7月 海へ行こう
7月のとある週末、もはや恒例となりつつある、いつものメンバー。mina、雨宮さん、真由ちゃん、田中、そしてオレ。オシャレな創作料理の店でテーブルを囲んでいた。
テーブルにはシェフの気まぐれサラダ、炭焼き窯で焼いたこだわりのピザ、比内地鶏の手羽先などが並び、間接照明が美味しそうな料理と、カラフルなグラスをじんわりと照らす。
気心の知れた仲間との取り留めのない会話。
笑い声がスクリーンで仕切った半個室の空間に響いて、それがまた別の笑い声を誘う。
minaと知り合ってから、そんな時間を楽しむ余裕も出来てきた気がする。
「あー、やっぱ夏はビールがうめえ」
雨宮さんはいつも急ピッチでビールをたいらげている。ほんと、黙ってたら美人なんだけどね、この人は。
「雨宮さん、また酔って絡まないでくださいよ」
田中が雨宮さんの導火線に火をつける。
「あたしがいつ絡んだって?」
案の定、雨宮さんの目が据わってきた。
「いっつも、絡んでますよーー、って、あっ痛てっ、イタたたたっ、ギブっ、ギブッ!!」
田中は雨宮さんのいいようにやられていた。
minaが感心した様子で雨宮さんの方を見つめた。
「かっこいいですよね、それ、護身術が何かですか?」
「まっ、そんなとこだね」
「私にも教えてくださいよ」
「いいねぇ、こんど練習しようか、田中で」
「えっ、何でボク? 待って、まって、アイタタタ! 痛いですってーー」
その様子をオレと真由ちゃんは楽しそうに見つめていた。
「まったく、夏だってのに、こんなにいい女が三人もいるのに。どうして何もないんだ。あー、イケメンと花火大会とか海とか、行きたい」
雨宮さんが何杯目かの中ジョッキを色白の喉に流し込む。
年齢と重ねた大人の色香と、ほんのりと染まった頬。
生ビールのCMとか、いけそうだよな。
肉食系のセリフさえ無ければね。
「二人はわかるけど、どこに三人目のいい女がいるんですか?」
田中、お前は少し学習しろ。勇者であることは認めるが……。田中は一瞬で雨宮さんの下段突きをみぞおちにくらって伸びていた。
「そうだ、海、いいですね、みんなで行きましょうよ!」
今まで黙っていた真由ちゃんがはずんだ声をあげた。
「えー、佐伯はともかく、田中もか……まあいい、こいつらに荷物番させて男を漁りにいこう」
「え、そんな、女の子からナンパとか、なんかすごすぎて…」
minaは顔を赤くしながらうつむいている。だから雨宮さんが特殊すぎるんだから。いたいけな女の子には刺激が強すぎるから。
「よし、そうと決まれば、日程を決めよう。八月は銀行は割と暇だからな。minaに合わせるぞ」
「でも、岡安さんがなんて言うか……」
「あんな、硬いマネージャーのことなんかほっとけ!」
すったもんだの末、minaが岡安さんへ電話をかけると、岡安さんは自分も同行するならよいという返事をくれた。
やっぱりminaのことが心配なのかね。
「えーーあの仏頂面男が一緒なのか」と雨宮さんはぶーぶー言っていたが、これで日程は決まった。
海か、久しぶりだな。遠足みたいに楽しみになってきた。