30 編隊
「愛忌ちん」
「なに?」
「明日ひま?」
「……恐らく」
「かのんちゃんから、また遊びに行こってメールが~」
「! 行く」
「……なんか悲しいなぁ」
要件を言わずに誘ったときと、神谷かのんの名前を出した時とでは食いつきが違う。
渡良瀬愛依は敗北感を味わった。
「神谷さんは良い人。僕にも優しい」
「ま、それは否定しないけど~……。じゃ、一回起きて連絡しとくね~」
渡良瀬愛依は夢の世界から覚めていった。
ちなみに、覚めていくというと聞こえはいいが、実際は自分の足元に穴を開けて落ちているだけである。
現在は、まだ十八時だった。
夏休みに予定のない二人の睡眠リズムは日に日に早まり続け、夏休み後半の今ではなんと、この時間には既に夢の中だ。
「お待たせ、愛忌ちん。明日、朝の十一時に駅前で待ち合わせだって~」
十五分ほど経ち、渡良瀬愛依は戻ってきた。
「わかった。明日は何をするの?」
「買い物だって~!」
「? それが明日の予定?」
「ん? そうだけど~」
六斎堂愛忌は、買い物という行為が、何故遊びの予定として扱われているのかが分からなかった。
友達とウインドウショッピングをしたことがない六斎堂愛忌にとって、買い物はただの物資の補充でしかない。
「……わ、わかった。今のうち、お小遣いをせびってくる」
そう言って、六斎堂愛忌は現実へと戻っていく。
夢の世界でわざわざ会話しなくても、こんなことは電話で済ませればいいのだが、二人にとってはこのやり方が合っていた。
「……お、遅くなった」
三十分後、六斎堂愛忌は疲れた様子で夢の世界に戻ってきた。
「あ、おかえり~。何かあったの~?」
「ぼ、僕が休日に遊びに行くのは珍しいから、みんなが驚く。それがいちいち長い。……海のときもそうだった」
「あ、そう……」
「そしてお小遣いも確保した。なんと三万円」
「お、多くない? それ……」
「多いに越したことはない。神谷さんがお金を持って来ない可能性もある」
「いや、それはないっしょ……」
どうか、六斎堂愛忌が悪い人間に利用されませんように。
渡良瀬愛依はそう思った。
翌日、午前十時五十分を過ぎた頃の、小町駅前のロータリー。
渡良瀬愛依が神谷かのんに指定された待ち合わせ時間の、およそ十分前。
そこには、神谷かのんと、木下舞子が待ち合わせをする姿があった。
「あっ、来た来た。お~い」
「おっす。え、暑くね? てかなんでこんな中途半端な時間に集合? 十一時で良かったじゃん。おかげで時間なくて化粧とか~……」
木下舞子は昨日の夜、神谷かのんに「十時五十分にロータリーで待ち合わせ」と言われていた。
ぶつぶつと文句を言う木下舞子は、もちろんこの後に渡良瀬愛依と六斎堂愛忌がやってくることを知らない。
神谷かのんはまたしても、木下舞子に何も言っていないのだ。
「あ、お~い、かのんちゃ~ん。……と?」
「……! あ、あれ」
五分前集合を心がけている男二人もやがて、仲良くロータリーに集合した。
二人は、神谷かのんの隣に、うっすらと見覚えがある女子が一人立っていることに気がつく。
「え。ちょ、はやく行こ、かのん」
うっすらと見覚えがある女子・木下舞子は、突然の男二人の登場に慌てる。
当然だが、渡良瀬愛依達とはたまたま遭遇したと思いこんでいる。
日陰者でないと分からない感覚だが、休日にクラスメイトと遭遇すると、思わずその場から逃げ出したい気持ちになるものなのだ。
「おはよっ! みんな揃ったね~」
「……は、ちょ、どういうこと? えっ……えっ?」
木下舞子は困惑し、挙動不審になる。
今日は神谷かのんと二人で買い物に行く日ではなかったのか。
ただ、渡良瀬愛依と六斎堂愛忌も当然、彼女が今日同行することは知らされておらず、内心は木下舞子と同じ気持ちだった。
「あっ、ごめん、言い忘れてたかも? ……えっと、今日は、ここにいる四人でお買い物に行きます」
「あ、そうなの~? ま、まあよろしくっしょ」
「…………よ、よろしく」
相変わらず神谷かのんは読めない人間だと、男二人は思った。
しかし、自分達以上に慌てている人間が目の前にいるおかげで変に冷静になってしまった男二人は、少々戸惑いながらもこの状況を受け入れた。
「え、まじ意味わかんない、え、え、ホントに? ちょ、ホント……」
「ホント無理」という言葉は男二人に失礼だと思ったのか、木下舞子はギリギリで言葉を飲み込んだ。
結局、木下舞子も観念し、四人は仲良く電車に乗車する。
若干のぎこちなさを醸し出しながら、地元から少し離れた田舎の地にそびえ建つ、大型のショッピングモールに向かっていった。




