第2話 秘密!? 悪の魔法士サイアーク!
「ただいま~」
「お、おかえりエロ……」
「?」
「な、なんでもないエロ……」
自室に入る前に何やら物音が聞こえていたが、いつもと変わらない私の部屋だった。シンプルと言えば聞こえは良いが、殺風景とも言える私の部屋。趣味という趣味もなくベットと小さい本棚、そして小学校に入る前に買って貰った学習机が置いてあるだけ。その他はクローゼットにしまわれている。
「麗華ちゃんは魔法少女になりたかったエロか?」
私の学習机を見ながらそう話すエロちゃん。それもそのはず、私の学習机は当時放送していた魔法少女アニメが元になっている。
「子供の頃はね。けど、今は目立ちたくないから……」
「そう言ってたエロね」
昨晩エロちゃんから、ヤンキー魔法少女として世界を救って欲しいと依頼された。正直言うと目立ちたくないので断りたい役目でもあったが、あの時に助けてくれたのは間違いなくエロちゃんなので素直に従う事にした。
「昨日はあまり話せなかったエロから、今日は少しお話してもいいエロか?」
「うん」
「エロはここではない世界……魔法の国からやってきたエロ。その魔法の国は科学より魔法が発達してるエロ。そこで生活している者達は、少なからず魔法の恩恵を受けてるエロ」
「すごいね。本当に魔法ってあったんだ」
「そうエロ。そしてエロは魔法を使う事がもちろん出来るエロ。その魔法の一部が昨日の特攻服エロ」
「凄かったよ…… 軽く触れただけで男の人が吹っ飛んじゃうんだもん。びっくりしたよ」
「もちろんエロ。エロは最高の魔法士エロ」
「うん!」
仁王立ちという表現がしっくりくる立ち姿を、自室で展開するエロちゃん。
「あの特攻服を着ている限り、普通の人間には負けないエロ。だから安心していいエロよ」
「うん。ありがと」
「エロのようにまともな魔法士がいる反面…… 魔法の国には悪い魔法士もいるんだエロ……」
「その人たちと戦うの?」
「そうエロ! 正義はヤンキー魔法少女にありエロ!」
「分かった。けど、私こんなんだから戦闘とかって自信ないなぁ……」
「大丈夫エロ! エロがいつも近くにいるエロ! 正義の魔法士は悪の魔法士には絶対負けないエロ!」
「それで、どこにいるの? その悪の魔法士さんは?」
「話が早くて助かるエロ。パトロールに……」
パトロールに行くようだ。だが、エロちゃんは自前のバックパックから、何かを取り出そうとしている。
「パトロールの前にサインをお願いだエロ」
「サイン?」
「昨日は一大事だったエロから、契約できなかったエロ。ここにフルネームでお願いエロ」
「うん」
私はエロちゃんから渡された羽ペンを使用し、一枚の紙にフルネームでサインする。
「これでいいエロ。ぐふふ」
「?」
「な、なんでもないエロ…… 正義のヤンキー魔法少女が、正規の契約に従い生まれた事を噛み締めていたエロ…… うぅ……」
「エロちゃんが喜んでくれていて、私も嬉しいよ」
「麗華ちゃんは本当に出来た娘エロ。麗華ちゃんの本当の可愛さを中学校で出さなくて正解エロ。あの頃の男子は淫獣エロ。間違いなく手籠めエロ」
「えっ!?」
「麗華ちゃんは自身の可愛さに、ちゃんと気がつかなくては駄目エロ。自信を持ちすぎると先輩に喰われちゃうエロけど、気がつかなければ昨日みたく狙ってくる奴らにも気がつかず、やられちゃうエロ」
「……うん。ごめんねエロちゃん。そういった人たちも、いるって気をつけなくちゃね……」
私は素直に反省する。実際に遭った事で、たまたまエロちゃんが助けてくれたから良かったものの、あのまま誰も助けてくれなかったら、私の人生はどうなっていたのか。
「麗華ちゃんには、ファッキンジャパニーズガールとして育って欲しくないエロ」
「え?」
「日本安全神話を鵜呑みにし、人気のいない所で夜に一人歩きしては駄目エロ」
「うん。ごめんね。もうしないよ」
「都内であっても人が通らない場所なんて、いくらでもあるエロ。そういう場所を狙っている奴らもいるエロ」
「自分の事だもんね。ちゃんとするよ」
「もっと言いたい事はあるエロが…… また今度にするエロ。本当に心配しているんだエロ……」
「うん。エロちゃん伝わってるよ。ありがとう」
「じゃあパトロール行くエロ!」
「うん」
そうして自室から出て行くエロちゃん。家族に見つかる事など、微塵にも感じさせない悠然たる足取りで階下へ向かう。
「(ビクぅ!?)」
「あ、お母さん」
「……」
「(……)」
お母さんが現れた瞬間に硬直したエロちゃん。微動だにしないその姿はまるでぬいぐるみのようだ。
「……動いてなかった?」
「そう?」
