談笑
「あ、自己紹介してへんかったなぁ」
コポコポコポ…。
コーヒーをカップに注ぎながら先程の女性が言う。声の大きさは相変わらずだ。
スタスタスタ…と、盆に乗せたコーヒーカップを意識しながらソファに座る布津に近付く。
コトン。木のテーブルに置かれたカップが音を立てる。
ドッカ!と音がしそうな程勢い良く向かいのソファに腰を落とす。
「ウチ、敷島 侑子って言うねん。敷、は風呂敷の『シキ』に、島は無人島の『トウ』!侑はにんべんに『アル』って書いて、最後は子供の『コ』!」
一気にまくし立てる様に喋る。関西人特有のモノだろう。
敷島は喋り終えると、二カッと歯を見せて笑う。
「ま、『ユーコ』、って呼んでや!」
「………」
布津は暫く考えている素振りを見せたが、やがて口を開いた。
「…敷島」
その言葉に大仰にズッコケる。
「今言うたばかりやないかいっ!」
パシンっ、とソファの背もたれを叩く。
「名乗ってなかったな。布津 純能介だ。宜しく頼む」
「………」
敷島は固まっていた。
布津は首を傾げる。
「あっちゃ~」
不意に素頓狂な声。勿論敷島だ。布津にビシッ!と指を差す。
「アンタぁ!笑いのセンス全くあらへん!ウチがツッコンどるのにスルーかいっ!こーなったら徹底的に鍛えとる!」
……要らないと思うのだが。
布津は言葉に出さずぼやく。
「……プッ」
「?」
「アッハッハッ!」
突然笑い出した敷島に、布津は呆気に取られる。
「ハッハッ…いやぁゴメンなぁ!ちょっとからかってしもたわ!ハッハッハ!」
笑い転げる敷島。薄着のせいで更に露出が多くなる。
「…敷島。いい加減服をまともに着たらどうだ?」
見かねた布津が問う。敷島は布津を見やると、
「あら~ん?…こんな美少女のあられもない姿を見て、興奮したのかしらん?」
敷島は流し目で布津を見る。
「…有事の際、困るのはお前だ」
表情を変えずに返す。
「ハッハッ!ごもっとも!んじゃあウチ、着替えてくるわ。…覗いてもええで?ハッハッハ!」
そう言うと、敷島は奥のドアへと消えていった。
「………」
コーヒーを一口。布津はカップを置くとソファに沈み込み、大きく息を吐き出したのだった。