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12.オーク

「次はオーク退治かなぁ」


 薬草採取にゴブリンとスライムの退治が冒険者ギルドから依頼されなくなり、ダンジョンの封鎖解除の時のアンデッドの一掃で、ゾンビやスケルトンの退治依頼もほとんど無い。

 無階級の冒険者が階級を上げるために丁度良いぐらいの難しさの依頼が減ってしまった。

 ゴブリンは子供程度の大きさだけどオークは俺らより少し体格が良いぐらいなので力も強く知恵もそれなりにあり集団で行動し冒険者から奪った武具で武装していることも多い。

 無階級の初心者向けとはとても言えない。


 オーク退治はサンチェスならば十分だし奴が居ながら小僧の護衛に付くムコーセもそれに近い実力の持ち主だろう。

 アイシャは俺の指示で照明球の魔法を使ったことがありその時の手際は良かった。

 魔術師として最低限のサポートには役立つ。

 俺やエリザベスは1対1ならだいたいオークに勝てるが、オークにも強い奴がいるし集団で襲ってくることが多いので油断できないぐらいだ。


 さて、小僧はどうだろう。



「降参だ」


 汗一つかいていない小僧に俺は手を上げた。


 打ち込めばいなされてその流れで首をはねられる。

 待ち構えていれば剣を巻き込まれ身体の軸をそらされ首を突かれる。

 練習場での模擬戦なので実際には首をはねられてはいないが、「不死殺し」マクロード家の剣術は徹底的に首を狙ってくる。

 ゾンビなど人体の仕組みを利用して動く下級のアンデッドは首を切り離すことで退治できるから剣術としてアンデッド対策を極めた結果なのだろう。

 小僧の使う剣の柄には魔石がいくつか埋め込まれている。

 魔力の込められた剣を使えばさらに効果的というわけだ。


 これだけ強ければオーク以上の中級程度の魔物にも勝てそうだ。

 パニックにさえならなければ。



 ウラギリオは人払いした密室で一人の男と話している。

 男の名はラフマン。

 ウラギリオの腹心である。


「暗殺はやり過ぎだ。男爵家の三男を領内で殺してしまうと事件になる」

 こいつの考えはいつもあらっぽすぎる。

 だからレッサードラゴン捕獲にも失敗するのだ。

 ウラギリオはどこを見ているのか分からないラフマンの瞳が苦手で目をそらす。


 邪魔をしたい。恥をかかせたい。


 そんな小さな私怨ではなく侯爵家のためなのだ。

 マクロード家の領地までにはバンブーウエーブ伯爵領にマサカ子爵領を越えねばならず直接の領地侵略の心配はしなくて良い。


 しかし、領主であるアッパフィールド侯爵から他の貴族へと民心が傾くのは問題だ。

 民に『領主がマクシミリアン様なら』とか思われてはいけない。


「冒険者の評判を一番下げる行動はなにか?」

「魔物の暴走を引き起こすことでしょう」

 魔物の暴走を引き起こして侯爵家の名を貶めた本人がまるで他人事のように言うのが気に入らないがやはりそれなのだろう。

「ダンジョンに入った小僧にパニックを起こさせパニックで一目散にダンジョンから脱出した結果、魔物の暴走を起こした愚か者として名を落とす」

 それが良いだろう。

 腕利きの家臣がいたとしてもリーダーがパニックになればパーティーは崩壊する。

 甘やかされた貴族である小僧が狙い目だ。


「優秀な暗殺者は武器を現地調達すると聞きます」

 暗殺はまずいというのに何を言っているのだこの男は。


「ネクロマンサーを使いましょう」



 死人使い。ネクロマンサーは特殊な術者である。

 死者の魂から恨み、絶望、恐怖などの思いを魔石に吸い上げ、その魔力をもって死体を操作する。

 自身の中にある魔力を練り集め魔力として使う通常の魔術師とは異なる技法。

 戦場や墓場で死者から魔力を集める様は死神のようであり忌嫌われている。


 しかし死者を次々と戦力とするその外法は単身で強大な戦力となる。

