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信川村の奇跡  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
五章 それぞれの想い
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支える者達 ~三島洋二~

村の人達シリーズ、第二段は三島洋二です。

 八月七日の夜更けに、三島洋二はさくらの家を訪れていた。


 明日には、家屋の捜索が始まる。

 洋二は、ギイ達の身を隠す為、山へ向かわねばならない。また、調査隊が活動を開始する前に、山へ入る必要が有る。

 朝早くに行動するなら、山に近い洋二の自宅で一泊した方がいい。その為、取材陣が寝静まった頃を見計らって、夜更けにギイ達を迎えに来た。


「お~い、みのりさ~ん! 起きてます?」


 玄関を開け、洋二は大声で声をかける。

 暫く待っても反応が無い。すると、洋二はスタスタと中に入っていく。そして、居間に明りが点いているのを見つけると、そっと襖を開いた。

 

「あ~、やっぱり寝ちゃってるよ。みのりさん、みのりさん。子供達は何処です? みのりさん?」


 洋二を待っている間に、寝てしまったのだろう。熟睡しているのか、みのりは目を覚まそうとしない。

 みのりの上に、夏用の布団がかけられている。みのりの体を案じた子供達が、行ったのだろう。

 では、その子供達は、何処に?


 洋二は、居間をぐるりと見渡した後、縁側に出て奥の部屋まで眺める。明りが点いている部屋は、居間だけ。そして屋内は、静まり返っている。

 洋二は、少し首を傾げていた。


 夜更けに迎えに行くのは、伝わっているはず。みのりが寝室では無く、居間で寝てしまったのが、その証拠だ。


 それと子供達は、森の中で暮らしていたと聞いている。

 ならば、周囲の音には敏感なはず。そして洋二は、玄関を開けた時に大きな声をかけている。

 幾ら人間の暮らしに慣れたとはいえ、直ぐに野生の勘は消えうせはしない。最初にかけた声に、ギイ達が気が付いてもおかしくはない。


 ならば何故、姿を現さない。怯えているのか? それとも警戒しているのか?


 あり得る事かもしれない。

 洋二が最初に子供達を見たのは、山の中だ。あの時の子供達は、酷く怯えていた。

 熊に遭遇した恐怖が、残っていたのかもしれない。そのせいか、猟犬である太郎と三郎にも怯えていた。

 

 そもそも、動物と人間を比べるなら、動物の方が身体能力が高い。それにも関わらず、人間が地球上で繁栄したのは、知能が勝ったからだけでは無いはずだ。


 人間は臆病なのだ。恐らく、草食動物よりも。

 危機に際して草食動物は、逃走や姿を隠す事を選ぶ。それに対し人間は、身を守る為に戦い、知恵を持って相手を制する。

 相手を恐れるから、その存在を望まない。だから容赦なく攻撃する。それが人間の性だ。だから戦争が無くならない。


 子供達は、人間の恐ろしさを、よく理解している。あの騒動で、より恐怖は高まったはず。ならば、身を隠しているのも頷ける。

 子供達が心を許しているのは、さくらとみのり、そして孝道だけなのだろう。


「孝道の奴に、迎えに来させれば良かったかな? いや、そういう訳にもいかないか。これから、俺と一緒に行動しなきゃいけない訳だし。慣れて貰わないと、困っちまう」


 洋二は独り言ちると、もう一度みのりを見やる。

 そして、目を覚ます様子が無いのがわかると、今度は奥の部屋に向かって、問いかける様に声をかけた。


「お~い。覚えてないかぁ~。三島のおじさんだよ~。山の中で会っただろ~。出ておいで~」


 洋二は、ある確信の下、声をかけた。

 あの騒動で、人間への恐怖を再確認させられたなら、家の外に出る事はない。外に出れば、その怖い人間と出くわす可能性が有る。彼らにとって安全なのは、さくらの家だけなのだ。

 また、寝ているみのりに、布団をかけたのは、誰なのか? 彼らが家の中に居るのは、間違いない。


「まぁ何にしても、これだけ物音も立てずに、隠れる事が出来るなら、上等だよ。みのりさんもだな。こんな近くで大声だしてんのに、目を覚まさないなんてな。呑気というより、肝が据わってんだろ」


 何度も大声で、呼びかける訳にはいかない。何故なら、村はとても静かなのだ。旧市街地付近で、夜を明かしている取材陣に声が届いたら、飛んでくるかもしれない。

 洋二は万が一の事を考え、呼びかけるのを止める。


 最低でも、早朝に出発出来ればいい。何なら、さくらの家に泊まり、みのりが目を覚ます頃に、子供達を連れて出発しても遅くはない。

 そう考え、洋二はドカッと腰を下ろす。


 そんな時だった。開けていた廊下側の襖付近に、洋二は気配を感じた。

 洋二が襖を見やると、素早く影が消える。視線を襖から逸らすと、再び気配を感じる。何度か繰り返した後、ようやくヒョコッと襖から、気配の正体が顔を出した。


 襖を挟む様に、両側から二つの小さな頭が、覗き込む様にしている。それを見た瞬間、洋二は思わず笑ってしまう。

 

「ははっ。はははっ、あっはははは。何やってんだ? はははっははっ。お前達、何やってんだよ、まったく。はははっ、はははははっ」


 その笑い声に安心したのか、小さな二つの影は、ゆっくりと襖から姿を現す。そして、洋二に何かを問いかける。

 

