僕は誰からも愛されないかと思っていた
※ 拙作は「文学フリマ短編小説賞」に参加させていただいた作品です。
僕、萩元 太一は「親からの愛情」というものをほとんど得られずに育ってきてしまった。
なぜならば、僕が物心がついた頃には両親がおらず、両親がどんな顔をしていたのかは知らない。
そのような中で小学六年生まで児童養護施設で過ごしてきたから。
しかし、僕は児童養護施設に馴染めず、年が近い子供達が遊具で元気よく遊んでいる中、僕は一人で動物の図鑑を読んでいた。
「……あの……」
「ん? どうしたの、太一くん?」
「ぼ、僕のお父さんとお母さんは――?」
僕はふと疑問に思っていたことを施設の職員であるお姉さんに訊いてみる。
「……太一くん、あのね……」
「はい?」
彼女は周囲を見回し、僕の周りに誰もいないことを確認した。
僕はなぜだろうと疑問に思い、小首を傾げる。
「太一くんのお父さんとお母さんはね……お星様になったんだよ」
「お、お星様……?」
「そう。だからね、太一くんはこれからお父さんとお母さんの分まで頑張って生きなくちゃね」
「はい」
その当時はお姉さんが言っていたことが理解できなかったため、首を縦に振ることしかできなかった。
僕はあれからずっと「両親がなぜお星様になってしまったのか」が気にしていたが、成長していくにつれ、「両親は何かが原因で死んでしまったから、僕を児童養護施設に入れられたんだ」と――。
こう思うようになってしまうと僕は悲しくて、一粒、二粒と涙が溢れてきた。
両親の顔はもちろん声も記憶もない僕の心にうっすらとヒビが入る。
両親の愛情を受けずに捨てられた。
僕が生まれてきてしまったから、両親が死んでしまった……などと悲観的な言葉が頭の中でぐるぐると渦巻く。
また、最悪の場合は夢に出てくることもあり、眠れなかった日もあった。
「太一?」
「お兄さん、眠れなくて……」
「いつものホットミルクでも飲むか?」
「今日はお話だけでいいです」
「珍しいな」
他の子供達がスヤスヤと眠っている中、僕は夜勤できていたお兄さんやお姉さんとこのようなやり取りを何回してきただろうか。
眠れない時は誰かと話して気持ちを落ち着かせるか、ホットミルクを飲んでから寝るかが多かったような気がする。
「眠くなってきたか?」
「はい。なんかお話聞かせてしまい、すみませんでした」
「いいよいいよ。また明日もあるんだからゆっくり休めよ」
「おやすみなさい」
「おやすみ!」
あのあとはゆっくり眠ることができた。
しかしながら、あの夢はよく見るのは相変わらずではあったが――。
◇◆◇
あれから、何年くらい経ったのだろうか。
僕が小学五年生の頃だったと思う。
「太一くんのことを迎えたいという人がいるの。実際に会ってみないかな?」
「い、いいのですか?」
「うん。明日だけど……急でごめんね」
お姉さんが僕に新しいお父さんとお母さんになりたいという夫婦が現れたらしい。
僕の本当の両親は交通事故で亡くなった関係で、児童養護施設に入所されたと彼女から先ほどの話のあと、告げてきたのだ。
「はい。って、それ早いうちに言ってくださいよ!」
「あは、ごめんね。嫌なら断ってもいいからね」
その時、僕は複雑な思いがあった。
本当の両親のことについて知らないのに、新しい両親のところに行ってもいいのだろうかと――。
もし、新しい両親のところでも「両親の愛情」を受けられずに少年時代を終えなければならないかもしれない。
「会ってみるだけ会ってみます。それでどうするか考えるので」
「そうね」
僕が望んでいる生活ができることを願って……。
◇◆◇
ついに迎えた新しい両親との面談。
僕はお姉さんと一緒に車で彼らが待つ家まで向かう。
「こんにちは」
「こんにちは、いつもお世話になっております。本日はよろしくお願い致します」
「こんにちは、太一くん」
「こちらこそお世話になっています。太一くん、よくきたね!」
とても雰囲気のよい夫婦だ。
少し大袈裟になってしまうけど、テレビドラマに出てくるような感じがした。
実際に話したことはその夫婦はたくさんの僕みたいな児童養護施設に入所している子供達の親代わりをしている。
夫婦は子供が好きで里親をしているので、苦ではないと話していた。
そのため、一人ひとり愛情を持って育てているということが分かる。
「あの、僕には「両親の愛情」がなければ、「家族のかたち」もありません。それでも僕を愛してくれますか?」
僕はその夫婦に一番訊きたかったことを訊いてみた。
彼らは「もちろん!」、「それはそうだよ。いろんなことを教えてあげるよ」と答える。
その答えを聞いた僕は嬉しくて涙がこぼれてしまった。
「ありがとうございます。お願いします!」
「た、太一くん!?」
「へ? お姉さん……?」
「そんなにあっさりとした答えでいいの?」
お姉さんが僕に突っ込む。
奥さんが「あはは、じっくり考えてくださいな」と笑いながら言ったところで、面談が終わった。
◇◆◇
あれからじっくりと考え、やはり今回あった夫婦のところで生活したいという思いがあったので、その夫婦のところで二泊して、正式に僕の里親が決まった。
「忘れ物はない?」
「うん、ないよ。行ってきます!」
「太一くん、行ってらっしゃい!」
「気をつけて学校に行くんだぞ!」
「分かってるって! 行ってきます!」
僕は今までの「誰からも愛されない」という感情から「愛される」という感情が芽生え始めていた。
僕は新しい両親のところで「両親の愛情」をたくさん受けながら、日々の生活を送っている。
最後までご覧いただきありがとうございました。