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Natural   作者: ぷぺ
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はじめてのびわいち 1

サドルに跨り、ペダルを漕いだ瞬間だけは柵から解放され彼は自由になれる。

深い理由は無い。ただ、体を酷使し、汗をかき、遠くに行きたい。

彼はまだ、それに乗って1年程度だ。けれども彼にとっては自分の力でどこまでも遠くに行ける、唯一無二の相棒だ。


 エントリーロードと呼ばれる入門機。通常ならばそれを改造するくらいならば、グレードの高い新車を買い直したほうが良いと言われようとも彼はそれにこだわる。

 面白いから、初めてのロードバイクだから。彼にとっての理由はそれだけだ。たかが自転車だから好きなように遊ぶ。所詮自転車で彼の仕事には関係ない。だから遊ぶ。彼にとってはそれが全てだ。それでいい。趣味だから、遊びだから。自由に遊び、自由に走る。それでいいと、彼は断言できる。上級者向けのモデルになると、色々と考えながら改造しないといけないしなぁという点も彼にとっては制約になるのであろう。金銭的な事情ではないと言い訳しながらも。欲しいのは当然欲しくもあるのだが。



 エントリーロード

 低価格、低グレードの変速機等をつけたロードバイクの入門機。ドロップハンドル部分以外にも補助ブレーキをつけクロスバイクのような感覚での取り回しも可能なモデルもある。


「凄いな」

朝5時に滋賀県堅田駅の傍のコインパーキングに車を止め、ロードバイクを降ろし琵琶湖が左手に見える方向に走ろうかと思い、ゆっくりと浮御堂までやってきた。登り始めた太陽が浮御堂を照らし彼に一つの決意をさせる。走りきること、歩かないこと。多くのサイクリスト達が走りきってきた琵琶湖も彼にとっては初めてのチャレンジ。勿論、琵琶湖自体は知っている。子供の頃から何度も父と共に来て釣りをした。大学生になり、大人になり車では何度か一周もした。ただそれでも、自転車では初めてだ。琵琶湖一周を目標にし、何度か練習をした。それでも、一日の最高距離は130km程度だ。今回走る距離は+70km。最近通い始めたショップの店長さん曰くは150kmから先は疲労も体の状態も別の次元になるよと。それでも琵琶湖は走りきりたかった。心身含め色々な病気に罹りそれでも死なずにやってきた。死ねずにやってきた。だからこそ、突き抜けたい。子供の頃から精神的に高負荷がかかると自転車に乗り遠くに行った。彼にとっては汗をかき、自分と会話をする事で精神を安定させるひとつのルーティンになっていたのだろう。只々自然を感じ、風になる。それが彼にとって最高の贅沢であり、最高の精神安定になったのだろう。

琵琶湖一周に辺り彼は今回自転車に大幅な改装を施した。ホイールを替え平地の巡航性能を上げた。カンパニョーロ Scirocco(※1 シロッコ)名前の意味は後で知った。本来ならZonda(※2 ゾンダ)というもう1ランク上のグレードのホイールを買うのを勧められるのだが予算の都合で諦め、見た目と平地の巡航速度の向上目的で購入した。そして向上した速度にブレーキの性能が追い付かず、初期装備のClaris(※3 クラリス)から105(※4 イチマルゴ)というミドルグレードに換装した。理由は単純で停まれなかったという只一点。その事に恐怖感を感じブレーキを変えた。後は元々装備されていた補助ブレーキ(※5)を外した。バーテープ(※6)クイックリリース(※7)は赤色にした。理由を問われると、単純に趣味だと一言。性能の向上だけで言えば全くと言うほど意味は無いのだ。只彼にとっては走れる距離が増えた自分と共に様々な仕様変更を加えれる相棒が好きだった。大量生産品から自分好みの仕様になり、自分だけの唯一無二になる。それが最高に心を刺激した。


カチンという甲高い音と共にピンディングシューズ(※8)がペダルと接続される。嘗て両足が固定される恐怖感からスノーボードでは遊ばなかったのに、自転車においては気にもならない。あるのは遠くに行けるという感覚だけだ。


ペダルを踏む。やる事はそれだけだ。一人で走り、風になる。

彼は大勢と過ごすのが苦手だ。感情を隠す時に笑う癖はあるものの、大勢の人間といると疲れるタイプの人間だ。

だからこそ、一人で走れる競技に惹かれた。

だからこそ、他人に気を使わない一人で琵琶湖を走りきることをきめた。


だけれども、彼は決して独りでは走ってはいなかった。多くの仲間達と共に琵琶湖一周、通称琵琶一を行っていた事を知る。


1日で、たった12時間のライドで多くの出会いがあった。


ロードバイクにピンディングペダルをつけて1月後に行った琵琶一。


今回はそんな自転車に乗って多くの思い出を得た最初の物語。


用語解説:注意 多分に偏見が混じります


エントリーロード

 低価格、低グレードの変速機等をつけたロードバイクの入門機。ドロップハンドル部分以外にも補助ブレーキをつけクロスバイクのような感覚での取り回しも可能なモデルもある。価格的には10万円前後のモデルが多い。性能的には上位モデルに買い替える事が進められる事が多い。材質は主にアルミが多い。安い重いといった特徴があるが、初心者の荒っぽい使用が前提とされるため、基本的に頑丈。


※1 カンパニョーロ Scirocco(シロッコ) 実売価格4万5千円前後 意味 サハラ砂漠から地中海へ吹く熱風

平地で高速巡航をした時に減速がしにくい。

漕ぎだした時の軽さはあまり感じない。


Zonda(※2 ゾンダ) 実売価格5万円~7万円前後

シロッコと同様イタリア カンパニョーロ社の製品

初心者にはこのホイールへの交換を勧められることが多い。

ミドルグレードに位置する製品であるが、このクラスから軸受のベアリング精度などが上がる。


Claris(※3 クラリス) 8段変速

ロードバイク用の変速機で一番低価格のモデルであるが、キチンと手入れされていれば日常では困らない変速性能はもっている。壊れた場合でもクランク、STIを除けば3000円程度と財布に優しい特性を持つ。


105(※4 イチマルゴ) 11段変速

ロードバイク用の変速機ではここらが本番といわれるミドルグレード。実際に上位モデルとの互換性もあり、工業的な精度などもあがる。


補助ブレーキ(※5)

ドッロプハンドルの直線部分に付けられるブレーキ。ハンドル部のスペースを取るのでライトなどが付けにくくなるが力を入れやすい場所にあるので、なんやかんやで便利。


バーテープ(※6)

ハンドルに巻くグリップ。イメージとしてはテニスのラケットのグリップに巻くような物。

滑り止め振動吸収などの効果を持つ。


クイックリリース(※7)

簡単解説がしにくいのでウィキペディア参照

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9


ピンディングシューズ《※8》

スキーのピンディングと同じようなイメージで、自転車用ではペダルと靴を固定する。

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