伊藤琴音 前編
一年前、裕太のいるクラスに転校生がやってきた。
「伊藤琴音です、よろしくお願いします」
「では伊藤さんの席は青木くんの隣ね」
先生が琴音の席を教え、琴音はその席に座る。
「これからよろしくね、青木くん」
「席替えまではよろしく」
隣同士軽く挨拶をし、朝のホームルームが終わる。
転校生である琴音は特別美人というわけではなく、平均的な顔だったが、転校生ということもあり、一時間目授業が終わると琴音の席には人が集まり、質問攻めが始まる。
「伊藤さんってよくいるから名前で読んでいい?」
「ええ、構いませんよ」
「なんで敬語なの?」
「私の家の教育上、敬語が染み付いてしまったので、これは癖のようなものですよ」
「「へ〜」」
琴音は質問攻めを受けても一つ一つ丁寧に答えを返し、だいたいのことには答えていた。
「もしかして、家が金持ちとか?」
「自分で金持ちと言うのは少し抵抗がありますが、お父様が大企業の社長なので、金持ちということにはなると思います」
「お父様って言う人実在したんだ」
「ですが、皆さんには普通に接して頂けるとありがたいです」
「お〜い、二時間目始まるぞ、席につけ〜」
琴音は昼ご飯の時間もたくさんの人に囲まれていたが、嫌な顔一つせず対応しており、クラスの中では特別美人ではないのにも関わらず、女神様と呼ぶ者まで出始めた。
キーンコーンカーンコーン
授業が終わり、帰りのホームルームまで終了した。
「よし、青木! 伊藤さんに学校を案内してあげなさい」
「え? 伊藤くんは転校生じゃないですよ?」
「真顔でボケるのはやめろ、紛らわしい……隣の席に転校してきた伊藤さんだ」
「そんなこと分かってますよ? 何言ってるんですか?」
「案内が終わったあと生徒指導室へ来るように」
「だが断る!」
「じゃあ早く案内してこい」
「え〜、今日あいつと今日発売のゲーム買いに行く予定なんですが……」
「案内が終わってからな」
「よしさっさと終わらせよう、え〜っと……伊藤さんはどこですか?」
「お前の後ろにいるぞ」
先生の言葉に裕太は後ろを向くと、琴音が待ちくたびれたような顔になっていた。
「あ〜、待たせてゴメンな、それじゃあ行こう」
「え? ちょ、ちょっと!」
裕太は急いでいるので、琴音の手を取り教室を出る。
しかし琴音は父親以外の異性から触られることがあまりなかったため、先程までの余裕を失い動揺していた。
後編は本日投稿予定です。