24 女子
体育祭や中間・期末テストといった学校行事も、二人がこれまで経験したことに比べると、語るまでもないので割愛する。
六斎堂愛忌と渡良瀬愛依の二人は、期末テストの結果に一喜一憂しながら、週末より開始する夏休みを教室の隅で待っていた。
「愛忌ちんはさ~、夏休みの予定あるの?」
「ある。……お、お盆にお墓参りをするから、毎年忙しい
「あ、そうなんだ~。結構遠いとこにあるの?」
「……い、いや、歩いて十分」
「ん? 準備とかある感じ?」
「……お線香を買う」
「…………それは大変だね~」
今更見栄を張る必要もないのに、六斎堂愛忌は予定を百倍に盛る。
渡良瀬愛依は適当に話を流し、話題を本題に戻す。
「暇ならさ~、海いこ、海」
「……ひ、人混みは苦手。日焼けもしたくない。お風呂に入るほうが楽しい」
「な~に言ってんの、愛忌ちん。俺たちには、室内プライベートビーチがあるでしょ~が!」
六斎堂愛忌はきょとんと首を傾げている。
そんな金持ち設定、聞き覚えが無いという顔だ。
「だから~~、海行くじゃん! ですぐ帰んの! そしたら寝て! 夢の中で海まで行けばいいってこと!」
果たして本当にそれでいいのかと問い正したいところだが、一見すると名案である。
この原理でいけば、ありとあらゆるレジャースポットを貸し切ることが可能だ。
それが楽しいのかは別として。
「……テレビで海を見て、それを再現したらいい」
「テレビじゃ部分的にしか分かんないじゃん! やっぱ生が一番っしょ~」
「……渡良瀬くんだけ行ってくるでも、も、問題ないはず」
「……一人で海行くのは、さすがの俺でも無理だって~……」
折れない六斎堂愛忌に、渡良瀬愛依は諦めムードを醸し出す。
その時だった。
クラスの女子生徒が一人、二人の席に向かって歩いて来たのだ。
「あ、あのね、六斎堂さん、渡良瀬くん、ちょっといい……?」
急に女子生徒に話しかけられ、二人は驚く。
「え、あ、お、俺? な、なに、どした」
「あっ、えっとね、今週の土曜日って、空いてないかな?」
「ど、土曜? え、あ~、ちょい予定確認してみる」
渡良瀬愛依は、新品未使用の予定表を初めて開き、そこに予定が書かれていないことを念入りに確認する。
六斎堂愛忌はさっきからずっと固まったままだ。
「あ~、たまたま空いてるっぽいね~。愛忌ちんも今週は暇とか言ってたような」
「あっ、そうなんだ。……もしよかったら、一緒に海に行けないかな? 木下さんも一緒なんだけど」
「え、あ、あ~ウミ? うん、全然いいよ~」
「……あっ、ほんと? 良かった~、じゃあ、また後で連絡するねっ」
女子生徒は、そう言うとスマートフォンを取り出し、渡良瀬愛依に連絡先を交換するよう促した。
当然の如く連絡先の交換方法を知らない渡良瀬愛依は、スマートフォンを女子生徒に託す。
一切のSNS系アプリがインストールされていないことを確認した女子生徒は、自分のメールアドレスと電話番号をアドレス帳に登録し、そそくさと席に戻って行った。
「……だからさ~、愛忌ちん、海行こうよ、海! 今週とかさ~……って、あれ? …………海……? 行くの? 俺、あの子達と……!?」
ようやく冷静になった渡良瀬愛依は、自分が今何をしでかしてしまったのかを理解した。
「ぼ、僕は何も言っていない。なんなら予定も入っている」
「お墓参りは先の話でしょ~。いーじゃん、神谷さんと木下さん、きっと愛忌ちん目当てだよ~」
渡良瀬愛依は、我に返ってからアドレス帳を確認すると、神谷かのんという、可愛らしい女の子の名前が一件追加されていた。
突然の女子に緊張し、渡良瀬愛依は神谷かのんの腹部しか見ていなかったため、朝の出席確認の時にようやく彼女とその友人の顔を把握した。
どちらも地味だな、というのが率直な感想だった。
細身で地味なショートカットの女子生徒が神谷かのんで、平均的な体型の赤いメガネが特徴的な女の子が、木下という女子生徒だ。
「……と、とにかく僕は行きたくない。ああいう場所は向いていない」
六斎堂愛忌は譲らない。
こういう大イベントに参加する勇気が無い。
人生損する典型例の人間である。
「は~……。もういいよ、あの子たちと行ってくるから~……」
「……えっ、行くの……?」
「だって、行くって言っちゃったし~……」
六斎堂愛忌は、チラリと神谷かのんを見る。
地味ながら顔立ちの良い、男受けはかなり良さそうな女の子だ。
躊躇なく男子を海に誘えることからも、男慣れはしているだろう。
……それら一通りの分析を始めた六斎堂愛忌は、しばらく頭を抱え、唸り出す。
渡良瀬愛依が何事かと焦っていると、やがて六斎堂愛忌は思いきり顔を上げ、
「や、やっぱり僕も行く」
と一言呟くと、前を向き、いそいそと授業の準備を始めた。




