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14.蜘蛛

「ぶふぅうぅううう」


 目の前の練習場ではオークのザイラスがサンチェスにシールドバッシュでぶっとばされている。

 戦士であるザイラスは俺たちに簡単に捕らえられたのが悔しいらしく何度もサンチェスに挑むのだが歯が立たないようだ。

 あんな速い踏み込みで盾使って体当たりされたら避けてもどこかに当てられるから俺でもどうやったら対応できるか想像つかない。


 倒れたザイラスはエリザベスに回復の魔法をかけてもらいオークらしからぬ純粋な瞳でエリザベスを見上げている。

「リズ!勘違いされるような罪なことするなよ」

 エリザベスは誰にでも面倒見が良い。

 <<俺にだけ特別に優しくしてくれた>>

 そう冒険者どもに勘違いされ易いので、勘違いしたままの連中があちこちに居る。

 オークにまで勘違い野郎を広めない方が良いだろう。


「デススパイダー退治の依頼を受けて来ました」

 俺と並んでその様子を眺めていた小僧が話す。


 デススパイダーは脚を広げると人間よりも大きい蜘蛛で硬い甲羅と強靭で粘り気のある糸の攻撃がやっかいだ。

 オークの集落を越えた先の中階層に棲息していることが多い。

 鉄階級になったばかりの冒険者には荷が重い相手だが甲羅を切り裂ける武器があれば難易度は下がる。

 良い装備が使え剣技にも優れた小僧ならばさほど手ごわくはないだろう。


 俺はふと気付いてザイラスに訊ねる。

「デススパイダーをお前らも退治するのか?」

 ザイラスが何かを折って食べるような仕草をし、エリザベスに訴えかける。

「美味しいと言いたいみたい」

 エリザベスが身振り手振りを読み取って教えてくれる。

 そう言えばだいぶ前にデススパイダーは蟹のように美味しいと力説する冒険者がいたな。


 エリザベスの言葉にうなずいた後、さらにザイラスの熱が入る。

「硬くて苦労するけれど…集団で攻撃すれば…勝てる。苦労したぶんだけ…美味しい」

 エリザベスが言葉に落とす。

 言いたい事が伝わっているらしくザイラスは満足そうにうなずいている。

 食べるという事以外は俺らと大きな差は無いようだ。


「スライムの時は僕たちには見つからないのにジーラを連れて言ったら寄って来たのを思い出しました。デススパイダーも見つからないようでは退治できません」

 ザイラスにジーラのような魅力は無いと思うが小僧の懸念は分かる。

「貴族の流儀で考えれば、オーク達と取引してデススパイダーを殺してもらい死骸を引き渡してもらうのが良いように思えますが、ズルになりそうで」

 小僧が考え込んでいる。

「冒険者ギルドがデススパイダー退治を依頼する目的は大きく分けて二つ。ダンジョン攻略の敵を減らすこととデススパイダーの死骸から貴重な素材を入手すること。そう考えればオークにやらせても目標は達成していると考えられるかもしれない」

 小僧たちと行動を共にしている内に俺の考えも貴族の流儀に毒されてきたかな。


「決めました。オークと取引しましょう。そして退治したのはオークだと明示し功績の査定を割り引いてもかまわないとギルドに伝えれば後ろめたいことにはなりません」



 ミスリルの蛮刀の刀身には薄く切られた魔石がいくつも埋め込まれ、魔石をつなぐようにいくつかの記号と魔法陣が刻まれている。

 刀身と共に研磨された魔石を透過する光は神々しさを放つ。

 刀身の魔石と刻印以外に特徴的な装飾は無いが俺が今までみた中では最も魔剣らしい風格がある。

 ミスリルの加工にはだいぶ慣れていきた鍛冶屋のポールも魔石を刀身に埋め込んだ武器を作るのは初めてで人生の最高傑作と言っていた。


 その魔刀が二振り。


 これをオーク達に与えるのはもったいなくないか。


◇一週間前。


 オーク達とて命がけだ。

 デススパイダー退治は楽な仕事でない。

 であれば、デススパイダー退治を容易にする武具、あの硬い甲羅を切り裂けるミスリルの武器を与えて取引材料にすれば良いのではないかという話しになった。


 しかし。


「そのミスリルの武器を使ったオークに冒険者達が襲われたらまずいですな」

 サンチェスが気にする。

「伝説のドラゴンスレイヤーのように蜘蛛だけに威力を発揮する魔剣はつくれませんか?」

 小僧がフランシスに振る。

「とても興味深い提案ですが、今の私にはそれを実現するアイデアがありません。蜘蛛が苦手とするような天敵の素材などがあればもしかしたら可能かもしれませんがそれでも時間がかかりそうです…」

 素材と時間があれば出来るのかよ。凄いな。

 フランシスがなおも長考している。

「…爆破しましょうか。自爆するための魔石を組み込んで」


 自爆の魔石を埋め込んだミスリルの蛮刀。

 魔術師が魔力を込めて秘密のキーワードを言えば爆発し粉々になる宝刀が作られる事になった。



 ザイラスに指揮してもらいオーク達にデススパイダーを一匹仕留めさせた。

 魔刀の威力は抜群らしい。


 そのデススパイダーをオークの集落に持ち込み。集落の人々を集めた。

 集落に乗り込んだのはいつものメンバーにザイラス。

 ザイラスに魔刀が自爆機能を持っていて我々に逆らった場合は爆破すると説明させる。

そして実演。


 デススパイダーの甲羅をスルリと切り裂く。

 オーク達のどよめきが聞こえる。


 そしてザイラスが魔刀を台の上に置き後ずさる。


 アイシャが秘密の呪文を唱え魔刀に向けて何かを投げる動作をした。


 爆発する魔刀。粉々になったミスリルの残骸。

 オーク達の絶叫。困惑。

 ザイラスが大声を出して場を鎮める。


 もう一振りの魔刀を小僧が頭上にかかげる。

 そしてオークの族長へと手渡した。



「ここでのザイラスの様子を見ていて気付いたのです。オーク達はあまり美味い物を食べた事が無さそうだと。ダンジョンの中では手に入りにくい香草や野菜を合わせて調理した肉料理、果物、穀物などを持ち込み、デススパイダーの死骸やヘルハウンドの死骸と交換する。貨幣は知らなくても物々交換ならばオーク達と取引が出来ると」

 小僧は語る。


「お互いが得する関係になれば武力で強要した相互不干渉が長持ちする。そんな期待もできます」


 小僧の操る蜘蛛の糸にオーク達は取り込まれているということか。


「ただ…」


 小僧が肩を落とす。

「デススパイダー退治はオーク達の産業となり商業ギルドの扱いとなってしまったため、冒険者ギルドの査定は今回限りだそうです」

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