ルーガスたちと軍人たち~予想外の異世界を添えて~
難産でした。そしてダンジョン要素が入ります。
因みにラスカーさんの口調はなんとなくこうかなと書いてます。フィーリングです。それでいいのだ。
日曜バザーで古着を吟味していた横顔と、同じ顔だった。そんなことと同じ程度で、いま彼は悩んでいた。
「ねえガルスやっぱこれ切れ味良くなってない?」
『1500年物のアンティークならそういうこともあるだろ?ガルガンの骨で作ってあるし』
「えーこの剣のシリーズ全部が折れるかユグラスト神が復活するまでの契約なのになー。やっぱ当分先の話かー」
『本当お前…主神サマサマとナニを契約したんだよ』
「えへ♡ナイショ♡」
リンレイ達が駆け付けた時にはもう、ルーガスと腕を強化された竜のものに変化したガルガストによって神々は罪人たちの器ごと切り裂かれ消滅していた。
駆け付けるまでにその戦闘を、キイチとリンレイも視覚には捉えていた。蜥蜴や蜘蛛のように飛び回りおよそ人のする動きではない戦いを人の体に行使する神々はいつ見ても醜悪で、常に対峙する相手をその予想できない動きで翻弄してくるのだが…ルーガスはそれをさらに上回る剣技をもってして鮮やかに躱しきり、これをいなした。
切り裂かれたと同時に飛び散る血しぶきが、月光の下で彼の剣舞をより華やかにした。魔法によって肉体強化された証である銀髪とオッドアイの発光は、より一層彼を人外の美しさに導いた。
瞳はともかく、髪まで発光するような魔力で肉体を強化するものなど、世界でも数える程度の実力者だというのに。
美しい死神だった。二人が急ぐ必要なしと歩いて到着した時には、神話でも語り継がれている彼の戦いざまは終わっていた。
神話は語る。唯一、神を殺せる存在であるが故に厄神として疎まれ、それでいてなお大地神として崇めたてられるガルガストと同様に、ただ一人。
邪竜だけでなく、神も殺せる人がいると。
「邪竜殺しの大英雄……」
かつて、邪竜ガルガンが消えたと同時に神話に登場した幼い神ガルガスト。そしてその育ての親となる二人の旅人。今は冒険者と言われる彼らの始まり。
その一人がガルガスト帝国の国父であるのは誰もが知っているが、あと一人。
レナードが唯一心を許したという親友の方は、あまりにも記述が少ない。
ただわかるのは銀の長髪だったというこれだけで、瞳の色においては………その時々で、瞳の色が変わっていたという。
そしてその彼がガルガンにとどめを刺したのだという旨を、国の王となったレナードが臣下に語って聞かせたという竜退治の顛末は…今も劇場の古典芸術の題材をして人気を博しているのだが。
「もーせっかくお風呂入ったのにこれじゃあまた入んなきゃ…あーあー服も血だらけ」
『オメーが凍った道の方に集中しすぎてんだよ。下手くそ』
いつもみてーに炎でバーッとやりゃあいいのによぉ
『何が道路は公共のものだとか、何めんどくせーこと言ってんだよ』
「言っちゃうよ!?そりゃもちろん!お車で店に来てくれる人たちがいるかもしれないのに!穴ぼこになってちゃ意味ないじゃん!!?」
『うわ店を出すってメンドクセー』
銅貨五枚の古着を、ズボンも一緒に購入する事で七枚にしてもらったー♡と自慢していた顔と同じ造形の額に輝く炎のような刻印は、火の神のものである証に赤く輝き…そして消えた。
「おい、待て。なんで刻印が消えんだよ、おかしいだろ」
「僕のは消えるよ?だって多すぎて刻むトコないんだもん。その属性を使う時だけ額とか手の甲に浮かぶようにカスタマイズしてもらったよー?」
『女神ルールにな』
「キイチ…俺何でこいつがお前と接点持ったのか、ほんと不思議でなんねーよ」
「聞くな」
『ギャーっス!!ファニア様の服をよくひん剥こうとする神様の刻印!!!』
「待ってシャラ君ソレ聞き捨てならない。何してんのあのいじめっ子」
『シャラは雌だからちゃん付けが正しいってファニア様言ってた』
