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11.ギルド

 冒険者ギルドは仕事が減っていた。


 薬草が地産地消になってギルドを経由しなくなった。

 まとまった数のアンデッドが一掃されて楽になった。

 ゴブリンが減って楽になった。

 スライムの駆除で楽になった。

 ダンジョン攻略を最終目標とするギルドとしては喜ぶべき方向に動いている。

 それはわかる。


 しかし、その分、ギルドの存在感も低下しているのではないか?

 ギルドマスターはそう思い始めていた。


 手元には冒険者達からの嘆願書。

 『一週間砦』にギルドの出張所を作って欲しいと。

 砦の中の事は勝手に出来ないということで主であるマクシミリアン・マクロードに打診したところ大歓迎だと言われてしまった。

 砦の中にマクロード家でない施設を作るのは許さないと断ってくれればこの嘆願を拒否する理由に出来たのに。


 あの砦の周辺には既に冒険者達が住居を構え住みつつある。

 彼らがわざわざオカチの町に来るのはここに冒険者ギルドがあるからであり、砦にギルドの出張所を作ったら冒険者達がやってこなくなるのではないか。

 冒険者達が来なくなれば彼ら相手の商売も成り立たなくなり砦へと移動してしまうのではないか。

 ギルドの中だけは収まらない影響が懸念されるのだから領主様へも相談しよう。



 『軍師』ウラギリオの手元にオカチの町の冒険者ギルドからの手紙が届いていた。

 マクロード家の小僧の砦はますます拡大している。

 気に入らない。

 アッパーフィールド侯爵家の貴重な資産であるダンジョンへの影響度をマクロード家に侵食されつつあると考えるべきだろう。

 ダンジョン以外のアブラ山周辺の土地は価値が低いと考え安易に貸し与えてしまったのが失敗だった。

 マクロード家の示した租借料があまりにも莫大だったため財政が困窮している侯爵家としては断ることが出来なかったという面もある。


 あの砦の影響力をダンジョンから切り離さなければならない。

 砦には砦を。


「築城頭のアンダーソンを呼べ」



「アッパーフィールド侯爵家の築城頭を務めておりますアンダーソンと申します」

 厚い胸板に太い腕、白いものが混じったアゴ髭をたくわえた男が貴族への礼で自己紹介している。

 同じ築城頭でも細面のブリッジスと違い現場肌のようだ。

 大きく快活な声には晴れやかな響きがある。


 しかしアンダーソンが持ってきた話しには泥臭いものを感じた。


 ダンジョンと『一週間砦』の間にアッパーフィールド侯爵家の砦を築くので許可が欲しいとのことだ。

 小僧が租借しているからには侯爵家の土地であっても勝手には出来ない。


 侯爵家の狙いは見え透いている。

 ダンジョンに近い事で栄えた『一週間砦』周辺の賑わいを横取りするのが目的だろう。

 新しい砦を築くことでオカチの街とダンジョンと『一週間砦』の三角にむすばれた関係から『一週間砦』を孤立させる。

 小僧の金で既に街道は整備されていて『魔物の森』だった土地も開かれている。

 侯爵家はその尻馬に乗ることで安く砦を構築出来る。

 『一週間砦』の賑わいを守るつもりなら拒否すべきかもしれないが侯爵様の土地を借りている形なので断れないだろうな。


 まぁ、俺としては砦が静かになっていいのだが。



「ハ~ンス!」


 ダンジョンから東の砦が接している川の上空をハンスの乗るワイバーンが飛んでいる。


ずずずずぅーん。


 地揺れと共に大きな水柱が上がっている。


 小僧たちは侯爵家の砦構築を許可するだけでなく積極的に協力し始めた。

 彼らにとって『一週間砦』はダンジョン攻略のための野営地でしかないからだ。


 新しく侯爵家の砦を築くのであれば重量物は川を利用した水運で『一週間砦』に運びこみ、そこから街道で構築予定地に運ぶのが良いだろうという話しになった。

 侯爵家のアンダーソンも同意した。


 水運を本格化させるためにはこの川の中の大型の魔物が邪魔になる。

 川の名前はリネ川という。

 ワイバーンで上空からリネ川の中の魔物を見張り、みつけしだい魔石の入った小袋を投下。小袋がすこし沈むのを待って魔法で爆破。

 ダンジョンの上を抉った時と同じく『白銀の牙』のヴァイオレットを中心に大きな魔法陣で魔術師の力を合わせ魔石を狙って爆発(エクスプロージョン)の魔法を放つ。

 ヴァイオレットの手には金貨。


 爆発による水の圧力は凄いらしく内臓をやられ身動きできない状態で巨大な魚やワニが次々と浮かんでくる。


 これで船を襲うような大きな魔物はいなくなるだろう。


 水運が順調な一方で陸運は壁に突き当たっていた。


 ミスリルで作った荷馬車は頑丈で建築物資の重さにも耐えられたのだがその荷馬車の車輪が街道の土にめり込んでしまうらしい。

 ブリッジスとアンダーソンが両家の壁を越えて何やら試行錯誤している。

 秘密の脱走路や隠し部屋を知られないために築城技術は門外不出にするものと聞いていたが彼らの間にはそんな溝が感じられない。


 この二人ならいずれなんとかするだろう。



 底の浅い帆船がリネ川を行き来し水運で食料品なども運ばれるようになった。

 海に出てからのマクロード家の海運と連携し人の出入りもさらに賑やかになってきた。

 冒険者達の集まりだったこの地に他の職業の人達も定住し始めている。


 ブリッジスとアンダーソンは鉄の棒をわだちの幅に二本敷き、その二本の鉄棒の下に木を並べる事で地面に接する面を広くし、荷馬車の車輪を乗せて動かすことで重い荷物を運べるようにした。


 今まで見たことの無い荷馬車の使い方だが使う連中には好評で、長い二本の鉄棒がリネ川からダンジョンの麓までつなぐように並べられている。


 どうやら新しい技術らしくアッパーフィールド家とマクロード家のどちらの技術とも言い難いため、ブリッジスとアンダーソンは石工ギルドを作りそのギルドの技術とすることにしたそうだ。


 アッパーフィールド侯爵家の砦はあと数か月で目途が立ちそうだけど、あの砦が使われるようになっても『一週間砦』の周辺は静かになりそうにないな。

 そろそろちゃんと砦に名前をつけないとややこしくなりそうだ。



 ウラギリオは間諜からの手紙を千切りとばし踏みつけた。

 マクロード家の小僧の砦の孤立化は失敗し、計画とは逆にますます盛況との報告だった。

 水運と陸運の交わる拠点となってしまい物流用の倉庫なども建てられ始めているらしい。


 まったくいまいましい。


 しかし。


「計画通り」


 界隈の発展は自分の功績として侯爵様に報告しようと思うウラギリオであった。

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