冒険の旅7日目、北の都カトス 魔法学園と訓練迷宮 (再び迷宮へ)
ダークエルフ領から帰ってきた翌日
いつも通りとは違う朝を迎えた。
ある意味わかっていたことだが
メルダ姉さんが俺の部屋に突入してくるまで
賢者様とカヤノに抱き着かれたまま身動きが取れなかった。
結果として朝食会議でアイトと寝るのは一人だけ
ということになり、順番を決めるという話になった。
ところがそれがおかしな方向へと行く。
ようは、俺と一緒に寝るのが公認となったことから
メルダ姉さんが参入してきたのだ。
それに対して真っ向から賢者様が反対
一人じゃ寝れないと駄々をこね
カヤノもご主人と離れられないと無理を言う。
この話を聞いたララシア様が
いっそのことベットのサイズを巨大にしてみんなで寝たら
という安易な発言をしたことで一気に収まった。
いやいや、俺にとって何の解決にもなってないんだけど。
周囲はお姉さんばかりだ
そして俺は見た目が10歳のいわばショタ。
ある意味、おいしい立場に早く気が付くべきだったと言える。
いや俺から見てじゃなくて・・だからね
そして、この日からメルダ姉さんも
この館の住人にちゃっかり収まったことは言うまでもない。
昨日の出来事についての話し合いの方が重要じゃなかったのだろうか?
優先順位が大きく間違っていると思う。
ところがこの後、更なる問題が発生した。
昨日同様、学園に賢者様とサリナさんが行くのはいいが
カヤノがついていくことで従者席の取り合いになったのだ。
カヤノは私こそが従者だからと譲らない。
あまり乗り気でもなかったサリナさんが渋々退くかに見えたところで
メルダ姉がとんでもない案を出した。
従者は従者で座って
俺は生徒であるフレアかリーナと同じ席に座ればいいという話だ。
きっと自分は一緒に座れないから
他の館メンバーも同席させないつもりだというのが見え見えだ。
しかし今度は、フレアとリーナの間で、ひと悶着が発生。
俺がどっちの席に行くのかと言う話になってしまった。
事を大きくしてどうするつもりなんだメルダ姉!
これ、朝のホームルームでやる事じゃないと思うんだけど
他の生徒たちは置いてけぼりで放心状態だ。
俺は仕方なくフレアとリーナと俺の机をくっつけて
9人掛けの机にした。
これで座る場所だけ何とかなったら済むだろうと意見を出し
とりあえずみんなをなだめてその場を収めた。
収めたつもりだったというのが正解だ・・・。
結果として俺の左右は賢者様とカヤノに落ち着いたのだが
意外に人気のあるサリナさんの隣を争う戦いに移行した。
もちろん安易に席をつなげたことで
賢者様の隣にも座れるからそっちも問題になる。
この間にクラス全員が我もと参戦したことで
クラス内の席替え合戦にまで発展したのだ。
結局、俺たちの机を元に戻して、
サリナさんが教員席へ行くことで落ち着きだした。
俺の安全の為なんだろうけど、従者の立ち位置としてはカヤノだろう。
賢者様にも教員席へ行ってもらった。
ホームルームの時間はこうして、席取り合戦で終わった。
結果、一番ニヤニヤして満足顔だったのがメルダ姉なのは忘れない。
きっと思惑通りの展開になったのだろう。
そしてようやくいつもの授業が始まる。
サリナさんはいつもと同じで基礎体力作りに重点を置いて
何故レベルが上がればステータスが上がるのに
基礎体力をつけることが重要なのかを教えてくれた。
レベルアップのステータス上昇時に大きく関わるという話と
魔術師であっても基礎体力の重要性を細かく説明する姿は
ちゃんとした先生だった。
鬼軍曹、いや鬼師匠だと心の中で言っててごめんなさい。
ちゃんと普通に先生もできるんだね。
同様に賢者様も魔力基幹に関する授業を行い
これもまた前衛職であっても魔力の重要性を細かく説明した。
近接系の技能スキル上昇や武技スキルの攻撃力に魔力は影響するという話だ。
もちろん魔力による身体強化の必要性と
魔力の差がその強化量の差になることを教えてくれた。
メルダ姉さんは、スキルに関する話とスキルポイントに関する授業を行い
戦闘訓練をすることで対応力が増し、スキルの上昇率が異なることを説明。