「ごめんねシャラちゃん」
耐え切れず、血まみれの地べたに黒い鱗でおおわれた腕をたたきつけて笑うガルガストと、死体の海にどうしようかと頭を抱える…同じような修羅場を、もっとギリギリの瀬戸際で勝利するような事を何度も潜り抜けてきた世界樹の棘 実行部隊元隊長と現役たち。
月はまだ空の頂上に着いたばかりだ。
翌日。
「………………………」
結局道路は封鎖された。現場検証及びもろもろの調査のために、当分は使えないと憲兵の皆さんに言い切られた。
この現実に、ルーガスはカウンターに突っ伏した。
昨日頑張って洗ったけれど結局血が落とし切れていない古着をまた着ているために、みっともなさが倍増だ。
「………開店………営業………」
『諦めなさいな』
「ヤダ。僕はまだ頑張る」
『そうですか』
心労からあの夜、そのまま寝てしまったルーガスは朝風呂も朝食も済ませた後、車道がそのような有様になったことを聞き青ざめた。
外に出て昇る朝日に照らし出された車道の悲惨さも自分の目で確認した。そこで作業をする軍人たちの口元を覆っての評価も、耳にした。
さすがは神殺しのガルガスト。
実はこの道の先にある飲食店の店長がむしろ主犯であることを、彼らはきっと信じない。リオルも先ほど見せてもらった当時の映像がなければ、信じることは不可能だった。
店の中に戻ったリオルはユリアを筆頭にして何やら作業をしている軍人の皆様方の邪魔にならない様にと、カウンター席に腰を落ち着けぼんやりとその作業を見つめていた。未だ突っ伏している店長は使い物にならない上、朝食後リンレイはキイチとガルガストと共にユグラスト教会のガレイゼル支部に向かってしまった。
暇だった。
手持無沙汰にしていると、ポニーテールを軽やかに跳ねさせながら駆け寄ってきたエルシーに声をかけられた。
「別に知らずとも問題ありませんが、念のため」
少女曰く、神に乗っ取られていた死体の回収など理由は様々あるが、暫くこの店に精霊魔法部隊の人間が行き来するのでガレイゼル軍構成図の一部でも知っておいた方がいいといった話で合った。
お店は車道があんなで裏の長い階段をわざわざ使ってまで登ってくる人もいないため、このお店の空間を暫く貸してほしいというエルシーの言葉に、ルーガスは喜んで頷いた。賃貸料がおいしかったのだ、仕方のないことである。
しかしそうなると出入りする軍人たちについて少しでも知っておきたいと、店長に逆らえない平店員はエルシーの提案に食いついた。
カウンター席に突っ伏すルーガスを肉球でつつくラスカーの尻尾に誘惑されそうになりながらも、リオルはエルシーの生徒になる。
先生は台の上に乗り、少しずれた軍帽を整えた。
「知っての通り軍人は、どの国においても“一般兵”と精霊魔法に秀でた魔法部隊に所属する“魔法兵”の二種類があります」
魔法によって属性関係なく使えるものの中に、肉体強化というものがある。これによって強化された魔法兵は、優秀なものに至っては一般兵五人でようやく運ぶことができる大岩をたった一人で持ち運べるという。
ゆえに魔法兵は一般兵と同じ濃紺で開襟の軍服を着こなすが、白銀の光を表現した大きなボタンを左胸のポケットに必ず付けている。
「その中でも我々精霊魔法部隊 技術第1部門 “ハロー・ハロー” の隊員は、この緋色と途中で鳥の羽をした黒い線の入ったネクタイかスカーフを付けています。緋色はルイ家のトレードカラーです。黒い線は電線、鳥の羽は風属性の魔法を意味します」
「はあ」
なぜそこを詳しく説明するのだろう。
「技術第2部門は青と氷の結晶です。冷蔵庫作ってます。技術第3部門は緑色と歯車です。魔動車です。」
なるほど。そこで所属部門を見分けているらしい。確かに第2、第3のデザインと比べ、第1のデザインはちょっと分かり難いものではある。
「ですが…これからこのお店にも出入りするのは戦闘魔動機器を支給されている、精霊魔法部隊 “戦闘部門”となるでしょう」
