で涙目になってるじゃないか。


「我らは女性の姿には化身しませんが、添い寝なら・・」

おいおい、なんでほかの聖獣まで面白がってるんだ。


「もう、やめて、お前らそれ冗談で言ってるだろ!」


「あらあら、にぎやかになりましたね。」

「聖獣さんたちが、添い寝の為に顕現されるとは思いませんでした。」

「私はアイト君に精霊術を使ってほしかっただけなのですが・・・。」


賢者様、なんだか言い方が変だから・・。

しかも、言葉に少しトゲがあるから。


これは、早々に話を切って、本来の話題に戻さなければ。


「おいおい、皆聞いてくれ。」

「俺は、この世界の精霊魔法みたいなのを使いたい。」

「その助けをして欲しいだけなんだ。」


「若様が窮地に立ったら我らも共に戦いますぞ。」


「ああ、その時はこちらから頼む」

「だから今は、戻っていてくれ。」


「ふむ、皆のもの 若もこう言っておるし、一度戻るとするか。」


「以前の様に使ってくれるのなら、何ら問題は無い。」


こうして3聖獣はスッと消えてくれたのだが、朱雀だけは残った。


「私は、このまま。絶対にこのままご一緒します。」

そう言って、半泣きしながら抱き着いてきた。


「ああ、もう仕方がない、許可するから抱き着くのだけはやめて。」

聖霊獣と言うのは気まぐれで、

主人のことが好きすぎると、人型の女性へ化身するやつもいる。

そもそも精霊体には性別などは無い。


残りの三匹が人化しなかったのが、せめてもの救いだ。



この時から俺の従者は、

金狐のカヤノと朱雀のアケノの二人になった。


この為、

しかたなくパーティー編成からサードが抜けてアケノが入った。


そして俺は精霊術を使う方法を聖霊獣たちから学んだ。

術の行使とはイメージと思いの強さだ。

それに呼応して聖霊獣が力を貸してくれる。


「賢者様、これで何とか使えるみたいです。」


「あら、一時はどうなる事かと思ったわ。」

「それと・・アイト君、よくできましたね。」


「あなたが成長する時は、いつも私たちの想像を超えるのね。」

「そして、あなたを取り巻く出来事の多さも想像を超えるわ。」


誉めてはくれたけど、どうやら賢者様は呆れかえっているみたいだ。


確かに、俺が旅に出てからまだ8日。

この短い間にいろいろありすぎるだろ、どれだけ駆け足なんだ。


そしてこの階層での戦いは、どうなったのかと言えば

まずは初歩魔法だけを使って、確実につぶしていく方法を試みた。


確かに火魔法で焼くのは速いが、

どの様な魔法でも収束して発射すれば、初歩魔法でたいていの魔物は貫ける。

これは魔法制御のしかた次第だ。


魔法制御を覚える意味でも、この課題は、良い訓練になる。


俺のような特殊な精霊術の場合は、とにかくイメージと集中力。

これが制御につながる。


要するに実際に魔法を使用するのは俺ではなく聖霊獣たち

俺は契約している彼らの力を使わせてもらう存在で

言い方を変えれば、精霊師というのは精霊に特化したテイマーに等しい。


そして何とかこの階層も終わり

4階層へと入った。


ここは野原と言うか、少し湿地が混ざったような大部屋が多い。


ここで初めてスライムを見つけた。


リアルのスライムは不定形で、半透明だった。

サーチして、その辺にいるのがわかっていても

湿原だから水たまりかと見間違える。


見た目は、アメーバが大きくなったと思えばいいだろう。


石の玉のような核を壊したら終わり、なんてことはない。

だいたいそんなものは、見あたらない。


生物である以上、

主要な組織があるので、それをが弱点らしい。


だが刺激を与え続けると防衛本能なのか、分離する。

下手をすると増殖してしまうので迂闊な攻撃はできない。


動きは遅いし、近づかなければ襲ってこない。

