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始まりの魔法です

 この日コンビニのアルバイトを終えて、自分のアパートに帰ってきたのは朝の七時ぐらいだった。シャワーを浴びてすぐに眠った。


 眠りにつくと夢を見た。夢の中では俺はまだ子供で、悪い怪物に襲われていた。周りから上がる悲鳴。逃げ惑う人たち。怪物が何か俺に悪さをしようとしているのだ。為す術もなくただ立ち尽くすしかなかった。

 そこに一人の少女が現れる。少女は華やかな衣装を身に纏い、勇敢にも、その怪物に戦いを挑む。戦いは拮抗していたが、少女が派手な魔法を放つと雌雄を決した。

 そして少女は俺に微笑みかけるとどこかに去っていった。


 きっと昨日のことがあったせいだろう。昨日、魔法少女を雇った。魔法少女なんて非現実的だと思うだろうが、実際に雇ったのだ。その魔法少女を使って友達を作るつもりでいる。

 だが問題点があった。雇った魔法少女は魔法が使えないらしい。なんて馬鹿な話だ。

 つまり、俺は大金を払って普通の人間を雇ったということになる。こんなことをするのなら、何でも屋とかそういう店で人を雇った方が良かったのかもしれない。たぶんそっちの方が金はかからない。

 だが、俺は魔法少女を雇うことにした。魔法という不思議な言葉で感覚が麻痺していたのだろう。


 そんな夢を見ながら眠っていると、呼び鈴が鳴った。重い瞼を開けて時計を見ると朝の十時だった。眠りについてからまだ二時間ぐらいしかたっていない。どうせ、宗教の勧誘か集金に決っている。


 無視をして再び眠りにつこうとしたが、呼び鈴が再び鳴らされる。しつこい奴だなと思っていると三度目の呼び鈴が鳴った。俺はこのしつこい奴がどんな顔をしているのか見てやろうと思い、ベッドから起き上がり玄関に向かった。玄関に向かう最中、すこし目眩がした、寝不足のせいだろう。


 玄関の鍵を外し、扉を開ける。するとそこにいたのは少女だった。肩ぐらいまで長さのある黒髪、整った顔立ち、物憂げだが透き通った瞳、華奢な体つき、真っ白な肌。

 昨日、紹介された魔法少女だ。名前はなんといったか、よく覚えていない。


 なんの用だろうか。なにか伝え忘れたことでもあったのか。寝起きでまだ頭が上手く働いていない俺を見て彼女はいった。


「今日からこちらでお世話になる、渚です」


「それでなんの用だ?」


「なんの用と言われましても、あなたが私を雇ったんですよね? 昨日説明で聞きませんでしたか? 雇われた魔法少女は雇用期間内は、雇い主と一緒に生活するんですよ」


「そんな話もあったかもしれない。あんまり真面目に聞いていなくてな」


 見ると彼女は大きな鞄を両手に重そうにぶら下げていた。


「それでお邪魔してもいいですか?」


「ああ、すまない。大丈夫だ」


 渚は靴を脱ぎ、小声で「お邪魔します」といって部屋に入ってきた。


「では昨日の説明を真面目に聞いていなかったということですので、改めて、私から説明させていただきます」


「悪いんだが、その話はもう少し後でもいいか?夜中アルバイトだったから寝ていないんだ」


 渚は、そうですかといい、部屋の隅に座って大人しくなった。俺はベッドに入り、眠りの続きに入ろうとする。だが、渚の存在が気になって寝付きにくかった。女の子が同じ部屋にいる状況で眠ったことなんてない。

 渚はそんな俺の心中を察したのか、「私のことは気にしないでください」

 といった。気にするなといわれても気になる。それでもどうにかして、再び眠りにつくことができた。


 起きたのは夕方の五時ぐらいだった。渚は相変わらず部屋の隅に座っていた。女の子と部屋で二人きりというこの状態は、あまり喜ばしいものでもなかった。どうしても意識してしまう。

 俺は出来るだけ渚を意識しないように、生活をしていこうと思った。とりあえずは夕飯の買い物だ。近所にスーパーがある。そこで適当に材料を買って料理をしよう。適当な服に着替える。すると、


「どこかに行くんですか?」


 と渚が訊いてきた。

 夕飯の買い出しだ、と答える。


 玄関を開け外に出ると、渚がついてきた。


「あんたは留守番してろよ。すぐ帰ってくる」


「いえ、雇用期間中は雇い主と行動を共にする規則なので」


 つまり、これからの三か月はこいつと常に一緒なのか。


 スーパーに着くと、適当に安い野菜と肉が見つかったので、野菜炒めでも作ろうと思った。それぞれを買い物かごに入れていく。ついでにビールも買う。


 渚と二人で買い物しているところは周りからどんな風に見えるのだろうか。兄と妹か、それともカップルに見えるのか。後者に見えるといいな、なんてことを考えた。


 レジで会計を済ませて外に出ると、すっかり辺りは暗くなっていた。

 冷たい夜風が、俺と渚の間を吹き抜ける。風は水気がなく渇いた風だった。


 帰り道、俺は渚に訊ねる。


「なあ、あんた魔法少女なのに魔法が使えないんだろ? だったら何が出来るんだ?」


「一般的なことは一通りできますよ。料理や洗濯など家事はもちろんです」


「そうか。俺はやっぱり魔法が使えない普通の女の子を雇ったんだな」

 すると、渚は「あの」と小さな声で呟き、こういった。


「あまり人前で魔法魔法いわない方がいいですよ? 規則で魔法少女を雇ってることを他の人にいうことは禁止されていますので」


「そうなのか? どうせいったところでだれも信じないと思うけどな」


「禁止は禁止なので気をつけてください。周りにバレたら雇用関係は終了になります。まあ、損をするのはあなたなので、ご自由に」


 そう突き放すような口調でいった。


 この渚という女の子はどうも冷めた感じがする。基本的に無表情だし、愛想もない。口調もどこか冷たいし、笑ったところを見たことがない。魔法少女はみんなこんなものなのだろうか。俺がイメージしていた魔法少女とえらい違いだ。いつも笑顔でいるもんだと勝手に思いこんでいた。




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