「「戦闘部門?」」
リオルとルーガスの声が重なった。映像を届けるあのガラスの板が何個も持ち運ばれているとはいえ、ここはルーガスの店である。やはり出入りするだろう軍人のことは彼も興味があるらしく、突っ伏してはいるが顔をエルシーの方に向けてきた。
しかしリオルの方を向いてその言葉に答えたのはラスカーだった。ルーガスは店長なのに無視された。
『冒険者たちの中でも特に秀でており、さらには厄神の住んでいた異空間に繋がる“神殿”の探索などに向かう者がおりましょう?国内の人里に近い神殿については、各国がその危険度故に、神殿に投入するための人材をある程度確保しているのです』
植物の女神リリーダがトプラ・マンイーターの生みの親である例がある。
人知れず、創命神ラフラに憧れた神が彼女の真似事をしてからの失敗する流れは……実は竜暦のころから確定していたりする。
隠された神殿の中ですくすく育った怪物たちが溢れかえって人里に襲い掛かり、そして人肉を覚えてしまったために国が滅んだ話が幾つもある。笑えない。
『そのようなことが起こらないよう国が確保している、最も厄神やそれの生んだ怪物との戦闘において経験豊富な兵士たち…その中でも今回、キイチたち世界樹の棘と衝突しなさそうな人材を、私が要請いたしました』
「組織同士の軋轢かー。僕それ嫌ーい」
『黙らっしゃいこの考えなし』
「ぷぅ」
「あはははは(汗………そういえばラスカー様はガレイゼルの………どういった地位に?」
『呼び捨てで構いませんよ、リオレイズ様』
そのリオレイズという名前も気にはなるが、昨夜の自己紹介によればラスカーは主神ユグラストに仕えているらしい。
そうなるとユグラスト協会の総本山…ユグラスト大神殿のあるホーロライ共和国にいるのはまだわかる。
「やはりサラマンダーの件で大神殿の方から……」
『ああ、そういう記憶もないのですね…リオレイズ様………ルーガス』
「はいっ」
姿勢を正したルーガスは、汗をだらだら垂らしていた。叱られる前の子供である。
『どこまでお話を?』
「まだ全然!怪我の回復優先しなさいって!厄神直々の溶解液怖いし!」
『…………まあ、いいでしょう』
二人の上下関係がとてもよくわかるやり取りに、リオルとエルシーはやんちゃな子猫を睨み付けて黙らせる母猫を幻視した。
広がっていた背中の白い羽が折りたたまれてやっとルーガスが安堵したあたりにも、何度も同じやり取りを繰り返したのだろう経験が窺える。
『私は今回、封印を解かれ悪行を働くリリーダの存在に気が付き、キイチとは別部隊の世界樹の棘と彼女の動向の調査…そしてあの闇オークションに行き当たりました。どうやら闇オークションの主催者側にも、確認されていなかった多くの厄神が関与していたらしく、今キイチに彼らと情報交換をお願いしております。私は…………色々と、思うところがあるため、ここに』
「何で僕を見つめるの!?」
リオルとエルシーは納得した。
「となるとラスカーさんはユグラスト教に所属しているようなものですか?」
『そうですね……はっきりそうとは言い切れませんが、今の大司祭のことは気に入っており、あれのためならば助力するのも吝かではございません』
ですが、私はこの国の王と契約を交わしております。
「……………………?」
『複雑でございましょう?』
くすくすと右の前足を口元に置き上品に笑う真白の精霊獣は、混乱したリオルの様子を面白そうに、だが優しいものを湛えたオッドアイで見つめていた。ルーガスもどういうことだと腕を組み、んんん?と首を傾げたが……彼も答えは出なかった。
自身もその経験があるエルシーが二人のその様子にうんうんと頷いていると、アレクセイに声をかけられた。
「中佐、頼まれていた物です」
「ありがとうございます。アレクセイ大尉」
「では、私は作業に」
「お願いします………さて、ルーガス様」