人が近くに足を踏み入れても襲うまで時間がかかるし

まとわりつかれると気持ち悪いだけで殺傷力は低い。


ポイズン持ちもいるようだが、魔物としては面倒なだけで

魔石も素材も取れない厄介者として嫌われているらしい。


だからこれの巨大なのは、脅威度が高く設定される。

確かに大きな奴は人を飲み込み窒息させる可能性がある。

しかし、どちらかと言えば厄介度が高いのだろう。


誰も得をしないのに倒さなければならない迷惑害魔物だ。


フレアとリーナは昔からこれが出た時は

退治したければ、こうするという方法があると言った。


方法1、油をかけてから焼く

表面に火がつけば中は温度の上昇とともに死滅する。

要するに主要組織が沸騰して死ぬ。


方法2、給水石を砕いた粉をかける。

水分量が多いので水分を無くしてしまうことで身体が縮み

主要組織しかなくなると動かなくなり、やがて死ぬ。


ナメクジかよと言うツッコミは半分正解。


方法3、手元に何もなければ穴を掘って埋める。

勝手に休眠するそうだ。


これは迷宮内と言うより外にいる場合。

畑や家畜を荒らされた場合の手っ取り早い対処方法らしい。


基本的に、襲われたのでなければスルーしていいし

襲われても大量の水で洗い流せば済む。


これは農民の子供でも知る対処方法なのだ。


こいつらって経験値にもならないようなクズ魔物なのか。


結果、やはりスライムはザコだったというのが感想。

これで、俺の中のスライム最強説は消えたな。


迷宮においてスライムがいる場所には、

植物系モンスターもいるらしい。


植物系モンスターの中には、このスライムに種子を植え付けて

寄生しながら育つやつもいる。


植物系モンスターの糧なのかスライム・・。

少し可哀そうになってきた。


ここでメルダ先生からのワンポイントレッスン。

スライムは植物系モンスターに含まれ、粘菌類に分類される。


基本種は水分量が多いアメーバ体だが、

上位種には粘性が高いジェル体やゼリー体もいる。


それらには、クラゲのように弱毒を持つものもいて

基本種とは違い、脅威度が設定される。


クラゲ程度に攻撃力を持つやつもいるんだ。

確かに見た目からも陸クラゲと言えるかもしれない。


体長も個体差が大きく、それによっても脅威度は変わる。

最大5メートルクラスのものも発見された例があるらしい。


変異種が発生しやすく、その都度の個体で脅威度設定されるため

ピンからキリになるそうだ。


要するに、ザコとは言い切れない個体もいるから

スライムに謝っておくことにした。

なめて、すまん。


しかし、所詮は単細胞魔物なのは変わらない。


生態的には動物の死骸や植物を糧にしており、

サイズが大きければ生きている動物や昆虫なども対象になる。


酸化して溶かす能力はなく、

内臓組織らしいもので細胞を浸食する消化行為が

酸化しているように見えるとは言える。


もちろん服が溶けるなどは無い、

気持ち悪くて脱いじゃうという行為はあるが・・。


最終的に俺の中のスライムというのは

陸のクラゲということで落ち着いた。


スライムの天敵は同類のスライム系、胞子を撒くキノコ系、

種子を寄生させる一部の樹系だけで、他の魔物も相手にはしない。


そして植物系魔物に関してだが


種類が少なく、ほとんどの魔物は、発生場所から動かない。

ごく一部分だけ動かせることができて、

枝を振り回したり蔦を絡ませるなどで攻撃してくる。


中には花粉毒を持つものや、花粉により幻覚を見せるものがいる。

棘を持つものは、刺して痺れさすなどの攻撃をする。


相手の動きを鈍くさせて拘束し時間をかけて栄養にしていく。


しかし攻撃範囲は狭く、近寄らなければ何ら問題は無い。


「ようするに、植物階層は探索が主体の階層です。」

