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魔道士の物語  作者: きつねそば
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竜の討伐2

「いやー、お待ちしておりましたよ皆さん!」

  ウィーグルマウンテンに着くと、ぶくぶくと太った男が5人を出迎えた。


「わたくし、オーナーのグース・デイスと申します。魔道師の方々に来ていただいて、いや実に頼もしい限りです」


  ディアルトを見て、下品な笑みを浮かべる。嫌な奴だ。と、フツキは思った。特に理由はないが、こいつは信用できない。


「報酬は何でも望むものを頂けるんですよね?」

「ええ、何でも!まあ、全財産をよこせ!なんて報酬はいくらなんでも無理ですが、品物であればどんなに高級なものでもご用意致しますよ!」


 フツキはディアルトの舌打ちを聞いた。隣のハイネルと顔を見合わせる。全財産、狙ってたな……


「それでは、説明をさせていただきます。あちらに見える山、ウィーグルマウンテンにはドラゴンの巣があるらしいのです。宿泊施設の建設場所からは離れていますが、温泉の湯源は巣のすぐ近くにありまして、パイプを引くことができずに困っております。ということで、皆さんにはドラゴン共の駆除をお願いしたいのです」

「あの、どうしてもドラゴンさん達を殺さないといけないのですか?どこかに移動してもらうとか…」


 リースの言葉に、グースは醜い笑顔を浮かべて、

「おやおや、なんて優しいお嬢さんなんだ」

  リースの頭を撫でようと手を伸ばした、が、それを遮るようにハイネルが身を乗り出し、静かに睨み付ける。敵意のこもった瞳に、グースは慌てて手を引っ込めた。


「う……あっはっは、でもねお嬢さん、ここにいるドラゴンは『デーモニッシュ・ワイバーン』。知能の低いワイバーンのなかで最も狂暴な種族なのですよ?話しなど聞くわけがない。殺すのが一番です」

 身振りを交えてグースは話す。その様子は、丁寧というよりも馬鹿にしているようだった。


「そうかい、じゃあ説得できればなんも文句無ぇーんだな?」

「いや、それは……そう、危険ですよ!殺すべきです」

「あ?いいじゃねーか。別に殺さなきゃいけない理由は無いんだろ?」


 ハイネルの語気が、敵愾心から疑念へと変わる。さらに問い詰めようとしたハイネルの頭に、ディアルトの手が乗った。


「ハイネル、グースさんは『駆除』を依頼しているの。この意味、わかるわね?」


 ディアルトは優しい笑顔で、とても冷たい言葉を言った。『駒は指示されたとおりに動くもの』………長年叩き込まれた理念が重くのしかかる。押し黙ったハイネルからグースへと視線をずらし、ディアルトは依頼内容を承諾した。


「それでは早速ドラゴンの駆除に向かいます。日が落ちるまでには戻れると思いますので、お待ちください」

「ああ、はい、どうかよろしくお願いします」


 きびすを返してディアルトが歩き出す。山道に向かって進むディアルトを、フツキは追った。ディアルトの左側に、歩幅を合わせて並行する。


「今回の任務で、最も注意すべきは何?」


 ディアルトは前を見ながら、フツキに聞いた。フツキは一度下を向き、顔を上げて答える。


「…相手がデーモニッシュ・ワイバーンだってこと。他のドラゴンよりも知能が低いから戦いやすい」

 ガン。左の裏拳を顔に受け、フツキは倒れた。

「不正解。正解は巣があるってとこ、群れのドラゴン相手にする怖さがわからないなんて減点もんよ、落第ね」

 文句を言いながら、スタスタと先に進む。『戦いやすい』のあとに『けど、巣があるから…』と続くはずだったのだが、痛くて主張できなかった。うずくまるフツキの背中をハイネルがさする。

「おい、大丈夫かよ?」

「うん…あ」

 指の間から、赤い液体が滴り落ちる。

「フツキさん、血が……」

 フツキの押さえる鼻から血が出ているのを見て、リースは右手をフツキの顔にかざした。目を閉じて、小さな唇から息を吸う。


「『痛みを除く、()の光』」


 暖かな光とともに、痛みがひいていく。リースが手を離したときには、フツキの鼻血はぴたりと止まっていた。


「ありがとう、リース」

「いいえ、お役に立ててよかったです」


 リースは慈愛に満ちた笑みで答えた。


「それにしてもよぉ…どう思う?」

「なにが?」

「あのデブだよ、ったく、むかつくったらありゃしねぇ」

 ハイネルが、もと来た道を振り返り舌打ちをする。


「何やってんのっ!早く来なさい!!」


「「「は、はいっ!!」」」


 怒号が聞こえ、三人はビクリと身をすくめた。道のだいぶ先に行ったところで、ディアルトがこちらを向いて腕を組んでいる。そのとなりには、ちゃっかりとシーラの姿もあった。


「ったく、シーラのやろう、一人でさき行きやがって。あいかわらず冷てぇやつだぜ」

「そう?」

 ハイネルの言葉に相槌を打って、フツキは前を見た。シーラの瞳が、心配そうに微かに揺れている。


「…そうでもないさ」


 笑うフツキを見て、ハイネルは首をかしげた。


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