また、戦いにおける感覚とはスキルだけで補えるわけでなく、
いかに戦いの経験を多くするのかによって得られること。
これらは同じレベルでも大きな差を生み
安易にレベルアップすればいいというだけではないことを教えてくれた。
3人の話を聞けばわかるが、
地道な訓練をおこなえば能力が上がり、実戦で巧者になり
レベルが低くてもレベルの高い相手を倒せるということに繋がる。
また、レベルやステータスという数値だけにこだわるのではなく
それを運用できる能力も大切であるということを理解した。
なるほど、レベルの差よりもステータスの内容
そして、数値に現れないが、戦い方というのが一番重要なのか・・・。
力を封印されてスキルや魔法が使えない俺にとって、
かなり有効な授業だったと言える。
なるほど、こんな俺でも戦いを繰り返すことで強くなれるんだ。
これで基礎の大切さや実戦訓練をすることの意味をかみしめた。
そして午後からは再び訓練迷宮の実戦訓練となる。
しかし、朝のような混乱を予感していた俺の予想は大きく外れた。
今回はメルダ姉さんも、賢者様も、サリナさんも同行はせず
俺の能力の一部であると認識されたカヤノだけが同行することになった。
表向きには生徒間によるパーティー訓練のほうが
成長において重要だという話だが、理由はわかっている。
先日の様に、魔神側が迷宮に干渉できないように
3人が防御行動をとるから同行できないというのが実態だろう。
賢者様がいる以上、
俺には理解不可能な魔法防壁を構築するのかもしれない。
そして、俺たちはパーティーメンバーだけで
前回同様にフレアをリーダとして迷宮に入る事にした。
今回は迷宮に入るとすぐに、俺がナビを呼び出す。
先行して探査・捜索をすることで
ある程度の情報を取得した状態で先に進む。
前回から比べたらかなり慎重な行動だが
これが本来の迷宮探検の仕方だろう。
前回は安全であることから何かと安易に考えていた部分もあり
いい経験になったのだと思う。
危機管理というのが一番重要だと思い知らされた。
今回、ナビとカヤノが加わったことで
パーティー内の役割が明確になり、対応力もあがった。
先行はナビ、前衛はギルカ
中衛に俺とカヤノ
後衛はフレアとリーナ
そして最後尾でミルが警戒する。
ちゃんと話し合ってからの行動だ。
今回の迷宮魔物はどうやら獣系だった。
1階層では、マウス系とラビット系
数が多く動きも早いが、物理攻撃しかしてこない相手だ。
猫よりデカいネズミと大型犬並みのデカいウサギ。
これらは人気の食材魔物でもある。
準備運動代わりに俺と従者メンバーによる物理攻撃で対処した。
これはフレアとりーナの魔力を温存することにつながる。
レベルも上がっていた俺はレベル酔いなどもなく。
ステータスも上昇しているから全く問題はなかった。
一番大きいのはチート装備なんだが・・。
また精霊師の能力により、自然に身体強化状態になって
ステータスボーナスがあるのも大きい。
いわばバフがかかった状態だ。
どうやらこれは、金狐であるカヤノの能力らしい。
だからカヤノが俺から離れないと言うのも正論だと理解した。
まあ、俺の中に入っていれば同じなんだけどな。
2階層ではウルフ系が混ざり始める。
この階層レベルだとやはり物理攻撃しかしてこない。
数で押され囲まれないようにしながら1階層と同様に対処した。
3階層目に入ると、やや迷宮の趣が変わる。
迷宮内の形も変化し、やたらと広場のような大部屋が多い。
部屋の中は、まるで野原にいるかのような錯覚を起こす。
敵がどこから襲ってくるのかも分からないため
事前にナビが察知してくれるのは助かる。
ここもウルフ系なのだが炎を使うやつが混じる。
「主様、あの炎が来たら私が防壁を張ります。」
俺はカヤノの力で精霊防壁を展開してみた。
これにより相手の火炎攻撃は範囲内にいれば無効となる。
カヤノは拳闘士の様に物理攻撃もできる。
ギルカとカヤノに前衛を任せて
俺が魔法銃、ミルが弓で、距離が離れた魔物を処理。
とりあえず円滑に進んだ。
4階層目に入ると野原ではなく森林となった。
出現する魔物と迷宮の形は連動しているのだろうか?
