このメッセージ、脈ナシ?それともアリ?
『明日、一緒に登校しない?』
気になる彼に、昨晩こんなメッセージを送って私はとてつもなく後悔していた。
連絡先は彼の方から交換しようと言ってきたのだ。気になる相手から声をかけられれば嬉しくないはずがない。念願が叶った私は舞い上がってこの数日間、一生懸命メッセージを送った。
私のメッセージに対して彼の返事はいつも『うん』『そうだね』と素っ気ないものだったけど、それは言葉にするのが苦手な男子なら普通と、ネットにも書いてあったので気にしないようにしてきた。
一言、二言でやり取りが終わってしまうのは、本当にこういう文字での会話が苦手なのだろうと。
現に彼は学校に居る時、喋りかけると普通に応えてくれるし、向こうからも喋りかけてくれる。
(みんながいる前だったからなのかなぁ)
友達に囲まれて楽しそうにしている彼の笑顔に私は惹かれたのだ。
私にも向けてくれていた笑顔は特別なんかじゃなく、ただの友達の一人にすぎなかったのかもしれない。自分が勝手に脈があると思い込んでいただけ・・・・・・
そんな不安を消したくて、私は重い切って一歩踏み出してみた。
彼と一緒に登校できたらどんなに嬉しい事か。文字でのやり取りではなく、直接会って話したい。彼の隣でその笑顔を見ていたい。
友達抜きで、彼と二人でいられる時間を作りたかったのだ。
昨晩は彼に一緒に登校しようと、たった数文字伝えるのに随分時間がかかった。
ドキドキして夕飯は喉を通らずあまり食べられなかったし、授業で出された課題も上の空。お風呂に入って落ち着こうと思っても、彼の事ばかり考えてしまい少しのぼせてしまった。
時間だけが過ぎてしまい、焦った私はメッセージだけ送ると直ぐに電源を切って布団を頭から被った。
いきなり一緒に登校しようと誘われ、彼はどう思ったのだろう?
朝になっても返信は返ってきていなかった・・・・・・
音沙汰が無かったことを確認した私は、陰鬱な気分で身支度を始めた。
学校になど、もう行きたくない。けど、行かなければ私のいない所でどんな噂が広まっているか分からない。彼が何気なくこの事を喋ってしまうかもしれないからだ。
(なんて言えばいいんだろ・・・・・・)
私はどうやってこの状況を取り繕うか、その事ばかり考えていた。
ピコン♪
通知音がし、体がビクッと反応する。
(彼からだ!)
そう思った私は、すぐさまケータイを手に取り画面を覗き込んだ。
『ゴメン寝てた』
(ハァ―――、良かった)
寝ていたのならしょうがない。私は安堵してメッセージを送り返した。
『いいよ、いいよ!返事が無いからちょっと心配したけど、昨日は何してたの?』
『忙しい』
『勉強?』
『あとで』
何だか会話がかみ合っていない気がする。
私はまた気分がどんより落ち込んできた。
(私、迷惑なのかな・・・・・・)
返ってきた返事は普段の彼からは想像がつかない程、ぶっきらぼうな印象を受ける。
向こうに気があるのなら、こんないい加減な返事を返すはずがない。だって私がそうなのだから。彼へのメッセージは1つ1つ言葉を選んで印象が悪くならないように気を遣ってきた。
今まで一人でドキドキしていた自分が恥ずかしく、また一人で舞い上がっていたのが情けなく思えてくる。
それでも言ってしまったものはしょうがないと、彼に聞いた。
『それで、どこで待ち合わせる?』
学校に着く前に彼と会って、うまいこと誤魔化さなければいけない。友達に話されたら私は本当に学校へ行けなくなってしまう。
・・・・・・・・・・・・
会話が途絶えた。
1分、3分、5分、と待っていても返事が返ってこない。
(ハァ・・・・・・最悪)
「ちょっとぉ、起きてるの?学校遅れるわよ!」
母に促され、私は足取り重く玄関へ向かった。これから毎日、後悔の念を抱えて学校に行かなければいけないのだ。彼とはもう顔も合わせられない。
「朝ごはんは?」
後ろからする母の声に、私は振り向かず答えた。
「いらない、」
とてもではないが、今は食べ物が喉を通る気がしない。
ガチャ、
いつもより重く感じる玄関の扉を開けると、爽やかな朝の陽ざしが差し込んだ。
その朝日が目に染みる。
「っ・・・・・・」
ぼんやり滲む世界はキラキラと輝いていた。
母の手前、泣きそうになるのを堪えて外へ出た。すると、目の前にいきなり黒い影が突っ込んできた!
キーッ!
ブレーキ音を響かせ止まったのは、自転車に乗った彼だった!
「うそ・・・・・・」
「ゴメン!急いできたから返信も出来なくてっ、ハァ、ハァ、」
彼がケータイを取り出し、息を切らせて言う。
「え?なんで、いるの?」
「ああ、いつも自転車でこの道通ってたから、家知ってたし」
「いや、そうじゃなく・・・・・・」
「ん?一緒に登校したいって・・・・・・乗ってかないの?」
その言葉に、目の前の彼の顔が涙でぼやけた。
「あら、今日は随分と遅いと思ったら、そういう事なの、」
母の含みを持った言葉に、出かかっていた涙は引っ込んだ。
「いいからっ!向こう行って!」
母に見られないよう、私は玄関の扉を閉めた。
彼もうちの母の前では照れたのか、頭を掻いている。
「もしかして、迷惑だった?いきなり家に押しかけるなんて」
「ううん!ちょっとビックリしただけ、でも来てくれるならケータイで連絡してくれればよかったのに」
「うん・・・・・・ケータイは苦手で・・・・・・と言うより、その・・・・・・直接会って話したかったっていうか・・・・・・」
急にしどろもどろになった彼に私は聞き返した。
「え?なに?」
彼が私の目を見て言う。
「画面越しじゃなく、キミの顔が見たかったんだ」
はにかんだ彼の笑顔を見て、私は後悔した。
(たった数文字に一喜一憂して・・・・・・やっぱり文字なんて当てにならない)