「(……)」
「……これどうしたの?」
「ゲームセンターで取ったの」
「……」
「ちょっとお散歩してくるね」
「……気をつけてね」
いつも通りお母さんと、お話してからエロちゃんを救い出す。そのまま自分のバックに入れて玄関を出る。息苦しそうなので、顔だけ外に出してあげた。
「危なかったエロ……」
「自信満々に歩いてたけどね……」
「麗華ちゃんのお母さんは鋭いエロ……」
「鋭いのかなぁ?」
「それに息を吐くように、嘘をつく麗華ちゃんに驚いたエロ。悪女だったエロ」
「……悪女はやめて下さい」
「わかったエロ。それにしても冷静エロね~ すごいエロ」
「そうかな? 目立たないように生きてきたから、それが染みついているのかもね」
「でも、これからは目立ってしまうエロ…… ごめんだエロ……」
「いいよ。だってエロちゃんが助けてくれなかったら私……」
「もう大丈夫だエロ。絶対エロが守ってあげるエロ」
「うん」
そうして私たちは区内を散歩する。平和な平和なこの日本。気持ちの良い日差しが私たちを照らす。
「どこに行けばいいのかな?」
「公園い行こうエロ」
「うん」
近くの公園へと足を伸ばし、ベンチに腰掛けた。周りには遊んでいる子供たち。そしてそれを見守る父と母。
「幸せだね」
「エロ」
「……なんで語尾がエロなの?」
「エロだからエロ」
「……エロちゃんだもんね」
「エロ」
不毛な会話なのか、実があったのかは分からないが、理解はした。
「この幸せな世界を陥れようとしているんだエロ。許せないエロ」
「実際はどういった悪い事をしているの?」
「それは実際見てもらった方がいいと思うエロ」
「実際に……」
すると公園内が少しずつざわめき始める。誰かが園内に入り始めると、それから逃げるように人が出て行ってしまう。
「……きたエロ」
「え?」
「あれが悪の魔法士サイアークだエロ」
「えっ!?」
その人物は黒いタキシードのような服に、マントを着けてハットをかぶっていた。顔には秘密の舞踏会でするようなマスクをしている。そして何かをバラまきながらこちらへと向かって来た。
「……久しぶりだな」
「……こっちは会いたくなかったエロ」
「ほぅ? その娘が魔法少女か?」
「その通りエロ。お前なんかに負けないエロ」
「はっはっはっ。この私、サイアークに勝てるとでも?」
「もちろんだエロ」
「あの~?」
「……なんだ?」
「……どうしたエロ?」
「なんでゴミをバラまいているんでしょうか?」
私は気になったのだ。黒い悪の魔法士サイアークさんが近づきながら、ゴミをバラまいている事に。エロちゃんと話ながらも仕事のようにバラまく。
「秘密結社サイアークだからだ」
「秘密結社なんですか?」
「そうだ。だが内緒にしておいてくれ。秘密結社だからな」
「はぁ」
「なんて奴エロ! この幸せな公園をゴミだらけにするつもりエロかっ!?」
「はっはっはーっ! その通りだ! カッパのエロ! 私はこうしてゴミをバラまくことによって雇用を生み出しているのだっ!」
「雇用を…… 生み出す……?」
「そうだ。昨今の公園にはゴミ箱がない。だから、それを回収する業者もいないといく事だ。だがどうだ? こういやってゴミをバラまいていれば、いつか区役所が対応してゴミ箱を設置するかもしれない。すればまた新たに雇用が生まれるのだっ!」
「はぁ」
「馬鹿言うなエロ! そんな事しても無意味エロ!」
「意味ない事なんて無い! やらなければ何も変わらないっ!」
「あの~?」
「なんだ? 魔法少女よ?」
「公園を管理している人がいますよね? その方がゴミを拾うんじゃないでしょうか?」
「……」
「そうエロ。それに、もしゴミ箱が再設置されたとしてエロも、どうせ区役所が決めた業者が回収するエロ。そういう流れが出来てるエロから、新しい業者が入ってこれる隙間は微塵もないエロ」
「なっ!?」
「おおかた世界征服のお金集めに、ゴミ回収業者を立ち上げたはいいエロが、思った以上に業者が乱立していて、自分が入る隙間がなかったエロ。馬鹿エロ」
「くっそぉ!?」
(悪の魔法士なんだよね?)
「あっ! あいつですっ! あの不審な輩がゴミをバラまいてっ!?」
「なっ!? 通報だとぉ!? なんとも卑怯な奴らだっ!? くっそぉ!?」
「待ちなさいっ!」
「君っ!? ちょっと!?」
公園内にいた家族連れが警察に通報したらしく、慌てて逃げる悪の魔法士。名前も聞く事も出来ないまま、私の前からいなくなってしまう。そうして始まる彼と私たちの戦いは、明日から始まるのだった。
★ 次回 無職!? 悪の手下のニーターくん! ★
「「「「 ニー!!!! 」」」」