ウルフ系だが火炎を吐くやつが増加。
それと若干だが、かなり大型のウルフが混じる。
だが一番厄介なのはモンキー系だった。
大きさは人間の子供と変わらない。
いわば木の上にいるコブリンと言ったところだ。
こいつらは木の上を自在に移動する為
コブリンよりもやりにくい相手だった。
攻撃力は大したことはないが、物を使うし石を投げてくる。
その対策として
前衛をミルとカヤノにスイッチして
俊敏性を高めてアタッカー主体で戦うことにした。
出てくる魔物により
パーティーの攻撃スタイルを都度変化させていく。
おかげで俺にとっては連係プレイの良い訓練になった。
フレアの判断の速さと的確な指示があってのことだ。
そして前回トラウマになった5階層。
こちらも4階層とほぼ同じで森だ。
大型ウルフの比率とモンキー系が増えた。
モンキー系の中で若干大型モンキーが混じる感じだ。
いわばボス猿だ。
時々連中も連携してくるようになった。
これはボス猿の能力らしい。
今回は前回と違い、到達目標階層は決められていない。
決められた時間内にどこまで到達するのかは
パーティーメンバー内で決めるルールだ。
これは、帰りにかかる時間も想定しなければならない。
そこで5階層を制圧した時点で会議を行った。
「それでは、ここでいったん休憩とします。」
「そして、この先をどこまで進むのか決めましょうか?」
「フレア、俺はよく知らないが」
「殲滅した魔物が再ポップする時間はどれくらいだ?」
「それによって帰りにかかる時間が変わるんじゃないか?」
「そうですわね、一概には言えませんが」
「レベルの低い魔物程、再ポップまでの時間は短いですわ。」
「アイト様、1階層に出てきたような小獣系の魔物なら30分ほど」
「2階層目のウルフ系なら1時間と言った具合に」
「階層によって魔物のレベルが異なりますから、それを目安に出来ますよ。」
「高位種なら更に30分程長くなり、上位種なら1時間ほど長くなります。」
「フレア、リーナ説明ありがとう。」
「だいたい30分づつ伸びていく感じなんだな。」
「それじゃあ、もう一つ聞きたい」
「この先の階層に出てくると思われる魔物は想定できるのか?」
「迷宮がその都度変化するので難しいですが」
「魔物の系統からすると、5階層の魔物の上位種になってくると思います。」
「この階層でこれが出るというのが固定概念にならないように変化するので」
「あくまで想定と言うのは参考にしかなりませんの」
「なるほど、あらかじめ出てくる魔物が簡単に特定出来たら」
「考えが短絡化するし、臨機応変さが無くなるもんな。」
「その都度、考えて行動するのも訓練になってるんだ。」
「アイト君、その通りです。」
「それと帰還時間の検討に関してですが、」
「ナビちゃんの機能でかなり短縮ができるのではないかな。」
「自動マッピングとサーチの能力を利用できるし」
「最短距離を移動できるので、かなり時間短縮に有効だわ。」
「主様、帰りのこと心配してるの?」
「ああ、カヤノ」
「あまり深く潜りすぎると帰りに時間がかかるからな」
「帰りも同じ魔物を狩るなんて効率悪いです」
「その通りだ、ワープでもできればいいけどな。」
「ワープって転移の事?」
「入口まで戻るなら、主様なら簡単でしょ。」
「えっ?」
「アイト君?また何か隠しアイテムとか持ってるの?」
「いいえ、主様なら道具に頼らずともご自身の力で戻れますよ。」
「えええっ?」
「おいおい、俺そんな方法知らないんだけど。」
「単に精霊術を使って召喚門を開いて」
「空間を逆走するだけですよ。」
「精霊力がある今の状態なら何も問題ないです。」
「以前の時には使ってましたし・・。」
「アイト様は、転移門が作れるのでしょうか?」