「え、僕?」
何でとばかりにルーガスは自分を指さした。差し出された包みを反射で受け取ったが、心当たりはない。
何だろう、これ。
「勝手ながら、着替えの衣服をご用意させていただきました。」
「君こそ女神だ」
「…………………………ありがとうございます」
確かに。こうも神々が厄介ごとを持ち込んでいる今、その誉め言葉は複雑だろう。
しょっぱいものを食べたような少女に、うちの店長が御免なさいと心の中でリオルは謝った。どうもこの見目はいい男には、デリカシーが備わっていないらしい。
『では今すぐそのみっともない布切れを捨てて着替えてきなさい』
「はーい♡」
抱きしめた包みとともに上機嫌で上の階に去る店長を見送った店員は、カウンターから見上げてくるオッドアイの猫の顔と、前方からこちらをのぞき込むエルフィの少女にたじろいだ。立ち直りが早いのはいい事だが、嫌な予感がして仕方がない。
「………な、何でしょう?」
「ルーガス様の衣服はアレクセイに見繕ってもらいました」
『リオレイズ様の衣服も、使い古したもののようにお見受けられますが、どうでしょう』
ここで新しいものを選んでみては?
ずずいと前のめってくる少女に、リオルは押された。
「は…ははは…自分はまだ包帯とか塗り薬のお世話になっているので、怪我が治ったら買いなおします」
「その時はぜひお呼びください」
『良い品の店を、案内致します』
11歳の少女と主神に仕えてるとかいう精霊獣に貢がれる自分って一体。
「ただいまー♡見て見てラスカー♡昔みたいー」
自己嫌悪に陥りかけていたリオルは、そんな今まさに貢がれた大人の呑気な声を耳にした。
二階から降りてきたルーガスは全体的に黒かった。スタンド襟のロングコートは前を止めておらず、嫌味なぐらいに長い足がいかにロングブーツで覆いきれなかったのか教えてくる。グレーのベストとアスコットタイがアクセントになっていて、きらりと光るネクタイリングが、そのラベンダーの色合いを結ぶことなく固定している。
『おや本当に、黒騎士の時のような服装ですね。不器用な貴方がネクタイを毛嫌いしていたのを、レオーネがネクタイリングで何とかごまかしていました』
「懐かしいなー」
『それで今は結べるので?』
「無理」
『お馬鹿』
うわーい国父の名前が出てきちゃったー(泣
リオルが泣きそうになりながら店長おしゃれですねーと褒め称え、上機嫌でルーガスが自分の服装を披露していると、ガルガストたちも戻ってきた。
『たでーまー…何だガレス。レナード以外の騎士にでもなるつもりか?あいつ祟るためだけに蘇るぞ?』
「やめてガルス。想像しちゃったからお願いやめて、それと僕の名前はルーガスね」
『これはBMブランドでしょうか。例の黒騎士の服を仕立て今も続いている人気メーカーですね。黒騎士を憧れる者は今だいますから』
「へー……………」
『………ああ、買ってきたのアレクセイってやつ?黒騎士に憧れてる口?』
「……………」
黙々と作業をする軍人の中に加わっていたアレクセイだったが、恥ずかしさのあまり顔を覆い、ただ一つ小さく頷いた。もちろん、耳まで真っ赤である。
黒い髪を常にきっちりとオールバックに整え、いかにも軍人ですといった碧眼の男の意外な一面は少年のように純粋で、隣で作業していたチャーリーは何か温かいもので心を満たされた。
「……………あー、教会からの報告、いいか?」
『おや、キイチ。ガレイゼルの戦闘部門の方も一緒とはまた、大所帯ですねぇ』
そうラスカーが評価した通り、キイチたちは他にも何人かのガレイゼルの軍服を着こなした者たちと一緒に戻ってきていた。
誰もが皆左胸のポケットに魔法兵である証をつけてはいたが、ネクタイは一般兵と同じものだった。何より彼らはみな何らかの戦闘魔動機器を所持しているのだから、リオルやルーガスにも彼らの正体は判明した。
精霊魔法部隊 戦闘部門
