ルーガスと銀行員~頭の痛くなる事情を添えて~
投資とか分かっていないで書いてます。ごめんなさい。
フロティア暦1月19日 早朝。
「さあ!神殿も解決したし!今日こそお店を開店するぞ!!」
『その前に店の名前決めねえのか?』
「………………」
思った以上に神殿の攻略があっさりと終了したために、これは賃貸料も期待できないとルーガスは焦りを感じたらしいだけでなく、ちゃんと真っ当に飲食店を開いての収入も諦めきれていなかった。そのためにこうしてリオルを連れて食材を買い出しに来ていた。
ガルガストはちゃんと人に化けて勝手についてきた。
メニューの葉物野菜は毎日新鮮なものを提供するためにこうして毎日買いに出かける。既にルーガスとリオルは何度か経験しているためにいつも通りに足取りもしっかりとしているが、ガルガストは違う。
『朝市か。』
東の空がようやっと目覚め始めた。そんな頃合いの南地区の中心が、ここまで活気だっていたのかとガルガストはせわしなく頭を動かし周りを見た。まるで初めて王都に来た旅行客だ。
南地区の朝市は港から新鮮な魚などのほか、異国の珍しい果物や香辛料も並ぶために他のどの地区よりも賑わう朝市となっている。出店の軽食も暖かい湯気と肉の焼ける臭いで人を集めており、こんな氷点下だというのに大繁盛である。かく言うルーガスたちもその質と量に惹かれた身で、常に仕入れはここで済ました。
毎日の朝刊もここで買う。
『あ、おっちゃん。一部くれ』
「あいよ、銀一枚ね。今日の新聞はいつもよりすごいよ」
国営である証の黒竜が社名代わりに飾り付けられている黒竜新聞の一面に、神殿の記事が載っていた。
【神殿を人類が初の消滅、今世紀最大の軍の快挙】
『やったのルーガスじゃねーか。あーあー知らねーぞこんなのを公式の新聞に載せて、今後また神殿が出現して実は軍では消滅できませんとかなっちゃったら』
「え、僕も軍人になった覚えないよ?」
まず誰もそんな快挙を成し遂げた人が、こんな所で冬キャベツを十玉購入してるとは思いません。
「はい持って」
『俺かよ』
強いな店長。そして持ってくれるんですねガルガストさん。
本当にこの人(?)達は気安い仲だなぁとある意味感心しながらも、リオルはいつも通り店長と別れ馴染みのパン屋へ足を進めた。
朝市の通りと繋がってはいるが車も入らない狭い小道にその店はある。
コーリー
古代ガレイゼル語でよく使われた“こんがり焼きあがっておいしそうなパン”を言いするその言葉を、現在のガレイゼル語で刻んだ看板で掲げたのは百年前。それより以前からここでパンを焼いていたという、老舗。
そしてルーガスがお店で使うパンは絶対ここだ、と開店前から決定していたあたりからして、恐らく竜暦の頃から味の変化はないのだろう。リオルの他にも何人かが、今日も店を出入りしていた。
店の扉のベルに反応し、いつもながら恰幅も愛想もいい店主の奥さんが、程よく忙しい中振り向いてくれる。
「いらっしゃーい。あらリオルちゃん!包帯とガーゼもう取っていいの?」
「おはようございます、エリゼさん。頭の方は順調だったので取っちゃいました。首から下はまだ駄目だって言われましたが」
「無理しちゃだめよ?でも顔に傷が残らなそうなのは、本当によかったわね~店長さんもすっごく心配してたし…あら、店長さんは?」
「外で冬キャベツ十玉買ってます。ロールキャベツがどうとか言ってました」
「あらっ、いいわねー!今の時期あったかい料理は人気あるわよー。じゃぁ電話で言われたやつね!」
「はい、七斤お願いします」
「いつもは三斤だったのに、ずいぶん買うのねー」
「はは、見かけによらず大食漢なお客さんがいまして……」
キイチの事である。ガルガストが一人でこの雑穀食パンを一斤も消費するのはまだわかるが、キイチもほぼ同等の食事で、ようやく夜食を求めずぐっすり眠れるというのにはルーガスも目を丸くした。
リンレイは相変わらずよく食べるよなーと笑ってその食事風景を眺めていたが、ハロー・ハローの軍人三人もカウンターの二人のその食いっぷりに唖然としていた。そんな一昨日の夜を教訓にしたこの量である。
「一人じゃ無理そうねー、ちょいと待ちな。リーゼ!リオルちゃんの事、手伝っておやり!!」
「っ!わかったわ!ちょっと待ってねリオルさん!」
「エリゼさん!?そんな、こんな忙しい時間帯に一人抜けたらお店の方が」