「魔法で言う転移門と同じ作用といえますね。」
「本来呼び出すための一方通行の召喚門でも」
「出口さえわかっていれば、そこに門を開けばつながる。」
「これは昔、主様が考えた方法です。」
「じゃあ、カヤノ。」
「例えばあらかじめ入口に召喚門を置いておけば、」
「更に簡単に移動できるのか?」
「もちろん進む方向でも帰る方向でも有効ですよ」
「時空間で繋いだ道を行くだけですから」
この話を聞いて俺は全く別の恐怖を感じた。
この技術を使えば魔物を好きなところへ召喚させることが出来る。
これは魔神側に知られるとかなりまずい。
「ご主人の心配は無用です。」
「精霊の力と混沌の力は正反対の力」
「でなければ賢者様が多用されている精霊魔法なども利用可能でしょ。」
「おまえ、心を読んだな」
「まあいいだろう、混沌に関係している魔物は通れないことは理解した。」
「むしろそれをおこなったら、通るときに消滅しちゃいますよ」
「なるほど、なら全く異なる話になるのだが、一つ聞きたい」
「精霊術で広範囲に召喚門を開いたらそこにいる魔物は消滅できるのか?」
「もちろん、プラスの影響範囲のある場所にマイナスがいたらゼロ」
「消滅することになりますね。」
「それってまるで広範囲魔法じゃないか?」
「あくまで主様が考案した召喚門が使えるならですけどね。」
「アイト様、光魔法にはそれと似たようなものがあります。」
「わたくしの光魔法レベルでは無理ですが」
「アンデット系の魔物には似た効き目があります。」
なるほど、確かにRPGでは光の呪文にアンデットは弱いのは定番だ。
浄化して魂を天に返しちゃうやつ
ターンアンデットだっけか・・・。
あれもいわば天への道を繋ぐ門といえるかもしれない。
理屈はわからないが、
光魔法と精霊術には、似たつながりがあるのかもしれない。
「しかし、それを言うなら逆もまたありえないか?」
「マイナスのところへプラスがいってもゼロになる。」
「確かにご主人の言う通りですが、少し作用が違います。」
「混沌とは世界の理の中で、影響を与える程度の物ですが」
「精霊は世界の理そのもの。」
「混沌で世界が消えることは無いように、世界の理自体を消す力はありません」
「アイト様、関係する話かどうか分かりませんが」
「魔物とは元になる生命体、例えば動物に混沌と魔素が加わってできる物とされてます。」
「ですから、元になる生命体に影響があれば、傷を負ったり死んだりします。」
「ところが混沌だけ除去をしたところで、生命自体が消滅しないのでは?」
「うん、俺もリーナの意見と同じだ。」
「どうやら私の説明の仕方が悪かったようですね。」
「私の説明だけでは、リーナさんが言うことはごもっともです。」
「理解しやすいようにと思って、例として簡略化しただけですから」
「本来はもっと複雑です。」
「精霊術による召喚門とは、その中に入る場合、精霊に保護を受けます。」
「そうでなければ時空を超えることなど普通の生命には無理なことです。」
「精霊の保護が無ければ、魂自体が消滅することになります。」
「生命の核になる魂が消滅するという意味で魔物が消滅するという意味です。」
「なら転移魔法も同じ危険がある気がするけど」
「アイト君、転移魔法と言うのは場所を繋ぐ距離の短縮ですのよ。」
「時空に関係するものでは無く、空間に作用するものですわ。」
「似たようでありながら、異なるのではないかしら?」
ああ、そういえば正式には、空間転移だと聞いた事があった。
地点と地点を結びつけるという事か
時空と空間の違い
「じゃあ、アイテムボックスとかインベントリーとかはどうなの?」
「それは異空間を利用するから時空が関係するでしょうね。」