その中でも特に“戦闘狂”として名高い第13中隊、通称“人型竜”
「ほぉぉぉ、そいつが例の竜殺しご本人様ねえ………綺麗な面した兄ちゃんじゃねーか」
かつて邪竜ガルガンと袂を分けた慈悲深き竜の心臓を、分け与えられたことにより生き永らえた少女の末裔。
竜人
ハリネズミのように赤茶の髪を立たせ、横一文字の傷跡が印象的なその男は、竜人にしてガレイゼル軍精霊魔法部隊 戦闘部門 第13中隊隊長。
ガレッド・テイルマン少佐その人であり、今回合流することとなったガレイゼル軍の戦力である。
おおおおおおおお……
「……………」
なんか昨日も同じようなリアクションをされたなあと思いながら、リオルは軍人たちに本来の瞳の色を晒していた。ルーガスに至っては軍人の剣型の戦闘魔動機器を借りてポーズまで決めている。
「なんか王城正門の大階段のとこにある石像のポーズ(頭もちゃんとあるバージョン)!!」
「「「『ハハハハハハハハッ!!!』」」」
ウケていた。括弧閉じまで自分で言った。神さえげらげら笑っていた。楽しそうで何よりである。
「おいオメーらもういいだろ!!!持ち場に着け!!」
髪と同じ赤茶の尻尾をベシリと床にたたきつけたガレッドの怒鳴り声に、イエスサーと雲の子を散らすかのように皆が散る。
すかさずルーガスがリオルの目の前に手をかざし、精霊…属性など関係のない幻視の魔法をかけてきた。
何気ない動きだったが、あっさりと違和感もなく瞳の色を灰色にしてしまったルーガスの手腕に、見ていたエルシーたち技術部は感嘆の声を上げた。
「すごい鮮やかです」
「こんなに違和感なく馴染ませるとかすごいですねー」
「しかも早い」
「おい技術屋。話始めんぞ」
「あ、はい!失礼しましたテイルマン少佐」
せかされたエルシーが所定の位置に座ったところで、準備は整った。
カウンターを背に座るリオルとルーガス、そしてガルガストとリンレイとは反対方向に設置された大量のガラス板。その最も大きな板にはこの店を中心にした地図が表示されていた。店の地点を示しているのだろう赤い丸と、海岸線にもう一つ。何やら点滅する緑色の点があった。
八つの丸テーブルに四人から六人が何とか座り、会議が始まるのを待っていた。因みにキイチはモニターの方に持ち込まれていた長机の、エルシーの隣にシャラを肩に乗せ座っている。茫々と燃える背びれが妙に目に入ってくる上に尻尾をぶらぶら動かすものだから、みな気になってしょうがない。更に隣が小さな少女ということもあり、凸凹加減が凄まじい。
こちらに来るべき視線がそちらに流れていたのを、ガレッドはまた尻尾を床にたたきつけることで終わらせて、そうしてやっと作戦会議は始まった。
まずガレッドの自己紹介と、今回の作戦実行責任者は自分であるがユグドラシル教の厄神弱体化実行部隊 世界樹の棘を代表しフレア隊のキイチも作戦に参加すること、新しい通信技術の運用のために技術第1部門のハロー・ハローが全面協力すること、そして後ろの方にいる厄神ガルガストはそこのとりあえず一般人たちの関係者なだけであり、作戦には関与せず勝手に動く宣言されたことを伝えた。当然みな騒めいた。
『ところでリオレイズ様はなぜ昨夜ここに厄神たちが現れたのかはご存じで?』
「イエ、ナニモ」
「という店員は、先の爆発に巻き込まれたために記憶喪失になっているらしい。ゆえにあの通報もあやふやなまま終わり、このような形で再浮上した」
「!??」
どうやら記憶喪失になる前のリオルは何やら大事な情報を伝えようとしていたらしい。それもガレッド達戦闘部門の魔法兵がタイミング悪いなと騒めいたことから、国の主戦力たる彼らに関わる何かを、である。
どう見てもすごく重大なことを忘れたらしい。
完全にリオルは震え上がったが、店長はのほほんとのたまった。
「そんな怯えなくても大丈夫だよリオル!」
ただ海の方に厄神の神殿が作られてたの見つけて通報しただけだから!