「戦闘はしなくても問題は無いでしょう。」

フレアが言うには、そういう事らしい。


外にいたら危険だから退治はするのだが、

迷宮内では邪魔にならなければ放置だ。

あえて戦わずともいいなら察知をするだけに留める。


迷宮の中には、そういう階層もあるんだということを知った。


「ただ、一部の湿地に両生類系などがいるかもしれないので」

「警戒はしておいてください」


「了解」

両生類ねえ、カエルとかか・・?。


「アイト様、ここにはいませんが、この先へ進むと湿地帯が増えます。」

「そちらに動く魔物がいます。」


「ナビがこう言ってるけど」

「ここはスルーして、そこへ行くか?フレア」


「そうね、この先へ行きましょう。」


そこにいたのは、カエルじゃなくてワニだった。


奴が両生類系魔物なのかはともかくとして

湿地帯が広がる場所って、水もあるしワニもいるんだな。


湿地帯の中央に少し池のような場所があって、そこにワニがいた。

どう見てもワニにしか見えないけど、あまり大きくはない。


「あれも魔物なのか?動物にしか見えないな。」

地球にいるワニの方が大きな奴もいたくらいだ。


「アイト君気を付けて!」


俺が何気に先へ進むと、フレアが叫んだ。

その時10メートル以上も離れた場所からワニが飛んできた。


慌てて縮地術で後退したものの

凄い速度で、そのワニが迫ってくる。


なんだこいつ、飛ぶわ速いわ。


「ご主人!」「主様っ」

シュシュン

気が付くとカヤノとアケノの二人が同時に攻撃して、

ワニの動きは止まった。


「ふーっ、二人ともありがとう。」


「アイト君、気を抜いちゃだめじゃない。」


地球にいたワニと似てるという先入観が出ていたみたいだ。

よく見ると体の大きさに比べて

後ろ脚がかなり発達している。


体型もずん胴ではなく尻尾が短いことから

飛んだり走ったりできるのが分かった。


「フレア、もう認識したから大丈夫だ」


やはり魔物なんだな。

これは二足歩行する上位種とかもいそうだ。

そう考えると恐竜に近いかもな。


この後、かなりの距離を取って

遠距離から魔法で攻撃することになった。


このワニに似た魔物は水棲魔物の一種だということを付け加えておく。


この階層が終わるときに

俺が指摘されたのは、魔物に関する知識不足。


魔物に関する書籍は多くあるので、

そういったもので自習するべきだという話だ。


確かに前世の感覚と、この世界の魔物は異なることが多い。


いちいちメルダ姉さんから教わってたら時間がかかりすぎるし

図書室を有効活用するべきだった。



そして5階層へ

ここは草原迷宮だった。


獣系なのか人型なのかどっちなのだろう。

いやいや、先入観はまずい。


「ナビ、広範囲に探索、魔物対象を見つけたら鑑定してくれ。」


「アイト様、獣系魔物が周辺に分散しています。」


どうやら単独行動をする獣系らしいが、まず見つけたのは猪系だった。


かなりの巨体で、察知されると突進してくる。

長い牙での攻撃もあり、猪と言うより鼻が短いゾウだ。

俺の中のアダ名はブタゾウ君にきまった。


盾職役がいないから

突進されたら土系呪文で壁を作って対応していった。


また、他にもヤマアラシのような奴がいた。

もちろんサイズ的には、地球の大きな猪サイズで

同じように突進してくる。


身体中が槍のような針でおおわれているから

やはり同じように土系呪文で壁を作り対処していく。


先へ進むと、中型犬サイズのアルマジロが数匹たむろしていたが

岩石を背負っているような奴だった。

こいつも丸まって突進する。


この階層では、盾の重要性を思い知らされた。

俺しか土系呪文が使えないから、盾職役になるしかなかった。

ちなみに盾職のギルカさんはちゃんと土系魔法が使える。