「だからそういうアイテムを作る場合には精霊術が使われるはずでしょ」
「でなければ中にあるアイテムの時間が止まることなど説明できませんわ。」
ふむふむ、正確に言えば時空魔法というものは精霊術とかかわるのか
確かに元素魔法で構築するの無理そうだ。
と言うことは重量軽減魔法とかも似たような感じなんだろうか。
「ただ一つだけ特殊な魔法があります。」
「無元素魔法とも言われる創造魔法ですわ。」
「これは、創造神の加護が無ければ行使は無理です。」
「今の賢者様でも、その魔法だけは使用はできませんもの。」
「それがあれば、この世界に存在しない魔法をあみ出して行使できるとか聞きました」
「伝説の魔法ですから、どういうものなのかは知りませんけど。」
「ほう、新しい魔法を生み出せる魔法か・・。」
「しかし賢者様も使えないとか、かなり特殊なんだな。」
「フレアもリーナもカヤノもありがとう勉強になった。」
「今度、賢者様やララシア様にもいろいろ聞いておくよ。」
「じゃあ、本題に戻ろう。」
「カヤノ、俺は何をどうすればいい?」
「召喚門の作り方ならご主人の頭の中」
「あとは精霊術を使って、六芒星を出して精霊に力を借りる。」
「悪いが無理だな、そこまでの記憶がない。」
「そのうち追々思い出すだろうけど・・・」
「今は他の聖霊獣を召喚する方法もわからないんだ。」
「みんなも無駄に時間を取らせて悪かった。」
「俺の力不足で役に立たなかったようだ。」
「アイト君、こういう話し合いも授業における訓練の一環ですわ」
「無駄なことなどありません。」
「お互いの知識を高め合うことも重要な課題ですから。」
「ええ、アイト様。精霊術のお話が聞けただけでも有意義ですわ。」
「フレア様もわたくしも精霊術にすごく興味ありますもの。」
そうだなディスカッションだっけか、いろんな話をして
お互いの知識を交換・検討するのも悪くないことだな。
「あー、なんなら、俺のいる館に来たらどうだ?」
「賢者様とかララシア様みたいに精霊術を使い込んでいる人もいるし」
「課外授業だとかメルダ姉さんに言ったらノーとは言わないだろう。」
「まあ、それは素敵な提案ですわね。」
「是非お邪魔させていただきたいですわ。」
「あのー、私たち従者もご一緒させていただいてもよろしいですか?」
「出来れば、サリナ先生の課外授業を受けたいのですが、」
「お許しいただけますか?」
「ええ、従者とはいえお二人も生徒だし、同じ仲間です。」
「充分参加資格があると思いますよ。」
「皆さんのことは俺からも伝えておきます。」
「なんなら、学園が休みになる明日でも構いませんし」
「どうせ俺は館で課題訓練しているし・・。」
「きっとこの会話は、既にナビが送ってるはず。」
「なあ、ナビ、そうだろう。」
俺は昨日のことで、その辺りは学んだからな。
ナビがいたらすべて筒抜けだってことを・・。
「アイト様、既に賢者様とララシア様には通信されています。」
たぶん俺の警護のために通信がオンラインになっているんだろうけど
こういう時はそれを逆利用してやらないとな。
「じゃ、そういうことで」
「今日は6階層を終了したら帰るのはどうかな。」
「ええ、それくらいなら時間的にも問題なさそうですわね。」
「では休憩終了、この階段から下へ移動して探索しましょう。」
そして6階層へ降りると、辺り一面が草原に代わった。
ところどころに木はあるのだが
これはどうやら対象魔物はモンキー系ではなさそうだ。
「フレア、こんなに状況が変化する場合もあるのか?」
「そうですわね、珍しいですが魔物が変わる場合にありますわ。」
「ナビ、警戒モードで広範囲サーチ」
「魔物を発見したら、即鑑定してくれ」
「了解」