 また、貴族が死んだ時に有利な相続をしたい者が相続の他の関係者に死を気づかれる前にネクロマンシーで遺言を書かせるなどの悪用の例もある。


 希少で置き換えがきかない仕事を出来る。


 そう、ネクロマンサーのメロロは安くない女なのだ。



 小僧の戦闘技術は十分以上にオークと闘える。

 だが戦闘技術があってもダンジョンでは失敗した連中を何人も見て来た。

 貴族や大商人の子供といった技術を教えてくれる人には恵まれているものの自力で困難を克服したことがない連中にその傾向がある。


「前に魔物の暴走の話をしたこと覚えているか?」

「ええ。強い魔物から逃げる時そのままダンジョンの出口まで向かわず隠れるか退避できる場所に逃げ込めば暴走を食い止められると」

 やはり優等生だ。よく分かっている。

「その退避できる場所なのですがこの野営地もそうなのだと気付きました。掘をめぐらし柵で囲むことで魔物の侵入を防いでいる。つまりここの縮小版をダンジョン内に作ればそこを退避所に出来る」

 小僧の考えは俺の予想を越えていた。



 ダンジョンを改造するのが一番確実な方法に思えたが租借できていないのでダンジョンそのものは改造しない計画になった。

 まずダンジョンの3階層に柵で囲んだ場所を確保しスライム駆除の道具を設置した。

 その柵の中にある程度事前に加工(プレファブリック)した建築資材を集め目的地である5階層での拠点構築の準備をし、資材が揃ったところで5階層へと向かい短期間で構築を完了させる。


 そして今、問題の5階層で俺たちは構築現場の作業を護衛している。

 オーガー達は人間の3倍以上の荷物を運べるので大活躍だ。力強い仕事ぶりを見ると彼らにオークを倒してもらえばよいような気もする。

 人の出入りや資材の搬入作業が頻繁なためか魔物が襲ってくる様子はない。

 暇なのでアイシャの淹れた紅茶を飲んでいたりする。



 鉄の柵で囲い食料品倉庫を備えた拠点がダンジョンの地下5階層に出来た。

 これでオーク退治で想定外に手ごわい敵が出てきても安心だ。

 いざという時はここに退避し反撃拠点とすればより上層への魔物の暴走の被害を起こさなくて済む。

 いよいよ明日からオーク退治を始める。



 オーク退治は順調だ。

 中層に近づくということで回復役のエリザベスも来てもらったが話しがややこしくならないようにエリザベスの鞭は使用禁止とした。

 マクロード家の家臣達はあくまでもオークをしとめるのは小僧にやらせたいらしく、サンチェスは攻め寄せるオークをシールドバッシュでぶっとばし、ムコーセは弓の早業でオークの足を止める。

 小僧の剣技も冴え、オークの首がどんどんはねられる。

 討伐証明にオークの鼻を切るのが大変だなと思った。



「首をこうスポーンと」

 メロロが右手で自身の首を切る動作をする。

「スポーンと」

 ウラギリオが釣られてつい呟く。


「だからオークをゾンビに出来なかった」

 メロロの報告はそこで終わった。

 この女は依頼に失敗していながらなんで偉そうなんだ。


 マクロード家の小僧がオーク狩りをするのならばその狩られたオークをゾンビにすれば包囲網が作れる。

 オークを倒せばその分、ゾンビのオークが増える。

 終わりの見えない戦闘で不慣れな小僧をパニックに陥らせる。

 そういう狙いだった。


 しかし。


 全てのオークが首を切り離されて仕留められたため、どの死骸もネクロマンシーで利用できなかったのだ。


「理屈は分かった。しかし失敗した責任はどうするつもりだ」

 生意気な女に釈明をさせなければならない。

「作戦のミスよ。ネクロマンシーには条件がありその条件が満たされていないのだから私にはどうしょうもない。わかる?」

 この女は依頼に失敗していながらなぜ私をバカにしているのか。



 いよいよ無階級から鉄階級への昇級も近い。

 一流の冒険者への道が開けてきた。

 そう思うマクシミリアンであった。

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