「いーのいーの!それに七斤も分けて運んだりするより、二人でいっぺんに片づけてくれる方がこっちも助かるわ」
たしかに、包装された食パン七斤はかなり店の場所をとっていた。三斤と四斤でガルガストの車に運ぼうとしていたのも事実だったので、リオルとしては彼女の申し出はありがたい。でも、甘えちゃってもいいのかなと悩んでいるうちに、エリゼが自分のコートを羽織ってやってきた。女将さんのよく通る声をしっかり聞いていたらしい店主も、恨みがましい目で奥のかまど部屋から顔を出す。
「お待たせしましたリオルさん!お手伝いさせていただきます!」
自分に似た顔立ちだが、女房と同じ茶髪に碧眼の目をした一人娘の生き生きとしたその声に父親は複雑だ。客の何人かもニヤニヤしているが、リオルは人なのに呪いのこもったような眼差しの店長から目をそらすので精いっぱいである。
父親、マジで、神より怖い。
「ほらほらリオルちゃん、あの店長さん待たせると後が面倒よ~?」
「う…うちの店長をよくご存じですね、エリゼさん」
「アルコールフェスで医者の坊ちゃんと一緒にあんだけ大量に買い込んでちゃねぇ!!そら有名にもなるわよ!!」
あっはっはと豪快に笑う女将さんに止めを刺されながら、リオルはリーゼと店を出た。
「ええっ!?じゃあ朝刊の神殿って、リオルさんの働いてるお店の近くだったの!?大変じゃない!!」
「むしろ店長が酒類につぎ込んだ金額の方が大変かな?道理ですごい数が揃ってるなぁと…」
「リオルさん!」
それじゃあルーガスさんと変わらない神経ですよ!!
「リーゼちゃん………それ、結構辛い………」
「ああ!リオルさん気を確かに!」
十四歳の鋭利な言葉は、リオルのガラス細工のごとき繊細な心の内を粉々にしてくれた。失敬な。
自分はあんな黒竜の炎で薪ストーブの火おこしを頼むような大人と一緒ではない。断じてない。結構違うから。
瞳の色は一緒でも!!
「リオルさん?」
「大丈夫、俺はまだやれる……あ、この駐車場で大丈夫」
「え?店長さんも車を買われたんですか!?うちの父も買おうとしたんですけど、業務用の車は先月の時点で三か月待ちだって言われたんですよ?今はもっとかかるって話だし、よっぽど前から予約されてたんですね」
「それが宿代代わりに自分の車を貸してくれてるお客さんが来ていてね。店長と長い付き合いみたいなんだけど……あ、食パンの事すごい気に入ってたよ、そのお客さん」
『おう、三斤ぐらいじゃ足らねーよ。もっと食いてぇ』
「あら!」
「ガルスさん」
既にキャベツを車に乗せるために戻ってきていたガルガストが現れ、年上の野美な魅力に少女はぱっと赤らんだ。
町でも評判の愛らしい少女のその反応は、寒い朝の空気の中で待ちぼうけを食らっていた大地神の機嫌を幾ばかりか上昇させた。リオルは大人に負けて悔しくなったが。
「店長はどうしたんですか?」
『銀行屋とかいう嬢ちゃんに捕まってコイン銀行の本店に連行されてったぜ?なんかエルシーの嬢ちゃんが店を借りた金をもう用意したらしい』
ふかしていた煙草を携帯灰皿に押し込みながらそう言ったガルガストの言葉には何やら疲れが窺えた。そういう反応になっても仕方がない銀行員を一人、リオルも知っていた。
「ああ……その銀行員って “ラビラット人”でした?」
「あ、コイン銀行のラニさん」
『知ってんのか二人して。そんなやり手なのか?あの女』
「店長が初めて銀行に入った瞬間、あの人が腕をがっしりと掴んで対応したとか聞いてます」
「!?金貨を千枚以上持ってる人にしか反応しないっていうあのラニさんが!?」
『ウサギの嗅覚スゲー……まあいいや、リオルそのパン後ろ乗っけろ。もうあいつ置いて帰っぞ』
「ですね、あのラニさんが動いたとなると……エルシーさんいくら払ったんだろ……」
『魔法兵共の作戦本部に、あんないい条件の空間借りたんだぜ?そりゃ結構な金払うだろ』
「ああ……でもあの人に投資がどうの言ってもわかんないのに。昼までには帰ってこれるかなー店長………無理か」
『すんげーきらっきらの目をした笑顔だった。あのルーガスが顔を引きつらしてた』
「「うわー……」」
リーゼさえ憐みを込めてルーガスに同情していたが、ここで長話していても風邪をひくため、とにかくパンを後ろに乗せようとしたのだが、思った以上にキャベツが場所をとっていた上に一緒にしたら拍子でパンの方が潰されそうである。
悩んだ末、リオルはこうした。