「魔物がヒットしました。」
「距離500」
「対象は、コボルト及びオーク」
「えっ、こういう魔物も獣系にカウントされるのか?」
「人型だよな」
「アイト様がおっしゃるのはもっともですわ」
「たぶん浅い階層で、モンキー系が出ていたから」
「人型が混じった人獣系魔物が出たのでしょう。」
「そっか、コボルトは犬だし、オークは豚だったな。」
「戦い方を変更しましょう」
「対人型のシフトがいいと思いますわ」
「おっけー、指示はフレアに任せた。」
「盾のギルカを前面に出して」
「アイト君とカヤノさんが物理アタッカー」
「後衛はミルの弓とリーナと私の魔法」
「オークはこの階層レベルだとそう群れないですが」
「コボルトは仲間を呼ぶから要注意ですわ。」
「ナビ、魔物の数と混成しているか確認」
「オークは2~3体、コボルトは5~6体」
「この二種類の魔物は混成していません」
「それぞれ別行動です」
「一番近い敵はどこだ?」
「この先、200メートルまでコボルトが接近中」
「だそうだ、フレアどうする?」
「ナビちゃん、コボルトの他の群れとの距離は?」
「約100メートル離れた位置に2つの群れがあります」
「近いから、連続で戦うことになりそうね」
「皆さん、出来るだけ早めに殲滅しましょう。」
「了解」
「じゃあミル、距離50で弓攻撃」
「この地形だと70くらいで狙えるけどどうします?」
「逃げられたり仲間を呼ばれると面倒だから」
「50まで引き寄せてからの方がいいわ」
「了解」
「コボルト接近、距離50」
「風よ我が弓矢の力となれ」
「蒼穹弓術3段、連奏!」
バシュッバシュッバシュッバシュッバシュッ
「アタッカー突進」
「はいよ、行くぞカヤノ」
「はいっ主様」
「精霊術、縮地法」
シュシュン
「手前コボルト群殲滅」
「右100メートル、コボルト群接近中」
シュシュン
「速攻で戻ったけど、次は?」
「右側」
「先ほどと同じ手順で」
「了解」
「左150からコボルト群接近」
「近いわね」
「さっきの様子だと、ミルとカヤノさんだけで右を叩けるかしら」
「残りで左を叩きましょう」
「アイト君、魔法銃で遠距離射撃をお願い。」
「右が早めに殲滅できれば、仲間を呼んでも集まれない」
「連携させないように、確実に足止めしてください。」
「動きが止まったところで私たちが魔法攻撃します。」
「ギルカさんは左右を警戒して撃ち漏らしがあったら支援。」
「左攻撃後、アイト君はナビちゃんとオークの動きを監視」
「場合によっては足止めをお願いね。」
「了解」
こんな感じでまずは、左右のコボルトを殲滅し
中央から接近してきたオーク3匹を俺が足止めして
ギルカさんが突っ込み
フレアとリーナの魔法で撃退した。
これによって、
この階層における連係プレイの基本的な戦い方に慣れた。
俺たちはこの後も次々と連戦していった。
この6階層では途中でオーク6匹の群れが
2回ほどあったくらいで、戦い方には全く問題はなかった。
オークは確かに力はあるが動きはさほどではない。
ギルカさんが盾で攻撃を押さえてくれれば、俺が魔法銃で足止めする。
似たような戦い方をしてくるホブコブリンと戦った俺たちにとっては
さほどの脅威でもなかった。
7階層へ降りることが出来る部屋を見つけた時点で探索を終了。
帰りはナビをフル活用で最短距離を帰還した。
最後の方は余裕もあって、隠し部屋が無いかとか言ってたくらいだ。
俺にとって二回目の迷宮はこれで終了。
レベルは2程しか上がらなかったが、
これくらいの階層までなら経験値としては順当らしい。
今回はそれだけ戦闘に貢献して経験値が入ったわけだ。
俺的にはようやく役に立てるようになったという感じがした。