「問題ナッシン!!」
「ありまくりだ 馬 鹿 野 郎 !!」
と怒鳴るリンレイの魔法で強化された拳骨が、ルーガスの頭上に落とされた。かなり痛そうな音が響き渡る中、ガルガストの遠慮のない笑いが続いて響いた。
ラスカーも頭が痛いとばかりに右前足で米神のあたりをおさえ、これだからこの男はと独り言ちる。
軍人たちも嘘だろこの男と、激怒する美少年から折檻を受けている男を凝視した。リオルははらはらと泣き出した。
「あだだだだだだ痛い痛い痛いよリン君!!!」
「お前ちゃんと事の重大さ分かってる!?分かってねーよなお前馬鹿だろ!?」
「ちゃんと神殿の出入り口は封鎖したから!!あの夜ウォスター達についでに封じてもらってからオークション会場の方に向かったから!昨日の厄神たちは封じる前に神殿の外に出てて難を逃れたみたいだけど!」
「ねえお前もう俺が世界樹の棘のアクア隊元隊長だって知ってるよな!?喧嘩売ってんなら喜んで買うぞ!!?」
「よせリンレイ。まともに対応しては結局こちらが馬鹿を見るぞ」
「だからってコレはねーだろ!??」
「わかったからお前も落ち着け。悪いなテイルマン少佐、続けてくれ」
「………」
ここで話を戻させるキイチに複雑な顔を返したが、咳払いを一つつき、ガレッドは話をつづけた。
「あー……………そういうわけで、だ。確かに、非常にコメントし辛い事だが…神殿の門はそこの男の言う通りとんでもなく強力な封印が施されていて、中のものが出てきた形跡は全くない」
だからといって放置するわけにもいかない。封じられている神殿の中に一体何がいて、どれほどの力を持っているのか。下手したら神殿の中で成長して封印を自力で解くかもしれない厄介な怪物が創られているのかもしれない。
「そこの店長曰く、封じる前に感じたのは風の精霊の気配………風属性の神が作った神殿だ。となると、普通は通信魔法のテレパシーが傍受されるは、最後まで聴くと死ぬ歌を流し込まれるは、今まで散々な目に合ってきた。と、ここでルイ中佐たちハロー・ハローが頑張った」
「頑張りました。技術第1部門のハロー・ハローとラスカー様が」
『此度の通信魔法のすべてに私の加護を付加いたします。常に通信魔法を皆々様と繋げ続けなければならない通信士は同時に私の神力を浴び続けることになるので、下手をすれば死にます』
「というわけで、私もこれから死ぬ気で頑張ります」
「コメントしずれぇよルイ中佐。はい次、ユグラスト教から言うべき事は?」
「ある。知っている者も多いかと思うが、フレア隊の隊員にはサラマンダーの契約者が数多く存在している。故に………被害にあったサラマンダーとコンタクトを取らせ、いろいろと聞けた」
「………………」
サラマンダーは被害者。いいね?
