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15.学院

 特定の魔物にだけ効果を発揮する武器を作れないか?


 デススパイダー退治の時に話題になったことがフランシスの好奇心に火をつけたらしく、ミスリルや魔石を主に素材にしていた彼女が魔物の死骸にも注目すうるようになった。

 デススパイダーの死骸を何体も実験しあの蜘蛛の特性を調べている。

 蜘蛛の糸は全体に粘着力があるのではなく粘着力のある体液を糸に並べているからだとか分かったらしくオーク達にも教えている。

 生きたデススパイダーを上手く使えば粘着力の無い強靭な蜘蛛の糸と粘着力のある体液を最初から分離した状態で採取できるかもしれないとか考えて今は料理の勉強をしている。

 オーク達との取引きでは食料品が喜ばれるので、より価値の高い、つまりはオークに喜ばれる保存食を開発すると奴らに協力させるのが楽になるという計算らしい。


 蜘蛛みたいに沢山の手が欲しいとフランシスが言っていたと幅の広い肩をひそめて身体を震わせてエリザベスが話す。

 ダンジョンで1ヵ月以上生活していたはずだが蜘蛛は苦手らしい。

女はたいてい蜘蛛が苦手だもんな。フランシスが変わり者なのだ。


「しかしこれは問題ですね」

 小僧が言う。

「マックスも蜘蛛が苦手かい?」

「好きではありませんが問題なのはフランシスとオーク達の関係です。フランシスが蜘蛛の研究をしオーク達がその手助けをするというやり方はデススパイダーの脅威を減らすためにとても上手く機能しています。しかし…」

「フランシスの技術がオーク達にしか伝わらない」

 小僧が少し考え込み続けて言う。

「エリザベスさんについても同様です」

 エリザベスが突然の話題に驚く。

「希少な知識を得た人の技術をもっと多くの人に伝えるべきなんです。オーク達ではなく。フランシスには蜘蛛より多い手を用意しましょう」



 冒険者達からフランシスやエリザベスの弟子を応募しはじめた。

 罪滅ぼしというとなんだが、最近のあれこれで冒険者ギルドからの依頼が減っており初心者向けの仕事が減っていたので、腕っぷしにまだ自信の無い冒険者には魅力的な提案のはずだ。

小僧が金も出すらしい。


 師匠と弟子の関係では効率が悪い。

 王都には貴族の子弟向けにあれこれと教える『学院』というのがあるそうでそれを真似ると小僧は言っている。


 知識を多くの人達に広げるのが得意なのは教会関係者だ。

 伯都にいるゼニスキー司祭に金貨を送り若手の教会関係者を派遣してもらうことにした。

 若手の教会関係者に説教に大事なことをあれこれ訊くと、声の出し方から始め色々な技で支えられているのが分かった。

 神の言葉は人間の技術によって支えられていたのだなと気づかされた。


 ブリッジスは教会と演劇場を参考に30人程度の小型劇場を設計した。

 砦の領地は街道沿いにアッパーフィールド家の砦方面へと拡大し続けていてその小劇場がいくつか建設されつつある。


 『マクロード学院』との呼び名が広まる前に『アッパーフィールド学院アブラ校』を正式名称とするため侯爵に許可も取った。

 アブラ山のダンジョンを中心としたこの地は、当分の間小僧が借りているもののいずれは返還しなければならない。

 返還された後も同じ名前が残るようにしたいと小僧は言っていた。

 貴族というのは気の長い考え方をするものだ。



 『アッパーフィールド学院アブラ校』で弟子を急増させた錬金術師のフランシスの研究はとても好調だそうだ。

 今まで1人でやっていた試行錯誤が4人でやれば4倍の速さになると。

 デススパイダーの家畜化により蜘蛛の糸と粘着液の分離は成功したが、地上では魔力の届きが悪いらしく糸の強さや体液の粘度が低い。

 オークの部族で家畜化されたデススパイダーの糸と粘着液が一級品として重宝され、地上産は二級品。

 二級品でも量産が効く糸は重宝され、デススパイダーに食べさせる餌で糸に色を付ける実験も始まっている。

 小型劇場の客席で俺とアイシャと共にそんなフランシスの話を興味深そうに小僧も聴いている。


 しかし。


「あれはいいのか?」


 俺たちと同じように熱心にフランシスの話を聞いているザイラス達を指す。

 ザイラスはエリザベスの鞭で人の言葉が理解できるようになったわけだが、奴以外のオークはザイラスに教えてもらって人の言葉が分かるようになってきているらしい。

 フランシスの弟子にさせるため金で集められた冒険者達よりも明らかに熱心だ。

 オークどもの受け答えは鈍重で人より知能が低いように見えるが、それでも心配していたオークへの技術流出が早まっていることになる。


「僕もオークの参加を禁止した方が良いのではないかと少し悩んだのですがこう考えました。知識に対して熱心な彼らはいずれオークの部族の中で大きな影響力を持つようになる。オークの中で大きな影響力を持つ者が僕らと同じ知識を持ち同じように考えるようになれば現在よりもより協力的な関係になれるのではないかと。地上の僕らがどれだけの力を持っているかを理解し同じような考え方をするオークならば無駄な争いはおこさないだろうと」

「フランシスが今話をしていたデススパイダーに食べさせる餌で糸に色を付けるというアイデアはオークの弟子から出て来たそうです。優秀な人材が育ったのならばそれを利用することも出来る…」

「…いい事を思いつきました」



 ゴブリンやオークにオーガーといった人型の魔物に定住できる場所を建設することにした。


 『ゴブリンの女王』ジーラの影響もあり、このあたりをゴブリンやオーク、オーガーが歩くことに冒険者達は慣れつつあったが定住するとなれば揉め事が想定されるので柵で囲い定住する場所を限定した方が良いだろうという話しになった。

 魔物が定住することを許された場所ということで居留地と呼んでいる。


 ジーラは引き続き『一週間砦』に残るそうだが、オーガーのコーネリアスとオークのザイラスは仲間を連れて居留地へ住むことになった。奴らがまとめ役になってくれないと小僧達もやりにくいという事情もある。


 『学院』で魔物との身振り手振りでの意思疎通を教えていたエリザベスは身振り手振りを続けるのは疲れるという事でカードに描いた絵による新しい意思疎通方法を開発していた。

 居留地の中ではそのカードによる意思疎通方法が応用され、居留地内の出店には通常の文字と合わせてそのカードと共通の絵柄の看板が設置されるようになった。


 急激に進む居留地の開発を眺めて小僧は言った。


「餌による蜘蛛の糸の色付けを思いつくような優秀なオークは…地上に吸い出してしまえば良いのです」

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