まあほとんどは、チートアイテムのおかげなのだが・・。
ただこの先、目標である30レベルを目指すなら
さらに深い階層へ行くか迷宮訓練の回数をこなさなければならない。
そんなことを考えていたら
賢者様曰く、どうせフレアとリーナ達も交えて館で課外授業するなら
みんなで迷宮合宿しないかと言う話になった。
泊まり込みで迷宮にもぐるなんてすごくワクワクする。
フレアとリーナ達もその案に大喜びだった。
そしてどうせなら今日から館に泊まっていけばいいということになり
フレアとリーナ達は準備に一度戻って館へやってくるという。
とんとん拍子に話は進んでいった。
出発は明日の朝一番で決定だ。
その日の夜、大人数でのにぎやかな夕食後。
俺は珍しくララシア様によって図書室に連れていかれた。
行きたいと思ってたけど一度も入ったことがない図書室。
ララシア様がよくここにいると聞いていたのだけど入ってびっくりだ。
本がずらりと並んでいる?!・・・・わけではなく
どう見てもコンピュータにしか見えないものが棚のように並び
部屋の壁一面には、無数の画面が並んでいる。
そして中央には、ひときわ大きな画面があった。
画面に映っているのは、ナビにやらせた時の監視映像だ。
図書室というより、監視制御室?。
各地の情報取得がここでできるという代物だった。
では図書とは何か?
まずはコンピュータを扱うかのように検索を行い概要が出る。
これは図書館にもあるような検索システムと同じだ。
その本が読みたいと思ったら、
部屋の中にあるアイテムボックスから本が飛び出す。
これは確かに図書館だ。
俺がいた日本は、この世界より近代化が優れていると思ったが
こんなものが存在しているのなら、こっちの方が未来の姿だ。
それで俺は、魔神側の召喚者の中にいるかもしれない
危険人物が例え大戦時の天才だったとしても
それ以上の物を作れる大天才が、ここにいる事を理解した。
そこで俺が思いついた監視衛星の話もしてみた。
ララシア様もそれを面白がり、すぐに製作に入ろうと言い出した。
ただの飛行物だと飛翔魔物に襲われる可能性があるが、
魔物が到達出来ない高高度からの監視は面白そうだという話だ。
楽しんでいるララシア様を見て調子になった俺は
近代にあった様々な物の話をした。
それこそ武器や兵器から家庭・雑貨用品までいろいろ。
ララシア様はそれを音声記録していたから
この世界にない物でも、そのうち類似品が出来てくるだろう。
但し、銃に関しては既に魔法銃があるように
既に一般用の武器として量産化しているみたいだった。
ララシア様としては戦争の道具と言う考えはなく、
俺の様に魔法が苦手な人に対する武装としての考えだ。
そのうち武器屋で魔法の杖の横にそれが並ぶのだろう。
あとはスペース物の映画にあるようなレーザーソードの話は
かなり食いつきがよかった。
もちろんこの世界にも魔法の剣とか召喚する剣はある。
柄だけあって刃先が伸びてくる様なギミックが面白いという。
まあアイテムボックスやマジックバックもあるのだから
武器など瞬間で取り出せる。
これは完全に趣味・遊びの世界だといえる。
いろいろ話してて思った、ララシア様はオタク発明家だ。
大天才だが発想がオタク寄りだ。
そして天才であるから実現できてしまう。
他には召喚門の時の話から思いついた、持ち運びできる
転移門の事も話した。
これは現状でも何とでもなるから即作れると言われた。
どこでも転移門って簡単だったのか・・。
久しぶりにララシア様と話して楽しい時間を過ごした。
俺は満足していたのだが、
ララシア様は真面目な顔をして話を変えてきた。
地球からの召喚者ではないかと言う映像があるというのだ。
見ただけでは誰なのかは俺にはわからない。
