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7.ゴブリンの女王、そして

「『ゴブリンの女王』って言われたくない」


 エリザベスが言う。


「あの子達は可愛いし仲が良いのも事実だけど私は僧侶で魔物使いじゃない」


 新調した僧衣に身を包み胸を張るあいつは頼もしい僧侶に見える。

 太陽のように朗らかで周囲への面倒見も良い。

 肩幅とかも立派だし。


 僧侶のイメージを保つため『ゴブリンの女王』の呼び名が広めるのを阻止したいらしい。

 ダンジョンで手なづけた魔物はゴブリン以外にも居るとか言い始めるがそれだともっと悪名高くなるんじゃなかろうか。


「貴族って都合悪いことを揉み消す時にはどうするんだい?」


 小僧に話題をパス。


「そうですねぇ…既に何人かの目撃情報をギルドで聞きましたから無かったことにするのは難しいです。エリザベスさんに『ゴブリンの女王』よりインパクトの強い新しいあだ名を付けて宣伝するのが良いかもしれませんが僧侶のイメージを保ちながらの良いあだ名ありますかね」


 光のなんとかとか聖なるなんとかとか大げさだしインパクトも薄いよなぁ。


「無かったことに出来ず定着しそうな汚名を回避したい時に父上ならどうなされるだろう?他人のせいにしてすり替えるか…」


 小僧の父親ってそういう奴なのか。貴族の当主ってえげつないこと考えるな。

 ハンスが俺は無理ってアピールしているけど男は対象にならないから心配しなくていいと思うぞ。


「エリザベスさんの代わりだと相当に印象強い人でないと…人…?」

 小僧が何やら思いついたようでサンチェスに相談する。


「ハ~ンス!」



 ゴブリンの少女が泣いている。

 大きな目に裂けた口、子供ぐらいの身長で緑色の肌。

 よほど怖かったらしい。

 エリザベスに鞭打たれて人間の言葉がわかるようになったゴブリンはマクロード領に移住済みだったので、ハンスがワイバーンに乗せて連れ帰ってきたのだ。


「エリザベスさんから『ゴブリンの女王』の名を引き継げる納得感のある人を用意するのは難しいですが、ゴブリンならば可能だと考えました」


 どうですかと俺を見る小僧。


「マックスの理屈は分かるがこの子が女王ってのは無理があるんじゃねぇか?」


 そろそろ落ち着いたのか泣き止んだけどまだスンスンいっている。

 ゴブリンの少女の名前はジーラだそうだ。


「宣伝とそれを信じる者どもが必要ですな」

 サンチェスが続ける

「オカチの町から吟遊詩人を呼んで来ましょう。ブリッジスは砦の中に演劇場、フランシスには王冠などの小道具をつくって下さい。ジーラの衣装と応援団の衣装も」



 ゴブリンは人の言葉を話せないから歌えない。でも笛は吹けたので特訓が始まった。

 自身の技巧を魅せるための持ち歌ではない初心者でも吹ける曲の作成に吟遊詩人は苦労した。


「嬉しいのポーズ~」

 エリザベスが両手で胸をかかえて首を少しかしげてうつむいてみせる。

 ゴブリンの少女、ジーラもその真似をする。


「ありがとうのポーズ~」

 エリザベスが両手を開いてかかげ胸をはりやや上を向く。

 ジーラも真似る。


 まだ周囲から工事の音が響く舞台で人間向けの感情表現をエリザベスがジーラに教えている。

 魔物との身振り手振りでのコミュニケーションはエリザベスの得意分野となりつつある。


 フランシス特製の王冠と王錫に見立てた横笛など小道具や衣装の準備も順調。



「ジィ~ラちゃ~ん!」


 『ゴブリンの女王』初舞台は大成功だった。


 ややかすれた郷愁を誘う横笛のメロディー、ときに荒くときに隠れるようにメロディーを支える打楽器のリズム。

 主役ではなくなった吟遊詩人もノリノリ。

 ブリッジスが設計した舞台は楽器の響きを観客全体に広げる。

 吟遊詩人の持っていた楽器をばらして音の反響を研究した成果だそうだ。


 舞台狭しと左右に動き、演奏の合間に全身で「嬉しい」「ありがとう」とポーズで表現するジーラ。

 同じポーズを繰り返したり身振り手振りに強弱をつけたりしてその表現を高めていた。

 本当に本当に嬉しい。ありがとう、ありがとう、ありがとう…と。


 最初は金を握らせた冒険者だけだった声援がどんどん増え、最後には演劇場いっぱいの大歓声となった。



「ジーラちゃん可愛かったです」

「そうだね、アイシャ」


 紅茶を飲みながいつもの二人。


「あんなにゴブリンが可愛いと…退治したくなくなりますね」


 後日。


 マクシミリアンが受けていたゴブリン退治の依頼はキャンセル。

 過激なジーラフアンの活動によりギルドからのゴブリン退治依頼は発行されなくなった。


 マクシミリアンの一流冒険者への道は遠い。

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