神様からの提案
気がついたら真っ白な空間にいたんだが・・・
「ここはどこだ?」
いつの間にか知らない場所に移動した俺、西園寺錬は困惑した。確か俺は寝ていたはずだ。そして、目が覚めたらわけのわからない場所にいた。ということは、
「・・・夢か」
こんな常識では考えられない場所にいるということ、そして、目が覚める前寝ていたことをから考えられる結論はそれしかない。
「いや、ここは儂が作った空間じゃよ」
後ろのほうからいきなり声をかけられたので少し驚きつつそちらを向くと白い髭を携えた老人がいた。
「作った?」
「うむ、それを話す前に腰を落ち着かせるかの」
老人がそう言った瞬間、俺と老人の間にどこからともなく畳とちゃぶ台が現れた。
「まあ、座りなさい」
さすが夢だなぁと思っていると先に座った老人がこれもどこからともなく現れた急須からお茶を入れていた。俺は老人に言われたとおりちゃぶ台の前に座ると俺の前にお茶がおかれた。
「あ、ありがとうございます」
出されたお茶を一口飲む。
「うまっ」
いままで飲んだお茶の中で最高においしかったのでつい声が出てしまった。そして、いま飲んだお茶を見ると茶柱も立っていた。何かいいことがあるのだろう、茶柱を見たのでついそんなことを思ってしまう。
「さて、まずは儂が誰なのか説明しよう。儂は神じゃ。しかも、神の中でも一番上の神、最高神じゃ」
俺は老人の説明を聞いて驚いた。俺の夢どんだけぶっ飛んでんだよっと。
「残念じゃがこれは夢ではないぞ」
「・・・は?」
俺が考えていたことに対して否定された、つまり、考えていることがわかることに驚いた。だが、それより老人の言ったことが本当かどうかを確かめるためにかなり本気で頬をグーで殴った。
「っつ!」
ドゴッという鈍い音とともに痛みが殴った場所に広がった。
「大丈夫かの?」
老人が殴った個所に向け手を向けると痛みが引いていった。
「・・・それは神の力ってやつ?」
「そうじゃ」
「ありがとうございます」
そして、痛みがあるということはこれが夢でないことがわかった。俺は再び座り直しお茶を一口飲む。
「ふぅ、それじゃあ俺に何が起こっているのか説明してください」
「うむ、実はおぬしが寝ておる間に時空震というものが起こったのじゃ。この時空震はあらゆるものを飲み込み消滅させるきわめて危険な現象じゃ。だが、時空震は我ら神にかかれば簡単に修復することができる。じゃが、今回おぬしの世界で起こった時空震を担当しておった神がミスを犯してしもうた。その神は簡単に修復できるからといって手を抜きおった。そのせいでおぬし一人だけが時空震に飲まれ消滅してしもうた。すまぬ、これは我ら神々のミスじゃ」
神様はそう言って頭を下げた。その話を聞いた俺はもう一度お茶を飲んだ。うん、うまい。
「わかりました、許しますので頭を上げてください」
「・・・わかっておるのか、時空震に飲まれて消滅したということは存在そのものが消滅したということつまりおぬしがいた世界においておぬしがいなかったことになっておるのじゃぞ」
「え、じゃあなんで俺生きているんですか?」
「完全消滅する前にミスを犯した神がおぬしに気がつき魂だけをなんとか拾ったのじゃ。それがなかったらあやつは降格ではなく消しておったわ。じゃからおぬしはいま魂のみの存在になっておる」
なにか途中怖いことを言ったような気がしたがどうやら俺はいま魂のみらしい。だったら生き返れるのではないのか?
