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7.

 求めるものには、ぼんやりとした筋道が見えているのだとモリゾーは言った。だけどそれは「これ」というふうにはっきりとはわからない。つながってみて初めてわかることも多いのだと言う。

「だから焦ってもダメ」とモリゾーは運ばれてきたお茶をすすって「あぢ」と言った。

「その後、やっと夢見られた時にはホッとした」

 とモリゾーは言った。

 それは数日にわたって見た夢で、あたしがどこかで働いていること、何かをどこかに置き忘れたこと、どこかのスタバにいることがわかった。

「で、なんか気の向く方のスタバ巡って、一度会ってわかった。それが大事。どういう形でも具体的につながれば、そういう道筋がだんだん太くなって行くんだ」

 とモリゾーは言った。

「だって、そういうことって煮詰まってきているんだよ。もし運命の人だったら、向こうからもこっちに近づいて来ているわけ。だから焦らずある程度成り行きにまかせなくちゃダメなんだ。無理につなげようとすると切れることもある。周りが歪むこともある。だから自然につなげる。その方がしっかり太くなる。夢を追い求めるってそんな感じなんだな。だからだんだん手掛かりがはっきりしてくる夢になった。恵比寿駅がすごく近い場所であること。桜並木。中目黒駅のホーム。それも光のかげんで漠然とした時間だけど。いつとわかってそこに出向くことができる。それがわかるのがオレの能力らしい。煮詰まっているからどんどんわかる。たださ、これまで夢に見て現実になったものってのがけっこうショボイのだよ」

 ここでちょっと間を置いて、

「たとえばさ…。数日後の晩に出たおかず、とか。友達のサカタのうちのインコが脱走するとか…。それも脱走した後に見たんだから、あいつが飼っているかどうかも知らなかったインコが脱走したってことは言い当てたけど、なんの役にも立たねーって笑い話」

 と自嘲気味に笑って。

「すぐ忘れても、いっこうにかまわないような物ばかり」

 おしゃべりなモリゾーの、自分で盛り上げ自分で突っ込む謎の話に、あたしの心はすっかりつかまれてしまったようで、そのままそのとりとめのない話を聞き続けてもいいな、と思っていた。


 その日は魔法の日だったのだな、と思う。あたしは帰りたくなく、モリゾーもあたしを帰らせたくなかったのだ。

 あたしたちはそう熱烈ではない静かな熱に浮かされていて、自然、あたしはモリゾーの後を着いて行った。

「ね、じゃあ、なんであたしだったの?」

 とおそるおそる聞いてみた。

 するとモリゾーが言った。

「さあな。ただオレ、会いたかったってだけでそれはわかんねーけど、でも、たぶんお前は周りのことを大事にして壊さないようにするヤツで、何かを解決しようと必死になれるヤツだろ?」

 モリゾーにじっと見つめられてそう言われると、そんな気がしてきていた。

 モリゾーが急にあたしの頭に手のひらをピタッとくっつけて、

「うん。まちがいない。この感じだ」

 と言い、あたしは心の中で「ほんとだこの手なんだな」と思った。

 それを理屈で説明することはできない。その時はただただこの人と一緒にいたいという、そういう単純な気持ちだけだった。


 最初にモリゾーを見た時の『ヤバイ』を後から何度も思い返してみた。それはこの人がヤバかったわけではなくて、あたしの中に芽生えようとしていたこの人に対する気持ちがヤバかったんだな。

 そういうヤバイ人の中にはこれまでも何かがあったのかもしれないけど、今はモリゾーに感じた気持ちが特別のものだったのだなと思える。だって今も続いているのだから。

 モリゾーが言ったことのどこまでが本当なのか、わからないけれど、あたしの方からも煮詰まっていたということはなんだか信ぴょう性があった。だから二度あることが三度あったのだろうし。あたしはそれを力業で信じようと思った。


 香澄さんはなぜモリゾーの一族がやっている美容液に惹かれたのだろう。香澄さんはなぜあたしに声をかけてくれたのだろう。

 そんなの偶然に決まっている。

 嫌なヤツと思っていた井角さんまでがあたしの物語の重要な役を演じてくれていたように思える。

 今となってはまるですべてのことがモリゾーへと続く道として用意されていたようにあたしには思えるのだ。


「ねえ、スゴロクと同じってどういうこと?」

 その日、モリゾーの腕の中であたしは聞いた。

「じいちゃんが言ってた。スゴロクってゴールが見えてる。で、通るところもはっきりしている。だけどサイコロの目で戻らされることもあるし、無駄みたいな、なんだかわからない理由の場所に止められて、そこで何かやらなくちゃなんなかったり、休まなくちゃなんなかったりさ。それで最初にゴールにたどり着くのは一緒にスゴロクやっているうちの誰か一人だろ?」

「うん」

「それがオレで良かった」

 あたしを見つめてニマーっと笑うと、

「やっと夢が役に立った。少なくとも、じいちゃんは喜んでくれる」

 まったく馬鹿みたいだけれど、顔には出さねど、あたしの心は舞い上がっていた。


 来月、あたしはモリゾーとモリゾーの家族にあいさつしに、パワースポットの森へ行く。なんか、ぶっとんだ家族みたい。

 ふと気が付いてみると、どこかボーっとしていて身なりにもあまり気を使わないモリゾーはたよりないようにも思えるけれど、でもいい。こいつと新しい生活を始める気持ちはあたしの中に満ちてきている。

 それを壊さないようにずっとつないで行ければいいけどな。

 医師免許を持たないのに超ド級の手術ができ、引っ張りだこのブラック・ジャック! カリスマ医師!!

 ブラック・ジャックみたいな美容師さんがいたらどうだろうか。美容免許を持たない美容師!! でも腕は超一流で引っ張りだこ!! 世界中をかけまわりどんな髪型でも自由自在! あっという間に仕上げる!! そのブラック・ジャックみたいな美容師さんがいろいろな所に出向いては、神業のように髪を切り、その人の悩みを解決してみたり、ある時には殺人事件まで解決したり…という話を書きたかったはずなのですが…、どういうわけかこんな話になってしまいました。

どうしても会話中心になってしまいがちです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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