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9.オーガー

「私はわるくない」


 エリザベスが胸を張り僧衣がぐっと突きあがる。眼福。

 彼女はいつも正しい。そうなんだけど。


 どんどんどん、ぐいぐいぐいっと彼女の後ろでオーガーが皿ごと丸のみする勢いでメシを喰い、喉をつまらせ、何かを飲んで流し込んでいる。

 コーネリアスと名付けたそうだ。

 アウルベアーより大きい。


「コーネリアスもわるくない。おなかすいている時に美味しそうなチキンを拾たらその先にまたって感じで追いかけていたらたまたま砦についただけだって」


 いい具合に焼けた美味しそうなチキンだったらしい。

 オーガーのコーネリアスがこっち向いて、うんうんと頷いている。

 聞こえていたんだ。


 オーガーだけじゃなく他の魔物も砦に押し寄せたのはそういう食料事情のせいだったと。


「やろうと思うとマックス達ならやっちゃうかもしれないけど、森の魔物全部に食料与えるの普通は無理だからな」


「わかっている」


「今回だけにしてくれよ」


「うん。約束する」


 いい返事だけど正しいと思ってやっているんだからまたやりそう。


「次やったらその鞭…」

 ひしっと無言でエリザベスが鞭を抱きしめる。

 眼が座って口が四角に。

「…まぁいいや」



「…と言うわけで、一応、これ以上魔物を拾ってくるなと言った。けどな」

「困ったやつを放っておけないのがリズだから、まぁその…なんだ、そのうちまたやっちまうかもしれない」

「『女王』ですからな」

 本人の前でそれ言うなよサンチェス。気にしているんだから。

 小僧は了解してくれているようだ。

「おなかすいているの可哀想ですもの」

 アイシャが子猫を撫でている。



 増えている。

 オーガーが5人に増えている。


「わたしじゃない。コーネリアスが連れてきたの!」

 エリザベスは約束を破っていないと。

 その理屈を認めちゃうと彼女一人が魔物拾ってくるより魔物が魔物拾ってくる方がもっと増えそうでマズイの分かってくれているかな。


 しかしオーガーに農具って意外に似合うな。

 それに恐ろしく仕事が速い。


「オーガーに身体強化魔法をかけてミスリルの農具を使わせるとここまで出来るのですね。食糧費を含めて効率が良いかは分かりませんが使えそうです」

 建築マニアのブリッジスが言う。

 力あるから重いアダマンタイトでもいいかとか呟いている。


「畑からの収穫はまだ先になるでしょうが、自給自活する分には多少増えても問題ないでしょう」

 サンチェスがそう言ってくれるならいいか。


「で、『いい具合に焼けた美味しそうなチキン』が落ちていたことなんだけど」

 小僧に振る。

「この付近の冒険者のイタズラにしては規模が大きく得るモノがない…ですね」

 そりゃ気づいているか。


 誰かがこの砦に魔物をぶつけるために仕組んでいたと。


 コーネリアスは拾って拾ってと食料を追いかけてきただけだから犯人を訊いてもわからない。

 一緒だったダイアウルフやアウルベアーを鞭打って訊ねてももっとわからないだろう。

 怪しい人物を見かけたかと訊いても冒険者は怪しい奴ばかりだ。

 たぶんその中に居る。砦周辺の冒険者達の誰かが犯人の一味だろう。

 砦を今のように運営していたら間諜が入るのは避けられない。


「再発を防ぐために砦周辺の冒険者達の身元確認を進めますか」

 サンチェスが言う。

 膨大な手間だと思うけどこいつらなら出来ちゃうのかな?


「ハ~ンス!」


 いつものようにサンチェスがハンスを呼ぶが小僧がそれを手で制す。

「!?」

「一度身元確認しても新しい人達が出入りすると完全ではなくなるし、新しい人達がやってくるのを疑いの目でみるような雰囲気にしたくありません」

「父上はおっしゃっていました。誰かに疎まれるのを気にしていたら貴族はやっていられないと」

小僧の親父ってなんかすごい。

「かといって、騒ぎが続くようであれば落ち着いてダンジョンに行くことができませんな」

サンチェスが言うのはもっとも。ダンジョンって落ち着いていられる場所なのかどうかはともかく。

「一流の冒険者!」

 小僧が力む。

「そう言えば、マックスはなんで一流の冒険者に拘るんだい?」

「跡取りは兄上達で決まっているので家の外に出て見分を広める。王族や公爵のような大きな家でなければよくあることです。冒険譚に憧れて貴族の子弟がダンジョンに来るのは珍しくないのではないですか?」

「よくあることといえば、まぁ俺にも何度か『お助け屋』として経験あるな」

エリザベスもうなずく。


 と、エリザベスが何か思いついたようだ。


「新作劇が出来そう!」



 敵対する架空の貴族、アトレイ公爵とハルコ男爵。

 アトレイ公爵家のポールは未開地を切り開き公爵家を発展させる。

 そんな公爵家の隆盛が気に入らない男爵は凶悪な魔物を誘導し開拓地を襲撃させる。

 なんとか魔物を鎮めたポールは2回目の襲撃に備え罠を張り魔物を誘導したのは男爵であると突き止める。

 そしてクライマックスへと。


 砦の中の演劇場で『ゴブリンの女王』の次の演目として冒険活劇『男爵の罠』が始まった。


 舞台は大迫力。

 本物のオーガーの躍動感がはんぱない。

 劇中のアクションシーンで砕いた岩が飛び散り少しだけ観客席まで飛ぶのだけれど記念に持ち帰るのが流行っているらしい。

 魔物を鎮めるのはジーラの笛の音。

 ゴブリンであるジーラの芝居はたどたどしく身振り手振りだけで台詞はない。

 それがまたファンにはたまらないらしい。


「ジーラちゃ~ん!」


 舞台が終わり出演者の挨拶が始まるとジーラファンから一斉に声がかかる。

 ありがとう、うれしいとポーズで応えるジーラ。


「お前らが仕掛けたことはわかっている。次やったら犯人を突き止める罠をはっているという警告になるわけだ。この劇が」

 盛況を見下ろしながら小僧に訊ねる。

 実際はそんな器用な罠を準備していなくてもな。

「そういうことです。犯人が誰かは分からなくてもよく邪魔を繰りかえされなければいい。これで安心してダンジョンへ行けます」

 小僧が息をつく。

「薬草もゴブリン退治もオーガー退治もやりにくくなる。次はスライム退治でも狙おうか」

「行きましょう!冒険者ギルドへ」

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