工夫としては土系だけでなく風系での壁もありだ。

そうすると魔法アタッカーのフレアに

負担が行くため負担分散として仕方なかったことを付け加える。



6階層も同じく草原迷宮


鎧をまとったような皮膚を持つ巨大トカゲが火を吐く。

サラマンダーかよと思ったが、性質としては半分正解のようだ。


そういえば火を吐く魔物ってどんな構造してるんだろう。


基本的には、二種類。


普通に魔法を使える場合と

体内にメタンガスのような引火性のガスをためて

ガスを吐き出すときに着火する場合らしい


あまり質問するとまた無知を指摘されそうだ。

魔法を使える魔物がいるなら

火以外の魔法を使うやつもいるのだと思っておくことにした。


この階層には、以前戦ったことがある狼系で火を吐くやつもいた。


やはり盾職がいないと動きの速い魔物を止めるのは大変だ。

地味に前衛の大切さを思い知らされた。


もちろんいざとなれば、聖獣達が盾の代わりをしてはくれるし、

よほどの時であれば、サンちゃんもいる。


しかし、賢者様からの課題として、

魔法だけで何とかすると言うのが優先事項だ。



そして俺としては、初めての7階層へ


おなじみの洞窟迷宮タイプに景色が変わる。


ここで出てきたのは、オークだったが、結構な集団だった。

以前の時は3匹程度だったのが、

一度に襲ってくるのが6匹から8匹いて、数の暴力だ。


また、連中の装備も以前の時よりまともで、

狭い中でも回避行動をとりつつ対処する。


盾職がいないから、いわゆる砲台魔術師なんてことは無理だ。


砲台魔術師と言うのは、

その場で止まったまま長距離で魔法をぶっ放す奴だ。

敵を見てから長い詠唱をしだす奴は典型的な例でもある。


戦いの場において普通はあり得ないのだが、

どうもヒューマン領に、こういう連中は多いようだ。

こういう連中は、砲台魔術師と言う別称がついてしまう。


本当ならどのような戦場であれ、敵に狙われないように動き回り、

出来るだけ無詠唱か、もしくは簡易詠唱であっても、

強力な魔法が打てなければならない。


だから魔法職は、魔法力を上げ、体力訓練も必要だ。

それと、後衛だろうが真っ先に身体強化するのは当たり前になる。


これは、うちの館の先生連中の受け売りだけどな。


だから、階層を深く潜るというのは、

魔術師にとって、いろいろ大変になる。



そして、8階層へ 

やたら天井が高いと思ったら

俺にとって初めての飛翔魔物が相手だった。


ここには鳥系だけではなく、小型の飛翔恐竜系までいた。

人の大きさ程の小さなワイバーンだ。


ここで初めて飛翔術を使うことになり

魔物との空中戦を経験する羽目になった。


地面に足がついていないだけで、身体が安定せず

飛び回れば目が回り、頭が下を向くこともしばしば


戦闘機のパイロットは、マジですごいと思う。


魔法の中には追尾型のものもあるが

撃ちっぱなしておけば勝手に自動追尾してくれるような

ホーミングミサイルみたいなものでは無い。


ちゃんと制御をしなければ、動き回る相手には当たらない。

ここまでの中で一番、飛翔魔物が厄介だと知った。


飛ぶのが得意なアケノが補助してくれなかったら

早々にギブアップしたかもしれない。


飛翔してまで戦闘しなければならない回数は

それほど多くは無かったが少しトラウマになった。


単純に倒すだけなら、

うちの空戦アタッカーである朱雀に任せればいいのだが

それでは俺たちの訓練にはならない。


苦労の中でこそいろんな事をが学べるから仕方がない。



そして、変則パーティーとして、

最後の9階層目へ。


飛翔魔物がここにも出てきたのだが

それほどの速度で動き回るやつじゃなかった。


最初の接敵は人型飛翔魔物、いわゆるハーピーと言うやつだ。


