佐藤大翔 後編
(どういうことだ? あの女、俺のことを言いふらさなかったのか?)
翌日、大翔は自分の本音を聞かれた女子を探そうとしたが、それは探そうとする前に見つかった。
桜は大翔の隣のクラスだったのだ。
たまたますれ違った時に見つけ、放課後、体育館の裏ヘ手紙で呼び出した。
「ん? どっかで見たことある顔だな」
(え? 俺のことを知らないどころか、忘れているだと?)
「俺だよ」
「オレオレ詐欺だったか……」
「いや違うわ! 一週間前話しただろ、放課後の教室で……」
「あ〜言われてみればそんな気がする、てかツッコミうまいな、あいつといい勝負するかも」
「いや、そんなことはどうでもいいんだよ」
大翔はどんどん脱線していく話を元に戻そうと仕切り直す。
「何でこの前のこと誰にも話していない」
「なんか愚痴言ってたこと?」
「そうだ」
「あいつには話したから誰にも言ってないわけじゃないけど、わざわざ話すことでもないだろ」
「いや俺の本性があんなんだったのにわざわざ話すことでもないわけ無いだろ」
大翔は最初にわざわざ話すことでもないという言葉に反応したが、次に桜が最初に言った、あいつに話したという言葉に反応する。
「ん? あいつに話した? あいつって誰? てかやっぱり誰かには話してるのかよ」
そしていま頭に浮かんでいる疑問を全て言葉にする。
「え〜っと、まずあいつってのは私の大親友であり、幼馴染の青木裕太、そいつにだけは話したぞ」
「わざわざ話すことでもないんじゃないのか?」
「いや、面白いことがあったら友達に話したいだろ?」
大翔は桜と話しているうちに、最初からあった違和感に気づく。
「ん? なぁ、お前俺のこと知ってる?」
「教室で愚痴を吐くのが趣味の変わった人だろ?」
「違うわ! そういう事じゃなくて、俺の名前知ってる?」
大翔は自分の名前を知らない女なんかこの学校にはいないと思っていたのだが、話しているうちにもしかしたら知らないのではないかと思っていた。
「は? 知ってるわけ無いだろ、同じクラスになるか、ストーカーになるかのどっちか以外知る機会なくね?」
そんなことあるわけ無い、もちろん知ってるよね? という確認のため聞いたのだが、本当に自分を知らなかった。
「てかお前の言いたいこと分かった、言いふらされたくないよぉ〜ってことでしょ? さっきも言ったけどわざわざ言いふらすことでもないからそこは安心していいぞ、今日はあいつと最新のゲームの体験会行く予定だから、じゃあな」
「え? また!?」
二度も自分の話を最後まで聞かず、消えた桜に唖然とした大翔だったが、同時に興味が湧いてきていた。
(あいつの名前なんていうんだろう?)
この日から大翔は、自分の思っていることが絶対ではないと気づき、自分を変えていく。
そして今では女子からも男子からも人気者となったのだが、桜には未だに名前すら覚えてもらえてはいないのだった。