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1.出会い

 ドラゴニア王国のマクロード家は莫大な資産を有している。

 初代が辺境に領地を得て以来、地の利を生かし開発を拡大し、二代目は倹約家、三代目は港を開き貿易に励み、四代目は賭けに強かった。

 五代目の現当主は貴族仲間から「高利貸し」と陰口を叩かれている。


 マクロード家の三男、マクシミリアンは初代コナン・マクロードの冒険譚が好きだった。

 彼だけでなく兄弟全員が祖父の語るコナンの物語に惹かれ、大好きなおやつを食べるのも忘れるほどだった。

 一本の剣を相棒に各地を巡りドラゴンと闘い捕らわれの姫を救出する。戦場では無人の野を行くように敵兵をなぎ倒し、戦友とは飲みかつ笑う。

 そう、初代コナン・マクロードは冒険者だったのだ。それも一流の。


 長男は父に従い家を継ぐ道へ、次男はその兄を助けるために教会への道を進んだ。

 三男は16歳の成人を迎え一つの決断をした。

 コナンの過ごした道を歩こうと。一流の冒険者になると。

 マクシミリアンは許嫁のアイシャと御守り役のサンチェスを従え馬車で旅立った。



 アッパーフィールド侯爵領にあるオカチの町はダンジョンから馬車で3時間の距離にある。

 ダンジョンで稼ぐ冒険者達の町と言ってもいいだろう。

 冒険者ギルドの建物はなかなかのものであり1階のカウンターには酒場が併設されている。

 その酒場では一人の男がやさぐれていた。

 年の頃は三十半ば、くすんだ金髪に大きな鼻、青い瞳は濁っている。

 男の名はクリストファー。人生最大の後悔にさいなまれ昼間からやけ酒を煽っていた。

 クソったれな侯爵とクソったれな自分を呪いながら。


「『お助け屋』のクリストファー殿ですか?」


 バカ丁寧な呼びかけに顔を上げると、輝くばかりに磨き上げられた鎧を着た少年がいる。

「ああ」

 気の抜けた返事をするクリストファーに少年は名乗った。

「マクロード男爵の三男、マクシミリアンと申します。『一流の冒険者』になるためにオカチの町に来ました!」

 登録したばかりの何も階級が書かれていない冒険者プレートを嬉しそうに突き出しながら。



「まぁ座れよ。あと、俺のことはクリスでいい。クリストファー殿と呼ばれるとどうも落ち着かない」

 マクシミリアンと名乗った小僧にテーブルの向かいの席を指す。

「それでは失礼します。僕のこともマックスと呼んでください」

 艶やかな黒髪の小僧にならい少女とぶっそうな戦斧を背負った筋肉男も席につく。

 少女の名はアイシャ、筋肉男はサンチェスと紹介した小僧が周囲を見回す。

「酒場で愛称を交換する。これぞ冒険者って感じですね」

 頬がほんのりと紅潮している。

 貴族の案内は悪くない仕事だが今の俺は貴族というだけで気に入らない。

「まだ引き受けるとは言っていない」

 恵まれた小僧に抵抗したくなった。

 睨みつける筋肉男に鼻で笑ってみせる。

「それになんで俺なんだ?ダンジョンに入るならもっと腕利きがいる。今なら『白銀の牙』も町にいるはずだ」

 『白銀の牙』はこの町のトップパーティー。銀階級の冒険者が揃っていて腕は確かだ。

 金持ちの貴族なら奴等も雇えるだろう。

「旅立つ僕に父上が言ったのです『失敗に学べ』と。受付けでクリスが一番失敗の多い冒険者と聞きました」

 自慢気に胸を張る小僧。

 …

「なるほど、それなら適任だ」

 魔物の暴走に巻き込まれ全てを失った俺にはぴったりな仕事だ。



 ドラゴニア王国は安直な名前の通りドラゴンを使役した勇者が建国したと言われている。

 アッパーフィールド侯爵家はそのドラゴンをてなづけた竜使いを祖に持つ名家。

 領内のアブラ山にはダンジョンがある。

 岩山の中腹に口を開けたダンジョンには冒険者たちが集まり、魔物の死骸から取れる希少な材料が特産物になり、交易が盛んとなった。

 一攫千金を得た冒険者達がアッパーフィールドを第二の故郷と愛し莫大な投資を残した。

 侯爵家はぼーっとしているだけで十分な収入を得られた。


 しかし。アッパーフィールド侯爵家は領地経営がヘタクソだった。


 他の領主たちはぼーっとせず頑張ったため代を重ねるごとに相対的に侯爵家は衰退していった。

 致命的だったのは先代の失敗。

 海運の保険であてがはずれ大きな借金を作ってしまった。

 それでもぼーっとしていた現当主に王立学院出の「軍師」が知恵を付けた。


 家宝である「竜使いの鞭」を使ってダンジョンの深層に眠っていると言われるドラゴンを捕らえましょうと。


 ドラゴニア王国の歴史で数えるほどしか目撃例のないドラゴンを捕えれば金になる。それは間違いない。しかし危険すぎる。本当にダンジョンの奥にいるかどうかもわからない。そもそもダンジョンの出入り口を通らないのではないか。

 家臣達が喧々諤々の議論をしているところにダンジョンの中層でレッサードラゴンを見かけたとの情報が入った。

 レッサードラゴンでも金になる。ダンジョンの下層は人跡未踏であったが中層なら腕利きの冒険者でも到達例がある。

 議論は決した。


 ぼーっとしていた侯爵に幸運の女神は微笑まなかった。

 レッサードラゴン捕獲のために派遣した冒険者達は中層まで到達したもののアンデッドの奇襲を受けレッサードラゴンを発見する前に敗走した。


 一目散に逃げる冒険者達は次々と魔物達を刺激していき魔物の暴走を引き起こしてしまった。

 中層からの魔物の暴走は稀に見る大規模なものとなり、大規模な魔物の暴走を外に出さないためにダンジョンは鉄の扉で封鎖された。

 有事には封鎖がダンジョンの鋼鉄のルール。

 鉄の扉の前には魔物も冒険者も同じである。

 不運な冒険者はダンジョンの中に閉じ込められた。


『お助け屋』も騒動に巻き込まれクリストファーは回復役の相棒とはぐれてしまっていた。

初投稿です。

2018.5.21:マクシミリアンの動機の説明を追加しました。

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