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第三話 藍色の自転車と、蒼い炎天下

異世界恋愛を書いてらっしゃる入鹿なつさんからレビューいただきました!(1/25)

「ただいま」


 少し急いだからか、そこから十分とかからずに、家に到着した。


 木製の大きなドアは開ける時、ギリギリ軋みを上げた。

 外から見ても、中から見てもれっきとした木造建築。

 天井では丸太が交差し合って屋根を支えていた。


 だいぶ昔からある家らしいからかもしれないけれど、音からも分かる通り、なんというか……ボロい。

 このボロさ、嫌いではないのだけれど。

 小さいときにはいつか崩れ落ちるんじゃないかとか心配したなぁ、とかふと思い出した。


「…………」


 数秒ぐらい思考を続けていたが、帰宅を知らせる僕の言葉への返答は無かった。

 やはりというか、家族は全員外らしい。


 別段、家庭環境が悪いというかそういうことはない――むしろ中は良いほうなので、こうやって誰もいないと純粋に寂しくなる。

 今頃は、畑仕事だろうか?


「よいしょ、っと」


 カバンを放り投げて、靴を脱ぐ。

 使い古してよれた靴は、踵をこすり合わせるだけで簡単に脱ぐことができた。


 ちゃちゃっと準備して出てくか。

 好き好んで一人だけの空間に居続けたくはないし。


 もう着ることは無いだろう制服を脱いで、ハンガーにかける。

 着始めてから数か月も経っていない、ほぼ新品だったからちょっともったいないような気もするけど。

 感謝の意を込め、ぽんと叩いて僕はそこを後に。

 別の部屋のハンガーから半袖シャツとジーパンを取ってきて、さっと着替える。

 数分前開けたばかりの家のドアを開ける。


「んじゃ、行ってきます」




 ◆◇◆◇◆




 外は相変わらず暑かった。

 ……勢いを増しているような気すらする。


 まあでも、太陽は上がり続けているわけだし当たり前と言えば当たり前か。


「自転車は……っと、あった」


 庭の端っこの木陰に放置していた青いママチャリ。


 いつもの行動の時には使っていなかったけれど。

 この夏はきっと酷使する、なんて不思議と予感した。


 ――きっと、どこか遠くに行くのだろうから。


 ちなみに、三年ぐらいお世話になっている相棒だ。

 去年の夏ちょっと遠出したときに破壊してしまったが、その時には友人で自転車店の息子――今日、最後の号令を出した委員長だ――がその場で直してくれた。


 そして頼んでもないのにその場で魔改造され、荷台に大人一人ぐらいならば余裕で乗せられるほどの耐荷重量を獲得してしまった。


 理由を問い詰めた所、いざという時に楽をしたいからとか答えやがった。


 いざという時は、絶対あいつに漕がせてやる。

 ……そんなことは良い。


「んじゃ、あと一か月。よろしくな、相棒」


 ホコリなんて一切かぶっていなかったけど、感謝と期待を込めて太い車体をさらりと撫でる。


 ひんやりとしていて、気持ちよかった。

 小さい時に握った手とは、また違う。

 その冷たさは僕たち「ヒト」とは違う確かな「モノ」の感触。


 だけど、どうせ同じように消える。

 この世界に存在するものは、全て。


「結局。夏の前に無力なのは、同じか」


「ニヒルな表情浮かべても、かっこよくはならないよっ、トウヤ!」


 突然だった。

 ぽつり呟いた僕に、声が掛けられた。

 明るくてはっきりした、少女の声。


「うるせえ、アイ」


 振り向いたところに立っていたのは、僕の四人いる幼馴染の内の一人。


 藍――アイ。


 名前の通りの藍色の髪は、ショートボブ。

 身長はそれほど高くなく、僕の鼻の辺りに頭のてっぺんが来る程度。

 キャミソールとショートパンツという動きやすそうな服装も、彼女の活発な雰囲気を描き出している。


 今日は用事があったのか違ったけれど、コイツだけ家が近いからよく一緒に登下校していた。

 そんな彼女がにこやかな笑みを浮かべたまま、僕に近づいてくる。


「お願いがあるんだけどさ」


「ロクなお願いじゃない気がするんだけど」


 恐ろしいぐらい笑顔の時は大体めんどくさいこと。

 僕が今までの人生で学んだ、アイの性格のうちの一つ。


「自転車に乗せて!」


 ……はぁ。

 想定はしていたけど、やっぱりか。

 正直言って、だるい。

 坂だって少なくは無いし。

 いくらアイが小柄とはいえ、それでも人間。

 羽のようにとか、そんな綺麗な言葉は結局比喩で、相手が誰だろうと十分に重い。

 ――畜生。荷台改造したあのメガネ委員長自転車屋の息子絶対ぶん殴ってやる。


「お前絶対走ったほうが速いだろ」


 そもそも、こいつは運動のスペック高いから、僕が漕ぐ自転車に乗るぐらいなら走ったほうが速いだろうに。

 ……どうせ、なにか言われて僕が納得する流れになってしまうのだろうけど。


「いや、だって乗せてもらったほうが楽だし」


 …………っくそ。

 本当にあのメガネ、ぶん殴ってやる。

 余計なことしやがって。


「……じゃあお前こいでくれよ」


「あたしの言ってたことちゃんと聞いてた? 乗せてもらったほうが楽だって言ったんだよ?」


 どの道から逃げようとしても塞ぐなコイツ。

 ……諦めるか。


「…………はぁ」


「ささ、はやくはやく」


 その笑みを、さらに邪悪に深めて。

 近づいてきて両手でポンと肩を叩いてくる。


「もう分かったよ! しゃーねーな! 今回だけだぞ!」


 ぱっ、と表情が純粋な輝きを放つ。

 ……今回だけって、もう何回目だろう。


「ありがと!」


 そういって、たんっ、とアイが荷台へ。

 軽々飛び乗った彼女が、こちらをちらりと見た。

 ……その元気があるなら、ぜひとも自転車を漕いでもらいたいものだが。


 言い争うだけ無駄だと知っているからしないけども。

 スタンドを外して、サドルにまたがる。

 変速のギアが六であることを確認。

 漕ぎだそうとすると、アイが僕のお腹にガッチリ手を回してくる。


 腕とか……とかの柔らかさで一瞬意識が飛びかけた。

 が、逃げないようにし捕まえられているだけだと理解して、少しだけ冷静に。

 逃げるつもりはないから、ちょっと体を離してくれると嬉しいんだけども。


「じゃ、頑張ってね。……ちなみに、今の無駄な会話のせいで、全速力で行かないと間に合わなくなったよ!」


「うっるせ。もうほんとにお前が漕いでくれよ!」



 アイは、けらけら笑った。

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