「それはできなくもないが言ったであろうおぬしがいなかったことになっていると。つまり、おぬしの友人などはおぬしのことを覚えていないのだ。元の世界に帰りたいのであるのなら生まれ変わるしかない。これは輪廻の輪の中におぬしの魂を入れ生まれ変わるので記憶はなくなってしまうぞ」
「へぇ~」
俺は神様の話を聞いて悲しむのではなく関心した。先ほど神様が言ったことは神秘の一つだと思ったからだ。神様が言った輪廻の輪のなかに魂を入れるということ、これは輪廻転生の概念であると思う。つまり、人は死んだら輪廻転生するということである。
「・・・悲しくはないのか?」
俺の考えを読んだのであろう神様は若干あきれつつ聞いてきた。
「まあ、あの世界に未練とかありませんし。それに俺はあの世界つまらないなぁと思っていたんですよ」
俺は世界を管理していると思われる神様にこれを言っていいものか迷いつつ言う。
「ほう、つまらないとな」
「ええ、俺はアニメとかラノベとか好きでよく見てたんですけどその影響でこんな世界行ってみたい、こんな世界に行ったらこんなことしたとか思うようになって、ふとこの世界でやりたいこと、夢って何だろうって考えたら何も浮かばなかったんです。やりたいことはあるでもこの世界じゃあできない、そんなことになってたんですよね」
「なるほどのう、ならば行ってみるかお主が言う世界に」
「・・・行けるんですか?」
「行ける」
はじめ神様が何を言っているのかわからなかった、だが少しして神様が何を言ったのかを理解した。
「・・・・・・行きます」
それは、異世界転移というやつだろう。
俺はそれに対して涙を流しつつ答えた。その涙は悲しみではなくただただ嬉しかった。夢が叶うそれがどれだけ嬉しいことか。小説とかにある異世界転移にどれだけ憧れたか、どれだけ望んだかわからない。だが、小説のように都合よく異世界転移などできるはずもない。なので、俺はこのままつまらない人生を歩んでいくのだろうと思っていた。
でも、行ける。異世界に行ける。これ程嬉しいことはない。
「そうか。ならば、こちらのミスでお主に苦労をかけているのだからお主が望むこと叶えてやろうと思っとる」
神様がにこやかに言ってきた。それは、いわゆるチート的なものをくれるということだろう。だが、俺は異世界転移できるだけで満足なのである。よく小説などでチート能力やチートアイテムなどをもらっているが俺は異世界でやりたいことに対してそういうのを望んでいるわけではない。
「そう遠慮せずに。ほれ、なんでもよいぞ」
俺の思考を読んだのであろう神様から催促された。しかし、俺はほしいものなどが浮かばないのである。確かにやりたいことがあるのだがそれに必要なものがすぐに浮かばない。なので、神様に俺が異世界でやりたいことを言ってみることにした。
「あの、神様。俺は異世界で錬金術師になりたいと思っているんだけど・・・」
「ほう、錬金術師とな」
「ええ、あらゆるものを生み出し、創り出す錬金術師。俺は異世界でいろんなものを創りたいんだ。それは薬であったり武器であったり魔道具であったり。俺の中で錬金術師っていうのはそういう存在なんです。俺はそれになりたい」
「ふむ・・・」
俺の言葉を聞いた神様は少し考えるように髭を撫でた。
「ならば、お主に錬金術師の才能をやろう」
「才能ですか?」
「うむ、無論努力をしなければ錬金術師にはなれんぞ。だが、努力をすればどこまでもその才は伸びるようにする」
「・・・なるほど、それはいいですね」
神様が提案してくれたものは俺にとってかなり嬉しいものであった。せっかくやりたいことができる世界に転移できるのに全くその才能がなかったりしたら意味がないのでこれはありがたい。
「それともう一つお主が住む家もやろう」
俺が神様からもらうものに満足しているとなんともう一つくれるという。
「いやいや、かなりいいものを貰うのにこれ以上はいりませんよ!」
慌てて俺が断ると、
「なに、これはおまけみたいなもんじゃ。それに、錬金術師になるということはものを作る場所、工房が必要じゃろ。遠慮せずもらっておきなさい」
「は、はい」
なんか神様が久しぶりに会ったおじいちゃんのようなにこにこ笑いながらで言ってきたので断れなかった。
「それで、お主が転移する世界なんじゃが希望を聞いておこうかの」
渡すものを渡し終えた神様は次に俺が転移する世界を決めるようだ。
「そうですね・・・まず、ファンタジーの世界がいいですね。剣と魔法の世界っていうんですか。それで、比較的安全な世界がいいですね」
「魔法がある世界だと文化が中世と近世があるがどっちがよいかの」
「う~ん、中世で」
俺の中の錬金術師は中世の感じが強い。
「それだと魔物が出る世界しかないの・・・」
「じゃあ、その中で比較的安全な世界を選んでもらっていいですか?」
「まかせるのじゃ」
神様が目をつむった。たぶん俺の言った世界を探しているのだろう。そして、少しして神様が目を開いた。
「お主が言った世界が見つかった。転移もできるようにしたからすぐにでも行けるぞ」
「ありがとうございます。じゃあ、早速お願いしてもいいですか?」
「わかった。では・・・」
神様が片手をこちらに向けると足元が光り輝きだした。これで俺は転移できるのだろう。なら、転移する前に神様に言っておかなければならないことがある。なので俺は神様の目をしっかりと見つつ、
「神様、俺が時空震っていうものに巻き込まれたのは事故です。神様は悪くないです。それに俺は巻き込まれたことに感謝してます。だってそのおかげで神様に会うことができて異世界に転移できるようにしてもらえたんですから。だから、神様本当にありがとうございます」
そう言って俺は深く頭を下げた。
「・・・うむ、しっかり新しい世界で楽しんできなさい」
「はい!」
そして、光が俺を包み込んだ。