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魔道士の物語  作者: きつねそば
5/7

ディアルトの特訓1

『ディアルトの特訓』は9/24までの3話分投稿となります。

 魔道士養成施設の訓練室で、ハイネル・コークスは殴られていた。


 顔は腫れあがり、まともに目も開けられていない。鼻血のせいで満足に呼吸をすることもできず、右肩は外され、加えてアバラは折られていた。


 その姿はあまりに痛ましかったが、それでもなお、教官であるディアルトは攻撃の手を休めようとはしない。


「ほらほら、ちゃんとガードしないと死んじゃうわよ?」

「ぐぅ……ッ!!」


 腕の動かない右側から執拗に、拳打を繰り返してくる。ハイネルは身体を半身に構え、左手を使って攻撃をさばこうとした。が、即座に後ろえりをディアルトに掴まれ、勢いよく後ろに足を刈られる。


「……ぐぇっ!?」


 ハイネルは受け身もとれないまま、床に後頭部を叩きつけられた。あっけなく意識を手放し白目をむくハイネルを一瞥いちべつして、ディアルトは脇に控える少女、リース・スタッカートを呼びつける。


「リース、治療しなさい!」

「はい!」


 治療の許可が出たリースは、急いでハイネルに駆け寄った。走りながら回復の呪文を唱え、着くと同時に治療を始める。まずは頭のダメージを癒し、次に内蔵。肩の関節を手ではめ直したのちに、骨折、出血の治療へと対処していく。


「次、レン!」

「『火炎よ弾けて躍り出ろ』!!」


 治療の様子を確認したディアルトは、次の訓練相手を呼びつけた。名前を呼ばれた瞬間に、フツキ・レンはディアルトに向かって魔法を放つ。フツキが卑怯なのではない。訓練が始まった瞬間に行動するよう、ディアルトに指導されているからである。


 人を飲み込める大きさの火球が、うなりを上げてディアルトに襲い掛かる。ディアルトは迫りくる火球に向かって右手をかざした。


「『幻熊げんゆう鉤爪かぎづめ』」


 ディアルトの前方を、魔力で作られた真空の爪が薙ぎ払う。火球は無残に切り裂かれ、あっけなく霧散した。間髪入れずに、ディアルトはフツキに向けて反撃の魔法を放つ。


「『追火ついびの猟犬』」


 フツキの火球よりも数段速い、二本の火炎が空を駆ける。


「『風よつむぎて世界を廻せ』!」


 フツキは前方に旋風を起こし、火炎をかき消そうとした。しかし、一本目を無効化したところで風が尽きる。フツキは僅かに逸れただけの二本目を、すんでのところで転がって躱した。


 通過する熱風を間近に感じながら、視線を前に向ける。魔法に気を取られていたわずかな時間に、姿勢を低くしたディアルトがフツキに迫ってきていた。獲物を狩る肉食獣のようなしなやかな走りが、獲物であるフツキを恐怖に駆り立てる。


「か…『火炎よ弾けろ』!!」


 焦ったフツキは不完全な火炎の魔法を連発した。未熟な魔道士であるフツキは、詠唱を端折はしょった魔法ではマッチの火程度の火球しか出すことができない。火はディアルトに届くことなく、放った先から消えてしまった。


「魔道士がすぐ焦らない!減点ッ!!」


 移動の勢いを乗せたまま、ディアルトはフツキを殴りぬける。内臓を押しえぐるような一撃を腹に食らって、フツキの身体は浮き上がった。


「ぅゲェェ……ッ!!」


 肺からひねり出される空気と一緒に、口の端から胃液が漏れ出す。息を吸う間もなく、ディアルトの左拳底がフツキのあごを穿った。フツキは空中で一回転すると、腰から床に叩きつけられる。息が吸えない。骨が熱い。キーンという耳鳴り。ぐわんぐわんと揺れる視界。朦朧とする意識の中で必死に起ち上ろうとするフツキの背中を、ディアルトは上から踏みつけた。


「ゴはっ!?」

「さ、早く距離を取りなさい」


 教官ディアルトによる訓練はまだまだ続く。


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