隊長、到着
バタンッッ!
「…ゼェ…ゼェ…」
古ぼけたビルのエントランスに勢い良く飛び込む人物。特長的な逆立った髪には、雪が積もっていた。
「ゼェ…。誰だっ。午後からは太陽出てくるなんて言ったヤツはっ!」
パッパッ、と頭や身体にこびりついた雪を払い落とす。
「ふぅ~。ユーコにコーヒーでも入れて貰うかな」
意気揚々と彼、須藤 叢雲は階段を登っていくのだった。
コンコン。ガチャッ。
こちらの返事を待たずにドアが開かれる。
「おっ」
入ってきた青年は布津を見るなり声を上げた。
「どうも!遅れちまってワリーね!アンタが布津さんかい?」
布津は立ち上がり、
「あぁ。布津 純能介だ。宜しく頼む」
一礼をした。
「おぅ!よろしくな!俺は須藤 叢雲ってんだ。一応ココの隊長やってる」
「こらぁ!ツンツンッ!」
突如キッチンの方から怒鳴り声が上がる。敷島だ。
ドタドタドタ…!
走ってくるや否や、須藤に飛び蹴りを浴びせる。
「おわ…あべしっ!?」
蹴りは見事に顔面へとヒットし、須藤は床に沈む。
「なーにが『ちょっと買い物。すぐ戻る』や!時間かかり過ぎじゃボケェ!」
床に倒れ伏す須藤に、追い討ちの罵声を浴びせる。
「アッハハ…スマンスマン。…よっ!と」
倒れた状態から返事をし、跳ね起きる。
「全く…。隊長の自覚ゼロやなぁ!」
ブツブツ言いながら敷島がキッチンに引っ込む。
アハハ…。と須藤は苦笑いをしながらソファに腰掛けた。しばらく呆気にとられていた布津もそれに倣う。
「いやぁしっかし、ホントに金髪だな」
須藤が布津の頭をまじまじと見ながら言う。
「アレか?ものスゲー脱色してるのか?」
「いや…元々だ。血は日本人のモノだがな」
ほー、と須藤は感心したように頷く。
「アルビノ…って訳でも無さそうだな?」
「ん……まぁ、色々あってな」
布津は言葉を濁す。
須藤はそんな布津を何とは無しに眺めていたが、やがて目線を落とす。
カタカタカタ…。
敷島が須藤の分のコーヒーを持ってくる。
「おっ。サンキュー」
須藤はコーヒーに早速口を付ける。
「…かぁ~!染みるねぇ!しっかし流石に吹雪いた時はシビれたぜ!」
「ツンツンは別にヘーキやろが」
敷島が肩をすくめて言う。
「ハハ…。まぁねぇ」
「あ。ツンツンってのはコイツのあだ名。アタマがツンツンだから」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら敷島が布津に説明する。
「……そうか」
布津はサラリと流す。
「………反応うっすいなぁ、もう!ツンツンからも何か言うたってや」
「ハハッ。まぁ気にしないでくれ。ユーコはいつもこんな感じだから」
コラ、と敷島が須藤の頭を小突く。
「……フッ」
小さく笑う布津を見て、敷島が言う。
「何でそこで笑うねん!ホンマ分からんやっちゃなぁ」
「いや…仲が良いなと思ってな」
今度はニヒルな笑いを浮かべる。
「なんつーか、これも腐れ縁だな。ハハッ」
須藤がニヤニヤしながら敷島を見る。
「やかまし」
ゴッ、と鈍い音を立てて肘鉄が須藤の額に当たる。
「~~~っ」
須藤は額を押さえてうずくまったが、
「あ」
ガバッと身を起こした。
「そーいや純能介…で良いか?」
「好きに呼んでくれ」
「OK。…で、だいぶ遅くなっちまったが、ここでの任務なんだが…」
「それは聞いている。とは言え、他の支部と変わるまい?」
話が早い、と言わんばかりに須藤が二カッ、と笑う。
「まぁ、そうだな。ただ今は平和なもんさ。最近は事件っつー事件も無いしな」
「ま、敵さんもウチらに恐れをなしたってことやな!」
敷島が胸を張って相槌を打つ。
「ハッハ。まぁそういう事にしとこうか」
何でやねん、と返す敷島。布津は苦笑いする。
「ここでは俺達に閑古鳥が鳴いてる、って訳か」
「そういう事。まぁ気楽にやってこうぜ」
「…分かった」
そういうと布津は立ち上がる。
「?…どっか行くのん?」
「宿探しだ。住処をまだ決めて無かったんでな」
吹雪が強くなりつつある窓の外を見やりながら布津が言った。
「あぁ…だったら」
窓の外を見て表情を曇らせる布津を見て須藤が口を開く。
「ここの一階が開いてるぜ?良かったら使ってくれよ。案内するぜ」
須藤は立ち上がると、ドアの前まで向かう。
「助かるが…良いのか?」
「あぁ。もう使われなくなって長いからな。多少ボロいかもだけど住むには充分。さ、行こうぜ」
ガチャリとドアを開け、須藤が廊下に出る。そして布津が後に続く。
……敷島は一人、下を向き唇を噛んでいた。
「……隊長のバカ」
そう呟くと、敷島は自室へと向かっていった。