竜の討伐1
『竜の討伐』は、9/13までの4話分投稿となります。
「今からドラゴン退治に向かうわよ。準備して」
魔道師養成施設の女教官、ディアルト・ユークスターがさらりと言い放った一言に、4人のかわいい生徒達は固まった。
「いやだ」
燃えるような赤髪に鋭く紅い眼をした少年、ハイネル・コークスは即答で断った。……が、彼はにっこりと笑ったディアルトに殴られ吹き飛ばされる。
「で、何か質問は?」
……ハイネルのことを無視して話を続ける。黒髪に黒眼の少年、フツキ・レンはおずおずと手を上げた。
「ドラゴンって?」
「ドラゴン、翼と爪と蛇の尾をもつ爬虫類で、口から火を吐くとされる生き物」
淡々とした口調で、シーラ・ハルベルトが言う。奇麗な銀髪を短くまとめ、蒼く冷ややかな眼をした少女だ。
「そんなことわかってるよ!俺が聞きたいのは、なんでドラゴンなんて聡明な生き物を退治しなくちゃいけないんだってこと!」
ドラゴンは人語を解するほど頭が良く、意味なく人間を襲うことは少ない。理由も無く暴れていたとしても、その頑丈な体に半端な攻撃など効きはしないだろう。
「…昨日、私は酒場に行ったわ」
よっぽどの理由があるのだろう。ディアルトは、深刻な口調で続けた。
「そこで私は、とある男たちの会話を聞いたの、『あーあ、よわっちまったぜ』『おいおい、どうした?』『ああ、今度俺らの会社が温泉旅館を造ろうとしてた山あるだろ?』『おお、あれがどうした?』『あの山にドラゴンが出ちまってさあ、どうにも工事が始まらないんだよ』『ドラゴンが!?ど、どうするんだ』『はぁ。…社長は俺にドラゴン退治が出来る人材を探してこいって言うんだよ、いくら報酬は何でも望むものを与るっていっても、そんな人間いるわけないよなぁ…』」
「……で?」
「魔道師養成施設では、記録を塗り替えた生徒とその教官は、報奨金を貰えるわよね?」
「……で?」
「今現在、ドラゴンを倒した魔道師の最年少記録は16歳、で、あなたたちは11歳。どう?つまりこのミッションは、あなたたちの能力が上がり、礼金も手に入り、報奨金まで貰える一石三鳥の効果を持っているのよ!」
ディアルトの眼が光輝く。ちなみに彼女の好きなものは、お金といい男だったりする……
「お金と経験はいくらあっても困らないわよ♡」
「♡って何だ!んな理由で俺らにドラゴン退治やらせるつもりかよ!?」
頬をさすりながらハイネルが文句を言う。長い金髪に、透き通るような白い肌の少女、リース・スタッカートも眉をよせた。
「そのような理由で、幸せに暮らしていたドラゴンさん達の生活を奪うのですか?」
「確かにそう、そんなのは人間の身勝手だわ。でもね、あなた達はいずれ、軍に配属される存在、そうなったとき作戦に意見を言える立場じゃ無いのよ?」
リースの両肩に手を置き、寂しげな眼でディアルトは言う。確かにそうだ、可哀相だからなどと敵を見逃がせば、そいつに自分や仲間が殺されるだろう。これはそういった、戦争の邪魔になる、甘さや優しさを捨てるための訓練なのかもしれない。
押し黙った生徒たちの様子を見て、ディアルトは瞳を閉じ、指に力をこめる。
「それにね…わたし今月ピンチなの!自信のあったレースは外れるし、飲みには誘われるしで、もうすっからかんなの!今月残り二十日間わたしが生きられるかどうか、あなた達にかかってるの!」
……前言撤回。愛する生徒達にシラけた眼で見られて、ディアルトは一度咳払いをした。
「わかったわね!そういうことだから頑張りなさい!大丈夫。わたしもついてるから」
こうして4人の魔道師見習いと、その美人教官達はドラゴンの住む山、ウィーグルマウンテンへと向かったのだった。