「ガルスさん。パン乗せて先にお店の方に行ってください。俺はリーゼちゃんをお店まで送って徒歩で帰ります」
『ああ、それがいいな』
リーゼの顔が喜色に染まるのを、背を向けてガルスに対面していたリオルだけが気付かなかった。神は少女のそのいじましさに微笑んでしまい、少年の心がまた一段と遠ざかったのだが気にしなかった。
『青春しろよー、普通のな』
「……」
普通じゃない情を自分の騎士に向けていたらしい王を一人知っているために、リオルは何も言えなかった。
しかも騎士のほうは気づいてない。
そうだよねーリンレイがそのまま大人になったような美形だったもんねー
「誰だよ店長」
「リオルさん?」
「あ、ごめんリーゼちゃん。ちょっとうちの店長の青春時代の疑惑についてね」
「店長さんの青春時代ですか?かなり気になります!」
「リーゼちゃん同性愛とか大丈夫?」
「!?」
「しかも店長は向けられてた矢印にいまだ気づいていないから」
「!!?」
あ、この子そういうの大好物な女の子だと、リオルでもわかってしまった。
「っくし!」
「あらルーガス様。暖炉の薪を足しますわ」
「そーゆーのいいから早く帰りたいなー。温泉入りたいなー」
「!では私もご一緒致しますわ!!」
「お仕事は?」
「部長!!例の温泉を調査してまいります!!」
「行って来い!」
「うーん、そんな銀行が投資するほどかなーうちの温泉」
「金の源泉ここにありぃぃぃ!!!!!!!!!」
『……元気だなーあの兎』
「“ラビラット人”だよ、ガルス」
そうルーガスがガルガストに訂正を入れるものの、神の中ではやっぱり彼女はウサギなのである。あの髪の毛同様の亜麻色の毛並みに覆われた耳をピンと上に向けている限り。
かつて、獣の体を手に入れた神はサラマンダーの始祖だけではない。
獣の器を手に入れ精霊獣となった彼らはやがて、竜人の始まりとなった少女からある可能性を見出した。
自分達の血肉を与えた人類が……進化する可能性を。
精霊獣ラビラットもそういった精霊獣の一匹であった。特に子だくさんなウサギの器を手に入れた風の男神は、行動力も風の如くで……後先を考えなかった。
あっという間に八つの地域の気に入った人の娘との間に、合わせて三十四人の子をもうけた。頑張っちゃった♡と本神は言い残し、歴史の中に消え去った。娘の一人の父親が食い殺したとまことしやかに囁かれてはいるが、真実はいまだ闇の中である。
閑話休題。
ウサギの耳故の聴覚に数十メートルも跳躍することが可能な脚力。そしてそんな出自ゆえに生まれ持って風魔法の才能を有した彼らは、諜報員として最適だった。戦乱の時代にはあらゆる国々が彼らを囲い込もうと躍起になり、そして同時に討伐もしていった。だがそれはもう“今は昔”の事である。末裔である今のラビラット人はそのような歴史故か、情報を収集する事が未だに秀でている。そのために、いまは銀行などが重宝した。銀行といえばラビラット人、と言われる程には。
『温泉を拡張して娯楽施設にねぇ……そりゃ儲かるだろーな、あの効能じゃあ』
「そういうもん?」
『そりゃねーよガレス。毎年何万人が厄神の暴走に巻き込まれて呪われてるか知ってるか?』
「ルーガスわかんなーい。ガレスじゃないからー」
『え、マジで知らない?坊主は?』
「………知らないです」
「七万人だ。知っておけ」
『おう、キイチも降りてきたか』
「………奇怪な声が上にも届いたんだが、何だ?」
『耳聡い銀行屋が温泉の話聞いて、投資がうんぬん』
「ああ……朝から元気な銀行屋だな」
「丁度スクランブルエッグが出来上がったとこだよータイミングいいねキイチ」
『キャー♡』
「シャラが動いた!!?」
『お前………っ!!昨日の夜から全く動いてなかっただろ!?』
それがスクランブルエッグ一つでこれである。サラマンダーの食欲は始祖の代からして相変わらずであるらしい。
キイチもカウンターに座り、リオルが薪ストーブの方で大量のソーセージを焼いているのを見つめていたが、風呂場の方からきっちりスーツを着込んだ女性が現れたのには少しだけ目を見開いた。先ほどの怪音の大元である。どんなものかと思えば、やり手のキャリアウーマンとして申し分ないいでたちの美女である。
「で、いつ着手いたします?」
頭の中は金になる温泉ネタでいっぱいですとばかりの満面の笑みだったが。
