夜が更けていく
布津が通された部屋は、無機質な白い部屋だった。唯一、ベッドに残されたシーツが以前この部屋に居たと思われる人物の名残を残していた。
「家具やら何やらは一通り揃ってる。…そのシーツは洗濯しとくわ。クローゼットに新しいのがあるから、それを使ってくれ」
須藤はシーツを拾い上げ、ふと部屋を見回した。
―――一瞬、瞳に哀しみの色がうつる。
布津は気付いていたが、何かを察したのか声は掛けなかった。
「おっと」
須藤が我に返る。
「いきなりボーっとしちまった。疲れてるのかねぇ」
ポキポキと須藤は首の骨を鳴らす。
「んじゃ、何か気になったら言ってくれ。…もうこんな時間か」
腕時計を覗き込む。夕刻は過ぎ、夜の帳が降りてきていた。
「メシでも食うか!ユーコに頼んで何か作って貰うわ。出来たら呼ぶから、それまで休んでてくれ」
じゃな、と言い残し須藤は階上へ向かっていった。
「………」
残された布津は、側にあった椅子の背もたれを撫でる。埃一つ付かなかった。
「………借りるぞ」
誰にとも無く、呟いた。
コンコンコン。
ドアがノックされる。
『おーい!ユーコ~!』
須藤のくぐもった声。
敷島は自室で座り込んでいた。
『腹減った~!』
「ツンツンのアホ…」
しばし逡巡し、ドアを開ける。
「何拗ねてんだよ」
「ツンツンのバカ」
「急に何でだ」
須藤は敷島の真似をして突っ込む。
「だって…一階は…」
「良いんだ」
須藤がその先を遮る。
…敷島は目に涙を浮かべていた。
「俺がいつまでも引きずってたら、アイツも浮かばれない」
須藤がうつむき哀しげな笑みを見せたが、直ぐに顔を上げた。
「それに部屋を遊ばせとくのももったいないしな」
そう言い、悪戯な笑みを浮かべ、パンッ!と大仰に両手を合わせる。
「つー訳で、何かメシ作ってくれ~!」
「………ふぅっ」
一呼吸付き、敷島は目を擦る。
「しゃあないなぁ!んじゃあ今日はあの笑いのセンス無い新人さんの為に腕によりを掛けたる!」
敷島が満面の笑みで答えた。
「一言多いって」
「アンタも手伝え」
ギロリと須藤を睨む。
「は、はいっ」
二人はキッチンへと向かっていった。