上半身は女性で腕は羽、下半身は鳥だという表現は合っているが

実物は、キモイの一言。

鳴き声もキィキィうるさく、ゴブリンの比ではない。


ただ、腕が無い分、攻撃の警戒は足だけになる。


どうもこれは系統の大枠では鳥系ではなく

デビル系に入るらしい。


他に出てきたのは、ガーゴイルだった。


よく石造の真似をしていて云々と前世で聞いた事があるが

そういうものはゴーレム種に属するらしい。


実物はコウモリを大きくして、頭と身体がコブリンといったものだ。

こいつらもコブリンみたいに鳴き声がうるさい。



どうやら、デビル系と言うのは

悪魔が動物を元に受肉して魔物になったと考えられるらしい。

悪魔種としては下位級になる。


一方で、同じ悪魔種のデーモン系は

精神体がそのまま人型に顕現しているから

悪魔種では上位になるという。


前の階層で、飛翔専門の魔物と戦ったためか

飛翔速度が遅いので、思ったほど大変だとは感じなかった。


こいつらが武器を持ったり魔法を使いだすと

また変わるのかもしれない。


この階層を終了して理解したのだが

どうやらあの鳴き声は、精神攻撃の一種だった。


実際には混乱や恐慌になるらしい。

いわゆるデバフ攻撃だ。

だから盛んに鳴いていたのかと理解した。


俺には全く効き目がなかったからわからなかった。

うるさくて集中しにくかった程度だったのは

装備と精霊力で精神防衛力が高かったみたいだ。


9階層が終わり、全メンバーが再び合流。

10階層のボス部屋へ向かう事になった。


どうやら俺らよりもレベルが高いギルカさんやミルさんも

ところどころで苦戦したり指導を貰ったみたいで

良い訓練になったと笑顔で話してくれた。


二人にとっては新武装に慣れる為の訓練でもあり

どうやら使いこなすことが出来たみたいだ。


ちなみに気になっていた装備姿だが

リアさんは、バニーガール姿ではなかったが

チャイニーズドレス風。

ララシア様は少しゴスロリ風だったので大いに満足した。


リアさんの武器は弓か鈍器だと想像で勝手に思っていたが

実際には青龍偃月刀のような薙刀だった。

これまたデザイン的にもマッチしているのが良い。

そしてサブ武器は鞭系らしい。


鞭系の武器というのも色々あるが

これは鎖状剣の一種みたいだ。

鎖状に剣の刃がついていて広範囲を攻撃する。


支援系職の鞭系武器は足止めや動きを止める使い方が多いから

純粋に範囲物理アタッカーなのだろう。

そういった意味で主武器が青龍偃月刀みたいな感じだというのも理解した。


範囲魔法が苦手な獣人族に良くいるタイプらしい

確かに単体攻撃主体だとこの間のように数が多い相手に対しては不利だ。

物理攻撃が得意な獣人の中に

一定数こういった範囲物理攻撃が出来る獣人がいるということが分かった。


パーティーとしては使いどころが難しい武器だと思うが

広範囲に対する攻撃力は相当なものだと思う。


ララシア様は魔法銃だったが、俺のとは違い拳銃だ。

しかも二丁拳銃スタイルだった。

いつでも取り出せるはずなのに、腰にぶら下げている姿がこれまた良い。


そしてサブ武器がパラソル?!にしか見えない。

何の効果があるのか不明だが、かわいいお嬢様パラソルだった。

日傘をもった散歩中の幼女お嬢様にしか見えないのだが、とても似合う。


気にしてなくて失礼だったけど、サリナさんは革ジャンに革パン風。

元暴走族リーダーの姉御のような、かっこいい姿だった。

腰にぶら下げた刀がこれまたりりしい。


ピッタリしてて体の線が見えるから色っぽくもある。

サリナさんも鬼軍曹モードじゃなければ美人さんなのでとてもいい。


俺はきっと獣人の血が騒ぐとああなるんだろうと思っている。

何せ獣人の中でもかなり好戦的な虎人の血が入っている。