『おう姉ちゃんや。話する前に店のこと考えてやれや。仕事してんだぜこいつら?つーかまだ朝の七時半だろ?銀行屋ってんな早くからやってんのか?』
「もちろん特例ですわガラガスト神」
『そっかー人に化けてる意味ないかー』
んじゃ遠慮なくと現れた尻尾に隣のキイチが当たり眉を寄せたが、すかさずリオルがキイチの方にソーセージを一つ多めに乗せて気をそらした。
もう一回焼くのでごゆっくりーと薪ストーブの方に脱出すればもう、後は対岸の火事である。そんないつ爆発するかわからない火薬庫なんて長居する方がおかしい。
「お仕事結構!しかし言わせていただきますわ神!!」
いたよここに。むしろダイナマイトを体中に巻き付けて突っ込んだ。
「ラニさんっちょっ………」
「私たちラビラット人はその多くが神の呪いによって死に絶えました!!」
「そして話が重いですラニさん!!」
『まあ風魔法はなー………俺も最近その話を、ラジオ作ったとこの奴としたな』
「ああ、エルシーちゃんとしたっけね。通信魔動機が普及する前の風魔法の使い手って、本当に呪いとかよくもらってたから」
「今もです!」
「あ、そうなの?」
「いまだ諜報員をやっている奴らはな」
「世界樹の棘フレア隊 キイチ隊長、謝罪を要求いたしますわ」
「は?」
なぜか逆切れしたラニに、食事中だったこともありかなり不穏な空気をまといながらキイチが振り返ったのだが………それと同格の怒気をまとった彼女が仁王立つ。
「………なんなんだよ」
「神の呪いは、強力なもので合った場合末代まで続きます」
『ああ、血を祟られたか』
「私の姪っ子は三歳でございますが………ユグラスト大神殿でしか、生きられません」
「すまなかった」
即答だった。彼女の言葉の意味をリオルやルーガスは理解できなかったが、キイチの反応からして相当なことだとはわかる。
ガルガストに至ってはむしろ祟る側なためか、誰よりもそれを理解した。
『重症じゃねーか。何に祟られてんだよ』
「厄病神衆ですわ」
『とんだ厄ネタだなオイ!!』
ガルガストも思わず叫んだ大物集団に、シャラでさえぴゃっとキイチにへばりつく。
世界樹の棘としてもそれは宿敵の名だ。忌々しいと顔をしかめていたが、それさえもわからない人が一人。
「?」
「………」
『オイ店長。店員がドン引きじゃねーか』
「それでも貴様国父レナードの騎士だったのか!?そも奴らの筆頭はお前が殺しそこなった厄神シュビストだ!!」
「え!?首だけで生き残ったの!??こわっ!」
「お待ちになって♡つまりルーガス様の身元保証人に国王陛下の名前が最初に挙げられたのは、ギャグではなくってマジですの?」
『何やってんだガルス』
「いやーパスポートの生年月日からして信じられないから、公的な手続きはこちらでやっときますって言ってくれたもんで」
『あー………』
それは仕方ないなと、神は納得。人はその神の納得にまず驚愕である。やっぱり不老のなんかが契約者として与えられていたかと、東洋の美少年を頭に浮かべ二人はそれについては受け入れた。そこまでの事は知らないラニは口元を手で押さえ一歩引いたが。
『ルーガス何年生まれ?』
「ごめんねシャラちゃん………リオルとかにさらに引かれるの確定してるから後でこっそり教えるね」
「何で自分には言わないんですか!?」
「やだー!!リオルにこれ以上引かれたら店長さすがに傷つく!!!」
「「「『『えっ』』」」」」
「みんなひどいよ!!追加のスクランブルエッグあげないよ!?」
といった具合に、腹事情を質にとられた者たちが慌ててフォローに入ったことにより話は一時中断となった。
『あー食った食った。ごっそさん』
「ごちそうさま」
『おいしかった』
「お粗末様でした。さてと、結局店長は銀行に連れていかれちゃったんで、お昼は俺がとなると………カレーぐらいは作れますが」
『その前に来客の対応だろうな。坊主、昨日の軍人がこっち向かってるぞ………竜人の奴とエルシーの嬢ちゃん達だ』
『あ、ホントだ。車二台?その二人とエルシーの部下たちと………?』
『竜人の部下だな………敵意はないな………好意的だ』
「そういうのもわかるんですか?」
『精霊をちっとは纏ってるからな、あいつらも』
「はあ………?とりあえずコーヒーですね」
ということでコーヒーを作っている間に、軍人たちは到着した。
店長がいないことをまずガレッドから尋ねられた。当然の反応だったのでコイン銀行のラニについて説明すると、合点がいったとエルシーが口を開いた。
