不在の人物
「……所で」
着替えを終え、敷島が再びソファに腰を降ろした所で布津が口を開く。
「なにぃ~?」
ズズズ…とコーヒーを啜りながら、敷島が訝しげに問う。
「この支部には他に誰もいないのか?」
「おるよ?……そーいや、買い物行く言うてもう三時間も経っとるわ!」
何やっとんねん…と呟きながら敷島が携帯を手にする。
「あかんなぁ。ちょっと連絡入れるわぁ」
敷島は慣れた手付きで携帯のボタンを押す。
プルルルル…プルルルル…。
発信音が数回聞こえ、唐突に途切れる。
「あ、もしもし~?ウチやけど?アンタ何時間買い物に出とんねん?……は?鉄アレイ?そんなもんいらんがなっ!……アホか。いいから早よ戻ってきぃ。新しい人来てんねん。……うん。……うん。じゃあ頼むで?……あい~」
敷島は終話ボタンを押すと、パタン、と携帯を閉じた。
「しゃあないなぁ…。どーしても欲しいもん探してて、もうちっとかかる言うとったわ。まっ、その内戻ってくるやろ」
敷島は少し冷めたコーヒーを口にする。
「………」
布津はその様子を見て肩をすくめると、コーヒーに口を付けた。
「ん~」
敷島が腕を組む。
「先に説明するとな、さっきの電話の相手がここの隊長やねん。…結構マイペースなヤツでウチも手ぇ焼いとるんや。ま、気長に相手してやったってや」
「…そうか」
平和な支部だ…。とは流石に口にはしなかった。
ヒュゥゥ……。
雪がちらほら混じり始めた折、一人の人影が街中を駆けていた。
「やっべ。降り出したっ」
逆立てた髪が風に揺れる。
特に目を引くのがそのいでたち。彼はノースリーブのシャツ一枚にズボンとブーツ、というこれまた軽装であった。
一度除雪された道路に、みるみる雪が積もり始める。
「吹雪は勘弁だぜえぇぇぇ…」
彼は悲痛な叫び声を残し、走り去っていった。