翌朝
翌朝。
コンコンコン。
ドアがノックされる。
「どうぞ」
椅子に座っていた布津が応える。
ガチャ…、と遠慮がちにドアが開かれる。訪問者は敷島であった。
「…おはようさん。…って、何食っとんねん」
布津はテーブルの上、無造作に置かれた胡桃を手に取る。
「見ての通り、胡桃だが?」
「んなモン、見れば分かるわ!…昨日の残りやけど、メシ用意したで?…食うか?」
「…む」
布津は一寸考えたが、やがてテーブルの上を片付け始めた。敷島はそれを肯定と取ると頷いた。
「んじゃぁ、三階で待ってるで?」
「分かった。直ぐに行く」
布津が応えたのを確認し、出ようとするのを一瞬止める。
…この部屋、こんなに殺風景だったやろか?
「どうした?」
布津の声で我に返る。
「あ…。な、何でも無いねん。それよりメシが冷めてまうで!」
ほなな、と言い残し敷島は階上へと駆けていった。
「………」
布津はそれを見送ると、テーブルの上を手早く片付け、その場を後にした。
食卓には既に須藤も付いていた。
「よう。おはよう」
「お早う」
布津は右手を上げ短く応える。
「はよ食え。ツンツンに全部食われてしまうで?」
そう言いながら敷島が皿に盛り付けられたサラダに箸を伸ばす。
「俺は、ムグムグ…そこまでがっついて無いっつーの」
茶碗の白飯を掻き込みながら須藤が返す。
「…頂きます」
布津も後に続き、箸を取った。
しばしば須藤と敷島の掛け合いを挟みながら食が進み、三人共終わりを迎える頃。須藤が布津に話を振った。
「そうだ純能介。今日は天気も良いみたいだからこの辺りを案内するぜ」
ポリポリと漬物を噛み、お茶を啜る。
「……フム。地理を把握するには良いかもな。こちらからも頼む」
布津の物言いに、須藤が苦笑いする。
「堅いなぁ~。もっと気楽にいこうぜ?」
「…むぅ」
「だったらウチが案内するで?」
考え込む布津を尻目に、食器を片付け始めていた敷島が口を挟む。
「ん?いや俺が行くって。言い出しっぺだしな」
「ツンツンは屋上の雪掻き。逃げようったってそうは問屋が卸さへんで~!」
ギクッ、と音が聞こえそうな位須藤の顔が凍り付く。
「や、やだなぁ、じゃあ皆でやろうじゃないか…」
「アンタは新人さんと、か弱いオナゴに重労働させる気?……は~、何てヒドい隊長をウチは持ったんやろ。……ヨヨヨ…」
敷島はこれ見よがしに泣き真似をする。
……須藤が大きく溜息を付いた。
「……ダハ~……わーったよ。やりゃ~いいんでしょ、やりゃ~」
「流石隊長!ウチは幸せ者やわぁ~」
須藤の観念した一言に、敷島が満面の笑みを浮かべた。
チクショー、このタヌキめ。そうぼやきながら須藤が立ち上がる。
…ふと立ち止まり、布津を見やった。
「デート楽しんでこいよ?……ニヒヒヒ」
須藤はさも面白そうに歯を見せて笑うと、廊下へと消えていった。
「アホか」
敷島が相手の消えていったドアに投げ掛け、残った食器を片付ける。
後に残った布津は、再び苦笑いを浮かべるのだった。
「さてと。ほいじゃ行くで~」
流石に外へ出るのは軽装では厳しいのだろう。白いダウンジャケットを羽織った敷島が布津に話し掛ける。
「ああ」
対照的に布津は黒いコートに、マフラーと手袋。全て黒一色だった。
「なんや、ウチら葬式みたいやなぁ~」
ハハッ、と敷島が笑う。
「ほな、行きまひょか~」
何処かの悪徳金融業者の様な台詞を残し、ドアを開けた。布津も後に続く。