「昨日金貨百万枚を振り込みました」
「「「「「百万枚!!??」」」」」
『この店と同じもんが三つは建てられんじゃね?』
「いいのですかエルシー様!?いや、それ以前にその大金はどこから………!?」
「陛下です」
また陛下である。姿はないというのにこの存在感。ぽんと大金を出すその懐。
何よりラスカーの契約者。
ラスカー様かとぼやいたアレクセイのそれがおそらく正解だろう。
『厄神の消滅なんて偉業を成し遂げたんだ。一国の主としては妥当な処置の一つだな。何もしない方がまずいだろ』
お妃さまが厄神じゃーなー
「その件です。リオル様、魔法兵が護衛につくお話をルーガス様からお聞きになっていませんか?」
「聞いてません(白目」
「そうですか、朝食後にお伝えするといっていたのですが」
『あ、銀行屋が問答無用で連れていこうとしたとき、何か言いかけてたな』
「あー………あれか」
「よかった!!店長にも報連相の意識はあった!!伝えそびれていたけど相手がラニさんなら仕方ない!!」
「エルシー様。ラニ・ラビラ―というラビラット人です。コイン銀行でエルシー様もつかまりました」
「「「あー」」」
トムだけでなくハロー・ハローも知っているとなると、本当に見境がないらしい。ガレッドの方もあれかと思い当たるようで、軍人にも有名らしい。
またかなり強烈な人と顔見知りになってしまったことにリオルがひきつっていると、話を戻そうとエルシーが一つ咳払う。
「とにかく、リオル様には万が一の時に戦闘もこなせる魔法兵が付くことになりました」
『俺の部下だ、おい』
「はっ!ミト・ボーンであります!実家が肉屋でこちらの店に融通できるよう話はつけてあります!!」
「チャレット・ポッターであります!茶葉とコーヒー豆ならお任せください!」
「ヨシツネ・クサツであります!母方の実家は極東の温泉宿であります!父がガレイゼルの軍人です!ハーフであります!!」
『店長の希望通り、店に貢献できる人材だ。あと料理のできる奴も何人か選抜している。ぶっちゃけ店員を増やしたいらしいな、あの男』
「軍 人 が 店 員。え、いいんですか皆さん!?」
「正直言って実家に初めて貢献出来ました!!」
「初めて親に褒められました」
「温泉入りたいといっていたので今度連れてきてもいいですか?」
軽い。そして別に魔法兵としてのプライドとかも重く持っているような人たちではないらしい。軍のエリートとはいえ、家族を思う気持ちの方が強いらしい。
『まあ採用するかの最終決定権はお前のものだが』
「そこは店長じゃないんですか」
『護衛対象はお前だ。対象と相性の悪いまま任務が始まって最悪なことになったらしい。一体あの男の騎士時代ってのはどんなだったのやら………妙に説得力があった』
「………あ、じゃあ………みなさん採用で大丈夫です」
『そうか、おいお前ら!死ぬんじゃねーぞ!』
「「「はっ!」」」
護衛兼同僚。はっきり言ってこの人材補充はありがたかった。
早速リオルは同僚たちに上の階や厨房、風呂場の説明をして時間を使ったが、そのあいだに食堂の方も何やら密談を行っていた。
気にはなったがやはり軍事機密を自分が聞いてしまうのはいただけないだろうとここは自重し、昼食に取り掛かった。
味噌や米が思った以上に蓄えられていたために、ヨシツネがリーダーとなっておにぎりとみそ汁といった極東の料理で昼は何とか乗り越えた。
梅干を買ったはいいがどう調理すればいいのか店長と一緒に首を傾げていたリオルは、梅干しのドレッシングをいっぱいかけた大根サラダを一番多く消費した。
皿洗いも済ませ元の棚に戻したところで、くたくたになったルーガスがやっと戻った。
「ただいまー…銀行こわーい………あ、新しい従業員………どんな人たち?」
「初めまして店長!肉屋の次男坊のミト・ボーンです!」
「茶葉とコーヒー豆を実家で商いしております、チャレット・ポッターです」
「ご利用いただきありがとうございます。クサツ旅館のヨシツネ・クサツです」
「あーレナードがすごく気に入った緑のお湯の」
「それです」
「うん、とりあえず店長として一言いおう」
ようこそ、『パレード・オブ・ガレイゼル』へ
『………店の名前?それ?』
「うん」
「なんでですか?」
「思い出した」
「『何を』」
「約束してた。レナードと」
―――パレード?
