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16.軍師ふたたび

 適材適所ということか。


 居留地が出来たことで人型の魔物を利用できるのは小僧だけでなくなった。

 ゴブリンやオークはダンジョンの案内に、オーガーはその力を活かした建設作業などにと雇うために居留地を訪れる者たちがけっこういる。

 魔物では無く『亜人』として受け入れられつつある。


 居留地にはマクロード家の領地内の集落からやってくる『亜人』達もいて賑わいを増している。

 ダンジョン内のオークどもも服装や武具が段々立派になり、ジャイアントバット狩りにクロスボウなども使うようになっている。



 アッパーフィールド侯爵家は彼らの砦を『アブラ砦』、マクシミリアンの砦を『リネ砦』とそれぞれに近い山と川の名前を付けた。


 『リネ砦』や居留地が『亜人』の出入り自由なのに対し『アブラ砦』は入場を禁じていた。

 そのためただでさえ活気の薄い『アブラ砦』はさらに閑散とした。


 新進の冒険者達にとって『亜人』を利用する事が商売繁盛の決め手になりつつある。

 しかし多くの『亜人』にとってまだ金銭が馴染んでいないので必然的に食や酒を与えたり武具を買い与えたりする事が取引条件となっていた。

 『亜人』を連れて入れない『アブラ砦』の中の酒場や店は元気が良い冒険者達にとって価値の無い存在になりつつあったのだ。

 『亜人』に馴染めない冒険者達にとって安心できる場という面もあったのだが、彼らの羽振りはかんばしくない。


 そんな『アブラ砦』の現状は侯爵家でも問題とされた。

 ウラギリオの専横を良しとしない家臣団から砦の建設を進言した彼の責任を問う声が上がるようになって来たのだ。


 ウラギリオはテコ入れのためとし、その声から逃げるように砦にやって来た。


「気に入らんな」

 魔物の巣食うダンジョンを制覇し地域に安定をもたらすのが目的なのに魔物達を元気にさせてどうする。

 当たり前の常識をわきまえないマクロード家の小僧にウラギリオは怒りをつのらせていた。


 何かやっても自分の手柄じゃないんですみたいな態度も腹が立つ。まるで功績を正しく主張する者が卑しいように見えるではないか。


 あのような者が秩序をかき回すのを許しておくのは侯爵家のためにならない。


 小僧のせいで成果が減り迷惑がかかっている者もいる。

 ここはひとつ、奴を利用しよう。

 損害に気付かせてそれを小僧へと向けるのだ。



 『アブラ砦』に冒険者ギルドの出張所を作れとの依頼が侯爵家よりあり、砦にやってきたギルドマスターは困っていた。

 侯爵家からはウラギリオのやつがやって来ている。

 ただでさえ頭の痛い依頼なのに相手がウラギリオとは最悪だ。


 ギルドの出張所については冒険者達からの嘆願書でも要望はあった。


 しかし、金が無いのだ。


 冒険者ギルドはドラゴニア王国からの魔物退治の賞金を独占している。

 俺が任されているオカチの町の冒険者ギルドは王国のギルドの中でも有数の規模だ。

 賞金額もかなりのものだったのだがマクロード家の三男がやってきてから減ってしまった。

 薬草や魔物の死骸から取れる貴重な材料の販売等も含めて全ての収入が。


 ダンジョンの攻略は順調だ。

 オーク達を事実上配下にしたようなものでより深い階層への到達が容易になっている。

 『伯爵』の館を攻略することも夢ではなくなってきた。


 でも、金は無い。


 魔物退治が効率的になったおかげで魔物の数も減ってきているのだがオークどもの商売として軌道に乗ったため商業ギルドの稼ぎへと代わってしまったのが痛い。


 これ以上、人員を増やすことは困難だ。


「ウラギリオ様。ご依頼は理解いたしました。冒険者達からも嘆願を受けていますので、ギルドとしても期待に応えたいとは思います。しかし…」


ビシッ!


 ウラギリオの奴が手で俺の言葉を止める。

 侯爵様の虎の威を借る狐のくせしてでかいつらしやがる。

 猛烈に頭に来るがここでそれを表に出すわけにはいかない。心を落ち着かせ表情を抑える。


「金がない…言いたい事は分かっています。しかしおかしくはないですか?ダンジョンは盛況で攻略も順調。それなのに侯爵様への毎月の納税が昨年より少ない。侯爵様はまだ気が付いていませんが、私がこの疑問をご報告したら誰に調査の手が入るか」


 わざとらしく間をおいて奴が俺を見下す。


 ぶん殴りてぇ!全てをすててぶん殴りてぇ!


 こっちは魔物の暴走を引き起こした原因が奴の提案だってしってるんだ!

 あのおかげで一ヶ月以上も収入が無かった。それなのにクソッったれめ、俺を脅迫するのか。

 商業ギルドからの納税が増えた分を計算すれば侯爵家の損失にはなっていないはずなのに。



 頭の悪いぼんやりした表情をしたギルドマスターはマクロード家の小僧のせいで損害が出ていることをようやくわかったようだった。

 ギルドマスターは侯爵家に逆らえば全てを失う。

 奴は小僧へと行動を起こすしかない。


 全て計算通りだ。


 今夜はよく眠れそうだとウラギリオは思った。



「必要な金額を教えて下さい」


 ギルドマスターから納税額の減少をどうにかすることを相談された小僧は即答した。

 困ったことがあったら小僧を頼る。

 冒険者達だけでなくギルドマスターまでがこうなるとは小僧の存在も随分大きくなったものだ。


「僕らのせいでそんな事になっていたんですね」

「いえいえマクシミリアン様のおかげでダンジョン攻略は順調に進んでいるので冒険者ギルドの目的からすると助かってはいるのです。ただ、今までのやり方と馴染みが悪いだけでして」


 小僧のせいでこのあたりが急速に変わり過ぎているのだ。

 古いやり方とは合わない事もあるのだろう。

 冒険者ギルドのマスターってのもたいへんだな。


「マクシミリアン様。この野営地は侯爵様へ納税しなくて良いのですか?」

アイシャが訊ねた。

「このあたり一帯を侯爵様からお借りする時にまとまった金額をお渡ししているので、それが納税の代わりのようなものなのです」

 ダンジョン以外はほとんど価値の無い土地だったので侯爵家からは二束三文で租借できている。

「それではオカチの町から冒険者ギルドがこの野営地に移転したらどうなるのでしょう?」



「オカチの町から冒険者ギルドが『リネ砦』に移転する」


 そんな噂が流れた。


 オカチの町は冒険者達の町と言ってもよく、ギルドが無くては町の存亡にかかわる。

 ギルドマスターを説得するために町長は奔走した。

 侯爵家から人を呼び移転先候補の『リネ砦』からもマクシミリアンを呼び、ようやくギルドマスターに移転を思いとどまらせたのであった。

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