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10.スライム

「なかなか見つかりませんね」


 スライムを見つけるのは難しい。

 スライムはダンジョンの天井から落下して来るなどの方法で獲物を襲い包み込み消化していく恐ろしい魔物だ。

 無階級の冒険者にはちょっと荷が重い。

 しかし薬草採取もゴブリン退治も出来なくなったからには少し無理目の依頼に手をつけるしかない。


 無理目と言っても初心者の小僧やアイシャに対してであり、そこについていくサンチェスやムコーセにとっては余裕だろう。

 ダンジョン探査のメンバーは小僧、アイシャ、サンチェス、ムコーセに俺の5人。

 ハンスは馬車で待っている。


 メンバーの戦闘力は十分でもスライムが見つからないとどうにもならない。

 また明日かな。



 ゴブリンにとってもスライムは恐ろしい魔物らしい。


 砦に戻ってスライム退治をどうやるか話していると、稽古を終えたエリザベスも加わって来た。

 ジーラも一緒にいてスライムの話が出ると怯える。

 人間より小柄だから包み込まれやすそうではある。

 冒険者から見ても単体ならスライムの方がゴブリンより手ごわいもんな。


 天井からスライムが様子をうかがっているとか手振りで表現している。

 子供がよく狙われると。

 上手いものだ。さすが『一週間砦』の看板役者。

 それにしてもスライムをよく観察しているものだな。


 まてよ…


 サンチェスが俺の方を向いて意味ありげにうなずく。

 俺の思いつきって顔に出やすいのかな。



「キィ…」

 怯えるジーラの悲鳴。

「キィイイイ!」

 スライムに襲われたジーラの悲鳴。


 ダンジョンではゴブリンがスライムに襲われるらしい。

 狩られる側は狩る側の察知に敏感だ。

 ということでゴブリンのジーラならスライムを発見できると考えスライム退治に連れて来た。


 そしたら釣れる釣れる。

 お前らどんだけゴブリン好きなんだよと思うぐらいスライムが襲って来た。

 ここにもいたのかジーラファン。


 小僧がスライムの核をスパッと切り裂き退治完了。

 マクロード家の家臣団にはスライムが珍しいらしく、錬金術師のフランシスの依頼で一匹は捕獲。

 いつもの5人にジーラは無事に砦への帰路へついた



 エリザベスにめっちゃ怒られている。

 うちの看板女優になにさせてんのと。


 メンバーの戦闘力的に危ないことはしていないとか、ジーラはお菓子食べた後おちついたみたいだよとか、言い出したのはサンチェスで俺じゃないとか、言い訳したら火に油をそそぐことになる。

 囮にするつもりはなくてジーラにスライムの見つけ方を教えてもらおうと思っただけだったんだけど。

 それを今更いってもなぁ。


「すまん。二度とやらない」


 こういうときは頭を下げるしかない。



 薬草採取についでようやく二回目の冒険者ギルドの依頼達成。

 スライムをさくさく退治していけば無階級から鉄階級への昇格が見えてくる。


 しかし。


「ジーラをダンジョンへと連れて行かないと約束した」


 小僧の顔が曇り、サンチェスは控えめに点を仰ぐ。

「ジーラさんにスライムを見つける技術だけ教えてもらうとか?」

 小僧の提案。

「ジーラが発見したのではなくスライムがジーラを発見して襲って来たように見えました」

 サンチェスが言う。


 そこなんだよな。

 まるでジーラの匂いにでも誘われるようにスライムが集まって来た。

 ジーラを連れて行かないと少しぐらい発見する技術があってもなかなか出会えないだろう。


「魔物を発見する機会が少なくても粘り強くダンジョン通いを続けるのも一流の冒険者には必要なことだ」

 世の中そんなに上手くいくことばかりじゃない。


 諦める雰囲気で話が終わろうとしたところで突然フランシスが発言した。


「…こんなこともあろうかと」


「捕まえたスライム。どうやら簡単に増やせそうです」



 モゾモソモゾ、ブワブワブワ。


 多数のスライムが大きな木の枠の中で育っている。

 餌を与えればどんどん増えるらしい。


「マクシミリアン様が冒険者ギルドでスライム退治の依頼を受け、ここで一匹倒して討伐証明に核周辺を切りとってギルドに提出する。最適化すれば一日に2回の依頼達成が可能でしょう」

 砦近くに冒険者ギルドの出張所を作らせればもっと高速化可能とフランシスが続けて語る。

 楽しそうだ。


「冒険者ギルドがダンジョンの魔物退治を依頼する理由はなんだと思う?」

小僧に訊く。

「最終的にはダンジョンを攻略し地域一帯を平和にするためですね」

優等生の答え。

「とするとだ…スライムを養殖するのってギルドの目的に反していないか?」


 ハッ。とする音が聞こえた。



 これといって名案もなくダンジョンへ通い、スライムに出会えないままが数日続いた夜。


「今度は大丈夫です」

 目に隈を作り後ろに束ねた髪にボサボサ感を増したフランシスがやってきた。


「ジーラファンが泣いて欲しがるジーラの残り湯から抽出した成分に香りを強める香草などを混ぜた『スライムホイホイ』が出来ました」

 密閉した容器にその薬丸を入れダンジョンに持ち込み、適当な場所で香炉にかかて香りを広げればスライムがどんどん寄ってくるはずだと。

「そしてこれが『スライムコロリ』」

 同じように香炉に焚くとスライムにだけ効く毒成分が煙となって広がり一網打尽に出来ると。


 『スライムホイホイ』で集めて『スライムコロリ』で殺す。


「養殖したスライムでの実験で効果を確認していますがダンジョンでの試験はまで出来ていません。このような状態でマクシミリアン様にご使用いただくのは危険なので…」

 フランシスがサンチェスの方を向く。


「ハーンス!」


 サンチェスとハンスは『スライムホイホイ』と『スライムコロリ』を持ってダンジョンへ飛んでいった。



「成果は上々です。と言いますか『スライムホイホイ』の効果が強すぎていささか難儀な量のスライムが集まりました」

 サンチェスの報告。

 ハンスがげっそりしている。そうとう量のスライムが押し寄せたのだろう。

 その様子を想像してアイシャが身体を震わせる。

「私もスライム苦手ですのでスライムを簡単にやっつけられるのは嬉しいです。でも…」


「スライム退治と言うよりは駆除になりますね」



 フランシスはその後も改良を続け、「スライムホイホイ」の薬丸が燃え尽きると自動に「スライムコロリ」へ切り替わる装置を作ったため、誰でもスライムを駆除できるようになった。

 その結果、またまた冒険者の仕事が減ることとなってしまった。

 「スライム退治」を依頼するなら定期的にスライム駆除した方が安上がりと。


 一流の冒険者への道は難しい。そう思うマクシミリアンであった。

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