どうやら上位者達は装備と言うより衣装だ。

前世のコスプレみたいで非常に心が癒された。


しかしここで気を引き締めなくてはならない。


いよいよ本格的に生徒メンバーで10階層のボス部屋に突入するのだ。

もちろん指導メンバーも一緒だけど、手は出さないという。


階層ボス部屋と言っても、ボスが一匹しか出ない場合もあるが

子分が出てくる場合もあるらしい。


それによって、戦い方は大きく変わることになる。

瞬時に戦略を考えて、各々が動かなければならない。


ここで俺たちの前に現れたのは、

体長3メートル級のデーモンだった。


10階層ボスとしては、

かなりの強敵だということで注意とのこと。


まず、デーモン系の特徴として

ノーマルの物理攻撃ではダメージ無効。

そして魔法防御、魔法攻撃をしてくる。

もちろん飛翔する。


物理攻撃をしてくる場合もあり、当たれば精神攻撃になる。

そして、下位の悪魔種を呼び出したり、武器を使う。


悪魔種、特にデーモン系には系統やら階級やらがあって

どのクラスなのかによって、戦い方が異なるようだ。

要するに個体ごとに脅威度が変わる。


いわゆるネームドモンスターと言われる

個体名を付けられる場合が多いのも

デーモン系の特徴になる。


このボス戦において、指導メンバーからは、

すべてのアイテムの使用許可がもらえた。

もちろんナビの助けも借りられる。


課題は

自分たちで考えて、最大限できることをしなさい。

という簡単なものだった。



まずは敵の様子見の為と言うことで、

リーダーのフレアから指示がでる。


初撃は、長距離から

ミルさんが風の魔法を乗せた弓攻撃をおこなう。


もちろん弓は、ララシア様作の魔法武器で

命中率向上の他、距離延長、威力増加などの効果がある。

取り回し重視の連射もしやすい小型の狩り弓形状だ。


矢自体にも魔法効果があるが、

そこに風魔法を加えて速度と威力を上げた一撃を放つ。

ただ、一撃と言うが実は3連の矢を一度に放つというものになる。


これは防壁などの状態を見たり、

相手が何を召喚するのか、どう動くのかを見る為の攻撃だ。


そして、音もなく凄い速度で3本の矢が飛んでいく。


デーモンが瞬時に魔法防壁を張ったようで、

一瞬光り、矢の速度が少し落ちたように見えた。


その様子を見てどのくらいの位地に防壁が出るのかを

見極めるらしい。


そして身体にあたる寸前で、矢は手で薙ぎ払われた。


ここで推測できることは、物理攻撃無効の身体であっても

矢自体に魔法効果があるから防御を行ったということになる。


ただ、あの速度の矢を手で薙ぎ払えるということ自体がおかしい。


これは長距離からの攻撃では、こいつにとって

攻撃の軌跡で読み取り、充分対処できることを意味する。


ここでギルカさんの判断で、

このデーモンは魔法多様型ではなく、物理攻撃型だと推理。


それを受けて距離を詰めるという指示がフレアから出た。


同時にデーモンが魔剣を召喚したことからも

魔法を撃ってくる回数が少ないと予測できた。


リーナからは、さっきの魔法防壁の位地は

デーモンの約2メートル前との話が出て

その範囲内での接近戦で戦ってみることになった。


もちろん防壁の位地は変化させることが出来る。

とはいえ、相手も接近戦をしてくる可能性が高く。


魔法防壁の位地をいちいち近くに変えるより

こちらへの攻撃を主体にしてくるだろうということだ。


フレアからの指示で俺も近接戦闘に加わる。

カヤノとアケノも俺の左右について近接に加わることになった。


「ギルカ突入してっ!」

フレアの叫びと共に、俊動でギルカさんが、デーモンの懐に突入。

ドンッという音とともに、盾で体当たりを行った。


「いけえええ」ギルカさんが叫ぶ。

