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プロローグ

 初投稿となります、感想・ご指摘等、ささいなことでもいただければうれしいです。

 


 

 四月の後半、歓迎会や花見も落ち着いた夜の街。

 オレと、銀行の後輩の田中は、ほろ酔い加減の中歩いていた。


 田中とは酔うとたいがいアホな話ばかりしている。サラリーマンにありがちな社内の噂とか、銀行内でどの女の子が可愛いとか、しょうもない中身だ。

 

 そんなたわいもない話をしながら、そろそろ帰ろうかと駅前のロータリーへと向かう。

 

 各駅停車しか停まらない、都心から少し離れた住宅街の駅。

 駅前にこじんまりとしたバスの待合所があって、その周りには飲食店がポツポツとある。


 バスの待合所の頼りない蛍光灯の明かりに照らされた、吹きさらしの屋根の下。

 一人の小柄な女の子が立っていた。


 見たところ女子大生くらいか。ショートカットのせいで少女と呼んでも良さそうな印象を受ける。

 英字のロゴがプリントされたTシャツにデニムというラフなスタイル。

 足元にはギターケース。肩から可愛らしい花柄のストラップを吊るしてギターを抱えている。

 路上の弾き語りか。オレにもあんなに若い頃があったな。


 オーディエンスが一人。って酔っ払った中年のおっさんか。

 近くを通りかかると何やらよろしくない雰囲気である。

 おっさんは女の子に手の届く距離まで近づいており、卑猥な言葉を投げかけている。

 女の子は顔を遠ざけて、困っているような感じだ。


「大丈夫ですかね?」

 小声で田中がこちらを見る。

 やれやれ、しょうがない。おまえ行けという具合に目線で田中を(うなが)した。

 

 すぐに田中は、おっさんと女の子に駆け寄った。

「やめましょうよ。女の子が困ってますよ」

 ちょうど、女の子とおっさんの間に入るような感じで、なだめに入ったのだが……


「うるせー!お前には関係ねえだろーが!」

 なんと、おっさんはさらに激昂してしまった。

 腕をぶんぶん振り回して今度は田中に絡んでいる。余計に悪化させてどないすんねん。

 田中は助けを求める羊のような目でこちらを見ていた。二重にやれやれだ。


 オレも仕方なく、おっさんの方へ駆け寄った。

「まあまあ、大将。いい年した大人が若いもんに絡むのはほどほどにしましょうや」

 なんとかおっさんをなだめながら、彼の手を取った。おっさんの手なんか掴みたくないけどな。


 おっさんは「なんだと!」とか「今いい気分だったのによ!」とか相変わらずごちゃごちゃいっている。

 こちらの誠意を込めたお話が通じないようなので、そのまま肩を支点にして肘関節を極めてあげた。この技は一時期毎日のように食らっていたから体が勝手に覚えてしまった。


「イテテテテテテテ!!」

 おっさんは顔をしかめ、その場にうずくまりそうになった。

 それを脇に手を入れて立ち上がらせる。


「それぐらいにしときなよ。それとも、もう少しオレたちと遊ぶ? こう見えてもオレたち、男も女もいけるクチだから、朝まで遊ぶのも面白いかもね」

 オレはユーモアたっぷりにおっさんの太ももを撫でてあげた。


 おっさんはビビったのか、

「ひぃぃぃー! わかった、帰る、帰る!」

 と後ずさりしながら駅の方へ消えていった。


「あ、あのう……」

 今までうつむいていた女の子がこちらを向いてなにやら言いたそうにしていた。

 無造作なショートカットの髪が春の夜風に揺れる。


 彼女と目が合った。

 瞳はくっきりとしていて、頬は色白。

 あどけなさは残るが、あと1、2年もすれば美人の仲間入りをするだろう。


「うっ、」

 おれは、その瞬間、胸から熱いものがこみ上げてきた。

 女の子がこちらを見つめるのもかまわずに走り出した。


「ちょっと、佐伯さん! どこ行くんですか!?」


 路地裏に駆け込み、我慢していたものを吐き出す。

 酔っていたところに慣れない立ち回りをしたせいで、盛大にリバースしていた。

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