―――そーそー、ほら…あいつらの行進でみんな絶望してたじゃん
―――あっちも俺らを見て逃げ出すがな
―――だからパレード!やり返す!!
―――………二人だけでか?
―――まさか~もっとさ!もっともっと大人数で大行進!!
―――それでシュレストのような厄神たちを押し返す!!
「―――って言ってたけど面子集める前にシュレスト斬っちゃった♡だからその話はお流れになったんだけど、シュレストまだ生きてるんでしょ?これはもう…僕やガレスみたいな奴で今度こそシュレストを追い立てて泣かそうかと、あは♡」
『いじめっ子精神!!人食いで恐れられている厄神相手に!!うははははは!!!』
そして当然のごとく名が挙げられるガルガスト神は、どちらかといえば厄神と言われる方なのだが。
宣言してすっきりしているルーガスに、そんな周りの微妙なまなざしは伝わらない。
ただし店の名前は決定したので、新しい店員たちの初めての仕事が決定した。
「………パレード・オブ・ガレイゼル………」
その日、初めて掲げられた看板は、老舗のパン屋のような貫録を持つまで長きにわたり、その店の名を刻みつけることになる。
始まりの店長を筆頭に多くの強者がここに集い彼の言うようにいずれは“神さえ泣かせる最悪の集団”として名を轟かせるが、それはまだ先のこと。
「よーし夜はご馳走だ!!ミト君実家のお肉全部持ってきちゃって!!」
「ありがとうございます!!!」
「よし厨房のことは君に任せる!!ちょっと厄神達が外で様子窺っているみたいだから駆除してくるね!!」
「店長!?」
「ガルスいく~?」
『よっしゃ』
―――風の神ウーラを確認。厄神と認定。これの消滅を、主神ユグラストと女神ルールは所望します。
―――火の神ボーザを確認。厄神と認定。これの消滅を、主神ユグラストと女神ルールは所望します。
―――火の神ザラザを確認。厄神と認定。これの消滅を、主神ユグラストと女神ルールは所望します。
―――神殺しの愛し子ルーガス。殺しの剣の使用を、許可します。
「―――――――――――っ抜刀!!」
翌日、また車道が調査のために通行止めになり、店長はまたカウンターに突っ伏した。
軍人たちはこうも王都の中に出没する厄神達について、本格的にこのあたり一帯を調査することで団結し、キイチはリンレイの診療所に拠点を移すことにした。彼なりの考えがあるらしい。
しかし厄神達の不穏な動き。それが自分にどう関係していたのかを、リオルはこの時まだ知らなかった。
翌朝、昨日の朝刊以上の話題だよと興奮気味に売り子の男に突き付けられたそれをガルガストが広げると、なるほど、これは確かに大したスクープと言えるものだった。
【国父レナードの墓所を発見!!己の騎士に残した遺書を国が公開!】
【名も残されていなかった黒騎士の肖像画も発見!!歴史的大発見!!】
『あーあーあーこうなっちまったよ』
「わー、大変だー」
「ちょちょちょ店長これまずいですよ!?判ります!!?」
「判んない」
「自覚を!持って!お願いだからぁ!!」
『無理じゃね?』
無理だった。
そして当然のごとく、店に野次馬が押し掛けた。
国父レナード→→→→→→→→→→→→→→→→→←ルーガス
(いろいろとぐちゃぐちゃになってる愛) (友愛)
これぐらいです。