せめて名前とかわかるのかと聞いたら名前もわかるみたいだ。
ナビが出来ることくらいなら、
この部屋ならもっといろんなことが出来る。
あれは簡易端末だからと言われてしまった。
なるほど、そりゃそうだ。
ということで、旅をしているかのような二人の人物。
その名前を見て俺は驚愕した。
まさかこの二人が召喚者だとは・・・。
「宮本武蔵と坂本龍馬だ。」
歴史的に言って、この二人は他の人物程の悪評はない。
むしろ日本では、英雄的にあつかっているだろう。
俺としても武蔵にはやや問題もあるが、龍馬には思うところがない。
一応俺の知る限りの情報は教えておいた。
そこへカヤノが瞬間移動してやってきた。
「この人たちは敵として召喚されたが、やがて味方になるでしょう。」
おいおい、何でそう言い切れる。
それとこうも言う
「今のままでは役に立たない」
「この人たちが持っている特殊な能力に目覚めなければ・・。」
「少し強い魔物に襲われたら・・きっと死んじゃいます。」
要するに女神の加護持ちでもなければ、
転移しただけのただの人。
元々持つ能力がかなり高ければ別だが、人として多少強い程度では
魔法もスキルもないし、レベル上げもしてないなら
以前の俺と変わらないということだ。
しかも、この二人には混沌の力によるブーストが、
あまりかかっていない?!
微妙だな、俺には二人に何の敵意もないけど
敵として召喚された相手に今すぐ手を差し伸べるのは危険な気がする。
とはいっても簡単に死んじゃうとか言われると・・・。
「主様、人の縁とは魂の縁。」
「いつか縁が巡って繋がるときもあるでしょう。」
「焦らず見守っていることをお勧めします。」
「ああ、俺はカヤノが言うことを信じるよ。」
だいたい今の俺には人助けできるような力もない。
まだこの世界の事や自分自身についても知らないことが多い。
きっといつかそのときがやってくるのだろう。
そして俺はララシア様に二人の動向を追ってくれるように頼んだ。
「ララシアはもうマーキングしてますよ。」
「ほらっ」
中央の巨大スクリーンに地図が投影され
二つの点滅があった。
「この間の召喚者も含め、見つけ次第皆マーキングしてあるもの」
さすがララシア様だった。
この天才は先の手をちゃんと打ってある。
見た目は単なる幼女だけどな。
その後ララシア様は、地下の研究室に籠もると言い出し
俺はカヤノとともに自分の部屋に戻ることにした。
「主様、このまま二人でお風呂へ行きませんか?」
「おまえ、精霊体だから風呂とかいらないだろ」
人型に実体化しているとはいえ、汚れなどはつかない。
汗などもかかない。
着ている服自体も体の一部。
人と同じように着たり脱いだりできるがそう見えているだけだ。
「以前の時は一緒に入ってたのに・・つめたいですね。」
「そんなこと忘れた。」
などと話していたのだが、結局俺は風呂へ行くことにした。
カヤノはどこでも移動して来ちゃうから来るなと言うのは無駄だ。
むしろ他の人が来て混浴になるのは避けたい。
それはフラグというものですね。
そう・・・俺は自らフラグを立ててしまった。
サリナさんとか賢者様ならいつものことだから気にしなかった。
リアさんも一緒になったこともあるから気にしない。
しかし・・・
一番厄介な存在が、今日から館に引っ越してたのを忘れていた。
メルダ姉さん。
後の事は記憶から消すことにした。
まあ、フレアやリーナじゃなくてよかったと思えばいい。
そして就寝
どこで手に入れたのかそれとも作ったのが巨大なベットがある。
今日からここで4人で寝るのか・・・辛いな。
場所争いが起こる前に俺はとっとと先に眠ることにした。
明日から迷宮合宿だ・・ちょっと楽しみだな。