そのままバッシュスキル発動と同時に

盾から例の杭が出て、何と雷撃を発動。


バッシュスキルは、

ノックバックさせたり麻痺系の効果を与えるものだが

そこに更に雷撃が加わるのだ。


剣で防御される前に、ギルカさんの盾攻撃が入ったことで。

ノックバックはしなかったものの、一瞬動きが止まった。


「アイト様行きます!」

ミルさんの号令で、近接アタッカー役の俺たちも突入。

4方向からの近接攻撃をおこなった。


一瞬後に、デーモンが剣を振り下ろしたが、

ギルカさんが、それを剣で受け止める。

ガッキーンと言う鈍い音が響いた。


ギルカさんは、

そのまま盾を使って、ゼロ距離を維持しようとしているわけだ。


俺たちアタッカーの攻撃は、物理無効により威力は当然低下したが

魔法効果分と精霊獣2人の攻撃によるダメージが入る。


デーモンはそのダメージを受けて大声で吠え

再び剣を振り回そうとしたところで

攻撃範囲を避けて後ろへ距離を取った。


その瞬間、フレアとリーナの魔法攻撃が入る。

距離2メートル内での近距離魔法攻撃だ。


威力の高い魔法攻撃や範囲魔法は味方にも危険性がある為

フレアが風槍、リーナは水槍を発動している。


当然デーモンの攻撃が、かする距離でもあるから

周囲を移動、攻撃を回避しながらの発動だった。

これがデーモンに突き刺さる。


魔法攻撃は有効だ。

ダメージが出たのか再びデーモンが吠えた。


俺たちアタッカー組は、その瞬間飛翔術で上に飛ぶ。

2回目の攻撃に入る。


デーモンが大振りして薙ぎ払った剣は空を舞い。

怒ったデーモンはもう片手でギルカさんを殴りつけようとした。

懐で張り付いているのが、相当邪魔なのだろう。


ギルカさんはそれを盾で受け止めると、剣を横殴りにした。

ドカッ、ズズン。

切るというより横腹に叩きつけるという感じだ。


腹を抑えて、距離をとろうとするデーモンに俺たちが上から攻撃。


ギルカさんは、離れないように俊動で再び懐に密着。

最初の時と同じことの繰り返しだ。


この間でも魔法攻撃をフレアとリーナの二人が仕掛け

とにかくダメージを蓄積させていく。


ギィーアーアアア


ついにデーモンが大きな声を上げ、羽を出して飛翔しだした。

地上で戦うのが不利だと思ったのだろう。


「ここからが本番よ!」

フレアからみんなに気を付けるように指示が飛ぶ。


デーモンの飛翔速度は、それほど早くはないが、

巨体からの攻撃を食らうのはまずい。


ギルカさんも飛翔できるが、

盾としての防御効果は著しく低下する。

そのまま地上で待ち構える方がよいと判断したらしい。


残りのメンバーで、

とにかく地上へ叩き落すことを優先することになった。

飛翔をするためには羽がいるらしいからそれを狙うというわけだ。


空中に逃れたデーモンは魔法を発動しだした。

狙いは地上にいるギルカさんだ。


「あっあぶない!」俺は叫んだが

火炎魔法が飛ぶ先のギルカさんは、その場を動かない。

そのまま盾で魔法防壁を張って、それを難なく防ぐ。


俺があっけに取られてると

ミルさんがいつの間にかデーモンの後ろに回っていた。


デーモンの魔法発動の間隙を縫って移動し

サブ武器の鞭を使って左の羽を攻撃する。


支援職の攻撃は多彩だ。

状況に合わせて武器や攻撃方法を変える。

これもかなりの修練が必要だろう。


それとともに拘束スキルと魔法が発動した。

デーモンの動きが止まったところで

右の羽をフレアとリーナが魔法攻撃をおこなう。

これは連射だ。


「今よっアイト君たちは左から攻めて!」

これを受けて

俺とカヤノとアケノの3人で左の羽を攻撃する。


グワアアアアという声と共に

デーモンが落下した。


ダメージで、飛翔術が解けたらしい。


いつの間に移動したのか

