到着
程なく歩き、目的地とおぼしき建物に到着する。
ビル…と言えば聞こえは良いが、全三階層程の古ぼけたビルだった。
入口から内部に入る。ポストが三つあるが、どれも表札は付いていない。
やや思案して、一階のドアをノックする。
カン、カン、カン。
凍り付いているような音を立ててドアが揺れた。
「………」
返事は無い。不在か、或いは元々誰もいないのか。
十秒待ってから、布津は二階へと向かう。
コンコンコン。
今度は乾いた音をドアが立てた。階層で温度が違うのだろうか。
しかしまたしても返事は無い。十秒程待つ。
「………」
誰も出て来ない。最上階へと向かう。
階段を登りきり、最後のドアの前に立つ。
一呼吸置き、ノックをした。
コンコンコン。
「………」
返事が無い。
…場所を間違えたのだろうか?
一度外に出ようと踵を返す。その時だった。
『はいな~~』
間延びした声がドアの向こうから響く。
どうやら人はいるようだ。布津は振り向いた。
ガチャ。
ドアが開く。中から出てきたのは、見た所少女とも取れそうな女性だった。
黒髪をやや短く切り、肌は浅黒い。そして、昼間とはいえこの寒い中、タンクトップにデニム地のホットパンツという軽装。一番印象深いのはそのいでたちであった。
「……」
流石の布津も言葉を無くしていた。
「あ~!もしかしてぇ!」
やや関西訛りのある黄色い声が響く。
「布津さん…ですかぁ?」
自分でも声が大きいと思ったのだろう、ややトーンを落とす。
「ああ…。そうだ」
やっと思考を整理した布津が答える。相手の露出の高さに、目を反らす。
「やっぱり!遠い処ご苦労様です~!ささ、入った入った!」
特有の物言いと共に、相手の女性が背後に回り布津の背中を押す。
「お、おい…」
どうやら布津の苦手なタイプの様である。
……先が思いやられる……。
布津は心の中で溜息を吐いた。