「って言ってる。僕でも分かった」
「店長シッ」
咳払いをしてキイチは続けた。
「保護地域で寝ていたはずが、気付けば水属性の防御魔法が張られた檻の中」
そして神が創る…“神殿”という名はつけられているが所詮は異空間…に檻が安置されていることが、常々女神の神殿を出入りしていて分かったそうだ。
「その檻が安置されていたのも風属性。そしてここ以外、新たな神殿はガレイゼル国内では確認されていない」
「さぁてお前ら………………狩りの時間だ」
締めのガレッドの一声により、軍人たちは動き出す。ぽけーっとリオルたちはその様子を眺めていた。
が、
「「お前も行くんだよ」」
というリンレイとキイチによって、ルーガスは連行された。
「……………」
『大丈夫ですよリオレイズ様。今はただご自愛くださいな。その火傷は他でもない、厄神によって受けた傷なのですから』
「そうですリオル様、どうぞ後のことは我々軍人にお任せください」
「…………様付けは勘弁して下さい、ルイ中佐」
「エルシーとお呼びください」
「…………せめて…………あの店長が何かしでかさないかだけでも見守らせてください」
お願いしますという少年に、みな口元をおさえることしかできなかった。
何で僕までぇという情けない叫び声は、聞こえなくなるまで時間がかかった。
さて、海岸線のとある一角。
消波ブロックが積み重なれて人がそう簡単に行き来することのできない辺鄙な場所に。
「はぁぁぁ………こんなところに作ってたのかよ」
そうリンレイが評価する程度には、かなり特殊な所にその神殿の入口はあった。
防波堤に近いある一角に、ブロックが二つほどわざと抜き取られたような空間が存在し、その砂の中に埋もれるように地下に下るような階段が存在していた。
ただしその入り口はシャボンのような膜に覆われ、ガレッドが竜の鱗でおおわれた拳を叩きつけるもビクともしない。完全にその階段は密封されていた。
海の満ち潮に影響を受けないよう、リンレイが階段の周りを氷の壁で囲い軍人たちが砂をどかした。
「じゃ、封印解くけど、このインカム?ってのは大丈夫?」
―――はい、ルーガス様の声もちゃんと聞こえます』
「うを、耳元で嬢ちゃんの声でっか!声抑えろよ!!」
―――…みな同じ音量だったのですが、ガレッド少佐とガルガスト様の音量は半分に抑えました。いかがでしょう?
「あ、丁度いい」
『こりゃいいな』
「じゃあ開きまーす」
言った瞬間にルーガスが行ったことは、別に特別なことではなかった。ただ人差し指で膜を突く。それだけでパンという軽い音とともに膜ははじけた。
ガレッドが自分の拳と開かれた階段を一生懸命見比べたぐらいで、他は特別なことは起きなかった。
ちょっとショックを受けたが、それでもまずガレッドが両腕を構え階下に下った。ガルガストとキイチが続き、魔力が通されたことにより淡い青の光を放つ刃が生成された戦闘魔動機器を各々構えた一般の魔法兵が12名、そして最後にルーガスをしっかり捕まえたリンレイが一人か二人通るのがやっとなその階段を下りて行った。
「………作戦室、見えてるか」
―――はい、問題ありません。マッピングも順調です………ここまでは
そう、ここまではまだ人の住まう世界の一部である。問題はここからだ。
「…………またでかい門を作ったな、ここの神は」
建物で言えば三階分は下りただろうその空間は、広かった。
灯されていた篝火も燃え尽きた暗闇だったが、シャラが火の玉を適当に作り出しそこらに漂わせたことで、いかにその空間が広いのかをみなが理解した。
そこにただ一つある門は扉もなく、砂浜の出入り口と同じ膜で覆われていた。
「じゃあこの門も開放するけど………まずガルガストが火炎放射して流し込む?」
『俺はいいぞ』
「駄目だ。あの闇オークションとこの神殿が関与していた確固たる証拠事燃やし尽くす気か」
即座にガレッドが却下した。インカムの向こう側も否定的だ。
―――“あのようなオークションの会場だったために、国際的にもガラガストの立場は危ういのですよ、ルーガス”
―――店長、脳筋
「!?」
『何ショック受けてんだよ。ホントの事だろ』
「ガルスにも言われた!!」
―――偵察を出します。ガレッド少佐、先程お渡ししたビー玉を
「あーこれか?」
―――『起きなさい、そして見つめなさい』
「おお!」
ガレッドの掌の上にあった数個のビー玉が、たちまち翼を広げ飛び回る。
何時でも門の向こうへ飛び込めるらしい。ならば、あとはもう問題ない。
「それじゃあ………………開けるよ」
そして、その世界は一週間ぶりに解放されたのだった。
神殿=ダンジョン
精霊=気配のある粒子。意思とかそういうものはありません。本文内でもっと深く掘り下げれたら、いいな。(ただし未定)