落下地点でギルカさんが待ち構えている。


そのまま下から長刀で上に向かって、袈裟がけで切りつける。

見事に左羽が消えた。


何とかバランスを崩しながら降り立ったデーモンに

再びギルカさんが盾で突入。

デーモンは体勢を崩して尻もちをつく。

ズズーン。


フレアの次の攻撃指示は左足と剣を持った右手。


ミルさんが弓で足を連射。

フレアとリーナもそれに続く。


既に魔法防壁も解除されているようでダメージが入る。

後でわかったのだが、魔法を撃つ時は防壁を解除するのだそうだ。


立とうとしても立ちきれないところで

俺たちが右腕に攻撃を集中させた。


バランスを崩して、意味もなく振り回す程度の

攻撃などは簡単に回避できる。


数回の攻撃の後、所持していた剣が消えた。


どうやら魔力で顕現しているものは

ダメージが蓄積すると消えるみたいだ。

羽と剣がこれにあたる。


デーモンが弱ってきたというところで、

ナビが魔力低下により簡易鑑定可能と言ってきた。


「ナビっ、HPとMPの残量を教えてくれ」


「対象HP500、MP800」

簡易値なので、ざっくりとしたものだが目安にはなる。


これを聞いたフレアが

「もう終盤だけど、最後に何か仕掛けてくる可能性があるわ」

皆に注意を促した。


身動きが取れなくなってきたデーモンがここでまた吠えた。

ギィガァアアア


ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、

黒い円形の雲のようなものが周囲に現れて、

そこからガーゴイルが飛び出してきた。


「たぶんこれが最後のあがきよ。」

「アイト君たちにガーゴイルを任せた。」

「私たちは一刻も早くデーモンを殲滅。」


「よしっ、俺たちでガーゴイルを叩くぞ!」

役割としては、デーモンに攻撃を加えている仲間の邪魔をさせないこと。

だが次から次へと現れるので面倒だ。


「3聖獣、手伝ってくれ!」


「やっと出番ですな。」

「この小悪魔を消すだけでいいですか?」


「ああ、数が多いから手を貸してくれ」


「それは簡単なお仕事ですね」


次々現れた聖獣たちは、

人化するとともにガーゴイルを潰しだした。


あれっ、みんな人化するんだ。

というか殲滅速度はやっ


「対象HP250、MP120」


ナビからの情報でガーゴイル召喚で

魔力消費していることが理解できた。


魔力が減れば、

それだけダメージも入りやすくなる。

もう魔法攻撃もしては来ないだろう。


最後のガーゴイルを叩き潰して

俺たちもデーモンへの攻撃に移った。


「これで、とどめだーっ」

これは、いわゆるタコ殴りである。


たぶん全員が渾身の一撃をくらわしたところで、

デーモンが黒い霧とともに消えた。


残っていたのは、黒紫色の握りこぶしほどの大きさの魔石だった。


そこで俺は初めて魔石というものを見た。

「これが魔石なんだ。」


ボスを倒したからと言って宝箱とか、

アイテムが出現するわけでもない。


たまたま、デーモンだったから魔石が残ったらしい。


「討伐終了!」

フレアが宣言をする。


指導メンバーからも「お疲れ様」という声が聞こえた。

特に賢者様からは

「みなさん、非常に素晴らしい戦い方でした。」

とお褒めの言葉を貰った。


その言葉を聞くとともに、

ピコンピコンレベルアップします。

と聞こえて、俺は久しぶりのレベル酔いで倒れた。


まだ慣れないんだなコレが・・。

1レベルだけなら大丈夫だが連続で来ると目が回る。


しかし、このレベルアップというものは何だろう

ゲームみたいだけど・・・。

意識が薄れる中、そんなことを思った。





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