「ギギギ、ギイ。ギイ?」

「あぁ? 何言ってっか、わかんねぇよ」

「ガア? ガガガ? ガアガ?」

「まてまて、わかんないって。どうしたもんかね?」


 さくらやみのりなら、何を言いたいのか、わかるのかもしれない。洋二には、ギイ達の言葉を理解する事は出来ない。

 意思が伝わらない事を理解したのか、ギイ達は困った顔で、洋二を見つめる。それは洋二も同じであった。

 互いに見つめ合って、僅かな時が流れる。


「すみません。わたし、くみる、です。ねてました。ごめん、なさい」


 ギイ達に意識を向けていたせいか、洋二は気が付かなかった。

 声をかけられ、少し驚く様にして襖の辺りを見やると、そこにはクミルが立っていた。


「なんだ、居たなら言ってくれよ。びっくりしたぞ」

「ごめん、なさい」

「ギイギ、ギギギイギ、ギギギ。ギイイギイギギ、ギギギギ。ギイギイギイ」

「ガアガ。ガアガガガガ」

「そう、おこして、くれたの? ごめんね、ぎい、があ」

「ギッ」

「グァ」


 申し訳なさそうに頭を下げるクミルを見て、洋二はさくらから聞いていた事を思い出す。

 それは、困惑した洋二とギイ達を助ける鍵となる。


「クミルって言ってたな。そう言えばお前、子供達と話せるのか?」

「いいえ」

「はぁ? だって、いま会話してたろ?」

「ああ。それは、わたし、こころ、すこしよめる。だから、ぎいたちのきもち、すこしわかる」

「そっか。って、え? 心が読める?」

「はい。こころ、すこしよめる。あなた、いま、おどろいてる」

「そんなの、表情でわかるだろ!」

「なら、ぎいたち、なに、かんがえてる、おしえる」

「あぁ。頼む」


 クミルの説明は、概ね洋二の予想と同じであった。

 洋二が訪れるまで、ギイ達は寝室で寝ていた。しかし玄関を開けた音で、ギイ達は目を覚ました。当然、ギイ達はその後の呼びかけにも、気が付いていた。


 もし、来たのが村の人間じゃ無ければ、居間で寝ているみのりが危ない。

 ギイとガアは、クミルを起こして、居間に向かおうとした。しかし、クミルは目を覚まそうとしない。

 困ったギイ達は、自分達だけ居間へと向かう。


「だったら、居間に入ってくれば良かっただろ?」

「みしまの、おじさん、やまでいっしょ、いってた。あなた、むらのひと、ぎいたちおもった。それで、わたし、おこしにもどった」

「はぁ、なるほどな。それで、俺が怖くないか、見定めてたって所か」

「そう」

「それで、あいつらは、何て言ってたんだ?」

「あぁ。ぎいたち、あなたに、だれですかと、きいてた。わたしも、あなたしらない」

「そうだな、お前とは初対面だったな。いや、違う違う! 子供達は、俺の事を忘れちまったのか? まあ、あの時なら仕方ねぇか。改めて、自己紹介といこうか!」

 

 そう言うと、洋二は立ち上がる。

 そして、ブワッと両腕を広げてポーズを取ると、笑顔で言い放った。


「俺は、三島洋二! 正義の味方だ! よろしくな!」


 正義の味方と言っても、クミルはまだ、その単語を知らない。

 訳がわからずに、クミルは口をポカンと開ける。当然、ギイとガアも、事態を理解出来ずに、唖然としていた。


 洋二は、敢えて茶化した自己紹介を行った。

 これから、一緒に行動するのだ。少しでも、距離を縮めておきたい。彼らが不安を感じない様に、自分が安全だと伝えたい。

 意味がわからなくても、彼らが安心できればそれでいい。少なくとも、心が読めるクミルには、意思が伝わるだろう。

 だがその台詞は、予想外の人物が聞いていた。


「あは、あははは。あはははは。洋二君、選りに選って、正義の味方だなんて。はは、あはははは」

「おい! みのりさん! いつから見てた!」

「洋二君が立ち上がった辺りからよ」

「もぉ、早く言ってくれよ!」

 

 みのりの笑い声につられて、クミルが笑いだす。対して、照れくさいのか、洋二は顔を真っ赤にしている。

 そんな洋二に、ギイとガアがトコトコと近づく。そして、洋二の足に手を添えると、ギイとガアは微笑んだ。


「ギイギギギギ、ギギギギ」

「ガアガガ」

「せいぎのひと、よろしくと、いってます」

「せいぎのひとじゃねぇよ。三島洋二だ」

「いいじゃない、洋二君。これからこの子達を守ってくれるんでしょ? ピッタリよ」

「ったく。たった二日だけど、よろしくな」


 八月八日の家屋捜索時は、南側の山へ入って姿を隠す。八月九日の山岳部調査時は、南側からの捜索を躱すように、東側へ回り込んで農村部に下りる。

 たった二日間、だが重要な二日間の潜伏は、こうして始まった。 

塩ラーメンの主張。


俺は、王道とやらには、興味が無い。

ただ、これだけは言っておきたい。


スープの旨さを感じる一杯は、絶対に塩だ。


職人が作り上げた、最高のスープ。それをガツンと味わたい。

それなら、塩を食いな。間違いなく、あんたの舌を満足させてくれるはずだ。


それとな、最初のラーメンは、醤油じゃなくて塩だぜ。

醤油の旦那。王道は譲ってやる。

でもあんたに、元祖を名乗る資格はねぇよ。


さて、またまた少し、本編に触れます。

出番が多そうで、意外と少ない洋二さん。

今後の出番は、いつになるでしょうか。

そんな訳で、三島洋二さんをピックアップしました。


次回もお楽しみに!

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